学問空間

「『増鏡』を読む会」、第9回は2月22日(土)、テーマは「上西門院とその周辺」です。

阪田雅裕著『「法の番人」内閣法制局の矜持』(その2)

2016-09-04 | 天皇生前退位

投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2016年 9月 4日(日)21時59分27秒

2日の投稿では西川伸一氏の『知られざる官庁 内閣法制局』(五月書房)に触れましたが、これは2002年の本で、内容的に若干古くなってしまっていますね。
現時点で内閣法制局の概要を知るために一番良い本は、元内閣法制局長官・阪田雅裕氏の『「法の番人」内閣法制局の矜持─解釈改憲が許されない理由』(大月書店、2014)かもしれません。

http://www.otsukishoten.co.jp/book/b165082.html

実はこの本、去年4月にパラパラ眺め、同月11日の投稿でも言及していて、その時はほんの少し悪口を言っています。

阪田雅裕著『「法の番人」内閣法制局の矜持』
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/7ca73952d229b3717fe2029af4b570de

これは当時、元内閣法制局長官のくせに大月書店のような共産党系出版社から本を出すなんて世も末だな、くらいの気持ちでいたために些細な欠陥が目についたからですが、改めて読み直して見ると、声高な「立憲主義」騒動から適度に距離を置いた、冷静なインタビュー記録ですね。
聞き手の川口創氏も、共産党系弁護士ではあっても騒々しいタイプではなく、理論派の非常に優秀な人ですね。
さて、阪田氏は内閣法制局の人材採用について、次のように言われています。(p25)

-----
阪田 もともと法制局は、明治18年(1885年)に内閣制度ができるのと同時にスタートしているのですが、その当時からずっと独自の採用はやっていません。一番大きな理由は組織が小さいことではないかと思います。小さな組織で優秀な職員を定期的に採ることは難しいし、大量に採用すると必ず処遇の問題が出てくる。他の組織と違ってラインでの仕事ではなく、参事官は専門性をもったスタッフとして働いているわけですから、70人あまりのうち、部長も含めれば30人以上が課長、参事官以上というような組織です。そういう組織で新しい人を採用して局内で育てるというのが物理的に不可能ということが、一番の理由だと思います。
-----

また、

-----
──審査の際に法案を持ってくる若手から有能な人を見定めて抜擢するといったことも聞きますが……。

阪田 そういうこともないとは言えないでしょうが、少なくとも私の場合はそうではないし、参事官一般についても、引き抜いてくるというようなことはないですね。「今度来る予定のこの人はどんな人なのか」といったことを、いま居る前任者に聞くことはありますし、そのときに「彼はこの前審査に来ていたけれど、とてもよくできましたよ」といったことくらいは話すでしょう。ですが、人事について、参事官ごときが決めることはないので、イニシアチブをとるのはあくまで派遣する各省です。
-----

といったやりとりもありますが(p39)、おそらく聞き手の川口弁護士は、西川著p136に、

-----
 一方、内閣法制局も、法案審査を受けに来る各省庁の課長補佐クラスの応対ぶりをよく観察し、将来の参事官適任者の目星をつける。政府部内における内閣法制局の権威と地位を保つためには、やはり参事官は「えり抜きの俊秀」でなければならない。
 すなわち、出身官庁から「優秀さ」を買われ、内閣法制局からも認められ請われた官僚だけが参事官になるのである。
-----

とあるのを踏まえて質問したのでしょうね。
このやりとりを見ても、外部の西川氏には人事のような機微は理解できず、ついつい面白い話に仕上げてしまう傾向があることが伺えます。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする