【現代思想とジャーナリスト精神】

価値判断の基軸は自らが判断し思考し実践することの主体であるか否かであると考えております。

翁長沖縄県知事の深い思索と高度の戦略

2016-04-28 18:38:03 | 政治・文化・社会評論

翁長沖縄県知事の深い思索と高度の戦略

~翁長雄志著『戦う民意』(角川書店刊2015年12月出版)を読む~

           櫻井 智志


 壮絶な一冊である。
政治家一家に生まれた翁長氏は、保守政治家の家柄に育ち、幼い頃から沖縄の現実を見つめつづけてきた。那覇市長を歴任され、沖縄県知事選挙で見事当選して、オール沖縄の牽引役として日本是全体の刷新に貢献し続けている。


 胃がんで切除し、余命について医師から宣告された後に、翁長氏は幼い頃から差別され続けてきた沖縄県民の実態を見つめ続けてきた。差別は、日本本土からの差別とアメリカ軍・アメリカ政府からの二重の差別である。沖縄の差別の過酷な実態は、薩摩藩の琉球処分、明治政府の沖縄の露骨な差別政治、戦時中の日本政府と日本軍からの差別である。唯一陸上戦の熾烈な戦場となった沖縄は、アメリカ軍からの爆撃とともに日本軍隊からも自殺のための手榴弾をひとつずつ渡され、「アメリカ軍兵士から陵辱される前に大和撫子の貞操を堅持せよ」の身勝手な自殺を命令された。世界各国に侵略していった日本軍は、自らが侵略地で行った現地女性への強姦などの暴力が露見することに脅えつつ、他国の軍隊も日本国軍兵士と同等としか認識できず、多くの無惨な沖縄県民への不幸をもたらした。

 戦後も、沖縄は日本の延命のために、沖縄を犠牲にして、差し出した。米軍基地の横暴は、戦後七十年たっても一向に終わってはいない。1972年の沖縄返還では、佐藤栄作総理とアメリカ政府との間に密約がかわされ、ふたたび沖縄県民は日本政府によって、二重三重に差別政治の犠牲となってきた。


 翁長雄志沖縄県知事は、幼いころから保守政治家の家庭に育ち、沖縄の実態とそれを克服しようと努力し続けた両親親族の政治家としての厳しい実践をも見つめ続けてきた。翁長氏は、「イデオロギーよりもアイディンテイーを」と唱える。琉球王国は、江戸幕府が鎖国を続けていた時代に、海洋国家として世界各国との豊かな貿易を続け、海外からの知識や文化も吸収して、見事な国家であった。

 しかし、明治維新は沖縄を差別下におき、薩摩藩の琉球処分以降の沖縄差別・弾圧政策を続けた。翁長氏は、マルクス主義や社会主義の運動を見ながら、沖縄の解放は、沖縄が積年差別され続け、沖縄県民の自己証明を名誉ある回復をすることによって、県民が自らのアイデンテイテイーに目覚めて、アメリカ軍からも日本国家からも、差別し続けてきた存在から、沖縄県民自らの尊厳と誇りを自覚し、自分たちの足で歩きたい、そう訴え続けている。
 保守とか革新とかそのような二分法では、とても解決しきれない長年の被差別から、思想信条の違いを超えて、沖縄県民全体の解放を願っている。翁長氏は、那覇市長時代も沖縄県知事になってからも、保守政治家として反対運動の先頭に立った。

翁長氏はこう述べている。



 「生き証人」の証言は生きた教科書であり、歴史的事実そのものです。悲惨な集団自決の事実を次の世代にどう継承していくかが重い課題となっている中で、戦争世代の遺言を消し去ることはできません。正しい過去の歴史こそが未来を指し示す道しるべになるのです。
 二〇〇七年九月二九日、保守と革新を超えた「教科書検定意見撤回を求める県民大会」が宜野湾市の宜野湾海浜公園で開かれ、怒りとともに立ち上がった一〇万人が集まりました。
 このとき私は初めて保守の政治家として反対運動の先頭に立ちました。県内全市町村を代表して「絶対に歴史を曲げてはいけない」と文科省の検定意見の撤回を求め、結果的に一定程度の是正がなされました。



 翁長雄志氏の著作には、このような歴史的事実と自らの生命を賭けて、沖縄県民を通して日本全体の解放への熱い思いと冷静な理性的熟考に裏付けられた思索に満ちている。貴重な自然環境を守り、人と人とが支え合う社会を願う翁長氏は、「しまくとぅば」(島言葉)「うちなーぐち」と呼ばれる琉球語、沖縄の言葉を大切にしている。ユネスコの規定で、単独の言語で保護対象にあたる「うちなーぐち」を、自分たちの言葉を復権し、大切に守り育てることが、人々の誇りと尊厳をはぐくむはず。その考えが、那覇市長時代も今の沖縄県知事になってからも「はいさい・はいたい運動」をおこない日常的に沖縄の言葉を使っていこうと
使い続けている。翁長氏は、その普及は懐古主義ではなく大変重要な意味をこめている。ぜひ読者は自ら読んでご確認いただきたい。


 二〇一六年五月、六月は沖縄県の県議会選挙の告示と投票が行われる。私はこの書物、『戦う民意』において何を翁長知事は、考えてきたか、何を日本国民全体に伝えたいのか、ぜひご一読をお勧めする。できれば、沖縄県議選の前に読むと、壮大な「翁長沖縄県知事の構想」をしっかりと、ともに受け留めたい。

北海道5区補選と政局

2016-04-27 00:05:37 | 政治・文化・社会評論
北海道5区補選と政局の展望~革命的楽観主義は現実の改革を見失う~

                櫻井智志


 衆院補選北海道5区の選挙は、終わった。



和田義明 136,202
池田まき 124,058



 通常なら以下に掲げる「A東京新聞の分析記事」が、妥当だろう。しかし、熊本激甚災害を政治的に利用した安倍総理の計算を見通した「B日刊ゲンダイの記事」のほうが、すべて肯定するわけではないが、Aで見ていない視野を見ている。




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A 東京新聞転載

北海道5区補選 民共共闘で「合算」成果 上積み効果には課題
2016年4月26日 朝刊
 夏の参院選の前哨戦となった衆院北海道5区補欠選挙では、民進、共産、社民、生活の野党四党が推薦した無所属新人・池田真紀氏の得票は、二〇一四年十二月の前回衆院選で民主(当時)、共産両党が個別に擁立した候補者の合計得票とほぼ同じだった。敗れたものの候補の一本化による得票増につながり、「民共協力はかえってマイナス」との懸念は打ち消す結果になった。(高山晶一)
 前回衆院選で、5区に出馬した民主新人の得票は九万四千九百七十五票、共産新人は三万一千五百二十三票で、計十二万六千四百九十八票。今回池田氏の得票は十二万三千五百十七票と、約三千票しか違わなかった(投票率は前回比0・8ポイント減)。
 共同通信社の出口調査では、民進支持層の95・5%、共産支持層の97・9%が池田氏に投票した。民進党内では、参院選での野党共闘を巡り「共産党と連携すると保守票を取り込めなくなる」との見方があるが、今回を見る限り、そうした傾向はうかがえない。
 地元で一定の影響力を持ち、前回は民主と協力関係にあった政治団体・新党大地は今回、自民候補の支援に回った。池田氏の得票率は47・6%で、前回の民主、共産両党候補の得票率を合わせた49・1%から微減したことに影響した可能性がある。
 野党統一候補は、注目度が上がることで各党の基礎票の合計より多くの票が集まる「上積み効果」が期待されている。今回はそこまでの効果はなく、組織力のある与党候補に対抗する課題を残した。
 ただ「支持政党なし」と答えた無党派層は共同通信社の出口調査で、北海道5区で73・0%が池田氏に投票し、無党派層は「非自民」に動いた。与党が不戦敗の京都3区補選では無党派層の72・6%が当選した民進前職の泉健太氏に投票。改憲などの政策で自民に近いおおさか維新の候補らを大きく上回った。


