前回ご紹介したジョイントは、初めはご覧のような六角棒から削りだして製作していきます。
精度的には、旋盤を使用しなくても、キャスト(鋳物)の方が安価に出来るのですが、年間の生産量が中途半端な数(200個ほど)のため、少量生産が効く削りだしで作っています。
少々オーバークオリティーなのですが、現状はこの方が効率的です。
この六角棒は7N01アルミの押し出し成型品で、もともとはオートバイのフレーム用として生産されていたものを流用しました。
7N01材は、強度は7075にはかないませんが、衝撃を受けても曲がって力を吸収し、折れることが極めて少ない、信頼性のある材質です。
RXCハーネスには、この7N01材が他にもピッチトリマーと、スライドレール台座の角パイプに使用されています。
航空用の材料は、強度や軽さはもちろん大事なのですが、重要な箇所については、たとえ衝撃を受けても材料が「アメ」のように曲がってくれ、決して破断せず、重大な破壊を防ぐような、信頼性の高い材料が多く使われています。
ハンググライダ-に多く使用されているANボルトも、まさにこの例で、衝撃を受けても、曲がって破断することを防いでくれています。
次は、分割フレームをつなぐジョイント部の製作をご紹介します。
RXCシリーズのハーネスには、写真のような二つのバックプレートをつなぐジョイントが使用されています。
このジョイントには、二つの形があり、一つは先端がボール形状、もう一つはお皿の形になっていおり、この二つのジョイントをスプリングが覆ってフレームをつないでいます。
この形は、一般の工場用にはあまり使われてないもので、むしろ、生物の関節部に近い構造をしています。
このような特徴的なジョイントを使用したのには、もちろん、大きな理由があります。
一つは、構造が単純で壊れないこと。この形式ならば、無理な力がかかっても、スプリングがその力を逃がしてくれます。
もう一つの理由なのですが、皆さん、ちょっと考えてみてください。
ある程度の厚みのある「板」を二枚用意します。そして、その板をピッタリと包み込むように袋をかぶせたとします。
さて、この二つの板が入った袋を、スムーズに曲げることが出来るでしょうか?
答はノー。曲がるとき、曲がりの外側の袋の部分が無理やり引き伸ばされてしまい、スムーズには曲がらないはずです。
鎧シリーズ、RXCのジョイントにスプリングを使っているのはこのためなのです。
二つの間のジョイントに、縮むことができるスプリングを使えば、バックプレートがハーネスの袋の中に入っていてもスムーズに曲がることが出来るのです。
弊社以外にも二分割フレームを使うハーネスはありますが、このことを考慮しジョイントを工夫しているのはRXCシリーズのハーネスのみ。
私は、二分割フレームのハーネスは、このジョイント部の構造がスムーズに曲がるようなものになっていてこそ、二分割フレームは完成した形とは言えないと思います。
スペインの有名な建築家、アントニオ ガウディ-はすばらしい言葉を残しています。
「お手本は自然の中にある。設計者はそれを真似るだけ…」。
まさにその通り。自然界には淘汰された上の、完成された形が存在しているのです。
ネジ穴を切ったスライドレール心棒に、ステンレスパイプをかぶせて、スライドレール台座に差し込みます。
その後、後方のスライドレール固定のため、前回あけたネジ穴に6ミリネジを差し込みます。
そして前方のスライドレールの固定。これについては「技」を使っています。
同じ方法で固定しようとしても、ネジを回すと心棒も一緒に回るためネジが入らず、心棒が回らない方法で固定する必要があります。
コストをかけずに、確実に、手早く固定するため私が考えたのは、台座の中でスライドレールにボルトを貫通させる方法です。
実は、スライドレールが台座に隠れている部分には「穴」があけられています。
普通に考えれば、この穴にボルトを通してナットで固定ですが、台座の角パイプの奥のボルトにナットを通すのは至難の業。
そこで、私はボルトの径よりわずかに狭い穴をあけ、そこにボルトを通し、ネジを新しくきりながらボルトを貫通させる方法を取りました。
この方法ならば、スライドレールの固定にはボルト一本で済み、新しくネジをきりながらボルトが入るので、ボルトが弛むことはありません。
滅多にはずすことがない箇所には、この方法が使えると思います。
工業的にも応用が出来そうな方法なので、もし、この方法が使えそうであれば使ってください。