【現代思想とジャーナリスト精神】

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「ゴーン氏逮捕と日産」事件と権力の複合疑惑~東京新聞『こちら特捜部』精読~     櫻井 智志

2018-11-22 21:09:20 | 政治・文化・社会評論
(*本小論は、東京新聞中山岳、片山夏子両氏の渾身の「こちら特捜部」2028,.11.28」を論旨をできるだけ生かすように、小生が短くまとめたものである。この小論の文責は、編集転載した小生にあることを明確にしておきたい。)


 日産の西川社長は、日本とフランスの経営者800人の前で語りかけた。主催者の日経新聞によると、「ルノーと三菱自動車の連合が相乗創出で実績を出し、競争力を高めている」と指摘し、「提携を通じて培った人材により、自動車の電動化や顧客の多様化など新たな課題も乗り越えていける」と話した。

 「インサイドライン」編集長、歳川隆雄氏は「西川氏は日仏同盟の一つの証しが日産とルノーの提携だと語った。ゴーン氏の逮捕によってルノーとの経営統合を阻んだというのに、日産経営者としての責任はどこにあるのか」とあきれる。


 経営ジャーナリストの片山修氏は、「事件は、日産とルノーの経営統合を巡る主導権の奪い合いが遠因ではないか」と語る。ゴーン氏はルノー副社長だった1999年、経営難にあった傘下の日産に送り込まれた。2000年に日産社長に就任、工場閉鎖や2万人以上のリストラを断行。数年後に業績をV字回復させた。
 日産の業績が回復し、当初は上位の立場だったルノーをしのぐようになる中、両社の間では経営の主導権を巡る綱ひきになっていたという。
 ゴーン氏は両社の完全統合に否定的だったが、今年6月にルノーCEO(社長兼最高経営責任者)の再任が決まったことで、フランス側への配慮が強まるのではないかと、日産側で懸念する声もあったという。
 片山氏は「ルノ-・フランス政府側に傾きそうなゴーン氏に、日産社内で日本人幹部らの不満が高まっていた」と語る。ジャーナリスト井上久男氏は「西川氏ら日産の社内クーデターが背後にあった」とみる。


  元検事の落合洋司弁護士は「株主らの関心も高い。報酬を過少に見せていたのは悪質とみて、逮捕に踏み切ったのではないか」と指摘する。
「国際的な問題も含み、政府も関心がある事案だ。逮捕した19日検察側が法務省を通じて官邸に連絡することはありうる」と落合氏。

 「官邸案件」だとしたらその先にあるのは何か。
 
それはフランスとは犬猿の仲とされ、貿易摩擦を繰り返すアメリカのトランプ氏だ。ゴーン氏の日産からの追放は、ルノーの弱体化を歓迎化するトランプ氏に対し、日本からの「お歳暮」のようなものではないか。そう思うのは考えすぎなのか。

 歳川隆雄氏は「今回の逮捕は検察が司法取引の一例の成果として大きく見せたいということだろう」とみる。ゴーン氏という超大物の逮捕は特報部にとってもメリットがある。
  安倍晋三首相ら官邸側の関与を疑われた森友学園をめぐる公文書改竄問題で、刑事告発された財務省幹部38人全員を、大阪地検特捜部が「不起訴」処分にした際は、不要論が出るほどの批判もあった。巨額な役員報酬を得ているゴーン氏に対する国民の反感をてこに、検察側が逮捕に踏み切っても不思議はない。
 落合洋司弁護士は、「事件をやらなければならないほど、特捜部は国民から見放されていく。いろいろな事件に積極的に切り込むことが求められている」と語る。



 ゴーン氏逮捕翌日の11月20日。首相官邸にひとつの異様な光景があった。日産の川口均専務執行委員が訪ね、菅義偉官房長官に事件の経緯説明と謝罪をしているのだ。日産、官邸、検察とさまざまな思惑が混在してか、事件はもうひと波乱、ふた波乱と続きそうだ。
 
 経済ジャーナリスト片山修氏は、「今回の事件は、ゴーン氏が全て悪いとたたいて終わる問題ではない」と言い切る。事件の進展によっては今後、株主代表訴訟が起こされる可能性もある。
「日産のほかの経営陣も、責任が問われることも考えられる」と述べる。