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B  日刊ゲンダイ

善戦じゃダメなのだ 衆院補選・野党共闘「惜敗」の絶望
2016年4月25日
 24日、投開票された衆院の2つの補欠選挙は、自民が北海道5区で勝ち、民進が京都3区で勝利という結果に終わった。
 もともとは両選挙区とも自民の議席だったことを考えれば、自民が議席を1つ減らしたわけで、自民敗北だ。しかし、よくよく見れば、なんのことはない、自民の故町村信孝前衆院議長の議席は娘婿に“世襲”され、結局、妻の妊娠中に不倫したゲス議員1人が消えただけだ。特に、北海道5区は選挙期間中、自民の和田義明氏(44)が野党統一の池田真紀氏(43)に一時、逆転を許し、安倍政権に大打撃を与える可能性が注目されただけに、終わってみれば「大山鳴動してネズミ一匹」という印象を持った人が少なくないのではないか。
「北海道では告示前後、野党の池田さんが先行するデータもあって、与党陣営は相当焦っていました。それが中盤以降、自民の和田さんが巻き返した。
公明・創価学会が参院選の選挙区候補のバーター支援を受けるため、補選で和田さんのためにフル回転したことが一因です。そして最も大きかったのが熊本地震。あれで選挙のムードがガラリと変わった。争点に挙がっていた福祉や保育園問題が吹っ飛んだだけでなく、『災害対応に取り組んでいる政府にケチをつけるのか』と言われかねず、野党側が政権批判をしにくくなってしまったのです」(地元マスコミ関係者)
■投票開始日に「震災補正予算」指示の大仰
 おおさか維新の会の片山虎之助共同代表の不謹慎な発言にあったように、安倍政権も“タイミングのいい地震”を政治利用しまくった。
 災害時、予算と権限を持っている政府は強い。安倍首相は23日、ようやく被災地の熊本県に入ったかと思ったら、一通りの視察が終わるやいなや、「激甚災害指定」と「補正予算編成」に言及。防災服姿で「一日も早い被災者の生活再建へ政府一丸で取り組む」と意気込んでいた。それまでモタモタしていたくせに、毎度の“決断するリーダー”をアピールしたのは、補選の最終日を意識したパフォーマンスでもあったのは想像に難くない。視察翌日の24日、安倍首相はさっそく補正予算の今国会中成立を指示した。赤字国債も増発して数千億円規模になる見込みだ。
 補正予算は自民党選挙マシンのゼネコンに対して、「復興に関わりたければ選挙ヨロシク」という側面もあるだろう。実際、自民党は北海道5区の選挙でゼネコンをフル稼働させていた。菅官房長官が札幌入りした際には、東京から大手建設会社の首脳クラスが、わざわざ札幌に飛び、企業団体向けの決起集会に出席。1000人の会場に1200人が集まったという。
「最終盤の和田さんの街頭演説に小泉進次郎衆院議員が応援に入った際も、動員とみられるユニホーム姿の建設会社員がいました。上が推薦を決めても末端がその通り投票するような時代ではありませんが、国会議員は延べ100人以上、北海道へ来たといいますし、敗北の可能性があっただけに、自民党はガチガチの組織選挙を徹底してやっていました」(現地で取材していたジャーナリストの横田一氏)
 震災利用と企業団体の締め上げ。自民が自民らしい卑しい選挙戦を繰り広げて辛くも逃げ切った、というのが今度の結果だった。
それでも野党は粛々と共闘を深めるべし
 北海道5区の選挙結果は、参院選に向け共闘を加速させている野党にとっては、悔やみきれないほど残念な現実だ。
 野党統一候補だった池田は中卒、シングルマザー、生活保護というドン底から、一念発起して北海道大学の大学院にまで進んだ苦労人でタマもよかった。共産党が独自候補を降ろしたことで、自公をビビらせ、大接戦に持ち込めた。野党としては、民進、共産、社民、生活の4党が統一候補を立てて戦うモデルケースとして是が非でも勝利し、参院選に弾みをつけたいところだった。
 勝っていれば、俄然、野党共闘が盛り上がり、有権者の期待も高まっただろう。逆に、今回野党が負けたことで、共闘への期待感は萎んでしまいかねない。
 野党各党は今後、敗因分析をすることになるが、生活の党の小沢一郎代表が「共闘が十分でなく、安倍政権に代わり得る選択肢になっていないと国民に映った可能性がある」との談話を出していた。その視点は重要だ。政治評論家の野上忠興氏もこう言う。
「野党は悔しいでしょうが、落胆することはない。町村さんの弔い選挙という自民党が圧倒的に強いはずの選挙で、野党はここまで接戦に持ち込んだ。やり方次第で安倍1強を苦しめることができる。1歩後退した後に2歩進めるべく、むしろ野党は粛々と共闘を深めるべきです」
■日本人気質を見越した世論懐柔
 確かに地震発生まで、安倍自民は追い込まれていた。
 京都3区補選はゲス不倫のスキャンダルが原因だったし、甘利前経済再生相の口利き賄賂疑惑は特捜が事件として着手した。チンピラ議員による失言・暴言も枚挙にいとまがなく、政権の待機児童問題を軽視する対応に女性の怒りが爆発。今月に入っても、TPPの黒塗り文書や西川元農相の暴露本騒動など、不祥事が山ほどあった。5月に発表される1~3月期のGDPもマイナスが予想され、経済もガタガタだ。
 安倍政権を追い詰めるこれほどのチャンスはなかったのだが、それでも野党は勝てなかった。
 自民が逃げ切れたのは、長年培った組織選挙の盤石さや震災利用が背景にあったが、それに有権者がコロリとだまされてしまうことも問題だ。
「どうも日本人は情緒的で流されやすい。安倍政権はそうした日本人気質を見越した世論懐柔の戦略がうまかったということでしょう」(野上忠興氏=前出)
「勝利は勝利」と今後、安倍首相は、今まで以上に政権運営に自信を強めるだろう。負けていれば難しくなっていた衆参ダブル選挙も、その可能性が残った。
「ダブルに踏み切る怖さはこれまでと変わらないとは思いますが、判断は今後の環境次第でしょう。外交や1億総活躍プランなどに対する世論の支持を見て、悲願の憲法改正のため、参院で3分の2の勢力をどうしたら取れるのか見極めることになる」(政治ジャーナリスト・鈴木哲夫氏)
 憲法を踏みにじる暴力政権が、この先も我が物顔でますますのさばる理不尽。このままでは暗黒国家になってしまうという恐怖と危惧を抱いている国民は、絶望的な気持ちにならざるを得ない。
 だが、諦めてしまっては、さらに安倍首相を付け上がらせるだけということも、また事実である。



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C 考察



 選挙結果をその時点で切り取って、数値的に分析することには不十分さがある。京都で圧勝し、北海道5区でも野党共闘がまずまずだった民進党の感想や分析に、日本共産党も同じレベルでいては、情けない。
 このまま野党共闘を民進党路線で続けて、参院選に臨めば、戦争法を廃案にし、立憲主義を回復できるか。私は甘いと思う。熊本地震という天災を悪知恵の限りを尽くして、池田まき&市民連合が逆転をしていた政治情勢を、再度逆転したのが、安倍政権の手法だ。
 安倍は、震災復興に野党も協力してほしいと各党に依頼し、各党は「与党も野党もない、震災復興のために全面的に協力する」と応じた。地震が起きた時も安倍政権は、TPPは脇においてこの際争うべきでない、と応じた。しめしめと思った与党は、インターネット規制法など何の充分な審議もなく、法案がとおり、TPP法案も審議するということが広く知られたとたんにあわてた。今回もそうだ。安倍総理に応じているような野党は、安倍が熊本地震を最大限に利用して、緊急事態条項や危機管理防衛体制をすそ野から踏み固めていこうとしていることに気づいていて、「与野党の争いなどせずに復旧のために」などと言っているのだろうか。
 地震発生とともに現地に入り、その後も熊本から住民とともに苦楽をともにした報道人がいる。彼の報道によって、現地に安倍政治は、福島原発対策と同様に、「住民の復興・復旧のために全力を尽くした行政」などほとんどうわべしかやっていない。
 日刊ゲンダイの扇情的なタイトルだけで、文章の内容もまともに検討していない市民運動家すらいる。Bは問題の本質をとりあげている。
 野党共闘は、誠意ある日本共産党の犠牲的な政策で、全国で野党統一がかなり進んでいる。それらの野党共闘をベースとしつつ、北海道5区でSEALDsの奥田愛希さんや諸団体が結集した「市民連合」の誠心誠意工夫と創意にみちた市民選挙が展開されたから、猛烈な自公の締め付けにもかかわらず、13万の和田候補に池田まき候補は12万を超える支持を勝ち得た。札幌市の該当区では、和田を大きく引き離している。
 野党共闘と市民団体、ではない。市民運動と提携した野党共闘でなければ、参院選もひそかに安倍が決意した衆院選も、安倍政権は、国会で多数派を獲得する。これから何が起こるかわからない。北海道の地域政党新党大地の鈴木宗男に引き替えの見返りを密約して、ごっそりと新党大地支持票を獲得している。安倍の政治は最低政治だが、安倍の選挙戦術は天才的な詐欺師戦術を駆使してことごとく当たっている。第1次安倍政権の惨敗を見ると、小泉劇場型政治を演出した世耕議員は、ナチスのゲッペルス以上の才能をもつ。おだやかなひとあたりで賞賛する共産党幹部がいるくらい巧妙なのだ。しかも安倍の後ろには内閣調査室をつくった佐々淳行警察OBトップや小泉内閣の参謀だった飯島勲もいる。
 いままで私は選挙で負けても接戦なら、健闘を祝して善戦と讃えてきた。今度の北海道5区は「勝っていた選挙」が「震災で大災難を背負った熊本・大分県民」を最大限に悪用した謀略的戦術で落選した。ここが関ヶ原として天下分け目の関ヶ原で負けても、のうのうと笑顔でますまずの成果もなどといっている野党幹部のにやけた顔を見ていて、私はプライバシーを晒しても天下国家の命運を意識して雨の中でずぶぬれで嗄れた声で、心に響く対話を説き続けた池田まきさんほど今回の選挙で死力を尽くした選挙運動家はいなかったと感ずる。
 関ヶ原、大阪の陣。この後は後がない。徳川封建政府が三百年続き、天草四郎、安藤昌益、大潮平八郎と幕府に異をとなえる者たちは虐殺され、沈黙を強いられた。
 小ブルジョア急進主義、という。いま日本で必要なものは、「市民の革新的刷新の事業」を市民団体が主体となり、野党共闘が強く支えて国会で多数派をめざし、憲法改悪阻止の議席数を勝ち取ることだ。「善戦」ではなく「憲法改悪阻止可能議席獲得」勝利、の闘いしかあり得ない。

