
センボンイチメガサ Kuehneromyces mutabilis (Schaeff.) Singer & A.H. Sm.
一年ぶりの芦生の森である。今年も所属する会の秋の合宿はここになった。去年は異常気象の年で秋のきのこが例年より一ヶ月くらい遅れて出てきた。そして、意外なところでマイタケに遭遇したし、立派なカエンタケや色鮮やかなタマゴタケに結構出会えた。
その峠の山に今年も来たのだ。今年は一体どんなきのこに出会えるのだろうと皆、胸をワクワクさせていた。丁度、到着が昼時で、さあ、弁当を食べようというところなのだが、その前に去年、マイタケの出ていたところを見に行くことにした。
世の中、そんなに甘くはない。去年と今年は状況が全然違う。今日は昼だというのに肌寒いくらいなのだ。そう、去年マイタケに覆われていた倒木の塊からは何も出ていなかった。そして、立派で毒々しいカエンタケが出ていた斜面はというと、よーく探すと小さなカエンタケが顔を覗かせていただけだった。

カエンタケ Podostroma cornu-damae (Pat.) Hongo & Izawa
期待に膨らんでいた胸は多少、萎んでしまったが、漸く皆、弁当を食べる気にはなった。
食後、一時頃から各自できのこを求めて散策することになった。集合は3時半。ミズナラを主体とした広葉樹と杉林が入り混じった山の中腹に続く細い道を進む。道の薄くらい斜面にホオベニタケが1個だけ張り付いていた。

ホオベニタケ Calostoma sp.
以前はクチベニタケにしか出会ったことがなく、出会いたいものだと思っていたものだが、最近、不思議とこれにしか出会っていない・・・・。
今年の秋は早く、フウセンタケの類が結構でているが、相変わらず分らない・・。


Cortinarius sp.
随分小さいが、ミヤマタマゴタケが出ていた。2重で大きなツボが特徴だ。

ミヤマタマゴタケ Amanita imazekii T. Oda, C. Tanaka & Tsuda
道をどんどん進んでゆく。きのこは少ない・・・。

ツキヨタケ(幼菌) Omphalotus guepiniformis (Berk.) Neda
小さな個体でまだ、発光は殆んどないだろう・・・。明瞭はツバが見えている。
次はサンコタケ

サンコタケ Pseudocolus fusiformis (E. Fisch.) Lloyd
この山はホオベニシロアシイグチが多い。それ以外のイグチに出会うのは難しいくらいだ。

ホオベニシロアシイグチ Tylopilus valens (Corner) Hongo & Nagasawa
古い倒木で苔に覆われた部分に小さなきのこがパラパラと出ていた。

シラウオタケ Multiclavula mucida (Pers.) R.H. Petersen
もう、随分歩いてきた。一時間くらいは着ているだろう。前方から先行していたメンバーが戻ってくる。この先、何も無いそうだ・・・。
ところで、今日の相棒はIさん。年は一回り以上、上なのだが、結構、気が合って一緒に歩くことが多い。しかし、困ったことに一緒に歩くと、大抵、道に迷うのだ。今日も冗談で迷うんじゃないかなんて話していた。
さて、何もないと言われても一緒に戻るのはつまらない。目を斜面の上に向けると尾根らしきものが見えている。そして、おおきな広葉樹が何本か見えていた。尾根に上って、尾根伝いに戻ろうということにした。
尾根は歩きやすい。朽ちた木から小さなきのこが出ていた。

ヒメスギタケ? Ossicaulis lignatilis (Pers.) Redhead & Ginns


左:クヌギタケ属
右:テングタケダマシ Amanita sychnopyramis Corner & Bas
暫らく尾根を進むと朽木に小さなきのこがビッシリと出ていた。ちいさな茶色の傘に柄にはツバがある。センボンイチメガサだ。


センボンイチメガサ Kuehneromyces mutabilis (Schaeff.) Singer & A.H. Sm.
尾根を歩くのは比較的たいらだし、見通しも良くて楽だ。でも不安があった。尾根を下れば道があるはずだった。でも万が一無かったら?不安になり、一度降りてみることにした。急な斜面をしばらく下る。しかし、道は見えなかった。とことん下ろうかとも思ったが、それでも道が無かったら時に何も分らなくなってしまう・・・。尾根に戻り、尾根に上がった方に戻ることにした。この時、集合時間まであと一時間。
戻りながら、2度ほど道を探して降りてみたが道には出会わなかった。どんどん、不安になってくる。そして、3度目。ようやく道は・・・あった。喜んで道を集合場所の方に歩いてゆく。しかし、なにか変だ。こんな道歩いてきたような気がしない。相棒に聞くと、いや、歩いてきたよ、という。そうかと思いさらに歩く。しかし、やはり記憶にない。もう、集合時間まで30分しかない。と、思って道のわきを見ると・・・なんと、マイタケが出ていた。去年のような感激はなかった。帰り道が不安だったせいもある。


マイタケ Grifola frondosa (Dicks.) Gray
マイタケは全部で4株あった。写真を撮っていると、前方からなんと人が歩いてくる。急いで、二人で収穫した。何か出ているのですかと聞かれた。マイタケが出ていたんですと答えると、それがマイタケなんですか・・と言う。きのこのことは余りご存じないようだった。ついでに峠へいく道を訪ねると、何と後を指差した。我々は全く逆に歩いていたのだ。
大急ぎで戻ることにした。そして、ようやく集合場所に着いたが、仲間は全員、既に集まっていた。3時20分だった。
よかった・・・・。みんなに迷惑を掛けなくて済んだ。
でも、迷わなければマイタケには出会っていなかっただろう。怪我の巧妙である。