世界一周タビスト、かじえいせいの『旅が人生の大切なことを教えてくれた』 

世界一周、2度の離婚、事業の失敗、大地震を乗り越え、コロナ禍でもしぶとく生き抜く『老春時代』の処世術

2015年10月27日 | 100の力
激しい雨の音で目が覚めた。

何日ぶりだろう。

雨の音さえ忘れかけていた。


ここは何処?

男は一瞬記憶を失ったかのようだった。

時々自分がどこにいて、何をしている人間なのかを忘れる。


朦朧とした頭で記憶の糸を手繰り寄せながら、

しばらく雨が激しく屋根を打ちつける音を聞いていた。


おもむろにベッドから起き上がり、

薄汚れたレースのカーテン越しに外に目をやる。


これは恵みの雨なのか、無情の雨なのか。

いずれにせよ雨に変わりはない。


雨に煙るぼんやりとした風景の向うに、遠く離れた彼女の顔が見えたような気がした。


アー、彼女は今、何処にいて何をしているのだろう。

愛し合った悦楽の日々が走馬灯のように蘇る。


今更想っても彼女は帰っては来ない。

なぜもっと激しく愛してあげなかったのだろうか。


彼女が寂し気にスーツケース一つで出て行ったのも、こんな雨の日だった。


せめて雨が止むまで待ってくれ。

ボクの最後の言葉を、彼女は背中で拒絶して無言で立ち去っていった。




再び激しくなった雨に覚醒されて、男はいつものように目覚めのコーヒーを淹れた。

何ごともなかったかのように、孤独な一日がまた始まる。


雨は気持ちを沈めることもできるし、

心を静めることもできる。