衆院補選北海道5区の得票分析

2016-04-25 21:00:55 | 政治・文化・社会評論
衆院補選北海道5区の得票分析
            櫻井智志



1 分析


A 北海道5区の8地域において、池田まき候補が、和田義明候補を上回った地域とどれだけ上回ったかの票数は以下の通りである。なお、これらの数値のデータはmixiやフェィスブックを通じて長年の若き畏友Kenji Yasumotoさんのご教示に基づく。氏に厚くお礼を申しあげたい。
①札幌市厚別区 +4,142票
②北広島市   +1,781票
③江別市    +1,026票
④石狩市    +   30票
この4地域では、全体で6,979票、池田候補が勝っているのである。


B 逆に、池田まき候補が和田義明候補よりも下回った地域とどれだけの票数の差かは、以下の通りである。
①千歳市    -11,512票
②恵庭市    - 5,845票
③当別町    - 1,120票
④新篠津村   -   646票
この4地域全体では、和田候補に19,123票リードされている。


C Aで見たように、札幌市などでは、池田まきさんは支持者が上回っている。ではなぜ結果のようになったか。注意深く見ると、千歳市一市で11,512票離されているが、これは和田候補と池田候補の総合得票差の12,144票の94.8%を占めている。これに恵庭市の5,845票を併せると、17,357票となり、和田候補のリード票数のじつに90.8%を占めている。
 このことから、札幌市などで勝っていた池田候補は、千歳市と恵庭市の有権者の得票の動向によって、和田候補当選を決定づけられた。
 選挙後の4月25日の夜七時のNHKニュースは、自民党の谷垣幹事長の談話を報じている。谷垣氏は自民党のなかでも総裁も歴任しているが、冷静に、自民党は奢ることなく、姿勢を正して政治にとり組まないと参院選での勝利はない、と発言した。
 また、民進党代表代行の村田蓮舫議員は、北海道5区の野党共闘は一定の成果があったが、無党派候補では選挙運動においていろいろな限界もあったと発言した。



2 評価と展望

 今回の選挙は、民進党の選挙でも日本共産党の選挙でもない。日本共産党の支持者層の97.9%が池田候補に投票した、と東京新聞朝刊では出口調査の結果を報じている。
 この選挙のキイ・パースンは、SEALDsの奥田愛希さんと彼を含む「市民連合」である。市民の動きが池田さんを立候補に決心させた。選挙は典型的な市民型の選挙となった。私は「池田まきネットワーク」を通じて、池田候補とその運動を追ってきた。市民運動が野党共闘と結集しての新しい形の選挙だった。
 今回の選挙から、各野党は参院選での野党共闘を軸にするとともに、全国で市民運動と連帯して戦うことが求められている。特に選挙区一人区では、野党共闘の候補がいかにその地域の市民運動と提携するかが問われている。
 以下に4月25日の元外務省の孫崎享さんの有料メルマガを転載させていただく。

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「参考資料」

【孫崎享のつぶやき】
京都3区民進党、北海道5区自民党勝利、共闘の成果と限界―野党協力は安倍独走を止める意味で貴重、それ以上の大きなうねりにはなりにくいー。
2016-04-25 08:014

1.24日補選は次の結果を示した。
 北海道5区 和田義明 135,842
       池田真紀 123,517

 京都3区   泉健太  65,051
        森夏枝  20,710

2・結果は事前の大方の予測と変わらない。

3:野党共闘が一定の成果を得たことは間違いない。
 読売社説は「池田氏は無党派層を重視する戦術だが、支持は広がりを欠いた。ただ、民進、共産両党の組織的な「共闘」は、一定の有効性が示された。独自候補を取り下げた共産党の支持者のほとんどが、池田氏に投票したとみられる。 野党は今後、さらに選挙協力の拡大を目指すだろう。既に参院選1人区で15人以上の統一候補を実現させている。「自公対民共」の戦いが、参院選全体の行方を左右するのは間違いない。」と今後への影響を記述している。
 記事では「2014年12月の第3次安倍内閣発足後、初めての国政選挙で、夏の政治決戦である参院選の試金石となった。与野党の一騎打ちとなった北海道5区を制した与党は、参院選に弾みがつきそうだ。」と勝利ムードを強く出しているのと異なる。


4:今後参議院選挙を含め共闘によって、自民公明は一本化、野党はバラバラが野党統一候補の推進によって、安倍政権独奏に一定の抑制が働こう。
 TPPを今国会で無理押ししなかったのも選挙への影響を配慮してのことである。
 25日朝日新聞は一面トップで大々的に「同日選首相見送り」も同日選で自公が圧勝する状況にない都(管理人注:党?)の判断があったものと推測される。


5:「安倍阻止」は一定の力にはなっている。
 しかし、野党共闘の軸になる民進党が重要課題で「自民党亜流」の域を超えられず、国民の多数を代表する政策を打ち出せない限り大きい波を作れない。


 打ち出すべき政策は次である。
・集団的自衛権で自衛隊を米軍の「傭兵的存在」にはしない。
・国家主権を侵すTPPには入らない、
・消費税を上げ、法人税を下げる税制には反対する、
・原発の再稼働は認めない。
 残念ながら、民進党内の勢力にこれら政策の実現を阻止する強固な力が存在している。その中、野党協力は安倍独走を止める意味で貴重ではあるが、それ以上の大きなうねりにはなりにくい。

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以上


熊本激甚災害を巧妙に悪用した卑劣な安倍政権与党の懲りない面々

2016-04-23 15:19:23 | 政治・文化・社会評論
熊本激甚災害を巧妙に悪用した卑劣な安倍政権与党の懲りない面々
 
                      櫻井 智志


 福島原発、熊本地震を巧妙に政治的利用するのは、政治の仕組みなのではない。日本的政治風土のありかたを見せつけられた
想いがする。この北海道補選の結果がどうあろうと、池田まきさんは市民の立場から根強く民主主義運動を実践していく。町村
議員の娘婿は、当選すれば永田町でふんぞり返って出世をめさすだろうし、落選すれば次の国政選挙をねらう。それだけのこと
だ。小泉進次郎がきたことで浮き足立つ有権者は、大日本ジャニーズ党でも出来たら、争って投票することだろう。

 北の選挙のために、投票日直前になってやっと南の熊本に行く。そのことが国民への深層心理的な作用となるだろう。地震に
抗して救出する自衛隊と安倍総理がオーバーラップして、有権者はそんな「力強い自民党」イメージ作戦にころっといく。

 だが、そのような結果で安倍政権を延命させることで、日本社会は壊滅的な状態の泥沼に沈んでいく。北海道民の人間性を信
頼し、池田まきさんを支援する私たちが、相手の卑劣な巧妙策を見抜きつつも、淡々と最後まで戦っていく。

資料①・・日刊ゲンダイ「卑劣な争点隠しも…北海道5区は“義理人情”で与党に追い風」
資料②・・産経ニュース「安倍首相が被災地視察 復興への姿勢アピール【熊本地震】」

