学問空間

「『増鏡』を読む会」、第9回は2月22日(土)、テーマは「上西門院とその周辺」です。

Snowdenを探せ

2013-06-30 | その他
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2013年 6月30日(日)00時21分48秒

>筆綾丸さん
確かに憲法上の問題を含め、NSAの情報収集活動そのものに関する議論が希薄な反面、「Snowdenを探せ」騒動はトム・ハンクス主演「ターミナル」そっくりの半ばコミカルな展開になってきましたね。

>Privacy Ends Here
これはトルーマン大統領の座右の銘、"The buck stops here"の類似品なんですかね。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%BBS%E3%83%BB%E3%83%88%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%B3
http://en.wikipedia.org/wiki/Buck_passing

エクアドルのラファエル・コレア大統領は中米の反米左翼諸国の盟主としての地位を狙っているのでしょうが、世論は完全に分裂しているようですね。
アメリカと不仲になれば主要産業のひとつである観光業は大打撃だし、アメリカは関税の優遇措置をやめるはずなので、貿易も大幅縮小となりますが、それを国民が受け入れることができるのか。
政府関係者の発言も、大統領の威勢の良さとは少し違うニュアンスのものが多いように感じます。

http://worldnews.nbcnews.com/_news/2013/06/28/19175108-no-one-wants-this-fight-ecuadoreans-divided-over-snowden-asylum?lite
http://www.usatoday.com/story/news/world/2013/06/27/ecuador-us-trade-relations-snowden/2462687/?utm_source=feedburner&utm_medium=feed&utm_campaign=Feed%3A+UsatodaycomWorld-TopStories+(News+-+World+-+Top+Stories)


※筆綾丸さんの下記投稿へのレスです。
http://6925.teacup.com/kabura/bbs/6830
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産経新聞の奇妙な記事

2013-06-27 | その他
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2013年 6月27日(木)22時43分32秒

ひとつ前の投稿の記事、共同電だったのに、いつの間にか産経新聞北京支局の川越一氏の署名記事に替っています。
新たに記事を追加するのではなく、アドレスは同じです。
時間も両方とも「20:23」ですね。
ずいぶん奇妙な扱いのように感じられるので、念のため差し替え後の記事も保管しておきます。

----------
日本念頭に歴史問題で憂慮表明、朝鮮半島非核化で協力
2013.6.27 20:23 [日韓関係]

【北京=川越一】国賓として中国を訪問した韓国の朴槿恵大統領は27日、北京の人民大会堂で中国の習近平国家主席と会談した。両首脳は戦略的協力パートナーシップ関係を強化し、北朝鮮の非核化に向けて協力していくことを確認。中韓関係の未来像を示す共同声明の中で、日本を念頭に歴史問題に憂慮を示した。
 共同声明で両首脳は、「最近、歴史問題などにより(北東アジアの)国家間の対立と不信が出現し、状況はさらに悪化している。これに対し、憂慮を表明する。国家間の信頼と協力を構築するために努力する」と主張した。
 韓国歴代大統領が就任後、日本より先に中国を訪問するのは初めて。中韓と日本の関係が冷え込む中、朴氏は、北東アジアの政治的対立が解消されない原因は日本にあるとの認識を、中国と共有することを望んでいた。共同声明で示した「憂慮」が、日本を念頭に置いたものであることは明らかだ。直接の日本批判を避けたのは、米国に対する配慮が働いた可能性がある。
 また、首脳会談の中で朴氏は、北朝鮮の挑発に断固とした態度で対応するとした上で、対話を通じて緊張緩和を図り、非核化を導くとする自らの対北朝鮮政策「朝鮮半島信頼プロセス」について説明。習氏は支持を表明した。中韓自由貿易協定(FTA)交渉を加速することなども話し合われたという。
 4日間の日程で訪中している朴氏は28日に、李克強首相らと会談する。29日からは陝西省西安に移動し、現地の韓国企業や遺跡を訪れる。

http://sankei.jp.msn.com/world/news/130627/kor13062720250004-n1.htm

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「日本が北東アジア対立の原因」

2013-06-27 | その他
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2013年 6月27日(木)21時00分53秒

産経新聞ですが、共同電なので事実関係については特にバイアスはかかってないんでしょうね。
こういう国と付き合わなければならないのは本当に苦痛です。

----------
朴氏、日本が北東アジア対立の原因との認識で新協議体構想を提案
2013.6.27 20:23

 韓国の朴槿恵大統領は27日、中国を訪問し、北京で習近平国家主席と首脳会談を行った。両首脳は北朝鮮の非核化のための努力を共に行うことを確認する共同声明に合意した。
 朴氏は、日本が引き起こす歴史、領土問題のために北東アジアの政治的対立が解消しないとの認識を基盤に、米国や北朝鮮も含めた北東アジア地域の新たな協議体を設ける独自の構想を習氏に説明、理解を求めた。
 韓国大統領は就任後、米国の次に日本を訪問し首脳会談を行うことが慣例だったが、朴氏は初めて中国を先に訪問した。安倍内閣発足後、中韓と日本の間では外相会談も行われておらず、日本を外し中韓が接近する構図が強まっている。
 韓国は、3回目の核実験を行った北朝鮮に厳しい姿勢を示す中国の対応を評価。中韓関係を深めながら、米国も含めた3カ国が中心となって北朝鮮に非核化に応じるよう圧力をかけたい思惑だ。(共同)

http://sankei.jp.msn.com/world/news/130627/kor13062720250004-n1.htm

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久しぶりの朝日新聞

2013-06-26 | その他
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2013年 6月26日(水)21時07分21秒

