2019年5月31日 東京新聞転載
・Ⅰ:東京新聞 高致死率ウイルス初輸入へ 今夏にもエボラなど 感染研「了承」(2019年5月31日 朝刊)
・Ⅱ:良心的科学者に見る感染研の未来 櫻井智志
Ⅰ:転載記事
写真:
学校や住宅地に隣接する国立感染症研究所村山庁舎=30日、東京都武蔵村山市で
❶
致死率の高い病原体を扱う施設の安全性を不安視する声は少なくない。実際、海外のBSL4施設では、危険なウイルスを使った実験で誤って感染した研究者が死亡する事故が起きている。三十日に同研究所村山庁舎で開かれた地元自治会などとの協議会でも、住民から「安全性に百パーセントの確証を持てない」と反対する意見も上がった。
感染研が二〇一五年に公表した資料によると、〇四年にロシアの研究者がエボラウイルス感染のモルモットから採血する際に針刺し事故で感染し、死亡。〇九年にもドイツで針刺し事故があった。BSL4施設の整備を目指している長崎大によると、過去に少なくとも四カ国で六件の針刺し事故が確認されている。厚労省側は「これらは外部への漏えいに至っていない」と強調する。
だが、感染研の元主任研究官で市民団体「バイオハザード予防市民センター」共同代表の新井秀雄さん(77)は「海外では誤って感染した人を施設内で治療する所が多い。日本のBSL4施設で事故があったら病院へ搬送することになっている。(海外で漏えいがないとしても)単純に参考にできない」と話す。
この日の協議会を傍聴した地元の田中千恵さん(73)は、施設が特別支援学校や小学校に隣接し、住宅にも囲まれている点を不安視する。「事故が起きたら真っ先に危険にさらされるのは子どもたちではないか。それが一番心配」と話した。
施設を巡っては、地元住民が将来的な移転を求めてきた経緯がある。協議会で「施設の移転が担保されていない状況で、輸入には賛成できない」と反対した雷塚自治会事務局長の須藤博さん(72)は終了後、報道陣の取材に「今日は報告を受けただけ。日本の技術革新は必要だが、住民の不安が起きないような場所でやるべきだ」と改めて早期移転を訴えた。
❷
国立感染症研究所は三十日、致死率の高いエボラ出血熱などを引き起こすウイルスを、国内に初めて輸入する方針を決めた。来年の東京五輪・パラリンピックを踏まえ、多様な国の人が集まり感染症が持ち込まれる可能性に対処するためという。ウイルスが運ばれる予定の東京都武蔵村山市の同研究所村山庁舎で同日行われた住民への地元説明会で、一部反対意見があったが、おおむね了承されたとしている。早ければ今夏にも輸入する方針。 (井上靖史、服部展和)
同研究所には、二〇一五年に国内で唯一、致死率が最も高い感染症ウイルスを扱うことが許された「バイオセーフティーレベル(BSL)4」施設がある。病原体を輸入したり、所持するには厚生労働相の指定が必要なため、今後、感染症法に基づき、輸入と譲渡の指定を受ける手続きが進められる。
輸入するのは、エボラ出血熱と南米出血熱、ラッサ熱、クリミア・コンゴ出血熱、マールブルグ病の原因ウイルス。いずれも国内に存在しないウイルスで、国内での感染症の報告例も一九八七年にあったラッサ熱の一例しかない。これまで計画的に輸入した例もないという。
感染研によると、ウイルスは感染が疑われる患者の検査などに役立てる。昨年十一月に初めて方針を表明し、住民への説明会や見学会を重ねてきた。人為的ミスや災害による外部漏えいへの懸念について、感染研の脇田隆字所長は「安全対策、災害事故対策、避難対策を一層進め、情報開示にも努めたい」と述べた。
Ⅱ:私見
良心的科学者に見る感染研の未来 櫻井智志
東京新聞記事の一節にこうある。
『、感染研の元主任研究官で市民団体「バイオハザード予防市民センター」共同代表の新井秀雄さん(77)は「海外では誤って感染した人を施設内で治療する所が多い。日本のBSL4施設で事故があったら病院へ搬送することになっている。(海外で漏えいがないとしても)単純に参考にできない」と話す。』
新井秀雄氏は感染研の主任研究官だった。その新井さんが「自らの信条に嘘はつけません。」と言い切る。国家公務員で厚生省の国立感染症研究官として研究にずっと取り組んできた。定年まで3年。敬虔なクリスチャンでもある新井秀雄志氏は、新宿のど真ん中で大量に細菌やウイルスを扱う日本最大の病原体実験施設の危険性を内部から毅然と告発する。
その経緯は新井秀雄著『科学者として』2000年11月に幻冬舎から出版されている。さらに映画『科学者として』(監督本田孝義氏)が東京のBOX東中野や大阪のシネ・ヌーヴオなどで同じ頃に全国上映された。
最近、様々な伝染性の強い疾病が流行している。その危険性を十分に理解した市民たちが、科学者、住民たちとともに、住民への安全性を尊重しない感染研の実験強行の差し止めを要求する裁判闘争にたちあがった。東京地裁から、高裁、最高裁まで争われ、裁判は住民側の敗訴に終わった。
だがこの裁判は広く日本の内外に問題の重大性を喚起した。原告団団長の芝田進午氏は地裁判決の年に、判決の直前に胆管がんでご逝去された。
これらを背景に、この東京都東村山市の感染研村山庁舎へのウイルス初輸入の大問題が位置している。
