【現代思想とジャーナリスト精神】

価値判断の基軸は自らが判断し思考し実践することの主体であるか否かであると考えております。

2017/11/29 本日未明、北朝鮮のミサイル発射訓練はどんな意味をもつか?

2017-11-29 16:34:42 | 政治・文化・社会評論
本日未明、北朝鮮のミサイル発射訓練はどんな意味をもつか?


櫻井 智志



米国政府と追随する安倍政権は、世界の国際世論である核兵器防止条約、危機的な環境悪化に歯止めをかけるパリ協定に不参加をとり続けている。北朝鮮に近い近海では米韓・日の軍事演習を続けてきた。米国は原潜や核兵器潜水艦を派遣している。本日未明、北朝鮮のミサイル発射訓練はどんな意味をもつか?


自民党政権は、北朝鮮の軍事行動を政権浮揚の最大の武器として衆院選で勝利した。今や北朝鮮の外交策を武器に安倍政権は国内政治の失政や自らの利権政治への国民の批判をかわす最大の手段として巧妙に悪用し国民に不安感を高めさせている。北朝鮮と日本国内政治とは別だ。安易な直結の日本軍事化は否。

トランプ大統領は、米国民の支持も持たない。政策の失敗は目を覆うばかりで、トランプ追随は安倍晋三1人くらいだ。米国政界には議会制民主主義の伝統も、ジェファーソン、リンカーンらのもう一つの民主主義の蓄積もある。トランプの腰巾着の安倍氏の軽挙妄動と大手マスコミ。日本の針路を破滅に導く。


北朝鮮の核兵器は肯定できない。しかし世界の大大国は核保有により大国主義を維持。世界的悲願の核兵器防止条約にも背を向けている。米国や中、ロなどが核兵器を廃絶すれば、北朝鮮は変わる。核兵器を持たぬイラクなどが、核兵器保有の疑いで大国の軍事侵略を受けた事実が、北朝鮮政策の根本にある。


結論を言おう。
安倍政権はトランプ大統領と共に、北朝鮮への恫喝と不安の表現でもある軍事政策を最大限に利用し、世界軍事主義をぱらまいている。日本のマスコミは事実を勇気をもって伝え、安倍晋三の手先となることは日本崩壊の水先案内人にしかならぬことを肝に銘ずるべきだ。トランプは任期を全うし得ない。

【2017/11/25『報道特集』随想録】~《Ⅰ:沖縄米軍と性犯罪》《Ⅱ:過激派と公安警察下「赤軍ハンター》~

2017-11-25 19:18:19 | 政治・文化・社会評論
【2017/11/25『報道特集』随想録】
~《Ⅰ:沖縄米軍と性犯罪》《Ⅱ:過激派と公安警察下「赤軍ハンター》~

              櫻井 智志


Ⅰ:沖縄米軍と性犯罪

性犯罪は、被害者の人格を著しく毀損する。日本国民同士でも同じことだが、沖縄における最大の実権を握る米軍の関連者による性犯罪は二重の抑圧である。
北朝鮮は日本人を拉致してきた。だが日本人に殺傷や性犯罪を及ぼすようなことは少なくとも表面的には皆無だ。
2015年以来沖縄の米軍による性犯罪に関する調査資料が明らかとなった。その容疑者は驚く人数にのぼる。軍法会議の記録は、アメリカ人の子どもにも及んでいる。基地の内外、男女別なく、性犯罪が発生している。資料には生後九ヶ月の嬰児も被害者として残っている。「子どもや女性を守らないで何が軍隊か」と県民は憤る。数十年に及び犯罪は蓄積され、沖縄県民の長年にわたる不条理な多くの米軍犯罪とあいまいでうやむやにされてきた怒りと悲しみは堆積している。
日本の国家存立と社会状態の根本は、沖縄における米軍による植民地主義支配である。「良き隣人」「同盟の一体化」という安倍・トランプ声明は詭弁である。米国が日本と沖縄を植民地とし、日本国家は沖縄県に非情な植民地的屈従を強いている。今のこの日本社会の本質だと考える。



