日本国今上天皇の憲法・民主主義擁護の秀逸な見識と「逆臣たちの謀略」
2016/08/08
櫻井 智志
明治以来の歴代の天皇のなかで、今上天皇は、もっともリベラルで民主主義をわきまえた天皇であると私は考えている。ずっと「天皇制」が、日本の民主化に対して「特権制度」として、「被差別問題」を創出する祭政一致の封建的制度であり、日本の戦前の軍国主義体制が、イタリアのファシズム、ドイツのナチズムとともに戦前日本の「天皇制」軍国主義と同質の侵略戦争国家の代表と、私は考えていた。
けれど、現在の天皇ご夫妻の具体的行動、美智子皇后妃のインドで開かれた国際読書年へのメッセージを、小宮山量平先生を通じて知り、最初の自身への疑問となった。美智子皇后は、さらに「戦争中も戦争体制に抗い、未来をになう少年少女たちのために新潮社の小国民文学シリーズの編集は続けられ、そのために犠牲をも省みず編集者たちの努力は続けられました。」と述べたことを知った。それは山本有三と吉野源三郎らを示していることは間違いなかった。これらの事実から、私は天皇ご夫妻について具体的な事実によって判断する思考に転換を余儀なくさせられた。
さらに皇室の立場で列席した保守色の強い大会での当時の森喜朗元総理の発言への対応を、怪訝な表情で聞いていた時の写真を月刊誌はグラビア写真と解説記事で紹介した。
また、園遊会に列席した米長邦雄将棋棋士で東京都教育委員を任命されていた立場から、「もっと国民が国歌を熱心に歌うよう都政の教育に邁進してまいります」と天皇に話したとき。天皇は、「教育は広く都民全体の立場から対応することを臨んでいます」とくぎをさした。
パラオなどオセアニア州の島国には、日本国憲法よりも徹底した、戦争放棄の憲法や、核兵器を保持しないことを憲法に明記した国家がある。それらの小国の島々にも、日本軍がアメリカ軍と激しい戦闘で現地住民に多大な被害を負わせたり、徴兵で駆り出された日本人兵士の多くの遺骨が雨風にさらされている。天皇ご夫妻は、心臓病や前立腺癌などと闘病しつつ、70代、80代でも慰問と謝罪の訪問を続けている。
そして、このような天皇ご夫妻は、他の皇族の中でもきわめて稀有な平和主義志向のご夫婦であり、それに近いのは皇太子ご夫妻くらいしかいない。天皇家と関わりある宮内庁は、保守的な官庁に過ぎず、明治以来の「天皇制」の傾向とかけ離れてはいない。歴代の戦後内閣も、今上天皇ご夫妻の真意とはかけ離れている。
ある反権力メディア(『日刊ゲンダイ』紙面・web)は、安倍政権が憲法改正どころか、憲法を廃止し、明治憲法を復古させようとしている、と主張している。考えるところあって、私はインターネットで検索しダウンロードして『日本国憲法改正草案 自由民主党 平成二十四年四月二十七日(決定)』を全文読んだ。
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第一章 天皇
(天皇)
第一条 天皇は、日本国の元首であり、日本国及び日本国民統合の象徴であって、その地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく。
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驚愕の草案である。
国民主権を謳った現憲法と真っ向から対立する、天皇主権を明文化した明治憲法そのものへの回帰にほかならない。
このような第二次安倍政権が、一気に実現をめざす危険な企てを天皇陛下自らが阻止するために、生前の天皇退位に思い及んだ。天皇の生前退位には、皇室典範の改定が必要である。皇室典範改定を進めるということは、憲法改悪の策動は、法治国家であるはずの日本国の法秩序体系下では、皇室典範改定よりも後にならざるを得ない。
しかし、この指摘は、天皇陛下がきょう2016年8月8日にビデオとしてテレビ放映され、リオオリンピックとともに、全テレビ局から一日中流されていても、見事に煙幕を張られ、別の方向へと流される政府と宮内庁の段取りが綿密に貼り巡られされている。
参考資料:==================