ツイッターを始めたのは比較的遅かった私ですが、最近はニュースの大半をツイッター経由で入手しています。
若干の試行錯誤を経て、現在、大手メディアはロイター・AP・ニューヨークタイムズ・ワシントンポスト・BBC・NBCをフォローしていて、一応これで不自由はしないですね。
日本の新聞もいくつかフォローしてみたのですが、ツイート数が多すぎて鬱陶しいので、全部外してしまいました。
パソコンでは上記各社に加え、朝日・日経・産経と仙台の河北新報、それとローカル色が妙に気に入ってしまった山形新聞をパラパラ見ています。
テレビは殆ど見ず、紙媒体の新聞も日経以外は殆ど読んでいないのですが、特に不自由は感じていません。
たまたま今日、昼食のために入った店にはマンガと朝日新聞しかなかったので、本当に一年ぶりくらいに紙の朝日新聞をじっくり読んでみたのですが、外報面は写真を含めて前日、または前々日に既に知っていたニュースばかりだったので、ずいぶん妙な感じがしました。
考えてみれば贅沢な話で、ちょっと前の時代だったら新聞社や外務省、商社等、特別に海外のメディアと契約した組織の限られた人たちだけが入手できたスピードで、普通の市民が海外から即座に情報を入手できる訳ですね。
ま、そうなると日本のマスコミの存在意義って何なのか、という疑問も当然に生じてきます。
個人的には朝日新聞など明日消滅してくれても全然困りませんが、私より年上の世代はともかく、若い人たちでもやっぱり紙の新聞を毎朝配達してもらわなければ駄目だ、という人はそれなりに多いんですかね。
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備忘録(明るく親切な情報機関)

2013-06-25 | その他
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2013年 6月25日(火)21時30分37秒

一時期、韓国の新聞の日本語版をけっこうマメに読んでいたのですが、暫く御無沙汰していました。
久しぶりに眺めてみると、こんな社説がありました。

-----------
【社説】韓国戦争をしっかりと教えよう
2013年06月23日12時06分
[中央日報/中央日報日本語版]

最近韓国戦争に対し中高生の70%が「北侵」と答えた調査結果が出され既成世代に衝撃を与えた。相当数の回答者が「北侵=北朝鮮の韓国侵攻」と間違えたためにこうした結果が出たと明らかにされた。それでも韓国の青少年が現代史をまともに勉強していない現実は明らかに見える。韓国戦争がいつ起きたのか、3・1記念日が何の日かわからない学生が多い。金九(キム・グ)を詩人だと思い、靖国神社がソウル・江南(カンナム)にある建物ではないかと答えた学生もいる。韓国戦争63周年を2日前にしたきょう、生きた現代史教育が至急だと感じる理由だ。

青少年のおろそかな歴史認識は何よりおろそかな歴史教育のためだ。2005年から大学入試で国史が必須から除外された。28%だった国史受験率は昨年6%に落ちた。日本の大学入試受験生の日本史受験率は40%に達する。日本の大学の大部分が日本史を必修課目に指定しているおかげだ。日本の現代史わい曲と中国の東北工程に憤慨しながらも、韓国は未来世代に対する歴史教育をおろそかにしている格好だ。それならば北東アジアの歴史戦争で落伍者になるほかない。国史を修能必修課目に再び指定し、暗記中心の歴史教育の慣行も変えなければならない。韓国戦争の激戦地を巡礼する現場教育を通じ青少年が能動的に歴史的事実を体得するようにしなければならない。

それだけではない。生きた韓国戦争教育のため北朝鮮内の国軍捕虜送還と戦死者遺骨発掘にも裸足で乗り出さなければならない。米国は北朝鮮に330億ウォンを払い1995年から10年間にわたり北朝鮮で米軍戦死者の遺骨400柱余りを発掘し家族の下に送り返した。米国政府はこのような努力を通じ未来世代に息づく愛国心を教える。

21日に韓国政府は韓国戦争当時に北朝鮮に強制的に連行されて行った民間人現況を職権調査すると明らかにした。韓国戦争の時に北に拉致された民間人は9万人を超えると推定される。だが、これまで明らかになった拉致被害者は2265人だけだ。「晩時之歎」だが、いまからでも政府が直接立ち上がり北に拉致された人の現況を把握し、歴史の記録として残さなければならない。
歴史教育の核心道具である歴史教科書をどのように作るかも重要だ。左右理念に偏向した視点を排除して史実を忠実に記述し青少年に歴史の真相をわからせなければならない。政治的議論に包まれるのをこれ以上放置してはならない。