Ⅱ:過激派と公安警察下「赤軍ハンター」

日本の「日本赤軍」は日本国内では支持勢力も少なく、極めて厳しい公安の監視下にある。
私は支持はしないけれど、中東で日本人過激派が支持されている事実もあることも以前読んだことがある。歴史は過激派や少数派の意思は消されていく。
一方公安警察は「赤軍ハンター」のように水面下で続いている。公安警察の立場からすれば、合目的的性があるのだろう。歴史の隘路だ。マルティン・デュガールの小説『チボー家の人々』で、主人公兄弟の弟ジャックは、第一次世界大戦の前線において反戦のビラを巻いていて墜落し即死する。世界や国家権力が戦争に積極的だったり、国民弾圧のもとにある時に、「極左」「過激」などのレッテルでは見えない実像がある。価値判断と別に事実に即した真実を広く知るべきだ。正確な情報が、民主主義国家を構成する国民や市民にとり必須であるからだ。

『Ⅰ 安倍政治と官僚』『Ⅱ「希望の党」に希望はあるのか』『Ⅲ フィリピンと国内情勢』

2017-11-18 20:45:08 | 政治・文化・社会評論
【2017/11/18「報道特集」徒然草】
~『Ⅰ 安倍政治と官僚』『Ⅱ「希望の党」に希望はあるのか』『Ⅲ フィリピンと国内情勢』~

                      昭和亭魯迅


Ⅰ 安倍政治と官僚
「パリ協定」を推進するCOOP23の会議は、世界的環境に直接関わる重要な会議だ。米国トランプは大統領の資格があるのか。トランプの腰巾着の安倍晋三氏は、どこの国の首相なのか。賢人政治と正反対の愚者政治家ペアは、核兵器恫喝故に世界の世論を押さえつけられると思っているのか。

野党とひとくくりにできない。議会制民主主義の土台となる立憲法制を尊重する野党こそ「立憲野党」である。市民連合や総選挙後の共産党が「立憲野党」と使っている。安倍政権の先兵を担ぐ野党は、野党であっても立憲野党とは呼べない。保守政治家にも立憲政治家は存在する。石橋湛山氏がそうだったし、途中で離党した宇都宮德馬氏がそうだった。現職ではかろうじて野田聖子氏くらいしか知らない。

最初前川喜平元文科省事務次官を知った時に、驚いた。官僚の中にもこのようなまっとうなかたがいたのだ。外務省国際情報局長・防衛大学校教授を歴任した孫崎亨氏も鋭い政治感覚と視野の広さがうかがわれる。明治以来の官僚制は日本を戦争に道連れにした。戦後も主流は、立身出世の私利私欲の官僚が目立つが、そうでないほんものの人物がいるのだ。



Ⅱ 「希望の党」に希望はあるのか
都知事選に立候補した小池百合子氏は、エネルギッシュだった。総選挙前から変身した。米国ジャパンハンドラーによる小池新党立ち上げの圧力が強く働いた。小池氏のほかに長島氏、細野氏、前原氏、若狭氏、安倍首相。選挙も米国のひもつきとは。代表選での大串氏の主張は筋が通っていた。

真剣に希望の党から立候補し、インタビューに立つ2人の女性の話を聴き、こういう人々を粗末に扱う小池百合子新党立ち上げ言い出し政治家はきちんと対応すべきだ。希望の党は大串博志氏たちをもとに「希望実現の党」を立ち上げるべきだ。小池・前原・長島・細野・・・諸氏。信頼できない。




Ⅲ フィリピンと国内情勢
フィリピンには、歌手フレディ・アギラの「ANACK息子よ」の記憶がある。マルコス独裁を倒した民主革命も。アキノ夫妻が大統領になったことも。だが 国際舞台に出てくるフィリピン現大統領に違和感をもつ。国内でのイスラム国支持勢力アジトの廃墟はフィリピン国民の苦しみが漂う。

