70年代のジャズは二人のプロデューサー、CTIのクリード・テイラーとフライング・ダッチマン(F/D)のボブ・シールによって、幕が切って下ろされた、と言っても過言ではありません。両レーベルのキャラは全く違い、ザックリ言えば、CTIが文科系、F/Dが体育系といった所か。しかし、両者の共通項が一つあり、どちらも、「芸能」の度数を上げている点です。それが、70年代ジャズのキーワードと、二人の俊敏プロデューサーの嗅覚は一致していた。
で、F/Dの強力な助っ人がジャズ史上、稀代のペテン師、ガトーである。人気は今では、想像出来ぬほど凄かった。大袈裟に言えば日本中のジャズ・ファンがそのいかさまに引っかかったのだ(笑)。
南米のタンゴやフォルクローレの美しいメロディを、官能的なリズムに乗せ、ラプソディクに、時には前衛もどきにコルトレーンばりの大ブローを織り交ぜ、キメにここぞとばかり演歌調のフレーズとこぶしを連発するとなれば、誰だってメロメロ、その上、あのビターなテナー・サウンドとくりゃー、そりゃーもう、皆、イチコロよ。ガトーのtsに「人間の寂しさを感じ、人生観を語る」ファンまで現れる始末であった。
この“エル・パンペーロ”は71年6月に開かれたスイス・モントルー・ジャズ・フェスティバルで‘フライング・ダッチマンの夕べ’と題したデモンストレーションでライブ・レコーディングされたもの。F/Dレーベル絶頂期での3作目。。最初から最後まで「ガトー節」のオン・パレード、ガトー、会心の「いかさま万国博」が暴発している
でも、安心されたし。日本だけでなく世界中の人まで、コロコロだったのだ。聴くところによると、日本での人気が凋落した後でも、アメリカでは依然人気が高く、特に中年の女性がステージのガトーに絶叫していたと言う。アメリカ版、かっての「杉様」って所でしょうか。
この世の中、「本物」なんてごく僅かで、「偽者」ばかり?である。本物を愛し偽物を楽しむ、これがJAZZを嗜む極意かもしれない。ガトーは「本物のペテン師」だ。「本物」に引っ掛かるなら、それもまた良し、である。 まぁ、ジャズ・ミュージシャンとしては「偽者」だろう(笑)。
狂乱のステージ、“エロ・パンペーロ、否、「エル・パンペーロ」、もう、グチャグチャですわ。この人の頭には「破廉恥」という文字はない。こりゃ、「破廉恥の世界遺産」だ。この手練手管のエロ事師に一度、嵌ってみるのも、一つの道だ。物書屋の手引き書に疑問を感じたら、或いは、ベテラン達のありがた迷惑な蘊蓄が苦手な方、一度お試し下され。嵌ったら、嵌ったとき、嵌った数だけ奥へ進んでいると思えばいい。
ガトーが一世を風靡したのは、50年近くも前、今思えば、実に楽しい時代でした。
“Bluespirits(2004.11.10)
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