1980年9月15日、大量の血を吐き病院に運ばれたエヴァンスは救急室のベッドから起き上がることなく、午後3:30、NYの空へ飛び立った。享年51。ジャズ評論家で友人の一人の言葉を借りると「音楽史上最も長くゆっくりとした自殺」と言われる。
目前の20日から日本公演が予定されていただけに、まさか!と。仕事(残業)の関係上、どうするか、見極め状態中のニュースであった。
死の直前、シスコの「キーストン・コーナー」でのライブ音源(8/31~9/7<一説には8?>)。1989年になって日の目を見た発掘盤もの。色々なヴァージョンがあり、ちょっとややこしいけれど、今回、UPしたカヴァ2種(上は2枚組)が、Alfaレコードの初版CDです。
この音源は曰く付きのもので、当初、M・ジョンソンは、録音されていないとか、録音されているとは知らなかった、とコメントしているけれど、この音のクオリティからしてマイクが立てられていないのは不自然だし、また、楽屋裏でテープが回っていることに気が付かないほど目が節穴ではないだろう。ラストものになると利害関係が複雑になる典型ですね。
大まかに言うと全部で133曲録音され、まず最初(1989年)に15曲(CONSECRATION)、半年後に8曲(CONSECRATION Ⅱ)が選曲、リリースされた後に68曲8枚組BOX・セット「CONSECRATIONーThe Last Complete Collection」、更に65曲8枚組BOX・セット「THE LAST WALTZ-THE FINAL RECORDINGS」がリリースされている。
TOPに選ばれた曲は知らぬ者はいない”You And The Night And The Music”。縺れる指先、途切れるイマジネーション、ズレるテンポ、そしてそれを打ち消そうと鍵盤を強く弾くエヴァンスの気魄がこのキーストン・コーナーでのステージの全てを物語っている。そして全23曲、エヴァンスのハード・ボイルド魂で貫かれている。
DISC2ー3のマンシーニの「酒バラ」が目を引きますね。リズミカルにスキップするpはちょっと意外な感がしますが好きなプレイです。ひょっとして”The Shadow Of Your Smile”、”I Left My Heart In San Francisco”でも演奏されていないか、残念ながら133曲の中にはありませんでした。
選曲、曲順、共によく吟味されており、自分が一番好きなパートはⅡのラスト3曲の流れです。G・マクファーランド作”Gary's Theme”、晩年期の愛奏曲の一つでエヴァンスは<ゲーリーズ・ワルツ>とも呼んでいたそうです。”You Must Beliebe In Spring”でも演奏されているリリシズムの結晶、大好きな曲です。続く”Bill's Hit Tune”、”We Will Meet Again”で初めて録音された明るく希望に満ちたオリジナル・ナンバー。そして最後を締めるのはオリジナル曲の”Knit For Mary F”、この曲はDISC1にも入っているけれど、このヴァージョンはラストのラストに相応しく、荘厳ささえ湛えている。だから、敢えてダブらせたのだろう。素晴らしい選択、決断ですね。
この作品は特段、弁護士の耳で聴くまでもなく、その特性を積み重ねると「一家に一枚」のレベルを優にクリアしてくる。
体調が少しでもマシになり、もし、幻となった日本公演が開催されていたならば、記録にも記憶にも残るステージが生まれたかもしれない。
病院のベッドよりライブのステージを選んだエヴァンス、51歳の何倍かの人生を歩んだのだろう。
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