 あとはお読みになった皆様がご判断いただければ幸いです。



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資料①

卑劣な争点隠しも…北海道5区は“義理人情”で与党に追い風
2016年4月22日

有権者らと記念撮影する小泉進次郎議員(C)日刊ゲンダイ

 いよいよ24日に投開票が迫った衆院北海道5区補選。自民党・和田義明氏(44)VS野党統一・池田真紀氏(43)の戦
いは最終盤までデッドヒートとなっている。ただ、序盤の野党の押せ押せムードは熊本地震の発生により、与党に若干の追い風
を生んでいるという。
「北海道でもニュースの大半が地震関連です。現地の激しい被害や政府の対策本部の対応などの話ばかり。自衛隊員が現地で被
災者支援に精を出している姿も映し出され、選挙区内の恵庭に陸自の駐屯地があるここでも、自衛隊員に感謝するムードが広が
っています」(地元マスコミ関係者)
 21日は自民党・和田陣営に、小泉進次郎衆院議員が2度目の応援に入った。先週は「急に演説が決まった」とボヤキ節でグ
チっていたが、やっぱり進次郎氏は“人寄せパンダ”だ。基地がある恵庭市の駅前、池田氏がリードしているとされる北広島市
の駅前、大票田の札幌市厚別区の3カ所でマイクを持った。どこもすごい人で進次郎氏はもみくちゃ。創価学会員とみられる女
性たちが垂れ幕まで用意し、動員とみられるユニホーム姿の建設業者の姿もあったという。
 現地で取材しているジャーナリストの横田一氏がこう言う。
「演説は和田候補が海外で苦労した商社マンだという話ばかり。自衛隊員や家族に直結する安保法、北海道の農家にとって重要
なTPPには全く触れず、『争点隠しの義理人情選挙』というのがピッタリでした。3カ所目では人口減少社会について言及し
ながらも保育園問題には触れずじまい。進次郎氏に『なぜTPPや安保法、保育園問題に触れないのか』と聞きましたが、無言
のまま車で走り去りました」
 自民党の卑怯な争点隠しに負けまいと、野党は22日午前6時半から、民進党の岡田克也代表とともに北沢俊美・元防衛相が
恵庭の駐屯地の門の前に立ち、「違憲の安保法によって、地球の裏側にまで自衛隊員を飛ばしていいのか」などと訴えた。

 “タイミングのいい地震”などと有権者を軽視した発言を裏付ける結果にさせてはいけない。

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資料②

安倍首相が被災地視察 復興への姿勢アピール【熊本地震】

 安倍晋三首相は23日午前、熊本、大分両県で相次いだ地震の被災状況や復旧作業を確認するため地震発生後、初めて熊本県
に入った。特に被害の大きかった熊本県南阿蘇村などの被災地を訪れて被災者を激励し、復旧、復興に向けて尽力する政府の姿
勢をアピールした。首相は同日早朝に自衛隊機で羽田空港から熊本に入り、甚大な被害が出た益城町や南阿蘇村を自衛隊ヘリコ
プターで上空から視察。その後、南阿蘇村を訪問し、行方不明者の捜索などを行っている警察や消防、自衛隊関係者らを慰労し
た。村の避難所となっている総合福祉センターも訪れ、避難生活を強いられている被災者らを激励した。昼には、県庁で蒲島郁
夫知事らと意見交換を行い、「被災された方々が1日も早く日常の生活を取り戻せるよう全力を尽くす。直接現場の声をうかがい、これからの対策に生かしたい」と強調。蒲島氏が激甚災害の早期指定を求めたのに対しては「しっかり判断していくので、ご安心していただきたい」と答えた。熊本城の修復についても、国としての支援に前向きな姿勢を示した。この後、首相は益城町の避難所や建物の倒壊現場を訪れる。
 一方、民進党の岡田克也代表も同県益城町の避難所を訪れ、被災者を激励した。「住むところを確保できるようにしたい」と
述べた。
 首相の被災地視察は当初、16日に行われる予定だったが、同日未明に発生した最大震度7の地震への対応に集中するため延
期していた。首相は既に喫緊の災害対策費として政府の予備費から23億円を拠出することを決定。復興に向けた平成28年度
補正予算案編成も含めて「必要な、あらゆる手段を講じていきたい」と述べている。

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重大な社会変化の兆候と国政補選

2016-04-23 00:50:41 | 政治・文化・社会評論
重大な社会変化の兆候と国政補選
             櫻井智志


 衆院補選北海道5区の選挙が、大きくマスコミを賑わしている。



 本来なら、町村氏の親から続く選挙地盤であり、娘婿の和田候補には、圧倒的に有利な土地なのだ。自民候補に対する無所属で対抗出馬している池田まき候補は、SEALDsの奥田さんら市民連合の要請が決定的であった。池田支持の日本共産党の政策を、日本共産党綱領まで持ち出して非難する菅官房長の批判は、的外れである。



 市民運動と野党の国民的な協力の画期的な変化がある。このことの衝撃的な要因がそれである。しかし、事実を報道するマスコミは少ない。どんなに政党の組み合わせを変えても、野党共闘だけでは自民党には負ける。



 京都衆院補選は、スキャンダルで議員辞職の前自民党議員の問題か尾をひき、自民党は候補すら出せない。他に有力候補のいないこと、日本共産党が野党勝利のために全国でもっとも共産党市議が多い京都市をはじめ立候補すれば当選の可能性さえある共産党候補を擁立せず、民進党候補当選を考慮した。だが民進党は、共産党との共闘さえ蹴った。



 民進党には、根本的な認識不足がある。それは、「市民と政党の共闘」ということだ。全国で共産党は参院選小選挙区一人区をおりて、民進党躍進に協力し、社民・生活・緑・新社らとの共闘をすじを通して進めている。五野党が共闘しても、自公お維新勢力に敗北することはありうる。市民運動が反原発連合以来急速に発達進化をとげている。


 SEALDsをはじめ多くの市民・研究者・大学教員などがひとつに結束し、略称「市民連合」を結成した。しかし、彼らは政治家をめざすプロとは異なり、それぞれの職業や本務を抱えている。明確に期限をきった。「夏の参院選までは、野党候補の当選に力をかす。」と。


 池田まきさんも、政党の実態を見据えている。池田さん自身が市民運動を信頼している。池田さんは、衆院補選そのものも社会運動の一環として楽しんでいる。池田候補は、万一落選しようと、政治運動を市民のひとりとして持続する意志である。


 日本共産党はそのことを踏まえて理解もしている。共産党のよびかけに社民党、生活の党、緑の党、新社会党などは十二分に理解している。民進党には、それを理解していない政治家が幹部に多い。市民と政党の共闘を理解し、その原則をわきまえない政党は、やがて流されていく。燎原の火のように広がっている。


 マスコミはその重大な日本社会の変化を無視して報道しないが、ジャーナリストはかなり早くから理解し伝えている。

「日本社会の言論・報道の自由」国連報告に関する孫崎享氏のご紹介

2016-04-20 20:31:09 | 政治・文化・社会評論
「日本社会の言論・報道の自由」国連報告に関する孫崎享氏のご紹介
                  櫻井 智志

 なんら私見をはさまず、孫崎享氏のご紹介そのものにじかに触れていただきたい。そう考え、全文を以下に転載させていただく。


孫崎享のつぶやき
国連報告者「特定秘密法で報道萎縮」、「テレビ放送、政府ではなく独立行政機関が監督すべし。放送法4条を廃止すべし」
2016-04-20 08:452


 日本では今、報道の自由が安倍政権の圧力によって深刻に侵されている。この中、日本での表現の自由の状況を調査した国連人権理事会の特別報告者カリフォルニア大学教授のデービッド・ケイ氏が19日、記者会見を行なった。ここでは「日本の報道の独立性は重大な脅威に直面しているとの全体的な評価を行っただけではなくて、放送法や特定秘密保護法の改正を求めた。

 各報道機関の報道ぶりを紹介する。

読売新聞に関してはネット版では9時現在報道を確認できない。

報告では、特にテレビに関して、「放送事業者に政治的公平を求めた放送法4条の規定を根拠に、高市早苗総務相が放送局の電波停止に繰り返し言及した問題について“大いに懸念を抱いている。4条を廃止すべきだ”と述べ、日本は政府が放送免許を認可し、放送行政を監督していることに関し、政府ではなく独立行政機関が監督すべきだとの考えを示し深刻な問題提起をしているが、NHK,TBS,日テレ等のネット掲載報道ぶりを見る限り、どこも報道していない。委縮ぶりを象徴的に示している。

1:毎日新聞
「日本の報道機関の独立性が深刻な脅威にさらされていることを憂慮する」として、放送法や特定秘密保護法の改正を求める声明を発表した。
 日本政府への正式な勧告を来年発表する予定という。
 放送事業者に「政治的公平」を求めた放送法4条の規定を根拠に、高市早苗総務相が放送局の電波停止に繰り返し言及した問題について「大いに懸念を抱いている。4条を廃止すべきだ」と述べた。
 日本は政府が放送免許を認可し、放送行政を監督していることに関し、政府ではなく独立行政機関が監督すべきだとの考えを示した。
 特定秘密保護法を巡っては、特定秘密の定義があいまいで範囲が広がること、報道機関が萎縮する恐れがあることを挙げ「法を根本的に変えるべきだ」と語った。
 ヘイトスピーチ対策にも触れ、まずは雇用や住居に関する人種差別を禁止する法制定を急ぐべきで、ヘイトスピーチの定義があいまいなまま規制すれば表現の自由に悪影響を及ぼす可能性があると指摘した、