韓国戦争教育を強化しようという主張に対し一部教師や左派陣営は「反北朝鮮意識を鼓吹する措置」として反対する。ごく少数だがまだ「北侵説」に固執し誤った認識を伝播しようとする人たちも残っている。だが、韓国戦争の勃発原因に対しては中国・ロシアさえ「南侵」であることを認めているのが厳然とした現実だ。理念を盾に明白な事実をひっくり返そうとすればかえって自身の理念を傷つけるだけだ。事実を誤って導く理念は国民と歴史から敬遠されるだろう。(中央SUNDAY第328号)

http://japanese.joins.com/article/046/173046.html

「日本の大学入試受験生の日本史受験率は40%に達する。日本の大学の大部分が日本史を必修課目に指定しているおかげだ」というのは、ちょっと誤解がありそうですね。
「北東アジアの歴史戦争で落伍者になる」「韓国戦争の激戦地を巡礼する現場教育」「未来世代に息づく愛国心」「歴史教育の核心道具である歴史教科書」「青少年に歴史の真相をわからせなければならない」等々、韓国の人はユニークだなあとは思うのですが、正直、こういう歴史に憑りつかれた人々が隣りにいて「歴史戦争」のお相手をしなければならないのは随分面倒くさいなあ、とも思います。
私が18日に書いたことも、こういう国への対処を主目的とすると、やはり歴史に憑りつかれていることになるかもしれないですね。

歴史に限定すると圧迫感がありますので、広く日本文化の紹介を目的とした上で、CIAのように目を険しく吊り上げた情報機関ではなく、サイバー空間向けの明るく親切な情報機関みたいなものが作れないですかね。
日本文化に関する英文の膨大な文献の倉庫を整備した上で、無人航空機を遠隔操作するオペレーターのように有能な情報要員が、日本の情報を欲しがっている人、日本に興味を持ってくれそうな人を探し出し、豊富な倉庫から選び出した情報をピンポイントで提供してあげるような情報機関があってもよいように思います。

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備忘録(対象者)

2013-06-25 | その他
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2013年 6月24日(月)14時15分25秒 編集済


18日に書いた「歴史認識問題への漢方薬的アプローチ」を読み直してみると、この文章は一体誰に向けて書かれたものなのか、対象者がはっきりしない印象を与えますかね。
実は最初に筆綾丸さんが秦郁彦氏のインタビュー記事に言及されたとき、私は秦氏の意見には頷ける点が多いと思ったのですが、元の文章は慰安婦・南京事件問題には中立的な立場からの発想として、この二つの個別問題でどちらの立場に立つ人からも賛成してもらえる内容にしたかったので、筆綾丸さんへのレスでもあえて秦氏の見解には触れませんでした。
ただ、まあ、慰安婦・南京事件問題で秦氏とは対極に立つ「運動体」に属する研究者はもちろん、その周辺の人たちは、むしろ大騒動に発展しがちな現状で充分満足でしょうから、あまり中立性を強調しても仕方ないかもしれないですね。
「日本語の壁に安住し、狭い専門家集団の中での評価に一喜一憂し、職人芸を磨き上げることに専念している人」たちにも聞いてもらえないでしょうから、直接には研究者を相手にしないで、現実に政治を動かしている人を対象にすべきかなとも思います。
その場合、国際日本文化研究センター設立を当時の中曽根首相に働きかけた梅原猛氏のやり方が参考になりそうですね。

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備忘録(閉鎖的学問空間)

2013-06-24 | その他
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2013年 6月23日(日)22時29分31秒

ツイッターで東大・先端科学技術研究センター教授の玉井克也氏が毎日新聞の下記記事を紹介していました。

----------
経済観測:東大法学部を創造的破壊せよ=経営共創基盤CEO・冨山和彦
毎日新聞 2013年06月21日 東京朝刊

 かつて東京大の文科1類から法学部という進路は、文系学生のエリートコースの代名詞であった。ところが昨年、3年次の専門課程に上がる進学振り分けで、何と法学部が定員割れを起こしたのである。ちょうど子供たちが受験世代なので実感として分かるのだが、入学試験においても東大文1にかつてのような輝きはない。
 卒業生としては申し訳ないが、この傾向について私自身は喜ばしいことだと思っている。そもそも東大法学部出身者がトップエリートであったのは、先進国に追いつくために優等生型の官僚が大量に必要だったから。しかし我が国の発展段階はとっくにそんなステージを終えている。
 加えて東大法学部を頂点とする日本の法学は、言語的障壁に守られ、国際競争にもさらされず、かなり閉鎖的な学問空間を形成している。その証拠に、今や社会科学の中心的な研究分野の一つで、ノーベル賞学者も輩出している法と経済の学際分野では、我が国は極めておくれをとっている。秋入学や入試への英語能力試験「TOEFL」採用といった東大の国際化の努力に対しても、法学部は必ずしも積極的ではないといううわさを聞く。
 はっきり言ってしまおう。明治以来の伝統的な東大法学部の存在意義はなくなっている。法科大学院があるのだから、法学部、特に法律学科はもう廃止した方がいい。そうやって空いた定員分を使って、新時代の日本のリーダーとなるべき人材、正解のない問題を設定し、考え、そして世界のフィールドで議論できる人材を育成する21世紀型エリート養成学部を創設するのだ。
 日本の教育の頂点に君臨していた東大法学部がそこまで徹底的な創造的破壊に取り組めば、我が国の人材育成は大きく変わるはずだ。


