櫻井 智志
【1】なにが起こっているか
東京 新聞11月25日朝刊を見て驚いた。
産経新聞11月14日朝刊に、読売新聞11月15日朝刊に、「放送法遵守を求める視聴者の会」を名乗る団体が一ページ全面に意見広告が出され、安保関連法成立に至る国民的反対運動について取材し、放送したことを非難している。以前テレビ朝日の「報道ステーション」が集中的批判を浴びたことがあるが、今度はTBSテレビの「TBS23」とそのアンカー岸井成格氏を名指して、非難した。
この視聴者の会の呼びかけ人すぎやまこういち、ケント・ギルバード、小川榮太、上念司諸氏の発言を下記に記したが、内容は極めて極端で偏った
発言に終始している。テレビで安保法案についての賛成と反対の放送時間をはかってみたら、著しく反対に放送時間を割いている番組がかなりあって、それは新聞雑誌と異なり公共電波を認可された団体しか使えないので、「放送法」にもとづいて偏った報道である、およそそのような視点から、運動を進めているという。そして、産経と読売への意見広告では、TBSテレビの「TBS23」とそのアンカー岸井成格氏に集中攻撃を行っている。
【2】「放送法遵守を求める視聴者の会」の主張
インターネット で検索すると、動画サイトで以下の呼び掛けが流されている。長いもので5分間、短いもので1分台である。
【視聴者の会】呼びかけ人メッセージ 上念司
https://www.youtube.com/watch?v=g3DMYBwk30k
【視聴者の会】呼びかけ人メッセージ ケント・ギルバート
https://www.youtube.com/watch?v=xogb6elit7c
【視聴者の会】代表呼びかけ人 すぎやまこういち
https://www.youtube.com/watch?v=XauZrapl8Mk
【視聴者の会】呼びかけ人メッセージ 小川榮太郎
https://www.youtube.com/watch?v=4anUaHUTxEM
放送法遵守を求める視聴者の会は、以下のような主張もネットで述べている。
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放送法遵守を求める視聴者の会
この度、憂いを同じくする民間人7名が呼びかけ人となり、「放送法遵守を求める視聴者の会」(以下「視聴者の会」)を発足し、本日11月14日付産経
新聞に、15日、読売新聞に一面全面広告を掲載。
http://housouhou.wix.com/tvwatch
同広告ではTBSニュース23のメインキャスター岸井成格氏の放送法違反である疑いの非常に濃厚な発言を明確、詳細に批判し、国民に違法な報道への注
意を喚起しました。また、視聴者の会では、TBS、岸井氏宛公開質問状を近く正式に投函する予定。
〇報道番組の現状:当会の調査によると、安保法制成立直前1週間の各局報道番組の法案への賛否の放送時間比較は、NHKニュースウォッチ32%:68
%(賛成:反対、以下同)、日本テレビNEWS ZERO10%:90%、テレビ朝日報道ステーション5%:95%、TBS NEWS23 7%:93%、フジテレビあしたのニュース22%:78%など、常軌を逸した偏向報道となっています。特定秘密保護法、集団的自衛権の閣議決定など重大なトピックではほぼ同じ極端な偏が繰り返されてきました。この現状を短期間に是正しない限り、国民が正しい政治判断を下すことは不可能です。
そこで視聴者の会では、以下の目標を実現するまで活動の手を絶対に休めません。
〇目標:テレビ事業者は放送法の規制下にあります。放送法第4条は以下の4項目を放送事業者に遵守するよう求めています。私達は、放送事業者が、こ
の第4条を遵守し、重大な政治的争点で公正な放送時間配分(概算で4:6程度までの範囲内)を守らざるを得ない国民的な強い思潮を早期に作りだすこ
とを唯一最大の目標とします。
放送法第4条
一 公安及び善良な風俗を害しないこと。
二 政治的に公平であること。
三 報道は事実をまげないですること。
四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。
〇行動方針:
①視聴者の会は、例えば「放送法に罰則規定を設ける」「放送局の解体」などの激しい争点になる主張を行わず、現行の放送法4条の遵守のみを求めてゆきます。
②当会は、会として特定の政治的立場や主張を持ちません。特定の政治的主張を通したくてこの運動をしているのではありません。視聴者の会のキーワードは「国民の知る権利」です。偏向報道はまさしく「知る権利」の重大な侵害に他なりません。当会は「知る権利」を守ることに活動を特化します。
③当会は新聞メディアは対象としません。新聞には完全な言論の自由が保障されています。今回の我々の会が問題にするのは放送法に規制された放送局のみです。
④政治家の関与・賛同は厳に御断りし、一般国民の声のみを結集します。
〇今後の活動:本日の新聞広告掲載に続き、矢継ぎ早に各種広報を始めキャンペーンを展開します。違法性ある報道を国民の皆様に知らせ続けるホームページの更新、各界有識者の賛同者の募集、大規模な署名活動を展開してまいります。
報道番組の公平化が早期に達成されるまで、皆様の力強い御賛同、御支援をお願いいたします。
すぎやまこういち(代表/作曲家)
渡部昇一(上智大学名誉教授)
渡辺利夫(拓殖大学総長)
鍵山秀三郎(株式会社イエローハット創業者)
ケント・ギルバート(カリォルニア州弁護士・タレント)
上念司(経済評論家)
小川榮太郎(事務局長/文藝評論家)順不同
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なお、この会はインターネットメディアに次のサイトをあいついでひらき、今後運動を次々に拡大し、テレビ報道監視・批判・提言などから国民に浸透をはかっているものと予想される。
■放送法遵守を求める視聴者の会 - Facebook
https://www.facebook.com/housouhou/
放送法遵守を求める視聴者の会, 東京都千代田区三崎町2-13-5影山ビル501. 576 likes. 当会は、国民主権に基づく民主主義のもと、政治について国民が正しく判断できるよう、公平公正な報道を放送局に対して求め、国民の「知る権利」を守る活動を行う任意 ...
