あれは10年前の春の出来事だった。
私は板垣氏と共に、ドイツのガーミッシュと言う町で開かれている、スカイスポーツイベント「フリーフライト」を訪れていた。
フリーフライトは、主にパラ、ハング関係の新商品を紹介することを目的としたイベントだ。
私は以前より興味のあったATOSをみる目的もあったが、他にも、既にハーネスメーカーを立ち上げることも考えていたので、それに使われる部品関係のメーカーの関係者に、部品の売買に関する契約をつける目的もあったため、一通りのブースに目を通し、いろいろと話を聞いて回っていた。
そんなことをしていたときである。
日本でも話題になっていたハーネス、M2のブースで足が止まった。
もともとM2ハーネスは、三分割形式のフレームをもつハーネスで日本でも話題になったが、実は、少々ランディング時起きづらい欠点を持っていた。
しかし、そのときM2のブースに展示していたハーネスは、今までの三分割とは違う構造のハーネスだったのである。
名前はACER。
私はそのハーネスが気になり、手にとって見はじめた。すると、近くにいた青年が私に話しかけてきた。
「良かったら試してみないか?」
私は早速そのハーネスを試させてもらった。
そのハーネスは、今までの三分割形式と違い、フレームが2分割に分かれ、メインラインがスライドする機構が持たされていた。そして、そのメインラインには、旧型M2と同じ様に、飛びながらパイロットのアタックアングルが変更できるピッチトリマーが取り付けられていた。
私はその構造から、説明を聞かずとも、ピッチラインを緩めればピッチ角が変わるのだろうと、直ぐに扱い方が分かったので、プローン姿勢からピッチラインを弛め、頭を上げたり下げたりしてピッチトリマーの調子を試してみた。
その様子をみていたM2ブースの青年は、「お前、よくこのハーネスの使い方が分かるな」というので、私は、
「実は俺も新しいハーネスが作れないかと、いろいろ試作してるんだよ。ただ、今は日本の輸入業者で働いているから、まだ、自分のブランドのハーネスは売ってないけどね」と答えた。
このとき私に話し掛けた青年。実はこの青年がArmin。あのM2ハーネスの開発者だったのである。
私はその後もArminと話し、そして、彼も私と同じ様に新しいハーネスが作れないかと、その可能性を模索していることを話してくれた。
私は、彼のハーネスに関する知識の正確さを知り、初めて、ハーネスに関して「同じ言語」で話が出来る人間に会えたことに感謝した。
彼は非常にハーネスを熟知していた。そして、ハーネスはどのような改良をしていくべきか私に語ってくれた。その話の内容は、まさに私が目指しているものと全く同じものだったのだ。
Arminの方も、いろいろとマニアックな質問をする私に、どうやら興味が沸いてきたようである。
二人はこの後、新しいタイプのハーネスについて、お互いの意見を交換し始めたのである。