フィリピン現地に国際赤十字委員会のかたや大学生のボランティアが復興に尽力している。「国境なき医師団」や赤十字のような非政府組織が貢献しているような内容の外交を行うことこそ日本憲法の精神だった。捕虜に囚われた写真ジャーナリストさえ見殺しにする安倍政権の劣化が哀しい。

たやすく「人権」を口にしても実際の生活での権威的罵詈雑言は15年たっても私のトラウマとして今も消えぬ

2017-11-16 20:01:36 | 政治・文化・社会評論
たやすく「人権」を口にしても実際の生活での権威的罵詈雑言は15年たっても私のトラウマとして今も消えぬ

~有田芳生氏と私の週刊金曜日投書欄でのやりとり~

                    櫻井 智志




(*「桜坂智史」とは私が初めてインターネットで書いたハンドルネームです)
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【Ⅰ】週刊金曜日投稿欄2002年
               桜坂智史氏の妄想と無恥
                                有田芳生
 本来なら無視すべきことなれど、別のメディアに戦線を拡大してのデマ文章。最小限、事実を明らかにしたい。本多勝一さん流にいえば「アホラシながらお相手つかまつる」。 ただし一度だけ。

 桜坂氏は本誌六月十四日号でこう書いた。「ある議論系サイトで、最近の有田氏の文藝春秋との係わりを疑問視する文を書いた」「ところが私の批判に激高した有田氏は、なんと私の本名を暴露する暴挙に出た」。
私は多少とも面識のある彼の姓だけ!をあえて書くことで何をたしなめたのか。
桜坂氏は、私が主宰する掲示板で関心を寄せたある女性にストーカーまがいのメール攻勢をつづけていた。女性からは私生活が侵害されているとの訴えがあった。

 私にそのことを批判されると、それを逆恨みして妄想によるデマを飛ばしたのがことの経過である。桜坂氏は何と書いたか。
私が「反共産党から文芸春秋社(ママ)と定期的な会合をもち」(五月八日)というのである。
私は文藝春秋で「反共産党」のための「定期的な会合」など持ってはいない。

 ここにいたって私があえて姓だけを明らかにしたのは、ストーカーまがいの行為やデマ吹聴を続けるならば犯罪になりますよ、という警告のシグナルだった。数日後に氏はこう書いた。
「貴方を、事実の裏づけのうすい主観的なことで批判したことをお詫び申し上げます」(五月十一日)。

 本誌でも「疑問視」「批判」などと何かまともな指摘をしたかのように書く鈍感さにはただただ呆れるだけだ。デマはデマ。あくまでも自分中心の「甘えた心情」が桜坂氏のスタイルである。加害者が被害者を演じることを厚顔無恥という。

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【Ⅱ】週刊金曜日投書欄2002年6月14日号  No.415
   有田芳生氏の真意を問う
              桜坂 智史

 私にとって有田芳生氏は、親しみのあるジャーナリストだった。彼が日本共産党から処分されても、日本の社会主義運動をまともに考えてとりくんだ軌跡を尊敬していた。

 先日、ある議論系サイトで、最近の有田氏の文藝春秋との係わりを疑問視する文を書いたところ、すぐに氏からの書き込みがあった。私はそのときもハンドルネームで書いていた。今、本誌にも載せている名前である。

 ところろが私の批判に激高した有田氏は、なんと私の本名を暴露する暴挙に出た。私は、氏といささかの交流があるので、氏は私の職業や実名も知っている。私への反論は当然だと思う。しかし、それと相手の実名を暴露するような対応に出ることとは、全く異質の次元のことだ。氏はそこでの三度の書き込み全てに私の実名を、文章の脈絡と関連なく意図的に挿入した。

