円盤屋を覘くとエサ箱の一番前に。
まるで「早くここから出してくれ。トントンやられ、底が抜けちゃうよ」と訴えているかのようにこちらを。
ずっ~と長い間、購入を躊躇っていた。
理由はこの一枚、‘QUARTET 1976 / RICHARD KAMUCA’ (JAZZ 104)。
KAMUCAが亡くなる前の年にプライベート録音され、自費出版に近い形で同年、リリースされたもの。
翌1977年にCONCORDから‘RICHIE’のタイトルで再発もされている。
KAMUCAと言えば、モード盤と相場が決まっていますが相場ほど当てにならないものはありません。コレがBESTです。
ドライヴ感溢れるC・Porter作‘I Concentrate On You’から始まり、渋いヴォーカルも聞かせる‘'Tis Autumn’までややハスキーがかった太い音色で聴き手を魅了する。
中でも、I・Berlin作‘Say It Isn't So’、「貴方がもう私を愛していないと皆が言うけれど、そんなことない、と言って・・・・・・」に対し、恰も「噂なんか気にしなくいいよ。オレはお前をずっと愛している、これからも・・・・・・」と髪の毛を優しく愛撫するかのようなソロにググッときます。また、その後を受け、小躍りしたくなる喜びを噛み締める乙女心を代弁するM・ロウのgも素晴らしい。ジャズという音楽しか表現できない展開ですね。
話を元へ、
このレコードがあまりにも良いので、亡くなる少し前にレコーディングされた‘DROP ME OFF IN HARLEM’に不安を覚えていた。ひょとして体力が落ち、音が細くフレージングも不安定になり‘QUARTET 1976’のイメージが壊れるのでは?と。
でも杞憂でした。ガンに冒されている身でありながら音もフレーズも全く崩れていません。
死期迫るKAMUCAが吹くtsにもう余計な飾りなど一切無い。バラード曲、‘I Did'nt Know About You’と‘It Must Be True’、淡々と思いを、メロディを綴るプレイが不遇の名手「最後の美学」を浮き彫りにしていく。そして波動の如く胸を打つ。
1977年7月22日、誕生日の前日に‘HARLEM BUTTERFLY’となり宙に飛び去った。享年46。
大器晩成型(と思う)のKAMUCA、せめて、あと10年長生きしたら何枚も傑作を創っただろう。
この2枚のレコード、ジャズ・ジャイアンツが軒を並べる棚の隅に、そっと・・・・・・・・・・
いつか、宝物になるでしょう。
QUARTETはともかく、RICHIEとDROPは多分、見ていると思いますが、何分ジャケがチョボイのでついつい見過ごしてしまう確率が高いですね。CONCORDのジャケはそうしたケースが多いですから。
DROPはdsレスのデュオとトリオ編成でやや内省的ですので、できればQUARTET(RICHIE)から聴くことをお奨めします。
でも、どちらも見たことないんですよ・・・ なんでだろ・・・