【孫崎享のつぶやき】
《天皇の生前退位、天皇の意向伝えるうえで本件報道NHKがリード。天皇の意向を伝えようとする社会部、抑えようとする政治部の確執の中、NHKは「天皇陛下 お気持ちに退位の意向 強くにじむ」と報道》
2016-08-08 16:223
A-1:事実関係 天皇の発言
(1)NHKニュース「天皇陛下 お気持ちに退位の意向 強くにじむ」(抜粋)
・天皇陛下は8日、ビデオメッセージで国民にお気持ちを表し「次第に進む身体の衰えを考慮する時、象徴の務めを果たしていくことが、難しくなるのではないかと案じています」と語られました。そのうえで、「象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていくことをひとえに念じる」と述べられました。天皇陛下のお気持ちの表明は、生前退位の意向が強くにじむものとなりました。
・天皇陛下は、はじめに、天皇の立場上、今の皇室制度に具体的に触れることは控えるとしたうえで、「社会の高齢化が進む中、天皇もまた高齢となった場合、どのような在り方が望ましいか、個人として、これまでに考えて来たことを話したい」と述べられました。
・続けて、「次第に進む身体の衰えを考慮する時、これまでのように、全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが、難しくなるのではないかと案じています」と胸の内を語られました。
・天皇陛下は、ここまで語ったあと天皇の高齢化に伴う対応について言及し、公務を限りなく減らしていくことには無理があるという考えを示されました。
・また、天皇の行為を代行する摂政を置いても、天皇が十分に務めを果たせぬまま、生涯、天皇であり続けることに変わりはないとしたうえで、「天皇が健康を損ない、深刻な状態に立ち至った場合、社会が停滞し、国民の暮らしにも様々な影響が及ぶことが懸念されます」と述べられました。
・そして最後に、「これからも皇室がどのような時にも国民と共にあり、相たずさえてこの国の未来を築いていけるよう、そして象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていくことをひとえに念じる」と語り、「国民の理解を得られることを、切に願っています」と結ばれました。
・天皇陛下は、お言葉の中で、年をとるに従い象徴の務めを果たすことが難しくなるとする一方で、大きく公務を減らしたり代役を立てたりすることには否定的な考えを示されました。そのうえで、象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていくことを願われ、10分余りに及んだビデオメッセージは、天皇陛下の生前退位の意向が強くにじむものとなりました。
(2)朝日(ネット)「天皇陛下、お気持ち表明 ビデオメッセージ」(標題は内容避ける)
憲法上の立場から直接的な表現は避けながらも、将来的な退位の意向を強くにじませる内容となった。
(3)読売新聞「「象徴の務め困難に」天皇陛下、生前退位を示唆」
(4)毎日新聞「天皇陛下“象徴の勤め難しくなる”」
(5)産経新聞『天皇陛下が「生前退位」に強いご意向 「象徴の務め困難に」 摂政には否定的 ビデオメッセージに「お気持ち」込められ』
(6)東京新聞「象徴の務め 案じる」天皇陛下「生前退位」で思い
A-2: 事実関係 安倍首相の反応
朝日「安倍首相「天皇陛下のご発言、重く受け止める」
読売「天皇陛下のお気持ち、首相「重く受け止める」
毎日 安倍首相「重く受け止めている」
産経「安倍首相「天皇陛下のご発言を重く受け止める」「陛下のご心労に思いを致し、しっかり考えていかねばならない」
B:若干のコメント
政府は生前退位問題をできるだけ取り上げたくない方向でこれまで動いてきている。その一環が、現在の天皇陛下に限って退位を可能にする特別法を制定する案が、政府内で浮上してきた(7日読売)。
天皇のあり様に手を付けようとすると女系問題等を抱えるため、安倍氏の支持基盤の右派への対応がむつかしくなる。
