棋王戦は渡辺棋王が3勝1敗で防衛を果たした。
防衛を決めた第4局は、渡辺竜王・棋王が「自分の全公式戦の中でも3本の指に入る将棋だったと思います」(『渡辺明ブログ』…「棋王戦五番勝負第4局。」より)というほどの名局だったらしい。
「名局だったらしい」と言ったのは、中盤辺りまでしかリアルタイムで観戦できなかったのと、まだ詳細を調べておらず、終盤、渡辺棋王が放った▲7七桂の“うっちゃり”の一手の上っ面しか眺めていないからである。まあ、本人も仰っているし、巷でも評判なのだから、疑う必要は全くないだろう。
今回取り上げるのは、その前の第3局。こちらはほぼリアルタイムで観戦し、驚愕と感動を十二分に味わった。
第1図は、驚愕の一手前の局面。
先手が▲2一飛成と桂を取り、飛車得となった局面。
ここに至るまで、先手の佐藤天八段が局面をリードし、大駒取りに対し、駒損を甘受して2度も大駒の下から歩を打って辛抱を重ねていた。“先手が1手早く駒を取っていき、その差がついに飛車1枚となった”という印象があった。
後手も△2八とと飛車を取り返せば駒損を回復できる。しかし、それだと直前に取った桂馬を8四に打たれ、後手の穴熊城に火の手が上がってしまう。駒損はなくなっても、既に飛車を打たれており、その上、▲8四桂と急所に手をつけられては、2手差くらいありそうだ。
△8三銀打!
飛車を取らずに自陣の強化。確かに、銀を打たれてみると、後手穴熊は見違えるほど堅固となった。(広瀬八段は△8三銀を予想していた)
≪いくらなんでも先手は飛車得。良くないはずはない!≫
しかし、考えれば考えるほど、次の一手が難しい。
先手が攻めの手を指したとして、飛車を取られて駒割は互角となり、後手の5七のと金が輝いてくる。後手はまだ飛車を打ち込んでいないので1手遅れている勘定なのだが、△8三銀打と自陣を1手早く補強しているので、差引ゼロ。
となると、「指したと仮定した1手」プラス「飛車を取られた後の1手」で、後手の5七のと金を活用した攻めを上回る手段が必要となるのだが、うまく寄りつく手段が見当たらない。
よって、“先手は飛車を逃がし、駒得を主張する方針”を採ったが、△5六角と好所に角を打たれ、“と金”と金の交換がほぼ間違いなくなり、駒割は飛車金交換と差が縮まった上、先手玉の弱体化と2九の飛車の働きの弱さが露呈してしまった。
△5六角に対し、▲6三歩と攻めの足掛かりを作った局面だが、「楔(くさび)を打ちこんだ」と胸を張って言い切れないほどの弱い楔だ。
以下、△6七と▲同金△同角成▲4三角△6六桂と進んだ。
図の1手前の▲4三角はあまり利いていない角打ちに見えるが、△7六馬を防いでおり、場合によっては▲6一角成と先の▲6三歩と連動させた攻めも見た油断のならない手だ。(まあ、▲6一角成と来ても、渡辺棋王なら△同金▲同龍に△7一金打と喜んで打ちそうな気がするが)
△6六桂と打った第4図、若干後手の攻め駒が少ないが、100人中98人は後手を持ちたいと言うのではないだろうか?