庶民的な毎日新聞に、寄稿とはいえ、こうしたエリート主義の主張が出るのはずいぶん珍しい感じがします。
ま、エリート主義もここまで露骨だと、逆に爽やかな感じもしますが。
筆者の冨山和彦氏はボストンコンサルティンググループ出身の経営コンサルタントですね。


私がこの記事に興味を持ったのは、「東大法学部を頂点とする」が正しいかどうかは別として、「日本の法学は、言語的障壁に守られ、国際競争にもさらされず、かなり閉鎖的な学問空間を形成している」という点です。
私もつい最近、歴史学が「言語的障壁に守られ、国際競争にもさらされず、かなり閉鎖的な学問空間を形成している」という趣旨のことを書いたので、ちょっとドキッとしました。

法学の場合、「閉鎖的な学問空間を形成」しているのは基本的に正しい指摘ですが、ただ「法学の分野に国際競争がないのは、国際的に共通している。法学の目的は立法と裁判に指針を与えることなので、主権国家体制が揺るがない以上、国家単位にならざるをえない」(玉井氏)という事情があります。


歴史学の場合はどうなんですかね。
「主権国家体制」とは特に関係ないような感じがします。
そもそも「閉鎖的な学問空間を形成」しているという私の認識が誤りなのですかね。
日本に関する歴史的研究は広く世界中に開かれているが、研究者になるには通常の日本語能力を超えて古文書・古記録をきちんと分析する能力まで必要なので、実際上、そこまで高度な日本語能力を持った人が少ないから結果的に「閉鎖的な学問空間を形成」しているように見えるだけ、なのでしょうか。
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文化庁「現代日本文学翻訳・普及事業」の問題点

2013-06-21 | その他
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2013年 6月21日(金)08時33分44秒

>Akiさん
個別の変な新聞記事やネット上の発言を批判してもきりがないですから、日本に関する基礎的な情報の水準を全体的に引き上げる必要がありますね。

河合隼雄氏が文化庁長官だった時期に始まった「現代日本文学翻訳・普及事業」は去年、民主党の「事業仕分け」で廃止されてしまいましたが、小説という商業ベースで既に行われている事業と競合する分野だったので、何故国が金を出さねばならないのだ、村上春樹は国の援助なんか受けてないではないか、みたいなことを言われると反論しにくい面はありましたね。
英独仏露の四か国語を対象にしたのは手を広げ過ぎている感じが否めませんし、決定的に駄目なのはあくまで印刷物にこだわった点なんでしょうね。
どこかの図書館の隅でひっそりと誰かが手に取ってくれるのを待つのは時代遅れと言われても仕方ないですね。

加藤典洋「日本文学翻訳事業に"棹さして"―事実誤認に基づく「仕分け」の愚
http://www.yomiuri.co.jp/adv/wol/opinion/culture_121001.htm
アジアミステリリーグ
http://www36.atwiki.jp/asianmystery/m/pages/194.html

※Akiさんの下記投稿へのレスです。
http://6925.teacup.com/kabura/bbs/6822
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世界遺産は誰のため

2013-06-21 | その他
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2013年 6月20日(木)23時07分20秒 編集済

>筆綾丸さん
ユネスコの世界遺産って、高給に恵まれた国際機関の職員が更にタダで世界中を飲み食いして遊び歩くために推進している企画で、そこにカモが葱を背負って集まってくるんだから笑いが止まらないでしょうね。

ツイッターで少し前からフォローしている佐倉の歴史民俗博物館の方が、1970年代から80年代にかけては学界の総力を挙げて、出版社も社運をかけた壮大な企画が多数あったのに・・・、と嘆いておられたので、過去の栄光の時代の企画とは具体的にはどのようなものか質問してみたら、吉川弘文館の『国史大辞典』、平凡社・角川の地名辞典に言及されていました。
確かに吉川の『国史大辞典』や、少し後の平凡社の『日本史大事典』等は多数の優秀な歴史学者が取り組んだ一大プロジェクトで、ソフトとしての価値は国宝級ですね。
ただ、こういうのが海外に売れるはずもないから、日本の文化の水準をアピールする手段として国の資金で英訳してネットで公開し、出版社には素晴らしい企画を実現してくれてご苦労様ということでお金を流せば、新たに意欲的な出版活動ができるという良い循環が生まれるんじゃないですかね。
考古学の世界は遺跡の発掘で国から潤沢な資金が流れていますが、そんなハードよりソフトの方がずっと大事で、あちこち掘りまくって十分な資料を集めた考古学などより歴史学の世界に金を流した方がずっといいですね。
東北の津波被災地では高台に仮設住宅を建てようとしたときに、予定地に遺跡があるから調査のために時間が必要だということで建設が中止されたり工事が遅れたりした事例がけっこうありましたが、正直、そんなものはどーでもいいから早く建てろ、と思いました。