参考資料転載終了============
2016/08/08
櫻井 智志
明治以来の歴代の天皇のなかで、今上天皇は、もっともリベラルで民主主義をわきまえた天皇であると私は考えている。ずっと「天皇制」が、日本の民主化に対して「特権制度」として、「被差別問題」を創出する祭政一致の封建的制度であり、日本の戦前の軍国主義体制が、イタリアのファシズム、ドイツのナチズムとともに戦前日本の「天皇制」軍国主義と同質の侵略戦争国家の代表と、私は考えていた。
けれど、現在の天皇ご夫妻の具体的行動、美智子皇后妃のインドで開かれた国際読書年へのメッセージを、小宮山量平先生を通じて知り、最初の自身への疑問となった。美智子皇后は、さらに「戦争中も戦争体制に抗い、未来をになう少年少女たちのために新潮社の小国民文学シリーズの編集は続けられ、そのために犠牲をも省みず編集者たちの努力は続けられました。」と述べたことを知った。それは山本有三と吉野源三郎らを示していることは間違いなかった。これらの事実から、私は天皇ご夫妻について具体的な事実によって判断する思考に転換を余儀なくさせられた。
さらに皇室の立場で列席した保守色の強い大会での当時の森喜朗元総理の発言への対応を、怪訝な表情で聞いていた時の写真を月刊誌はグラビア写真と解説記事で紹介した。
また、園遊会に列席した米長邦雄将棋棋士で東京都教育委員を任命されていた立場から、「もっと国民が国歌を熱心に歌うよう都政の教育に邁進してまいります」と天皇に話したとき。天皇は、「教育は広く都民全体の立場から対応することを臨んでいます」とくぎをさした。
パラオなどオセアニア州の島国には、日本国憲法よりも徹底した、戦争放棄の憲法や、核兵器を保持しないことを憲法に明記した国家がある。それらの小国の島々にも、日本軍がアメリカ軍と激しい戦闘で現地住民に多大な被害を負わせたり、徴兵で駆り出された日本人兵士の多くの遺骨が雨風にさらされている。天皇ご夫妻は、心臓病や前立腺癌などと闘病しつつ、70代、80代でも慰問と謝罪の訪問を続けている。
そして、このような天皇ご夫妻は、他の皇族の中でもきわめて稀有な平和主義志向のご夫婦であり、それに近いのは皇太子ご夫妻くらいしかいない。天皇家と関わりある宮内庁は、保守的な官庁に過ぎず、明治以来の「天皇制」の傾向とかけ離れてはいない。歴代の戦後内閣も、今上天皇ご夫妻の真意とはかけ離れている。
ある反権力メディア(『日刊ゲンダイ』紙面・web)は、安倍政権が憲法改正どころか、憲法を廃止し、明治憲法を復古させようとしている、と主張している。考えるところあって、私はインターネットで検索しダウンロードして『日本国憲法改正草案 自由民主党 平成二十四年四月二十七日(決定)』を全文読んだ。
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第一章 天皇
(天皇)
第一条 天皇は、日本国の元首であり、日本国及び日本国民統合の象徴であって、その地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく。
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驚愕の草案である。
国民主権を謳った現憲法と真っ向から対立する、天皇主権を明文化した明治憲法そのものへの回帰にほかならない。
このような第二次安倍政権が、一気に実現をめざす危険な企てを天皇陛下自らが阻止するために、生前の天皇退位に思い及んだ。天皇の生前退位には、皇室典範の改定が必要である。皇室典範改定を進めるということは、憲法改悪の策動は、法治国家であるはずの日本国の法秩序体系下では、皇室典範改定よりも後にならざるを得ない。
しかし、この指摘は、天皇陛下がきょう2016年8月8日にビデオとしてテレビ放映され、リオオリンピックとともに、全テレビ局から一日中流されていても、見事に煙幕を張られ、別の方向へと流される政府と宮内庁の段取りが綿密に貼り巡られされている。
参考資料:==================
【孫崎享のつぶやき】