防衛を決めた第4局は、渡辺竜王・棋王が「自分の全公式戦の中でも3本の指に入る将棋だったと思います」(『渡辺明ブログ』…「棋王戦五番勝負第4局。」より)というほどの名局だったらしい。
「名局だったらしい」と言ったのは、中盤辺りまでしかリアルタイムで観戦できなかったのと、まだ詳細を調べておらず、終盤、渡辺棋王が放った▲7七桂の“うっちゃり”の一手の上っ面しか眺めていないからである。まあ、本人も仰っているし、巷でも評判なのだから、疑う必要は全くないだろう。
今回取り上げるのは、その前の第3局。こちらはほぼリアルタイムで観戦し、驚愕と感動を十二分に味わった。
第1図は、驚愕の一手前の局面。
先手が▲2一飛成と桂を取り、飛車得となった局面。
ここに至るまで、先手の佐藤天八段が局面をリードし、大駒取りに対し、駒損を甘受して2度も大駒の下から歩を打って辛抱を重ねていた。“先手が1手早く駒を取っていき、その差がついに飛車1枚となった”という印象があった。
後手も△2八とと飛車を取り返せば駒損を回復できる。しかし、それだと直前に取った桂馬を8四に打たれ、後手の穴熊城に火の手が上がってしまう。駒損はなくなっても、既に飛車を打たれており、その上、▲8四桂と急所に手をつけられては、2手差くらいありそうだ。
△8三銀打!
飛車を取らずに自陣の強化。確かに、銀を打たれてみると、後手穴熊は見違えるほど堅固となった。(広瀬八段は△8三銀を予想していた)
≪いくらなんでも先手は飛車得。良くないはずはない!≫
しかし、考えれば考えるほど、次の一手が難しい。
先手が攻めの手を指したとして、飛車を取られて駒割は互角となり、後手の5七のと金が輝いてくる。後手はまだ飛車を打ち込んでいないので1手遅れている勘定なのだが、△8三銀打と自陣を1手早く補強しているので、差引ゼロ。
となると、「指したと仮定した1手」プラス「飛車を取られた後の1手」で、後手の5七のと金を活用した攻めを上回る手段が必要となるのだが、うまく寄りつく手段が見当たらない。
よって、“先手は飛車を逃がし、駒得を主張する方針”を採ったが、△5六角と好所に角を打たれ、“と金”と金の交換がほぼ間違いなくなり、駒割は飛車金交換と差が縮まった上、先手玉の弱体化と2九の飛車の働きの弱さが露呈してしまった。
△5六角に対し、▲6三歩と攻めの足掛かりを作った局面だが、「楔(くさび)を打ちこんだ」と胸を張って言い切れないほどの弱い楔だ。
以下、△6七と▲同金△同角成▲4三角△6六桂と進んだ。
図の1手前の▲4三角はあまり利いていない角打ちに見えるが、△7六馬を防いでおり、場合によっては▲6一角成と先の▲6三歩と連動させた攻めも見た油断のならない手だ。(まあ、▲6一角成と来ても、渡辺棋王なら△同金▲同龍に△7一金打と喜んで打ちそうな気がするが)
△6六桂と打った第4図、若干後手の攻め駒が少ないが、100人中98人は後手を持ちたいと言うのではないだろうか?
つい先日、転職に成功して、やっと時間と心の余裕を取り戻しました。さらにひょっとして奪取されるのではないかと危惧していた棋王戦で渡辺明が持ち前の勝負強さを発揮してくれたので、それにも勇気づけられて、改めてこちらにお邪魔させていただくことにしました。実は、本当はひとつ前の詰め将棋でカムバックしたかったのですが、10分考えても答えに辿りつきませんで・・・。
私も英さんと同じく、第3局はほぼリアルタイム観戦できたのですが、第4局は用事で少ししか覗けませんでした。で、第3局ですが、棋譜コメントで8三銀が好手だと知ったのですが、広瀬八段が予想していたので、そこまで驚きの手だという印象は持っていませんでした。今回の英さんの記事のおかげで、渡辺明の強さを再認識できた次第でして、低級ファンとして、とても嬉しく読みました。感謝いたします。
ところで、私は将棋は初級なのですが、何を隠そう碁の方は段持ちです。その碁の方で、コンピュータが世界の第一人者を負かしてしまった(私は漠然と負ける可能性はあると思っていたものの、しかしその可能性は低いと思っていましたので、実はかなり動揺しました)のは、英さんもよくご存じだろうと思います。この件について、羽生名人のコメントが出てこないのは何だか不自然な気がするのですが、英さんはどこかでご覧になりましたか?もし英さんが何かご存知でしたら、是非教えてください。
王将戦は英さんはとてもご不満のようですが、羽生名人はもう4つもタイトルを持っていらっしゃるので、広い心でお願いします。
では、長々と失礼しました。
転職ですか?