 私は、有田氏のようなフリー・ジャーナリストではない。一介の下級地方公務員である。本名で自由に書きたくとも、地方公務員としての職業上の制約をかかえている。公務では支障のある、個人的見解を書いてきた。ハンドルネームだから何を書いてもよいと思っているわけではないから、同じハンドルネームで責任の所在を貫いてきた。しばらく悩んだ末、そのサイトには「一時休業宣言」を出した。

 有田氏にメールで「質問とお願い」を出し、その真意をただしたが、なしのつぶてである。氏に、再度おうかかがいする。

「庶民の実名をインターネット上であからさまにすることは、貴兄のジャーナリストとしての言行とどう対応するのですか」と。

==========<了>===========================

「語る/騙る」(東京新聞【大波小波】)転載

2017-11-16 12:12:38 | 転載
「語る/騙る」

東京新聞夕刊2017年11月7日【大波小波】転載



 福島第一原発事故の全貌は未だ分からず、廃炉工程表の見直しも余儀なくされる状態なのに、各地で原発再稼動が進む。多くの国民の不安をそらすかのように、政府は北朝鮮の核開発、ミサイル発射実験を声高に非難する。『核の平和利用』への不安など取るに足らない、とばかりに・・・。



 文学・文化研究の川口隆行編著の『<原爆>を読む文化事典』(青土社)が出た。原発より原爆が問題といった政治宣伝とは異なる、核の歴史と現在に真摯に向き合った労作である。ヒロシマ、ナガサキから始まり、福島第一原発事故およびその後までを、七十の項目を立てて明らかにする。論争・事件史、表現と運動、語る/騙る、イメージ再考という部立ても新鮮だ。



 「朝鮮半島と核危機」という、現在に直接かかわる項目もある。そこで高榮蘭は、政府やメディアが「『朝鮮半島』危機の主体を『朝鮮(韓国)ではなく、『日本』にすり替えている」と指摘する。




 北朝鮮のミサイル発射で、日本ではJアラートが鳴り響くが、韓国でここまでの大騒ぎはない。確かに日本が主体とも思える政府の過度の危機煽りである。本当に危機的というなら、再稼動した原発こそ、標的となりうる「危機」そのものではないか。(懐疑派)

【表層の変質へ~『報道特集』2017/11/11~】

2017-11-11 21:44:06 | 政治・文化・社会評論
              櫻井 智志


 国際政治学が扱う政治情勢の本質がよくはわからない。けれど、内政で破綻をきたしている安倍首相に、まともな外交政治ができているのだろうか。国民の血税を海外で気前よくばらまいているが、外交はカネの世界と等しくはない。国外の良識は安倍体質を見抜き、日本は国際的信用失墜を重ねている。自国の近海に核兵器原潜・潜水艦が何隻も集結し、複数の国家が臨戦態勢で「軍事訓練」を行う。私たち日本が北朝鮮の立場だと連想すると、国民の不安と恐怖感は極めて異常な状態に貶められている。


 指導者の特異さはあるかも知れないが、アメリカ韓国日本の軍事勢力集結は、北朝鮮の核ミサイルの比ではない莫大な軍事力の集結である。北朝鮮の核開発の恐怖感が強調されているが、核保有国のもつ核兵器は量質ともに北朝鮮の潜在的規模をはるかに超えている。しかも、北朝鮮を批判する大国は自国は核兵器をそのまま保持し強化している。あきらかに論理矛盾をきたしている。こんな超大国の外交は、世界上の常識を逸脱しており、既に破滅領域を超えている。


トランプ大統領の孫の中国童謡歌唱がインターネットで盛り上がっているという。幼い孫本人ではなく、インターネットを駆使した外交戦略のかけひきだ。遠藤誉教授の分析は深い。アメリカは中国と水面下でトップ交渉を進めている。米国と提携した中国のしめつけは北朝鮮民衆に響いている。水面下の米中韓日の首脳の北朝鮮への軍事力オプション。国内政治力低下のトランプに対する複眼的評価。膳場キャスター、金平キャスターの言葉をよく考えてみたい。意味の深さが把握できず、自らの学習の浅さを感じる。戦後、今のアジア世界はとんでもない時点に来てしまっている。


