樟若葉（くすわかば）

どんこ舟より仰ぎたる樟若葉

クスノキ科の常緑高木。関東以西の暖地に自生。神社などに植栽され、巨木が多い。初夏に、萌黄色の若葉がびっしりと覆い見事。柳川でどんこ舟に乗った。城の堀を船頭が竿一本で舟を進めた。小さな橋と水面の間がほとんどなく、乗客も船頭も船に寝そべって橋の下を通過した。広い所では大きな樟の若葉が美しく、船頭は白秋の「からたちの花」などを唄ってくれた。

　




棹さして唄う船頭樟若葉



樟若葉舟に手を振る子に応へ


　

矢車草

矢車草旅の始めの寺にきて

ヨーロッパ原産のキク科の一～二年草。五月～六月、茎の上部が枝分かれして、菊に似た花をつける。花の色は青、青紫のほか、白、赤、桃色などがある。ユキノシタ科のヤグルマソウとは別。佐賀県の柳川に行った。先ず、１６世紀に建立された福巌寺という由緒ある寺にある知人の親戚の墓を訪ねた。その墓のそばに矢車草が色とりどりに咲いていた。この墓地には檀一雄の墓もあった。

　







福巌寺


檀一雄の墓

すぐに揺る矢車草に風吹けば


　

アカシアの花

アカシアの花の匂へばひと恋し

マメ科の落葉高木。日本でアカシアと呼ばれているのは北米原産で、針槐（はりえんじゅ）、別名ニセアカシアのこと。五月頃、白い蝶形の花が房状に垂れ、芳香を放つ。本来のアカシアは熱帯に自生する常緑樹で、黄色の小花を多数つけるという。アカシアの花が青空に咲いていた。その下に行くと甘いいい香りが漂い、なぜかひと恋しくなった。

　




アカシアの花を揉みたる風なりし


　

杜若（かきつばた）

池の端に短き橋や杜若

水辺や湿地に自生するアヤメ科の多年草。五～六月頃、茎の頂に濃紫色の花を開く。花には一筋の白い模様がある。花菖蒲の葉にはその中心に中脈と呼ばれる筋が通っているが、杜若にはない。池の縁に杜若が明るく咲いていた。その近くに架かる短い木の橋を渡り、対岸からも眺めた。

　




真向かひの池面に映る杜若


　

あやめ

屈託の消えてゐにけり花あやめ

アヤメ科の多年草。五～六月頃、紫や白の花を咲かせる。花は杜若（かきつばた）や花菖蒲に似ているが、花びらに網目模様があるのが特徴。また、湿地や水辺ではなく、やや乾燥した山野に生える。野に遊んで、日頃の悩み事もいつしか消えていた。紫のあやめがすっきりとして美しく見えた。

　




亡き人を偲ぶよすがや白あやめ



道端のあやめに午後の風強し