2:朝日新聞
 「日本の報道の独立性は重大な脅威に直面している」として、メディアの独立性保護や国民の知る権利促進のための対策を講じるよう政府に求めた。
 「特定秘密保護法や、『中立性』『公平性』を求める政府の圧力がメディアの自己検閲を生み出している」と分析。「ジャーナリストの多くが匿名を条件に面会に応じた。政治家からの間接的圧力で仕事を外され、沈黙を強いられたと訴えた」と述べた。
 放送法をめぐっては「政府に放送局を直接規制する権限を与えた放送法のうち(政治的公平性などを定めた)第4条を廃止し、政府はメディア規制から手を引くべきだ」と提言。高市早苗総務相が番組の公平性を理由に放送局の「電波停止」に言及した発言をめぐって、滞在中に高市氏との面会を希望したが「国会会期中との理由で会えなかった」と明かした。
 特定秘密保護法については「原発や災害対応、安全保障など国民の関心が高い問題の政府情報が規制される可能性があり、内部告発者の保護体制も弱い。報道すれば処罰されるのではないかとの恐れから、メディアを萎縮させる効果を生んでいる」と懸念を示した。
 ヘイトスピーチ対策については「ヘイトスピーチの法律は悪用の恐れがある。まずは人種差別禁止法を作るべきだ」と提言。慰安婦問題など歴史問題については「戦争中の罪を教科書でどう扱うかについて政府が介入することは、国民の知る権利を脅かし、過去の問題に取り組む力を低下させる。文部科学省からは政治の影響はないと聞いたが、実際は教科書検定などに影響が直接及んでいるように感じた」と懸念を示した。
 記者クラブの排他性も指摘し「記者クラブは廃止すべきだ。情報へのアクセスを制限し、メディアの独立を妨害している制度だ」と批判した。

3:読売新聞、20日、8時現在ネット版では報道ぶり確認できず。

4:NHK:「ジャーナリストからは、日に日に圧力を感じているという声も挙がっていて、日本は報道の独立性を担保するために何らかの対応を取るべきだ」と述べました。
 ケイ氏は「実際に調査を行って、報道の自由に関する懸念は強くなった。報道機関と政府の間に緊張感があることは健全ではあるが、ジャーナリストからは日に日に圧力を感じているという声も挙がっている。日本は報道の独立性を担保するために何らかの対応を取るべきだ」と指摘しました。
 特定秘密保護法については「国民にとって関心の高いニュースが法律で機密として開示されないおそれがある。『秘密』という定義の幅が広く、政府は透明性が高い形で明確に定義する必要がある」と述べました。

5共同通信
 暫定の調査結果を発表し、特定秘密保護法で報道は萎縮しているとの見方を示し、メディアの独立が深刻な脅威に直面していると警告した。政府が放送法を盾にテレビ局に圧力をかけているとも批判した。

6:日テレ
 「複数のジャーナリストからは「国民的な関心の高い原発や安全保障などの問題を報じる場合に圧力を感じる」との声があがったと述べた。 ケイ氏は、日本ではインターネットでの表現の自由度が高いと評価したが、一方で、メディアの独立性が必ずしも保たれていないとして懸念を示したもの。」

7:TBS
 報道の自由が深刻に脅かされているとして、日本政府に報道の独立性を担保するよう求めました。
 「『公平かどうか』の判断は政府が決めるべき問題ではない」(デビッド・ケイ特別報告者)。(19日21:52)

8:テレビ朝日
 日本では表現の自由に関する強い基盤があると評価したものの、「ここ数年の傾向は心配だ」と述べました。そのうえで、報道の独立性が脅かされているとしました。

9:沖縄タイムス
 名護市辺野古の新基地建設に反対する市民らの抗議行動に対する海上保安庁などの制圧行為などに対して懸念を示した。沖縄のメディアへの圧力には「非常に重大な問題だと認識している」との見解を示した。調査結果をまとめて国連人権理事会に提出される報告書にこうした内容が盛り込まれる見込みだ。
 辺野古での抗議行動に対する警察や海保の関与について、「個人的にも調査し政府に対して懸念を伝えてきた」と関心の高さを示した。その上で、今回の調査期間中に、警察庁と海上保安庁の関係者らと意見交換し、両機関の対応について今後も注視する考えを伝えた。
 ケイ氏は沖縄の市民団体からも情報提供を受けて暫定報告書をまとめた。「昨年、当局に対して抗議行動に対する不相応な規制がされているとの懸念を伝えた」とこれまでの取り組みを紹介。過剰な実力行使や多くの逮捕と並んで、「抗議の様子を撮影するジャーナリストへの実力行使を特に懸念している」とした。その上で、沖縄の状況を注意深く見守り、必要であれば平和的な抗議活動ができるよう必要な発信を続ける考えを示した。

10:国連「表現の自由」特別報告者「懸念は深まった」記者クラブ廃止など提言【発言詳報】吉野太一郎 taichiro.yoshino@huffingtonpost.jp

政府やメディア、市民団体関係者やジャーナリストらと面会し、離日を前にニュースリリースを発表した。
【要旨】
・放送法、特定秘密保護法は改正を
・メディア横断組織を設立し政府からの独立性強化を
・構造的に政府機関との癒着を招く記者クラブは廃止すべきだ
・高市早苗総務相は面会を断る
・自民党の憲法改正草案は「表現の自由」の観点から問題


ケーン氏は、日本の報道の自由を巡る懸念は「より深まった」として、放送局に「政治的に公平であること」を定めた放送法第4条や、特定秘密保護法について「改正が必要」と提言した。政府機関とメディアの癒着を招き「ソフトな圧力」の温床になるとして、記者クラブ制度の廃止も求め、政府からの独立性を担保するため、メディア横断的な組織の設立を提唱した。
【冒頭発言】

 まず一般論として、日本社会において表現の自由、意見表明の自由は非常に高い。憲法21条で保障されている通り、日本ではあらゆる情報を元にそれを伝える権利があります。とりわけインターネットの自由度の高さ、政府が検閲をしていないことは非常によいことと確認しています。

■多くのジャーナリストが「匿名」を条件に情報提供

 会った方は「独立性を保って報道することが難しい。特に政府に対するデリケートな問題について」と聞きました。この懸念については、まず多くのジャーナリストが匿名を要求しました。ジャーナリストの皆さんの立場は確保されているのに「匿名で」と求められるのは異例のことです。
 放送の置かれた立場から言うと、権力者からの独立性が法律的にあいまいです。特に放送法4条に「政治的に公平であること」と書かれています。これは法律上の義務と解釈できます。174条を見ると、4条違反があれば、業務停止を命じることができます。停波の可能性も含め、大きな懸念です。放送法そのものが政府の規制を許容しているからです。ジャーナリストからも「過去にこの条項が実施されなかったとしても、罰が下された事実がなかったとしてもやはり脅威だ。強くメディアの報道の自由を行使することができなくなる」との意見でした。放送法は改正し、4条を削除する必要があります。政治的公平性を判断することは非常に大きな議論が必要ですが、政府がコントロールすることであってはなりません。独立性のある第3者機関が管理すべきです。政府が直接、規制を放送に及ぼしてはなりません。

 活字メディアでも、やはり同じような圧力を感じていると、面会したジャーナリストが話しました。経営者が非常にあいまいな意思表示をする、つまり「デリケートな記事はそもそも書かないようにしよう」、あるいは「少なくとも政府を厳しい立場においやることはやめよう」ということがあったと話す人がいました。民主主義でメディアへの攻撃が起きるのは普通、緊張感も普通であり、むしろ健全なことです。メディアの皆さんは独立性が求められています。ただしジャーナリズム、メディアの構造そのものが、ジャーナリストに独立性、政府からの反論を許容していません。「記者クラブ」というシステムについても勉強しました。メディア企業の経営幹部が政府高官と会っているという話を何度も聞きました。

 皆さんがよりプロフェッショナルな組織となるべく、メディア横断の組織を設立し、結束力を体現する組織をつくることを強く奨励します。プレス会議、委員会、理事会と、プロのメディア集団の横断組織として結束して、政府への独立性を強化するのです。

■特定秘密保護法、公益通報者保護法
 特定秘密保護法について、政府関係者と何度も議論しました。法律の解釈は容易ではありませんが、2つのポイントがあります。まずジャーナリストの保護です。安全保障政策や原発政策といった敏感な問題を書いたジャーナリストは、日本の人々に最も関心の高い問題にかかわらず、特定秘密保護法で規制されうるということが問題です。法律を変えるのがいいと思います。
 公益通報者保護法について。一般社会に情報を届けようとする報道に内部告発した人を守ろうとする力が、実態として非常に弱いと懸念しています。結局、内部告発した人は、良心から行ったことで罰せられる可能性がまだあります。