《天皇の生前退位、天皇の意向伝えるうえで本件報道NHKがリード。天皇の意向を伝えようとする社会部、抑えようとする政治部の確執の中、NHKは「天皇陛下 お気持ちに退位の意向 強くにじむ」と報道》
2016-08-08 16:223
A-1:事実関係 天皇の発言
(1)NHKニュース「天皇陛下 お気持ちに退位の意向 強くにじむ」(抜粋)
・天皇陛下は8日、ビデオメッセージで国民にお気持ちを表し「次第に進む身体の衰えを考慮する時、象徴の務めを果たしていくことが、難しくなるのではないかと案じています」と語られました。そのうえで、「象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていくことをひとえに念じる」と述べられました。天皇陛下のお気持ちの表明は、生前退位の意向が強くにじむものとなりました。
・天皇陛下は、はじめに、天皇の立場上、今の皇室制度に具体的に触れることは控えるとしたうえで、「社会の高齢化が進む中、天皇もまた高齢となった場合、どのような在り方が望ましいか、個人として、これまでに考えて来たことを話したい」と述べられました。
・続けて、「次第に進む身体の衰えを考慮する時、これまでのように、全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが、難しくなるのではないかと案じています」と胸の内を語られました。
・天皇陛下は、ここまで語ったあと天皇の高齢化に伴う対応について言及し、公務を限りなく減らしていくことには無理があるという考えを示されました。
・また、天皇の行為を代行する摂政を置いても、天皇が十分に務めを果たせぬまま、生涯、天皇であり続けることに変わりはないとしたうえで、「天皇が健康を損ない、深刻な状態に立ち至った場合、社会が停滞し、国民の暮らしにも様々な影響が及ぶことが懸念されます」と述べられました。
・そして最後に、「これからも皇室がどのような時にも国民と共にあり、相たずさえてこの国の未来を築いていけるよう、そして象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていくことをひとえに念じる」と語り、「国民の理解を得られることを、切に願っています」と結ばれました。
・天皇陛下は、お言葉の中で、年をとるに従い象徴の務めを果たすことが難しくなるとする一方で、大きく公務を減らしたり代役を立てたりすることには否定的な考えを示されました。そのうえで、象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていくことを願われ、10分余りに及んだビデオメッセージは、天皇陛下の生前退位の意向が強くにじむものとなりました。
(2)朝日(ネット)「天皇陛下、お気持ち表明 ビデオメッセージ」(標題は内容避ける)
憲法上の立場から直接的な表現は避けながらも、将来的な退位の意向を強くにじませる内容となった。
(3)読売新聞「「象徴の務め困難に」天皇陛下、生前退位を示唆」
(4)毎日新聞「天皇陛下“象徴の勤め難しくなる”」
(5)産経新聞『天皇陛下が「生前退位」に強いご意向 「象徴の務め困難に」 摂政には否定的 ビデオメッセージに「お気持ち」込められ』
(6)東京新聞「象徴の務め 案じる」天皇陛下「生前退位」で思い
A-2: 事実関係 安倍首相の反応
朝日「安倍首相「天皇陛下のご発言、重く受け止める」
読売「天皇陛下のお気持ち、首相「重く受け止める」
毎日 安倍首相「重く受け止めている」
産経「安倍首相「天皇陛下のご発言を重く受け止める」「陛下のご心労に思いを致し、しっかり考えていかねばならない」
B:若干のコメント
政府は生前退位問題をできるだけ取り上げたくない方向でこれまで動いてきている。その一環が、現在の天皇陛下に限って退位を可能にする特別法を制定する案が、政府内で浮上してきた(7日読売)。
天皇のあり様に手を付けようとすると女系問題等を抱えるため、安倍氏の支持基盤の右派への対応がむつかしくなる。
参考資料転載終了============