世界一周タビスト、かじえいせいの『旅が人生の大切なことを教えてくれた』 

世界一周、2度の離婚、事業の失敗、大地震を乗り越え、コロナ禍でもしぶとく生き抜く『老春時代』の処世術

また女を泣かせてしまった

2012年10月05日 | 
女を泣かせるマジックワード

たった一言が、女の涙を誘う



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それは、開口一番、いきなり文句から始まった。

「もっとお客さんを大切にしたらどうですか?」


女は開店時間20分前から、チャイムを鳴らしたり

ドアの前で電話をかけてきた。


11時の開店に合わせて1,2分を争う一番慌ただしい時間帯だ。



初対面の女の口撃は留まるところを知らないかのように続く。


「一昨日も来たのに、あなたはいなかったでしょ」


「そうですか、それは失礼しました。

でも今日お会いできてよかったですね」


彼女は、確かにといった様子で少しはにかんだ。



彼女はテラス席でたばこの煙を鼻からを吹かせながら、確かにイライラしていた。


「就職の面接で断られたんですよ。

マナーがなってないって。私のこと失礼だって」

オーダーしたワインを飲み干すと吐き捨てるように言った。

(そう彼女は朝からワインを飲む)


これじゃあ確かに誰しもそう思うだろう。

口にこそしなかったけれど。


話がまるで支離滅裂だ。

この時点で精神的病を負っていることが分かった。


案の定、身の上話が始まった。

そしてしばらくすると、泣き始めた。

アー、またか、とボクは思った。


このパターンは、確か5人目だ。



シングルマザー、そして無職。

彼女らに共通する身上である。


どれも社会適合障害に当たる。

それでもって大半が生活保護を受けている。


これでは社会保障制度がパンクするはずだ。


そしてなぜかしらこの店に入ってきて、

ボクの前で決まって涙を見せる。


ボクは、女の涙にはめっぽう弱い。

だからといって、何かをしてあげるわけではない。

変に気を回すと、後が大変なことになることは分かっている。


ソット、ハンカチを差し出すのが関の山といったところ。

白い綺麗なハンカチを買わなければ。



「仕事を探してるんですね」

彼女は深く頷いた。


「BTW What can I do for you?」

ボクはお決まりのセリフを投げかけた。

そう、これこそがマジックワードだ。


ちなみに、BTYとは、By the way(ところで)のことだ。



こうした臭いセリフが言えるのは、

それがすべて英語で行われるからなのだ。

これこそ英語の特権の一つだ。



「ホントにあなたにお会いできて幸せです」

「これも神様が引き合わせてくださったのだと思います。

運命を感じます」


オレは聖職者か、と自分を疑う。

今度から、牧師さん用のカラーをつけて、バイブルの本を片手に持とうか。


ハロウィンの季節だ。

衣装はどこかで売ってるだろう。


神学校を出たての胡散臭い神父のように。


冗談はさておき、相手の話に相槌を打ちながら聞き手に回る。


決して、相手の話を否定しない

どんなに相手が理不尽なことをいっても、

よーく分かります、と首を縦に振る。


なるほど、それは大変でしたね、

よくそこまで頑張ってこられましたね、などと

労(ねぎら)いの言葉をかける。


きっといいことが起きますよ。

神様はチャンと見ておられます。


大丈夫ですよ。


希望と自信を抱かせる。


こらえていた気持ちが一気に崩れる瞬間である。

スーと涙が彼女の頬を伝う。




何も泣かせようと思って言っているのではない。

だが、決まって皆涙を流す。



ここでもまた胡散臭いカウンセラー気取りでいう。

「思いっきりお泣きなさい。

泣いていいんですよ」


これも英語でなきゃ吐けないセリフだ。


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聴く、

否定しない、

認める

許す、

同調する、



こういったテクニックは専門家からすれば当たり前のことだ。



だが、人はテクニックだけでは動かない。

心が伴わなければ共鳴しない。


心から相手のことを思う気持ちがなければ、

口先の言葉だけでは、余計に相手を虚しくするだけだ。


『言葉は口から出すのではない。

心から発するのだ』



これがボクの持論。

英会話も同じ。

文法やテクに走っても

いくら流暢に話したところで相手の心には届かない。



だから、ボクも心が痛い。

胸が詰まる思いがある。


もらい泣きすることだってある。

一緒に涙を流せば、より気持ちが通いあう。


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女は、ありがとうございました、と言って帰って行った。

また来ます、と言ったが、それは分からない。


だが、忘れたころにまたやってくるだろう。

そのときは、満面の笑顔で迎えてやるつもりだ。


Hou are you getting along?

What can I do for you today?


とマジックワードが冴えわたせながら。



こうして

メンタルクリニック「フリートーク」

ナンチャッテ、ドクター・エイセイは今日も女を泣かせてしまうのだろう、か。



【蛇足】


「タビスト」、「英会話カウンセラー」に付け加えて

肩書きを増やそう。


「ライフカウンセラー」と。


ナニ、肩書なんて自分で勝手に決めればいいんですよ。

心療心理士なんて免許は持たなくても。


オッと、忘れるところだった。

頭に、女を泣かせるとつけよう。


「女を泣かせるライフカウンセラー」

これで決まり。


ヤッパリ胡散臭いわ。

怪しい!


だって、なんたって

これからのビジネスのトレンド、キーワードだもんね。