【質疑応答】

――メディアの自由について、どこから圧力があるのか。原因はどこか。

比較するような形で答えることはできませんが、圧力というものは大きく分けて2つの要素があります。歴史的に日本のメディア界は記者クラブ制度が存在し、組織的、構造的に特定の会社を中心に構成されています。政府と距離が近い社会的なネットワークに所属することは、抵抗が難しいソフトな圧力になっています。さらに放送法の問題。私がこの視察で学んだことの一つは、放送法が最初にできたとき、1950年代に独立した規制機関があったが廃止された歴史があるということでした。歴史的な背景を見ると、独立した規制機関が存在しないのが一つの原因ではないかと思います。

――日本を国際的に比較すると、どういう立場にあり、今の傾向をどう評価しているのか。広告など、経済的な圧力の話はあったか。



他国の詳細な調査をしていないので比較は差し控えますが、一般的に日本は法的、社会的な表現の自由の基盤は高く、社会で表現の自由への期待は高いです。しかし最近の傾向には非常に懸念があります。法的な制限、政府からの規制、組織の限界といった懸念です。メディアの独立が弱くなっています。

経済的な側面について、いくつかの会議で話題に上りました。どういったデリケートな話題があるのか、どういった記事が難しいのか、政府から間接的な懸念があるのか。私からそのような調査はしていません。

■高市早苗総務相に面会を申し入れたが会えず

――匿名を要求したジャーナリストがいたという。政府の怒りを買うようなテーマに圧力がかかるとは、どういうテーマか。高市早苗総務相とは話したか。

高市氏には、何度も面会を申し入れましたが、国会会期中を理由に会えませんでした。時間は短くとも、何度も機会はありました。我々の結論として、高市氏の発言は、放送法4条について「停波の可能性」という、政府の権利があることを確認したということです。こうした話に特段の驚きはありません。フリーランスのキャスターがテレビで政府要人に厳しいコメントを発したら、有名な番組から降板したという話も聞きました。多くの面会者と話をしましたが、彼らは「具体的にどうしてやめたのかはわからない」と言っていました。報道機関の雇用体系は、同じ場所で非常に長く働くのが普通であり、「同じ時期に一気に降板が重なったのは異例だ。(政府関係者に)厳しい対談をテレビで繰り広げたことも理由だと考えられる」と言っていました。

――今回の訪日で外国メディアへの圧力の話はあったか。外務省から歴史問題についての話はあったか。昨年、ドイツの記者が外務省から非常に強い圧力がかけられたという例があった。

そういったことについて聞く機会はほとんどありませんでした。多くの外国メディアが官庁の記者クラブ制度から排除されており、外国メディアが役割を果たすことが難しくなっているが、経済界では比較的オープンになっているという話はありました。

■自民改憲草案「公の秩序」規定は問題

――自民党の憲法改正草案には、憲法21条について「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動」の除外規定を追加しています。日本のメディアと政府の関係を見て、もしこの改憲がなされたら、どういう影響があるでしょう?

これが採択される可能性は非常に低いでしょう。憲法改正のプロセスが非常に複雑だからです。ただ、憲法21条は日本人が誇りを持つべき条文です。これがあることで表現の自由という環境をつくりあげることができた事実を、もっと誇るべきです。このようなすばらしい21条を改正するのは大きな問題になります。日本政府が批准した「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(ICCPR)19条と矛盾が起きます。言論の自由を弱体化する懸念があり「公の秩序」が条文に入ってしまうと、公共の場でデモ活動が制限されるという、強い懸念を感じます。政治的意見表明についても、ICCPR19条では政府が政治的な意見表明を制約することを非常に厳しく制限しています。憲法21条が改正されてしまうと、政府の規制がより強力になってしまうのではないでしょうか。あるべき姿はまったく逆です。多様な意見を許容する社会をつくるべきです。政治的な意見表明や発言の自由は奨励されるべきものです。

――現場からの懸念について、編集幹部やメディア経営者と話をする機会はあったか。

面会したのは現場のジャーナリストだけでなく、編集幹部や出版社、出版社協会、経営者、NHKの経営委員会でない幹部と話す機会がありました。現場との意見とは異なるものがほとんどでしたが、経営者からは少し異なった視点がありました。たとえば高市発言や、NHKの籾井勝人会長が「「政府が『右』と言うものを『左』と言うわけにはいかない」と発言しましたが、メディアの経営幹部や編集幹部から「違和感のようなものがある」と聞きました。また、経営者は記者クラブをなぜオープンにしないのか、理由について聞きましたが、説明はありませんでした。

■「記者クラブ制度は廃止すべきだ」

――放送法改正やジャーナリストの横断組織設立を提言しているが、政府との密着、自粛の一因になっている記者クラブの廃止を提言しないのか。

記者クラブ制度は廃止すべきだと思います。記者クラブはアクセスを制限するツールになっています。記者クラブに参加している人だけの「アクセスジャーナリズム」を促進しており、調査ジャーナリズムを制限しています。結果、メディアの独立を妨害しています。

記者クラブ制度そのものが大手主流メディア、そして政府に都合がいいものです。クラブ加盟社は記者会見ですぐに質問に答えてもらえるし、大臣などのオフレコ懇談は定期的にあると聞いています。よりオープンなディスカッションは限られ、オフレコのメモや議事録は公開されません。メディア内の一部で回覧されていますが、情報へのアクセスを弱体化し、市民の知る権利を制限しています。

■「報道の自由への懸念は強まった」

――改めてなぜ日本を調査したのか。外務省の招待はあったが、調査すべきことがなければ調査は実現しなかったはず。また、調査前と調査後で印象は変わったか。

過去数年で、報道の自由などがテーマとして浮上しました。日本はネットの検閲がほとんどなく、ネットの浸透率を考えると、日本が表現の自由について問題のある国というつもりはありません。むしろネットのモデル国であるとも言えます。世界ではネットの検閲がますます強化されている。日本政府は(ネット上の表現の自由の保障について)主導的な役割を果たして欲しい。プロバイダー協会にも会ったが、検閲や法的制約は懸念しておらず、むしろ技術的なことが懸念だとのことでした。政府のサイバーセキュリティー担当者も「インフラ、そして個人の問題」と言っていました。日本はかなり前向きな施策を実行しています。今後も持続されることを確認してほしい。



報道の自由については、聞きとりの結果、私の懸念はより強くなりました。ジャーナリストと会って、管理、圧力、制約など、法律で明文化されているものは何一つないが、変えるべきことはたくさんあります。放送法を変えるなどのプロセスは簡単ではないが、特定秘密保護法もかなり多くの改善の余地があります。確固たるステップでメディアの独立性をより強化する必要があると考えました。

重要なのは、メディアの変化は日本の市民がやらなければならないことです。表現の自由の状況を調査し、どこに問題があるかを指摘し、提言などをつくるのが私の役割。その国の社会、政府が表現または意見表明する自由を十分に保証される仕組みをつくらないといけません。実際に行動するのは日本政府であり、日本の専門家の役割です。

――メディアとジャーナリストと政府の間に緊張があるのは普通と言ったが、具体的になにが異なるのか。

ジャーナリストの役割は権力監視(ウォッチドッグ)と位置づけられます。政府から聞いたことをそのまま報道すればいいのではなく、議論を含めて記事にするのですが、ここ数年なかなか難しくなっています。政府に議論や疑問を呈することが弱体化しています。報道内容に政府が反論することはよくあることで、合理的です。それに対してさらにメディアが再反論することが必要ですが、力強く言い返す力が弱体化しています。これは直接、日本の市民に関係することです。断層の真上に原発があります。日本の市民を交えて議論すべきことです。健全な緊張感とは、メディアが実態を報道し、議論し、日本の将来について意見を述べることです。震災、原発で電力がどうなるのか、市民は関心があります。その情報を適切に入手し、議論しているのかが重要です。私は日本語が読めないので実際にそれが起きているかは分かりませんが、それがジャーナリズムの神髄だと思うからです。

――日本政府は紛争地を取材する記者は、フリーランスやマスコミを問わず「現地に行くな」と言っており、実際に行動を取ることもある。感想や意見があれば。

フォトジャーナリストがシリアを取材しようとして、パスポートを返納させられたケースを聞きました。日本のジャーナリストが殺された直後と聞いているが、これは非常に問題です。外務省とも話しましたが、そうした制限はジャーナリストに適用されるべきではないと私から指摘しました。日本のジャーナリストが殺された後、日本の市民はシリアの情報を得ようとしており、リスクを背負って取材するジャーナリストがいるなら、日本政府の行動は不適切です。