※筆綾丸さんの下記投稿へのレスです。
http://6925.teacup.com/kabura/bbs/6820

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リチャード・スメサースト『高橋是清 日本のケインズ-その生涯と思想』

2013-06-19 | 近現代史
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2013年 6月19日(水)10時09分10秒

Wakiko は「和喜子」で、高橋是清の幼名「和喜次」を受け継いでいるんですね。
ウィキペディアによれば「和喜子は明治の元勲大久保利通の八男・利賢に嫁ぐ。和喜子の息子がロッキード事件で有罪判決を受けた丸紅専務の大久保利春」だそうです。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AB%98%E6%A9%8B%E6%98%AF%E6%B8%85

「高橋是清&和喜子」で検索したらリチャード・スメサースト氏の「高橋是清の政治ならびに経済理念とその源」という短い論文が出てきました。

http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/download.php?file_id=213

註1に「本稿は米国で出版計画中の拙著 The Last Barrier to Japanese Militarism: Takahashi Korekiyo.1854-1936, (『日本軍国主義の最後の防壁:高橋是清 1854-1936』)の概要である」とありますが、書名は From Foot Soldier to Finance Minister: Takahashi Korekiyo, Japan's Keynes に変更されたようですね。
邦訳(『高橋是清 ―日本のケインズ その生涯と思想』)も既に出版されているとのことなので、ちょっと読んでみたいですね。

http://www.amazon.co.jp/From-Foot-Soldier-Finance-Minister/dp/0674036204

http://www.amazon.co.jp/%E9%AB%98%E6%A9%8B%E6%98%AF%E6%B8%85-%E2%80%95%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E3%82%B1%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%BA-%E3%81%9D%E3%81%AE%E7%94%9F%E6%B6%AF%E3%81%A8%E6%80%9D%E6%83%B3-%E3%83%AA%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%89-J-%E3%82%B9%E3%83%A1%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%88/dp/4492395385

片岡剛士氏の書評
http://real-japan.org/%E6%9B%B8%E8%A9%95%EF%BC%9A%E3%83%AA%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%A1%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%88%E3%80%8E%E9%AB%98%E6%A9%8B%E6%98%AF%E6%B8%85%E3%80%80%E6%97%A5/
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高橋是清の娘

2013-06-18 | 近現代史
高橋是清の娘 投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2013年 6月18日(火)21時40分2秒

>筆綾丸さん
高橋是清の娘のエピソードは Ron Chernow の本では次のように紹介されています。(p111)

After the war with Russia, Takahashi visited Hamburg, and in 1906 Schiff visited Japan. Schiff had a rare private lunch with the mikado at the Imperial Palace, where he was decorated with the Order of the Rising Sun. At one dinner, he sat beside Takahashi's teenage daughter, Wakiko, and casually invited her to New York, but Takahashi took the invitation quite literally. To Schiff's astonishment, Wakiko ended up going back with him and living with the Schiffs for three years.

この少し後にも、ウォーバーグ家側の資料に基づく日本人関係の記事が続きますが、いずれも皮肉で滑稽な描き方で、まあ、その程度の関心しかなかったのだろうなと思います。
Baron Mitsui に関しては"the House of Mitsui, an ancient Japanese dynasty"(古代三井王朝)などという記述もあって、なんじゃこりゃ、という感じですね。
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ジェイコブ・シフ

2013-06-18 | 近現代史
ジェイコブ・シフ 投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2013年 6月17日(月)20時41分50秒

>筆綾丸さん
返信が本当に遅くなってしましました。
橋下氏の問題を契機に以前から漠然と考えていたことをまとめてみたのですが、最後の方があまりうまく書けなくて、投稿も延び延びになってしまいました。

>ジェイコブ・シフ
ずいぶん前にこの掲示板でも少し紹介したロン・チャーナウの『ウォーバーグ』にもかなり頻繁に登場していましたね。
翻訳がひどかったので原書を読んでみましたが、ユダヤを差別する帝政ロシアと徹底的に戦ったジェイコブ・シフにとっては、日露戦争時に日本を応援したエピソードもささやかな一ページであり、同署では割と軽い扱いのような感じで少し残念でした。
高橋是清の娘は来日したシフの帰国に同行してアメリカで三年過ごしたそうですね。

http://www.amazon.co.jp/%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%BC%E3%82%B0%E2%80%95%E3%83%A6%E3%83%80%E3%83%A4%E8%B2%A1%E9%96%A5%E3%81%AE%E8%88%88%E4%BA%A1%E3%80%88%E4%B8%8A%E3%80%89-%E3%83%AD%E3%83%B3-%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%8A%E3%82%A6/dp/4532162874


