ユイポンで大雪崩を目撃した16日の午後、宿の主人に、珍しい宗教行事があるよと誘われた。家族、親戚や親しい友人など、死んだ人々のために食事を捧げる行事だという。井上たちのこともあるので、是非、参加させてもらおうと、村の小さな売店で、お菓子やお酒などをいっぱい買って出かけた。
上村の一番奥の家には、村の人たちがほとんど集まっていた。庭先では、男たちが座り込んでマニ車を回している。中に入れてもらうと、大広間に大勢の人たちが座り、僧侶の読経にあわせて、皆でお経を唱えている。後ろでは、五体投地してお祈りしている人たちもいる。正面には、お供えの食糧やお酒がいっぱい並んでいた。買ってきた食糧も、そこに供えてもらった。
1時間ほどのお祈りが終わると、皆、ぞろぞろと外に出て、チョルテン(仏塔)近くの広場に移動し始めた。広場に着くと、皆が、山を背に一列に並び、そこへ、お供えの食糧の袋を持った人たちがやってきた。一列に並んだ人たちは、その袋に手をあて、挨拶をする。僧侶たちの吹くラッパの音が、山々に響きわたった。
広場に運ばれた食糧の袋は、山とつまれ、そこに火がつけられた。燃え盛る火に、なおも食糧が投げ込まれる。お酒もアルコール度が強いものだから、盛んに燃え上がる。
そして、人々は、この火の周りを回り始めた。中心では、女たちが大きな声でお経を唱えている。物憂げなお経の声、僧侶たちのラッパの音、燃え盛る食糧の炎、白い山並みを背に、不思議な光景が続いた。
この行事は、トンドォーツオと言われ、死んだ親族や親戚、そして友人たちを弔うために、年に1、2回行われているという。主催の家族では、7日間にわたって昼間の断食を続け、その最終日に食糧を燃やす行事が行われる。チベット仏教でも、死んだ人は「輪廻」すると言われているが、生まれ変わるまでにはかなりの年数がかかるので(普通は49日だったはずだが、その関係は不明)、それまでに、お腹いっぱい食べて下さいと、この行事が行われているとのことだった。
私も、井上たちのために、お菓子を、そして特に、酒が好きだった彼を偲んで、特に強い酒を供え、燃やしてもらった。
(ユイポンの村で遊ぶ子どもたち)