■放送法遵守を求める視聴者の会 (@housouhou) | Twitter
https://twitter.com/housouhou
The latest Tweets from 放送法遵守を求める視聴者の会 (@housouhou). 私達は放送事業者に対し、放送法の遵守を求めます。
【3】国民はどう考えているか
賢明な良識をもつと思われる次の知識人のかたはブログにて、公正で冷静なご見解を示されている。
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wakaben6888のブログ
憲法を大事にし、音楽を愛し、原発を無くしたいと願う多くの人と繋がれるブログを目指します
2015-11-16
「報道の自由」にとっての最高度の危機~「放送法の遵守を求める視聴者の会」からの攻撃について
報道 憲法
今晩(2015年11月16日)配信した「メルマガ金原No.2276」を転載します。
なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
「報道の自由」にとっての最高度の危機~「放送法の遵守を求める視聴者の会」からの攻撃について
今日の昼休み、事務所のパソコンでFacebookに流れる情報を拾い読みしていたところ、和歌山県かつらぎ町の町会議員、東芝弘明(本名:ひがししばひろあき、議員名:とうしばひろあき)さんが昨日書かれたブログをシェアしている人が複数いて、ふと読んでみる気になりました。
東芝弘明の日々雑感 2015年11月15日
違法な報道?、全面広告にびっくり
すると、昨日(11月15日)の讀賣新聞に、「「News23」の岸井成格氏を名指しで批判する」全面意見広告が掲載されたというではありませんか。
そこに掲載された広告を一瞥したところ、
私達は、違法な報道を見逃しません。
私達の「知る権利」はどこへ?
という文字が躍っており、「放送法の遵守を求める視聴者の会」なる組織が出稿者のようです。
東芝さんの書かれていることは至極もっともと思えましたが、とりあえず裏をとらねばということで、「放送法の遵守を求める視聴者の会」のホームページにあたってみることにしました。
その結果、同会ホームページはすぐに見つかったものの、このサイトがいつ立ち上げられたのかについては、よく分かりませんでした。
ただ、共同呼びかけ人(7人)の1人であり、事務局長とされる小川榮太郎氏(文藝評論家)のFacebookでは、産経新聞に全面広告を掲載した一昨日
(11月14日)、「超拡散希望 御報告」と題して、「この度、憂いを同じくする民間人7名が呼びかけ人となり、「放送法遵守を求める視聴者の会」(以下「視聴者の会」)を発足し、本日11月14日付産経新聞朝刊に一面全面広告を掲載いたしました。同広告ではTBSニュース23のメインキャスター岸井成格氏の放送法違反である疑いの非常に濃厚な発言を明確、詳細に批判し、国民に違法な報道への注意を喚起しました。また、視聴者の会では、TBS、岸井氏宛公開質問状を近く正式に投函する予定です。」以下の文章を公表していますので、同会ホームページの公開も、それほど以前のことではなさそうです。
なお、「放送法遵守を求める視聴者の会」の7人の呼びかけ人は以下の方々です。いずれも、特定の方面でよくお見かけする名前ですね。
すぎやまこういち氏(代表/作曲家)
渡部昇一氏(上智大学名誉教授)
渡辺利夫氏(拓殖大学総長)
鍵山秀三郎氏(株式会社イエローハット創業者)
ケント・ギルバート氏(カリォルニア州弁護士・タレント)
上念司氏(経済評論家)
小川榮太郎氏(事務局長/文藝評論家)順不同
「放送法の遵守を求める視聴者の会」の主張がいかにおかしいか、個別に検討すべきことはいくつもありますが、今日のところは詳しく検討して論じるだけの時間的余裕がないため、とりあえず、「表現の自由」「言論の自由」「報道の自由」に対する介入・攻撃は、このような形態、すなわち権力そのものではなく、「市民」を装った形によってもなされるのだということに注意を喚起したいと思います。
前掲の小川榮太郎事務局長の文章によれば、「行動方針」として、「当会は新聞メディアは対象としません。新聞には完全な言論の自由が保障されています。今回の我々の会が問題にするのは放送法に規制された放送局のみです。」とした上で、さらに「今後の活動」として、「本日の新聞広告掲載に続き、矢継ぎ早に各種広報を始めキャンペーンを展開します。違法性ある報道を国民の皆様に知らせ続けるホームページの更新、各界有識者の賛同者の募集、大規模な署名活動を展開してまいります。報道番組の公平化が早期に達成されるまで、皆様の力強い御賛同、御支援をお願いいたします。」という闘争宣言で締めくくられています。
とりあえず、14日には産経新聞に、15日には讀賣新聞に、それぞれ全面意見広告を出稿した「放送法の遵守を求める視聴者の会」ですが、それだけで終わるつもりがないことは、小川事務局長の文章でも明らかです。
そのことを如実に示すのは、同会ホームページの中の以下の箇所です。
(引用開始)
スポンサー各位殿への公開質問状
・今回明らかにした通り、TBSの報道番組NEWS23は放送法第4条を無視していると受け止めざるを得ない報道姿勢をとっています。スポンサー各位は、今後もこの方針を容認した上で番組スポンサーを務め続けるつもりですか?