数十年前、中国の経済が急速に発展した時があった。魯迅、小説「紅岩」の世界とはずいぶん離れた。文化大革命、三人組処刑、天安門事件・・いまの中国は巨大な経済と技術の発展をかかえた。しかし今の中国には、中世・近世の「中華思想」しか感じられない。老・荘の深い思索も消えた。哲学者芝田進午は『科学技術革命の理論』を表し、現在の急速な技術革新は、資本主義的生産様式と幾何級数的に発展する科学技術革命とを分離し、生産様式の変革によって生産力が全ての民衆を幸福をもたらす展望を示した。世界はそうなるのか、中国の現状を見ていて疑問も感じた。

温故知新TODAYS NEWS ~【「報道特集」2017/11/04】~

2017-11-04 21:03:53 | 政治・文化・社会評論
温故知新TODAYS NEWS【「報道特集」2017/11/04】

               櫻井 智志



 確かにモデルとしても大統領ファミリーとしてもアイドルのように偶像視されるのは、わかる。けれど、アメリカ国内では、何ら政治的影響力もなく「補佐官」の肩書きも、実際の補佐官の政治力も任務も与えられていない(ニュース番組)大統領の娘のイヴァンカ氏。
 なんと安倍首相は、イヴァンカ氏の主宰する団体に、57億円もの巨額をポンと寄付した。安倍氏本人の資産なのか?そうでなく国民の税金ならば大問題だ。日本国財政の実情を弁えぬ愚策。57億円を国内政治に回せば、どれだけ国民の窮乏の負担を減らせるか。



 「座間9遺体殺人事件」も「相模原障がい者大量殺人事件」も、昔の「横浜山下公園中学生グループによるホームレス殺人事件」も「川崎大学浪人による両親金属バット殺人事件」も、国内都会の神奈川県下で起きたここ40年くらいの間に発生した。頻繁に発生する「都会の砂漠」。荒涼とした都会の心象風景である。言葉が、記号として軽薄に浮遊する。明治時代に旧制一高の学生藤村操は「巌頭の感」を遺して華厳の滝から焼身自殺をとげた。「悠々たる哉天上、稜々たるかな古今。五尺の小躯を以てこの大を測らんとす。・・・」そこには思索の末に表現された絶望の人生観が記されていた。
 「死にたい」願望は「生きたい、だけど生き抜いていけない」という心理であると、私は考える。座間9遺体事件は、事件としては殺人事件なのに、世間の自殺願望が土壌となっている。頻繁に起こる異常事の中で明らかにされなければいけないこと、そんな社会をよくすべきと国民が努力することがあると考える。


 ダッカなど中東は文化と宗教の聖地として、世界中から尊敬を得ていた。「イスラム国」発生の以前に、既に、人類が誇る中東の文化的価値は破壊され陵辱されてきた。中東で文明がおき(古代エジプト文明・メソポタチミア文明)その頃は未開の地だったアメリカが、ソ連との冷戦では勝利したけれど、民族紛争はさらに悪化した。ロシア・中国にも解決の知恵も力量も稀薄だ。

 フランスの小説家マルティン・デュガールが書いた『チボー家の人々』の主人公兄弟の弟ジャックは、第一次大戦の前線で反戦を呼びかけるビラを巻くために乗っていたヘリコプターが墜落して死んだ。兄のアントワープは同じ戦中に、軍医として戦地に赴き毒ガス兵器のため陸軍病院の病床に身を横たえるようになる。第一次世界戦線を描いた作者の表象しようとした戦争の悲惨さと残酷さ。それは21世紀に入ったにもかかわらず、現代もっと殺伐としている。満州に応召された経験を長編小説『人間の条件』『戦争と人間』に表現した五味川純平氏。愛妻が病死し、1970年代の世情を見ながら、五味川氏は病気と失意の中で憤死した。