■「ヘイトスピーチ対策、反差別法の制定を」

――国会でヘイトスピーチ対策法案を審議している。罰則のない理念法だが、ヘイトスピーチを規制する法律は必要か。



国会の法務委員会メンバーと会談しました。市民団体の懸念も聞きました。ますますヘイトスピーチが増えていることが問題になっています。在日コリアンへのヘイトスピーチが高まっています。まず反人種差別法を持つべきです。ヘイトスピーチ以前に人種差別への法律が必要です。雇用、住居など、人種だけでなく、とにかく差別は罰せられると法で制定するべきです。国会の審議では、ヘイトスピーチに価値あるアプローチをしていると思いたい。差別禁止のための教育を導入する必要があります。政府職員がヘイトスピーチの問題を声を大にして教育していくべきです。ヘイトスピーチ規制法は、逆利用されて被差別対象に不利益になる可能性があります。まずは慎重に反差別法を制定し、そのなかにヘイトスピーチ対策も盛り込むが、表現の自由を制約するものでないとする必要があります。

――沖縄では新基地抗議運動への弾圧があります。ヘイトスピーチやヘイトクライムが市民に襲いかかっています。沖縄の地元紙2紙に「つぶしてしまえ」という政治家の発言がありました。沖縄の表現の自由について印象と意見を。

辺野古の抗議活動に参加している人々や、その人々への過剰な圧力について、警察庁、海保とも話しました。これからも沖縄の皆さんや日本政府と対話していきたい。

――特定秘密保護法は、具体的にどこを変えるべきか。日本の情報公開法を調べたか。改正の必要は感じているか。

特定秘密保護法はまず、「秘密」の範囲が非常に広いこと。政府、特に内閣調査室がこの定義を狭めようと具体的に取り組んでいる。評価しますが、まだ秘密の定義が幅広い。透明性の高い形で規制する必要があります。記事の書き方次第で刑事罰をこうむる懸念を排除する必要があります。安全保障は確かに例外になり得るが、記事を書くたびに弁護士のチェックを受けることでもない限り、抑止力が働いてしまうのではないでしょうか。



――匿名でインタビューに答えた記者は、記者側が匿名を希望したのか。また慰安婦問題について言及されているが、具体的には。

ジャーナリストが「匿名でお願いします。匿名でなければこの情報を出しづらい」と言いました。慰安婦問題を含め歴史的問題については、韓国、中国との問題などいろいろあります。我々は特に教科書問題に関心を持っています。現状の理解は、義務教育の中学日本史の教科書で十分な議論がなされていないということ。文部科学省から教科書検定制度について話を聞きました。有意義な会議でしたが、政治からの断熱材はなく、政治的な影響力が及んでいると感じました。検定委員会メンバー選定について政治の影響力が及んでしまいます。慰安婦は恥ずべき歴史だが、事実を適切に反映して教科書をつくるべきで、政治的影響力を及ぼすべきではありません。

====孫崎享氏の記事以上=====
(*写真は、日本での表現の自由の状況を調査した国連人権理事会の特別報告者カリフォルニア大学教授のデービッド・ケイ氏です。櫻井注)

横井久美子さんの最新著作を読む

2016-04-16 17:13:26 | 政治・文化・社会評論
横井久美子さんの最新作『ネパール 村人総出でつくった 音楽ホール ~幸せを呼ぶ秘境の地 サチコール村~』を読む


               櫻井 智志



 エベレスト近隣の標高一四〇〇メートルのネパールの山奥にあるサチコール村。そこには、弱肉強食の生存競争を当たり前のものとしてうけとめている日本人の価値観とは全く逆の世界がある。サチコール村の人々は、自然と共存し、豊かであたたかい心を暮らしの根本として堅持して暮らし続けている。



 本書は事実を叙述して、淡々と横井さんの生活経験を伝えてくれる。サチコール村でコンサートをしてほしい。二〇一一年にコンサートの要請を受けた。横井さんがサチコール村でコンサートを開催して、三年間を経てサンギートホールを完成させた。二〇一五年四月に、ネパールはマグニチュード7.8の巨大地震におそわれる。横井さんは二か月後、救援金をたずさえ、カトマンズを訪れる。二〇〇八年に、ネパールは共和制となり、二〇一五年には新憲法が公布された。





 世界は、環境破壊や核、テロや戦闘行為で混沌としている。電気も水もガスもないサチコール村を通して横井久美子さんが見つめたものは、人間と人間との関係、人間と自然との関係の原点である。





 サチコール村で高熱の疾病で不安な体験も背負いながら、横井さんの人間らしさが、ネパール国民との心の絆を開拓していった。心と心をかよわせ音楽や交流をとおして、世界から信頼される営みを続ける存在があるのだということを、この本は教えてくれる。横井久美子さんは音楽家である。同時に、ネパール国サチコール村、そしてアイルランドやベトナム等、国際連帯活動の「文化大使」として、一級の実践家であることに深く思い至った。

横井久美子さんの最新著作を読む

2016-04-16 17:13:26 | 政治・文化・社会評論
横井久美子さんの最新作『ネパール 村人総出でつくった 音楽ホール ~幸せを呼ぶ秘境の地 サチコール村~』を読む


               櫻井 智志



 エベレスト近隣の標高一四〇〇メートルのネパールの山奥にあるサチコール村。そこには、弱肉強食の生存競争を当たり前のものとしてうけとめている日本人の価値観とは全く逆の世界がある。サチコール村の人々は、自然と共存し、豊かであたたかい心を暮らしの根本として堅持して暮らし続けている。



 本書は事実を叙述して、淡々と横井さんの生活経験を伝えてくれる。サチコール村でコンサートをしてほしい。二〇一一年にコンサートの要請を受けた。横井さんがサチコール村でコンサートを開催して、三年間を経てサンギートホールを完成させた。二〇一五年四月に、ネパールはマグニチュード7.8の巨大地震におそわれる。横井さんは二か月後、救援金をたずさえ、カトマンズを訪れる。二〇〇八年に、ネパールは共和制となり、二〇一五年には新憲法が公布された。





 世界は、環境破壊や核、テロや戦闘行為で混沌としている。電気も水もガスもないサチコール村を通して横井久美子さんが見つめたものは、人間と人間との関係、人間と自然との関係の原点である。





 サチコール村で高熱の疾病で不安な体験も背負いながら、横井さんの人間らしさが、ネパール国民との心の絆を開拓していった。心と心をかよわせ音楽や交流をとおして、世界から信頼される営みを続ける存在があるのだということを、この本は教えてくれる。横井久美子さんは音楽家である。同時に、ネパール国サチコール村、そしてアイルランドやベトナム等、国際連帯活動の「文化大使」として、一級の実践家であることに深く思い至った。
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日本の「報道の自由」を懸念する世界の良識に応える道

2016-04-11 14:29:58 | 政治・文化・社会評論
日本の「報道の自由」を懸念する世界の良識に応える道

                  櫻井 智志





 孫崎享氏の的確な評論『日本の報道の自由に世界は危機感。国連人権委員会、日本の報道の自由を調査実現へ。ワシントンポスト社説主要点再掲載』(2016年04月11日)からは、大いに得るところがある。

① 孫崎氏は言う。

 ワシントンポストは、本年3月5日、「日本で、都合悪いニュースは押し潰し」との表題で「戦後日本成果の最も自慢すべきは経済的驚異ではなく、独立したメディアを含む自由な機構の設立であった」[安倍氏の目標はこうしたメディアの自由等の犠牲のもとに行われるべきではない」との内容を含む社説を掲載した。こうした懸念が国際社会で持たれている中、昨年12月、国連人権委員会は日本の「報道の自由」を調査する予定で国連スケジュールに掲載されたが、突然「関係者は予算で忙しい。本年の9月以降にしたい」と外務省が伝達するとの異例の事態が生じていた。「関係者は予算で忙しい」というのは余りに詭弁であり、明らかに7月参議院選挙に悪影響を与えたくないとの意図が明白であった。それが、特別報告者で、「表現の自由」を担当する米カリフォルニア大ケイ教授が12日から訪日調査をすることとなった。