・または、番組制作者に対し、放送法を遵守するよう番組編集の改善を求めるお考えはありますか?
・番組制作者に対し放送法遵守を求める場合、もしも番組制作者がその求めに応じない場合は、スポンサーを降板することも視野に入れ検討されますか?
お問い合わせガイド
※視聴者から各スポンサーへの問い合わせは、節度をもって行いましょう※
この件に関すると思われる番号の公開が無いスポンサーに関しては、本社番号が記載してあります。番組スポンサーの件に関する問い合わせである旨を伝えたうえで、関連部署へ問い合わせを行ないましょう。
(略)
まず最初に「NEWS23の番組スポンサーに関する問い合わせです」との旨を伝えましょう。
《全国ネット共通スポンサー》(2015.04~09)
(略)
《ローカル局ごとのスポンサー》(2013.04~)
(略)
(引用終わり)
これだけの番組スポンサーを調べ上げているのですから、それなりの情報提供ソースの存在が推測されるところですが、何よりも、「節度をもって行いましょう」と言いながら、スポンサーに対する組織的な圧力行動を呼びかけていることを看過することはできません。
自民党「文化芸術懇話会」での「スポンサーに圧力を」「経団連にお願いしよう」という暴言を思い出すまでもなく、民間放送局を締め上げるには糧道を断つのが一番ということで、政府や自民党ではやりにくいのなら、私たちがやりましょう、ということでしょう。
全ての良識ある人々に対し、最高度の危機意識を持つべき事態が起こっていると訴えたいと思います。
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まなぶことが多い見解の代表と思う。
【4】私はどう対応するか
私はこの数年間、TBSの「TBSNEWS」を視聴し、アンカー岸井成格さんのご発言や言論人としての態度にふれてきた。TBSテレビの番組サイトには、岸井さんのひととなりが紹介されている。http://www.tbs.co.jp/news23/caster/
毎日新聞社でワシントン特派員、政治部長、論説委員長、主筆も歴任されたトップクラスの言論人である。TBS、JNN系列の「サンデーモーニング」各ニュース番組、選挙特別番組などテレビでも活躍され、日本の報道界の代表的知識人のひとりでもある。
かつて安倍晋三総理が番組に特別出演した時にも、どこかの放送局のようなおべっかと迎合に終始するようなことはなく、国民から寄せられた質問や感想を生かして、丁寧かつ率直に総理に質問して、安倍総理の見解も視聴者にはわかるように進行に留意していた。岸井成格氏は困難な国内外の難問について、偏った排外主義でもないし、いわゆる左翼的進歩派文化人とも異なる。広範な立場を理解し判断している。日本国内の歪んだ偏向報道に流されることなく、海外にも取材記者をつとめた経験を生かし、国際感覚に基づく広範な見解をもっている。
私は教科書問題を連想する。一部の民族主義知識人にもとづいて歴史教科書の編集や採択にと燎原の火が草原を焼き尽くすように、次々に燃え広がった。将来の教育と対外諸国との外交問題にまで拡大している。
今回の民間団体が立ち上げた報道チェックは、国内のテレビ放送局の自主規制から日本国内にしか通用しない政治・外交の歪んだレンズで見た報道が流されて、国民の社会認識を戦前戦時中のような統制報道へと道を開くことになりはしないと断言できようか?
安倍政権などの行政権力側からの干渉では、国民から批判がまきおこるような問題を、わけのわからない匿名市民団体が政府の意向を体して騒動にもちこむ典型的な事例である。「放送法四条規定の政治的公平」で非難が集中しているが、日本の憲法や法体系全般を転覆するような安倍晋三政権の政治批判に目も向けない「偏向優等生」タイプが重箱の隅をつついて騒ぎ立てるような論潮が世間で取り上げられ、日本の進路に関わる外交・防衛・国政の根本的な論議を覆い隠して、憲法規定の臨時国会さえ開かないで閉会中のわずかの委員会審議でごまかすような憲法違反を、もっと論じる社会状況ではあるまいか。
*写真は「関口宏のサンデーモーニング」出演の岸井成格さん