※筆綾丸さんの下記投稿へのレスです。
http://6925.teacup.com/kabura/bbs/6813

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歴史認識問題への漢方薬的アプローチ

2013-06-18 | その他
歴史認識問題への漢方薬的アプローチ 投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2013年 6月18日(火)14時23分52秒

1.はじめに
2.局面転換に必要な布石
3.具体的方策─英語による情報発信量の拡大
4.運営体制
5.付随的効果
6.おわりに-漢方医的な国家論

1.はじめに

 2013年5月、大阪市長橋下徹氏の発言で「従軍慰安婦」問題が再燃した。
 橋下氏が慰安婦という複雑な問題に対処するにふさわしい資質を欠く政治家であったため、同氏の特異な情報発信能力にもかかわらず、結局は何度も見飽きたパターン、即ち日本の政治家の「失言」が慰安婦問題に敏感な国内メディアを刺激し、国内メディアが発信した情報がアメリカ・韓国・中国で増幅され、海外で発信された情報が日本に還流して混乱に更に輪をかける、という構図が再現されることとなった。
 ただ、今回の橋下氏の行動では、対応の山場を外国人記者クラブでの共同記者会見に設定し、予定時間を超えて提示された全ての質問にそれなりに丁寧に答えたという点は従来の「失言」政治家には見られなかった姿勢であり、若干の新鮮さを感じさせた。
 橋下氏は共同記者会見において沖縄駐留米軍への侮辱となる発言を撤回・謝罪する一方、なぜ日本の過去だけが現在の価値観で攻撃されるのか、「軍隊と性」をめぐっては、現代の人権感覚から見れば不適切な事象は日本だけでなく世界各国にあったのに、なぜ日本だけがいつまでも執拗に断罪されるのか、あまりに「不公平」ではないか、という点を強調したが、このような感覚は国民の一部に根深いもので、今後も折に触れて噴出することになろう。
 また、このような感覚を共有しない国民の中にも、慰安婦問題が扱われる頻度・態様は、日本の近代史全体の中であまりにバランスを欠くのではないか、という漠然とした違和感を持つ人は相当いるのではないかと思われる。
 そして慰安婦と同種の歴史認識の問題として、日本と中国との間には南京事件問題が存在している。
この二つの問題は、第二次世界大戦の反省を踏まえて「専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」(憲法前文)日本にとって、いつまでもまとわりつく亡霊のような存在になってしまっているが、韓国には韓国の、中国には中国の国内事情があり、日本側がこの二つの問題に触れたくないと思っても、再燃の可能性は極めて高いだろう。
 国内においても、東日本大震災とそれに伴う福島第一原発の事故以降、日本はエネルギー問題という経済の根本において長期にわたり不安定性を抱えることとなった。
 北朝鮮という爆弾を抱えた朝鮮半島に加え、中国が継続的に軍事力を拡大して周辺諸国に不気味な圧力を加え続けている東アジア情勢の中で、歴史認識問題に関するナショナリスティックな感情を放置しておけば、何かのきっかけで国境を挟んで憎悪の連鎖・応酬を生み、未だ経験したことのないレベルの紛争に転化する可能性もあるだろう。
 国内でも国外でも厳しい状況の継続が予想される中、歴史認識問題での将来のトラブルの再発・激化を防止するために、現時点において局面転換の布石を打っておく必要性は高い。

2.局面転換に必要な布石

 それでは、局面転換のためにどのような布石を打つべきか。
 慰安婦と南京事件問題自体の評価から距離を置いて、単純に様々な歴史的事象に関する情報量を比較してみた場合、日本の近代史に関して国際社会の中で英語で発信される情報としては、この二つの問題の情報量は突出して多いように思われる。
 そしてこの二つの問題は、国際社会の中で、日本が歴史と真摯に向かい合っていない、日本には歴史を隠蔽し捻じ曲げようとする勢力が厳然と存在している、といった漠然としたイメージを作り出しているのではないだろうか。
 もちろん実際には日本は言論の自由・学問の自由が完全に保障されている国なので、歴史認識について多様な見解はあるものの、歴史学への公権力の介入はなされておらず、水準の高い精緻な研究が行われていることは世界に誇ってよいことであろう。
 しかし、英語が実質的に世界の共通語である現代において、日本国内では評価が高い歴史学者を含め、殆どの歴史学者の論文・著書は英訳されておらず、世界的に一流と認めてもらえるような歴史学者は存在していない。
 世界との競争に曝されている他の多くの学問分野においては、一流の研究者と目されるためには英文で論文を発表することが必須であるが、歴史学を含む文系の僅かな分野では研究者の多くが日本語の壁の中に安住しており、世界には全く影響力を持っていない。
 これでは、国際社会から見ればそもそも日本の歴史学の水準を判断する手掛りすらなく、結果として慰安婦・南京事件という特別な事象に関しての政治的なバイアスを多分に含んだ情報のみで日本の歴史認識の水準、歴史学の水準が想像されてしまっても仕方ないだろう。
 このような現状に鑑みれば、今の時点で国際社会からの信頼を確保するために一番必要とされているのは国際社会から見た日本史全体の情報量のバランスを取ることであろう。
 これが歴史認識に関して世界から日本は信頼できる国だとのイメージを持ってもらうための、迂遠ではあっても一番確実な方法ではないかと私は考える。