職場や職種が変わるのは大変だと思いますが、時間と心の余裕が持てるようになったとのことで、何よりです。
第3局は、3筋から6筋の後手陣よりの折衝が、現代将棋ぽくて、私にはついていけない感触があったのですが、△8三銀打でそれがダメ押しされました。
それから第4図以降の佐藤八段の粘り強さにも、彼の強さを感じさせられました。
アルファ碁に関しては、李セドル九段の正直な局後のコメントが印象的でした。
私は碁は初級者ですのでよくわかりませんが、序盤から中盤にかけて「李セドル九段優勢」と思われていたようですが、実はそうじゃなかったというのが、将棋の時と似ていますね。(将棋の場合も、そんな筋悪で効率の悪い手なのに…という感じでした)。
将棋と碁が両方達人級でないと、わからないと思いますが、将棋と囲碁では、コンピュータソフトの指し方(打ち方)と人間の感覚との差はどちらが大きいのでしょうね。
それと、「碁の方が盤が広いので場合の数が増え、碁のソフト開発の方が、より難しい」という考え方も疑問に感じます。
羽生名人のアルファ碁に関するコメントは、私も目にしていません。まあ、尋ねられたとしても、通り一遍のコメントしかしないと思います。
李セドル九段は、世界ランク(レーティング)4位ですが、柯潔氏(ランク1位)は「李セドルは負けるが、私なら勝つ」と言ったような記述を見た記憶があります。井山九段(17位)は、現在7冠目前で、それどころではないと思いますが、彼の感想もお聞きしたいです。
王将戦は、4~6局の内容が不満でした。短兵急な指し方が目立ち、悪くなってからも、堪えて粘ることもできず、あっさり寄り切られた感じで、名人戦に不安を残しました。
勝者罰ゲームが嫌なのかもしれません。
詰将棋ですが、玉の逃げ道は2三と3三の二か所あり、初手はどちらかを塞ぐ手です。
あと、出題時のヒントはかなり重要です。
囲碁でもコンピューターの優位が明らかになった今だからこそ、羽生名人も思うところを気兼ねなく発言できそうな気がしたのですが、やっぱり難しいのでしょうか。渡辺ブログも、すでにコンピューターの方が強くなっていることをに匂わすような書きぶりではありますが、しかし明言は避けていますね。
王将戦当時は転職騒動の最中でほとんど観戦できなかったのですが、さすがの羽生名人も年齢とともに「全力モード」で戦える期間は短くなってきているような印象を受けています。名人戦にそなえて英気を養っている、力を抜いている、とまでいったら言い過ぎですが、でも本当の全力ではない気がします。渡辺明ほど意識的にそれをやっているとは思いませんが、無意識のうちに力をコントロールしているような。意気込みからしても、何としても初防衛を果たしたい郷田王将とは差があったように思いますし。勝者罰ゲームは・・・普通に敗者罰ゲームにしたら羽生名人が急に強くなるとか?そもそも挑戦者にさえならなかったりして(笑)。
心と時間に余裕ができたといっても、まだいろいろと慌ただしく、詰め将棋の方はしばらくコメントできないかもしれません。悪しからず願います。
井山六冠の感想ですが、例えばこちらの記事(http://nitro15.ldblog.jp/archives/47078856.html)でちらりとは紹介されています。この程度のことは、将棋のプロ棋士も発言して構わない気がするのですが。。。
囲碁は日本、中国、韓国の違う思想が行き交う土壌があるので、コンピュータソフトに対する受け入れ方も柔軟なように感じます。
将棋の方が、素直な考えを言いにくい気がします。
王将戦は相手が郷田王将なので、試してみたい指し方を採ったように思います。そのことはいいのですが、悪くなってからの踏みとどまりがなかったのが残念です。
井山六冠のコメント興味深く読みました。情報、ありがとうございました。