・Ⅰ:東京新聞 高致死率ウイルス初輸入へ 今夏にもエボラなど 感染研「了承」(2019年5月31日 朝刊)
・Ⅱ:良心的科学者に見る感染研の未来 櫻井智志
Ⅰ:転載記事
写真:
学校や住宅地に隣接する国立感染症研究所村山庁舎=30日、東京都武蔵村山市で
❶
致死率の高い病原体を扱う施設の安全性を不安視する声は少なくない。実際、海外のBSL4施設では、危険なウイルスを使った実験で誤って感染した研究者が死亡する事故が起きている。三十日に同研究所村山庁舎で開かれた地元自治会などとの協議会でも、住民から「安全性に百パーセントの確証を持てない」と反対する意見も上がった。
感染研が二〇一五年に公表した資料によると、〇四年にロシアの研究者がエボラウイルス感染のモルモットから採血する際に針刺し事故で感染し、死亡。〇九年にもドイツで針刺し事故があった。BSL4施設の整備を目指している長崎大によると、過去に少なくとも四カ国で六件の針刺し事故が確認されている。厚労省側は「これらは外部への漏えいに至っていない」と強調する。
だが、感染研の元主任研究官で市民団体「バイオハザード予防市民センター」共同代表の新井秀雄さん(77)は「海外では誤って感染した人を施設内で治療する所が多い。日本のBSL4施設で事故があったら病院へ搬送することになっている。(海外で漏えいがないとしても)単純に参考にできない」と話す。
この日の協議会を傍聴した地元の田中千恵さん(73)は、施設が特別支援学校や小学校に隣接し、住宅にも囲まれている点を不安視する。「事故が起きたら真っ先に危険にさらされるのは子どもたちではないか。それが一番心配」と話した。
施設を巡っては、地元住民が将来的な移転を求めてきた経緯がある。協議会で「施設の移転が担保されていない状況で、輸入には賛成できない」と反対した雷塚自治会事務局長の須藤博さん(72)は終了後、報道陣の取材に「今日は報告を受けただけ。日本の技術革新は必要だが、住民の不安が起きないような場所でやるべきだ」と改めて早期移転を訴えた。
❷
国立感染症研究所は三十日、致死率の高いエボラ出血熱などを引き起こすウイルスを、国内に初めて輸入する方針を決めた。来年の東京五輪・パラリンピックを踏まえ、多様な国の人が集まり感染症が持ち込まれる可能性に対処するためという。ウイルスが運ばれる予定の東京都武蔵村山市の同研究所村山庁舎で同日行われた住民への地元説明会で、一部反対意見があったが、おおむね了承されたとしている。早ければ今夏にも輸入する方針。 (井上靖史、服部展和)
同研究所には、二〇一五年に国内で唯一、致死率が最も高い感染症ウイルスを扱うことが許された「バイオセーフティーレベル(BSL)4」施設がある。病原体を輸入したり、所持するには厚生労働相の指定が必要なため、今後、感染症法に基づき、輸入と譲渡の指定を受ける手続きが進められる。
輸入するのは、エボラ出血熱と南米出血熱、ラッサ熱、クリミア・コンゴ出血熱、マールブルグ病の原因ウイルス。いずれも国内に存在しないウイルスで、国内での感染症の報告例も一九八七年にあったラッサ熱の一例しかない。これまで計画的に輸入した例もないという。
感染研によると、ウイルスは感染が疑われる患者の検査などに役立てる。昨年十一月に初めて方針を表明し、住民への説明会や見学会を重ねてきた。人為的ミスや災害による外部漏えいへの懸念について、感染研の脇田隆字所長は「安全対策、災害事故対策、避難対策を一層進め、情報開示にも努めたい」と述べた。
Ⅱ:私見
良心的科学者に見る感染研の未来 櫻井智志
東京新聞記事の一節にこうある。
『、感染研の元主任研究官で市民団体「バイオハザード予防市民センター」共同代表の新井秀雄さん(77)は「海外では誤って感染した人を施設内で治療する所が多い。日本のBSL4施設で事故があったら病院へ搬送することになっている。(海外で漏えいがないとしても)単純に参考にできない」と話す。』
新井秀雄氏は感染研の主任研究官だった。その新井さんが「自らの信条に嘘はつけません。」と言い切る。国家公務員で厚生省の国立感染症研究官として研究にずっと取り組んできた。定年まで3年。敬虔なクリスチャンでもある新井秀雄志氏は、新宿のど真ん中で大量に細菌やウイルスを扱う日本最大の病原体実験施設の危険性を内部から毅然と告発する。
その経緯は新井秀雄著『科学者として』2000年11月に幻冬舎から出版されている。さらに映画『科学者として』(監督本田孝義氏)が東京のBOX東中野や大阪のシネ・ヌーヴオなどで同じ頃に全国上映された。
最近、様々な伝染性の強い疾病が流行している。その危険性を十分に理解した市民たちが、科学者、住民たちとともに、住民への安全性を尊重しない感染研の実験強行の差し止めを要求する裁判闘争にたちあがった。東京地裁から、高裁、最高裁まで争われ、裁判は住民側の敗訴に終わった。
だがこの裁判は広く日本の内外に問題の重大性を喚起した。原告団団長の芝田進午氏は地裁判決の年に、判決の直前に胆管がんでご逝去された。
これらを背景に、この東京都東村山市の感染研村山庁舎へのウイルス初輸入の大問題が位置している。