3.具体的方策─英語による情報発信量の拡大

 では、情報量のバランスを取るために具体的に何をしたらよいのか。
 私の提案は極めてシンプルなもので、何も国際社会向けに特別な情報を用意する必要はなく、既に日本語で公開されている多数の歴史学に関係する文献のうち、学問的見地から一定水準を確保しているものを、一般向けの概説書から専門書、論文まで、どんどん英語に翻訳してインターネットで公開し、世界中の誰でも、いつでも読めるようにすればよいのではないか、というものである。
 中央公論社・講談社・小学館・集英社等の大手出版社が一般読者向けに出している日本通史の入門シリーズや岩波新書・中公新書・文春新書などの新書タイプの比較的ソフトなものから、もう少し高度な専門書、更に専門研究者を主たる対象とする学術雑誌に掲載されるハードな論文まで、様々な立場の歴史学者が日本語で発信した情報を、国外向けに特に改変することなく、日本国内における議論の状況そのままの形で大量に英文に翻訳して発信すればよいのでなはなかろうか。
 一般的には研究の基礎となる史料までは翻訳の必要はないだろうが、慰安婦・南京事件に限っては、存在する限りの一切の史料を翻訳し、その史料価値と解釈についての解説を付し、史料の解釈に争いがある場合にはその争いの内容についても説明し、日本は両問題の事実関係については何一つ隠し立てしていないことを明らかにすべきであろう。
 国家としての品格を世界にアピールするために行う基盤整備であるから、費用は当然に国家が負担する。
 仮に一冊あたり、執筆者への著作権料、翻訳料等を含めて一千万円かかるとして、一年に千冊翻訳したとしても年に僅か百億円程度である。
 防衛費やODAなどと比較すれば、国際社会の信頼感維持という安全保障の根幹の部分への拠出としては、全く安価といえよう。
 仮に十年かけて一万冊程度の書籍・論文を翻訳すれば、日本や東アジアの歴史について興味を持った人が世界各地でネットで検索をかけたときに、かなりの頻度で日本発信の歴史情報がヒットするようになるだろう。
 そして、そこで出会った情報が検索者の求めるものであった時はもちろん、仮に専門的すぎて理解しにくい議論だったとしても、なるほど日本ではこのような複雑な議論が展開されているのか、日本の歴史学の水準はたいしたものだな、と思ってもらえれば充分に成功と言えるだろう。
 様々な立場の研究者の研究内容をそのまま翻訳・公表するのであるから、当然に内容は各研究者個人の責任に帰せられるものであって、国家はその内容を保障しないし、責任も負わない。
 その結果、場合によっては日本政府には外交上望ましくないような情報も発信されることがありえよう。
 しかし、日本が中国や韓国のように歴史認識で一枚岩でないのは、決して日本の弱点ではない。
 多種多様な見解があって一見バラバラに見えても、全体として日本の歴史学の水準は極めて高いな、国家が歴史認識の統一を図ろうとしたり、建前としては学問の自由の保障をうたっていても、実際には異論を排除する社会的強制力が強い国とはやはり違うな、と思ってもらえれば、それが小さな外交的勝利である。
 そして世界各国の多くの人にそうした小さな経験を積み重ねてもらえば、日本は歴史と真摯に向かい合っていない、日本には歴史を隠蔽し捻じ曲げようとする勢力が厳然と存在している、といったイメージは徐々に減少して行くだろう。

4.運営体制

 それでは歴史関係情報を英語で大量に発信するための運営体制はどのようにすればよいだろうか。
 インターネットの世界の原則は自由であり、要するに歴史関係の情報量が増えればよいのだから、インターネットでの発表を継続することを唯一の条件として、著作者に翻訳業者の選定、発信するサイトの選択を含め、全てをまかせて国は補助金を出すだけ、というのもひとつの考え方ではある。
 しかし、そもそもどの文献をどのような順番で翻訳するかという選定が恣意的であってはならないし、翻訳の水準がバラバラでも困る。基本的な専門用語についての訳語の統一が図られず、無用な混乱を招くことがあってもまずいだろう。
 長期的な視野に立ち、良質な情報を継続的に発信する体制を維持するためには、やはり相応の人員を配置した専門機関を設けて管理運営の円滑を図るべきであろう。
 そして一方的な情報発信にとどまらず、世界各地からのフィードバックに対応し、参考文献の所在等の質問に回答するレファレンス部門も設けるべきであり、ここに日本史の専門知識を持った専任スタッフを置くべきであろう。
 また、翻訳の対象となる書籍・論文や順番も、フィードバックの内容を参考にした上で、適宜調整すべきであろう。