 シリア、「イスラム国」、中東。国税をばらまく日本国安倍首相の軽挙妄動に国際的ジャーナリズムはしっかりとその背景を見極めている。国内から民衆が「否!」と言わないかぎり、シリアなど中東戦争でうまれた多くの貧民は救われない。戦後日本の平和思想を無し崩しにしていく安倍首相のいい加減な外交、国政を批判することは、日本国民の義務だ。

歴史を俯瞰し東アジアで日本の立ち位置の展望を知る~熊倉浩靖著『上野三碑を読む』~

2017-11-02 03:18:41 | 政治・文化・社会評論
熊倉浩靖著『上野三碑を読む』
                         櫻井 智志

 熊倉浩靖氏は、地域に根ざす知識人である。群馬県立高崎高校を卒業。京都大学理学部在学中から歴史学の上田正昭教授に私淑し、大学を途中で辞めて、郷土群馬県高崎市にてNPO法人や高崎哲学堂設立運動と地域に具体的な研究と実践を両立させた。その実際を知る多くの人から注目を集め、高崎経済大学の講師、群馬県立大学教授・群馬学センター副センター長として活躍している。

多彩な研究とその成果を執筆している。本書『上野三碑を読む』(雄山閣平成28年)は、著者の住居である高崎市山名町に近い「山上碑」「多胡碑」「金井沢碑」の実証的分析を通して、現代から古代を歴史的確かさでリアルな探求を行うとともに、これからの日本と国際社会への展望を提起している。リアリズムに立ち、その成果を踏まえた歴史的知性に裏付けられた日本国民の夢とロマンにまで及ぶ力作である。

2017年10月31日。報道機関は、「上野三碑(こうずけさんぴ)」が「朝鮮通信使記録」とともに、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界記録遺産への正式登録が決まったことを大きく伝えた。
著者はこの登録決定のはるか以前から上野三碑を研究し続け、その学識の深さを群馬県や高崎市からも評価されて、いわばシンクタンクの頭脳としてよりよき地域社会づくりに研究者の良心から協力を惜しまなかった。ちなみに現在の富岡賢治高崎市長は、文科省初等中等教育課長から国立教育政策研究所所長を経て、群馬県立女子大学学長時代に、著者と同じ職場の上司でもあった。
世界記録遺産登録前に提出した申請書を、「世界的重要性」として、五点掲げる。併せて著者の執筆を少し引用する。
①ユーラシア東端の地への渡来文化(漢字、仏教、政治・社会制度)の伝播と受容
②渡来文化の日本的変容と普及
 1 上野三碑が建てられた地域には多数の渡来人がいた
 2 地域一帯には、五世紀半ばから朝鮮半島由来の文物や史跡が累積しており、朝鮮半島との活発な交流が推定される
3 上毛(かみつけの)野(の)国(くに)の名を負う上毛(かみつけ)野(のの)君(きみ)の祖先伝承との外交記事が見られる
 王(わ)仁(に)という今も著名な学識者を招く使者が上野君の祖という伝承は貴族・官人層の著名な共通理解
③多民族共生社会の証
渡来文化を受容してきた上野国は、地元の人々、朝鮮半島から渡来した人々、東北地方から移配した人々
 などから成る多民族共生の社会が確立した地域である
④現代につながる東アジアとの文化交流
1 上野三碑に即して、その背景を探ることで、私たちは東アジア世界の成り立ちと交通(フェアケール:コミュニケーション)の実像に迫ることがて゛きる
2 三碑建立から千年以上も経った宝暦十四(1764)年、多胡碑拓本は、それを称賛した朝鮮通信使の手で朝鮮王朝に渡った。半世紀後、朝鮮王朝の清国への使によって清国に渡り、清国の書家・学者の注目の的となる。
3 日本を中華文明の外延と思っていた朝鮮王朝大清帝国にとって想像を絶し、日本は文化の国と見直された。
⑤地域が守ってきた歴史遺産