② 毎日新聞(4月10日)は、《国連人権理事会 「機密取材で罪」懸念 訪日調査へ》として以下の報道を伝えた。
  
 国連人権理事会が任命した特別報告者で、「表現の自由」を担当する米カリフォルニア大アーバイン校のデビッド・ケイ教授(47)が12日から訪日調査をする。昨年12月の予定だったが、日本政府の要請で直前に延期になった。日本で国民の知る権利や表現の自由が脅かされていないかどうか、政府の対応などを聞き取る。来日を前にケイ教授に調査のポイントなどを聞いた。
--なぜ、調査が延期になったのですか。
日本政府から「政府当局者の都合が合わない」と説明を受けた。今年秋への延期を提案されたが、大学の講義などがあり多忙だ。早い時期を希望した。
--調査のポイントは何ですか。
 ◆各国でジャーナリストの(権利)保護や情報へのアクセス、インターネットの自由などを調べている。特に法的環境を見る。日本では例えば、特定秘密保護法が情報へのアクセスに、どう関係するのか。ジャーナリストが圧力を感じているという指摘もある。一方、日本は検閲なしにインターネットに自由にアクセスできる面もある。政府やメディア、NGO関係者に聞き取りをし、(改善点を)勧告する。
--秘密保護法について知りたい点は。
 ◆安全保障に関わることだからと政府が秘密指定し、(国民が)情報を入手できなくなることを懸念している。一般の人が、政府が何をしているのか評価できることは非常に重要だ。政府がどのように情報へのアクセスを保障しているのか、不正を内部告発できる状況か(を把握したい)。
 
--米国と比べ問題点はありそうですか。
 ◆米国は機密や秘密に分類されるものが多すぎる。しかし内部告発者を保護する強い法律がある。政府がどのように国民を守ろうとしているのか聞きたい。米国ではジャーナリストが機密情報にアクセスしても原則、違法ではない。日本の秘密保護法で罪になり得ることを懸念している。
 
--高市早苗総務相が放送法の「政治的公平」の解釈を巡り番組に問題があれば放送局に電波停止を命じる可能性に言及しました。
 ◆もし政府が放送局に特定の観点を強要することがあれば問題。公平とは何か。常に政府側の見方なのか。政党の主張を述べないことなのか。テレビキャスターが交代した話題も関心がある。政府には規制だけでなく、報道しやすい環境を促進する役目もある。もしジャーナリストが厳しい質問を控え、情報にアクセスできなくなれば、人々は情報に基づく選択ができなくなる危険性がある。


③ 孫崎氏は述べる。

日本側要請で一度延期

 国連人権理事会は、国際的な人権基準に照らして各国を調査し、問題点の改善を勧告する。特別報告者の公式訪問調査の対象は担当ごとに年間数カ国だけで、表現の自由に関して、その一つに日本が選ばれた。表現の自由担当の前任の特別報告者は2013年、国会審議中の特定秘密保護法に懸念を表明した。後任のケイ氏はそれを受けて調査に乗り出した。訪日調査の延期は日本政府が直前に要請し「予算編成作業があり十分な受け入れ態勢を取れなかった」(外務省)と説明した。これに日本の人権保護団体は抗議した。外務省は今回、「局長・審議官級が対応する」としている。表現の自由に詳しくケイ氏と親交のあるローレンス・レペタ明治大特任教授は「報道機関に政府の圧力がかかっているとされる問題、高市総務相の発言、週刊誌に対する名誉毀損(きそん)訴訟など、知る権利が脅かされている現状を調べてほしい」と話す。


④ それらの事実を総括して、孫崎享氏は問題に対する評価をこう述べる。

1:国際社会において、日本に表現の自由が十分に保障されていないのではないかという懸念は、最近特に高まっている。
2:ケイ氏は当然下記のワシントンポスト紙の社説を知っている。調査はおざなりなものにはならないであろう。
 3月5日付〔ワシントンポスト紙〕が「日本で、都合悪いニュースは押し潰し(Squelching bad news in Japan)」との表題で掲げた社説は、極めて重要な論点を含んでいる。
(論点)
1.アベノミクスはこれまでのところそう良くはない。
2.2015年末の更なる四半期のマイナス成長を含め、迫力に欠ける結果を見て、日本人は不安になり、首相支持率が落ち込んできている。
3.こうした悪いニュースによって、関係者は非難され始めたが、安倍氏だけは例外だ。
4.政府およびその支持者達による公式、非公式のメディアに対する圧力がある。
5.2015年国境なき記者団は報道の自由度で日本を世界180か国中、61番目とした。2010年には11であった。
6.戦後日本成果の最も自慢すべきは経済的驚異ではなく、独立したメディアを含む自由な機構の設立であった。
7.安倍氏の目標はこうしたメディアの自由等の犠牲のもとに行われるべきではない。
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⑤ 以上を通して、小生はこう考えた。

 アメリカにも様々な社会的潮流と立場による見解の違いもあることだろう。けれども、アメリカで世論に大きな影響力をもたらすワシントンポスト紙(ニューヨークタイムス紙より保守的と言われてきた)が、これだけ明快な、安倍政権がもたらす言論とコミニケーションにおける偏向した対応乃至「無」対応を批判し、注意を喚起している。そのことを、安倍政権とその圧力のもとで仕事をしている国家・地方の公務員たちは無理だろうが、市民とジャーナリストたちは強い気概をもって、世界的国際世論が、安倍「独裁者」政権に強い懸念をもっていることを、十二分に承知し、自由で見識のある言論の格調に自信をもって、安倍「独裁者」政権から、日本の民主主義を擁護する義務がある。
 義務、とは日本の歴史と未来への義務であるとともに、国際人権宣言を備えた世界各国の民衆に対しての義務である。

沖縄県で目取真俊さんを拘束した暴圧

2016-04-09 21:03:42 | 政治・文化・社会評論
沖縄県で目取真俊さんを拘束した暴圧

            
             櫻井 智志


 米軍の横暴は、アメリカ軍産複合体の横暴でもある。
安倍「独裁者」政権は、アメリカ軍産複合体の後ろ盾があるので、あれだけ滅茶苦茶な行政ができる。
 日本国民は、田中角栄氏、鈴木善幸氏、福田康夫氏、鳩山由起夫氏らの歴代総理の挫折がアメリカ軍産複合体とジャパン・ハンドラーの動きが黒幕であることを知るべきと私は考える。

 
今回の目取真俊さんの拘束について、二つの文章とリンクとを資料1、資料2として以下に転載させていただいた。


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資料 1【東京新聞 社説】

沖縄・目取真さん 拘束の投げかけるもの
2016年4月9日

 沖縄の米軍新基地に抗議していた芥川賞作家目取真俊(めどるましゅん)さんが日米地位協定に伴う刑事特別法違反の疑いで逮捕された。外部と連絡できず米軍に長時間拘束された。どれほどの正当性があったのか。
 目取真さんは一日朝、名護市辺野古沖からフロート(浮具)を越え、米軍キャンプ・シュワブの制限区域に許可なく入ったとして米軍基地内に拘束された。日米地位協定に伴う刑事特別法違反の疑いで第十一管区海上保安本部が緊急逮捕。送検後、二日夜に処分保留で釈放された。
 海上行動で身柄を拘束される人が出るのは初めてだが、正当性があったのか、多くの疑念が残る。
 米軍から海上保安庁に身柄を引き渡されるまで、目取真さんは八時間にわたり基地内に留め置かれた。釈放後、目取真さんは「銃を持った兵士に監視されながらいすに座らされていた」と話した。
 身柄は日本の当局に速やかに引き渡さなければならない定めがあるが、守られなかったのはなぜか。基地ゲート前の抗議行動でも身柄を拘束されたケースがあるが、一、二時間で県警に引き渡されてきた。それに比べて異常な事態ともいえる。
 日本の捜査当局も対応はどうだったか。目取真さんを支援した弁護士は、米軍に拘束された目取真さんの居所を県警や海保、沖縄防衛局に確認しても「知らない」などと答えられ、詳細がつかめなかったという。海保によると目取真さんは「黙秘」していたという。
 戦後の米軍占領時代から、沖縄の人々は治外法権に苦しめられてきた。日本の主権が及ばない場所で自国民が自由を奪われていても、日本の当局がその居所さえ確認できないのでは責任放棄であり、人権侵害もはなはだしい。
 沖縄北部・ヤンバル生まれの目取真さんは故郷の海に軍事基地を建設させまいと、一人の住民として反対運動に参加している。カヌーチームの海上行動を自身のブログに書きつづってきた。
 拘束されたのはいつもの通りにチームのメンバーと一緒に浅瀬を通るときだった。
 米軍側の日本人警備員は目取真さんの本名を呼んでいた。非暴力で粘り強く抗議している人々には抑圧や威嚇と思われるだろう。
 辺野古の埋め立て承認をめぐり、国が翁長雄志県知事を訴えた代執行訴訟で和解し、埋め立て関連の工事は全面的に中断している。身柄の拘束は県と国との円満な解決にも水を差しかねない。

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資料2【目取真俊さんのブログ】

沖縄・ヤンバルより…目取真俊
米軍司令部の前で緊急抗議集会
2016-04-07 12:11:58 | 米軍・自衛隊・基地問題

*転載禁止となっていますので、リンクのみ記します。
http://blog.goo.ne.jp/awamori777/e/6db57cbe9a6e7183c3697f58634f6ab1




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