5.付随的効果

 歴史関係情報を英語で継続的かつ大量に発信する体制を整えれば、付随的に次のような効果が期待できると考える。
 第一は日本の歴史学の水準の更なる向上である。
 現時点で日本の歴史学界においては精緻な実証的研究が行われており、決して欧米諸国に劣っている訳ではない。
 しかし、日本の研究者の中には日本語の壁に安住し、狭い専門家集団の中での評価に一喜一憂し、職人芸を磨き上げることに専念している人も多い。
 英語による情報発信を当たり前のものとすることは、このような蛙の集団が住む井戸に大量の海水を注ぎ込むようなものであり、多数の蛙の中から大海に泳ぎ出す蛙が出てくるだろう。
 その中からは、世界的な評価を獲得する歴史学の巨人が誕生する可能性もあるだろう。
 付随的な効果の第二は海外の日本研究のレベルの向上である。
 日本の国力低下、中国の台頭とともに、アメリカにおける日本研究者の数は減少し、東アジアに興味を持つ優秀な人材は大半が中国研究に向かっている。また、日本に駐在する欧米の新聞社・通信社の記者も質が低下している。
 日本語の壁を取り払い、日本に興味を持つ人が容易にアクセスできる情報の量を全体的に増やすことで、海外の日本研究者の質を向上させることが可能となり、また日本から欧米の新聞社・通信社によって日本から発信される情報の質も向上するであろう。
 第三として、日本の出版社にとっての新たな市場開拓の可能性があげられる。
 現時点では日本史に関する情報についての国外からの需要は全くといっていいほど存在しないが、英語での歴史情報が大量に集積された基盤がいったん出来上がれば、世界各地から様々な感想が寄せられるようになり、そのフィードバックの内容を分析することにより、日本の読者の需要とは異なる新たな需要を商業ベースで発掘できる可能性がある。
 日本に拠点を置いた、海外の読者をターゲットとする新たな出版社や通信社が生まれる可能性もあるだろう。
 付随的な効果の第四は日本国内各地の観光産業への刺激である。
 観光地で発行されている英文パンフレットや案内板の内容、また観光に関係する各種団体や企業の英語版ホームページには英文としての余りのレベルの低さに目を覆いたくなるようなものが多いが、自治体史や郷土史も含め、英訳の対象を拡大して行けば、観光情報の内容も大幅に改善され、観光・ビジネス目的で日本を訪問した人が得られる日本文化に関する情報の質と量が向上するだろう。

6.おわりに-漢方医的な国家論

 慰安婦・南京事件問題に関心が集中するあまり、海外で活躍するビジネスマン等の実務家にとっては、日本の歴史は日本の発展を妨げる負の遺産のように感じられることすらあろうが、日本史全体についての豊富な情報を提供できる体制が整えば、歴史はむしろ日本の戦略的な資源となろう。
 列強の脅威に正面から対峙し、明治維新で国家体制を根本的に改革し、西欧文明を積極的に導入して急速に産業を発展させた日本は、反面、後発的な帝国主義国として植民地支配も行ったが、第二次世界大戦で多数の犠牲者を出した経験を踏まえて平和国家に転換し、対外的な武力活動を一切行わない状態を既に七十年余り続けている。
 この日本の歴史は、未だに文明・文化の衝突が世界各地で戦争・内紛・差別を惹き起こしている現実の中で、平和を望む多くの人々の参考になる知識・経験を豊富に含んだ豊かな土壌である。
 その土壌に、日本の歴史学者は既に多数の井戸を掘って、豊かな成果を蓄積している。
 この成果を生み出す技術そのものが、日本にとっての貴重な、海外には未だ輸出されていない未開拓の資源である。
 たまたま日本に生まれた人から世界的な歴史学者を育てるというのもスケールの小さい話であり、日本は世界各国から歴史学者としての素質を持つ優秀な人材を招き、欧米諸国からの影響を受けつつも独自の発展を遂げた日本の歴史研究の手法を教え、それぞれの出身地の風土に合った井戸を掘り、叡智を汲み上げることのできる歴史家を育てるべきである。
 もちろん一朝一夕にそのような人が生まれるはずがない。
 当面はそのような人が生まれる基盤を作るための地味な努力を重ねるべきである。
 日本が近代化の参考とした西欧諸国の理念、特に近代人権思想は極めて優れたもので、当面はこれに対抗できる思想の枠組みは生まれないだろうが、この理念を掲げた西欧諸国が世界を大きく進歩させた一方で、しかし、文明・文化の衝突をも引き起こし、混乱を増幅させているのも世界の現実である。
紛争が発生した場合、紛争地に乗り込んで行ってメスを振るう外科医のような存在も必要であるが、そうした役割は余り日本には似合いそうもない。
 日本は行動的な外科医ではなく、世界を紛争の起こりにくい体質にゆっくりと変えるための漢方医のような国家を目指すべきであり、また世界をそうした方向に変えて行く深い叡智を持った歴史学者を世界各地に育てるべきである。

以上

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