上野三碑の特徴
 群馬県高崎市の山(やま)名町(なまち)・吉井町(よしいまち)に所在する三碑は、それぞれ山上碑(西暦681年)、多湖碑(711年)、金井沢碑(726年)に建てられた。著者の執筆した本文には、それぞれの碑の写真・全文・読み取りやすく工夫された碑文の表、解説と繰り返し続く。読者はそれを読んでいる内に、上野三碑が容易に読むことができる<叙述の方法>で書かれており、同時に、三碑に刻まれた内容から飛鳥・奈良時代の日本や東アジアに繋がる歴史がくっきりと見えてくることを知る。さらに、東アジアを平和と友好の世界に築き挙げていく道標ともなりうることを、著者からの能動的探求を通して、実感し、堪能することが視野に拓けてくる。
 文体は漢文ではなく、漢字をひらがなと同じように駆使したやまとことばで書かれている。碑は公開の場で多くの人に読み継がれることを目的の第一としている。上野三碑は、半径わずか1.5km、時間差半世紀以内に連続して作られた。その地域には、漢字・漢文から工夫して、自らの言葉「日本語」として表記したものを読み合う人々があまた存在していた。

上野三碑があった多胡郡

  著者は「ハイテク産業地帯として人口が密集していた多胡郡」と特徴づけている。その内容は、生糸や絹の生産、裳という特殊な服飾品の製造を担っていた可能性、瓦の生産や石の加工や文字を書き刻むこと、金属加工、流通や舟運の拠点など多様な最先端産業が集中した地帯とみる。これも上野三碑そのものの世界が、大切な事柄を多くのひとにわかりやすく伝えていたからである。やはり読者は、高崎市まで足をのばすか、本書に目を通すことがよいと私は考える。
 地域の居住者として、新羅系渡来人、しかも技術力に富む多様な人々が暮らしていた。成熟した、国際的な様相を帯びた、最先端産業地帯を独立した郡として拠点化することが国家の意思だったろう。甘楽郡・緑野郡も多胡郡と同様で人口が多く、十三郷一万六千人、十一郷一万四千人ほどの人口だった。

時代の背景

 和銅~養老年間に集中した国・郡の新設は、「敵対する勢力弾圧と内国化と住民の入れ替え、渡来系住民の居留に対する令制支配の徹底に重点があった。それは統一新羅・渤海、遡っての新羅・百済・高句麗・加羅諸国を日本に臣属すべき蝦夷・隼人などを服属すべき民とみなした当時の政府が、国家目標を現実の国土の上に見える形で表そうとする営みであると、筆者は指摘する。
  著者は、渡来系住民のための最初の新郡設置の可能性が高い多胡郡設置を記念する碑に政府中枢の名が刻まれた事実も、多胡郡新設には、強い国家意思が反映されていた可能性が非常に高いと記している。

 限られた紙数内で、本著の素晴らしさを伝えきれない。著者は碑文に刻まれている内容を、考古学・歴史学・言語学・仏教学・政治社会史・政治思想史・地域社会論など広範囲にわたることに実に碩学で、知識そのものが構造的に活性化している。和同開珎鋳造など次々に力を発揮していった三宅麻呂という権力をもつ高官が最後は謀反ありと誣告され、斬首が辛うじて島流しへと追いやられていく。多胡碑はそのような歴史の事実がもつドラマの語り部とも言えよう。著者の著作から、古代史そして古代郷土史への関心が高まってきた。高校生徒会長としても活躍した著者を同じ学舎で学んだものとして、熊倉浩靖氏の力作にあの頃と変わらぬ熱誠を感じる。
-了-