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「お先です!お疲れ様でしたー!」
裏口ドアから「コラージュ」に声を掛け、藤と共にお店を出ました。
すぐ近くに小さな本屋がありました。
その昔、発砲事件があった「ガンショップ」は本屋になっていました。
先に帰ったはずの「四藤君」が立ち読みしている姿を窓越しに確認できました。
藤「またアイツ、エロ本読んでるワ」
その小さな本屋は入り口周辺だけゲーム雑誌が置いていて、
少し奥に入れば「エロ本」「エロビデオ」のオンパレード。
しかも「マニア向け雑誌」なんかが多数あり、非常に「男臭い」本屋でした。
上田「コラ!パンツ!」
四藤「わっ!びっくりした~」
四藤君が手にしていた雑誌は「風俗店情報雑誌」でした。
四藤「コレ見て下さい店長、お化け美容室エロ店長に似てません?」
上田「ん~、どれどれ」
あるヘルス店の看板娘が上目遣いでポーズをとっていました。
上田「・・・」
上田「おい藤!ちょっとこっち来てみ!コレ見てみ!」
藤「んん?これは似てんなぁ~、っていうか似すぎやなぁ」
上田「ちょっ、四藤君!吉福店長呼んで来て!」
コラージュ吉福店長登場。
吉福「これエロ店長ですやん!間違いないでしょう!」
「スゴイなコレ、バイトしてるんかな!?」
上田「いやぁ、でも有りえんでェ、ファッションヘルスやで!?」
藤「ちょっと四藤君!この本買え!」
次の日、
ヘアテックに出勤した四藤君は、早速カバンから「風俗誌」を出しました。
「貸せ!」
待ちきれない藤が横取りし、例のページを開きました。
「バリバリ・・」
音がしました。
「お前ナ・・」
僕と藤が四藤君を睨みました。
四藤「いやいや、気のせいですって!」
磯野君が飛び込んできました。
「見せてください、うわっ、ホンマや、そっくりですやん!え~」
上田「やっぱり似てるな~、だんだんエロ店長に思えてきた・・」
藤「よっしゃ!オレ、行ってくるワ!!」
四藤「おお!藤さんオトコや!」
藤「電話すんで~、四藤君番号言うて!」
「あ、もしもし?今度そちらの店に行きたいんですけど」
「今雑誌を見てて、源氏名マキちゃんって子が可愛いから、」
「マキちゃんはいつ出勤してます?」
「(うすら笑い)、そうですか」
「じゃあ今度の月曜の朝10時でお願いします。」
「あ、僕ですか?四藤です!」
すぐ横で四藤「うわっ、最悪やこの人・・」
藤「四藤オカシですー!」
四藤「いや、そこはタカシいうてください・・」
電話を切った藤が満面の笑みで言いました、
藤「間違いないワ!絶対にエロ店長や・・」
「だって出勤日聞いたら、月曜日だけの勤務やて」
次の月曜の朝、藤は十三(じゅうそう)の雑居ビル2Fに出向きました。
(ここからは後日藤談)
薄暗い店内、
藤「予約していた四藤ですが」
ボーイ「マキちゃんでよろしかったでしょうか?」
「少々お待ちください・・」
廊下奥からボーイに連れられ、
バスローブ1枚でうつむき加減でマキちゃん登場!
ところがマキちゃん、
藤の顔を見るやいなや走って逃げ出した!!
「あ、おーい!」追いかけるボーイ!
藤「(間違いない!エロ店長や!!)」
しばらくして、ボーイが現れ、
「すみません、マキちゃん急に具合が悪くなって・・、」
「他のコじゃダメですか?」
藤「嫌や、マキちゃんアカンのやったらお金返して!」
源氏名「マキちゃん」、
ファッションヘルスでバイトしていた(※かもしれない)『エロ店長さん』は、
間もなく一身上の都合で「お化け美容室」を辞めました。
【ヘアテック・コラージュ男性陣】
「お化け美容室はそういうサービスあったんちゃうか!?」
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【2月】、
会社の『慰安旅行』がありました。
学校職員、各6テナント全員、
大型バス2台に分乗して1泊2日の温泉スキー旅行です。
ガイドの付いたバスは賑やかで、皆明るい顔で楽しんでいました。
行き先は兵庫県北部、夢千代の里・湯村温泉「井づつや」。
決して自腹では行けないような豪華な宿です。
夜は大宴会です。
各テナントの店長は社長・専務などと同じく上座に座らされ、
次々とお酌されます。
「酒」と聞けば高知県人の血が騒ぎます。
店長会議ではちっちゃくなる僕でもここでは無礼講。
「さあ来い!」
気持ちよくドンドンとお酒を受ける僕の周りに、自然と人が集まりました。
「店長!カッコええですワ!」
すでに酔っ払って頭にねじりタオルを巻いた『四藤君』が日本酒を持ってきました。
「おう!四藤!今日はやり切るぞ!」
一滴も飲めない『藤』は、もうくたばっていました。
「上田さん!男や!」
コラージュ組が囃したてます。
「お前ナ・・あの・・ああ・・」
『長島先生』は眼もうつろでロレツがまわっていませんでした。
「いや~ん!」
「お化け美容室」の『美人エロ店長』がはだけた浴衣を押さえました。
野郎共がすぐに群がりました。
舞台上ではクラブQOOの連中が裸で走りまわっていました。
2次会は、浴衣のまま番傘で外に出ました。
外は大雪でした。
近くの川に温泉水が流れ込んでいるらしく、
ものすごい蒸気が立ちのぼり、ライトアップされ、雰囲気をかもし出していました。
川の周辺は温泉街になっているらしく、
夜でも様々な旅館の浴衣を着た観光客で賑わっていました。
20人位でスナックに入り、歌で盛り上がったりしました。
屋台でラーメンを食べ少し酔いをさまし、旅館に戻りました。
部屋はヘアテック3人とコラージュ吉福・磯野の5人でした。
布団の上に四藤君が半裸状態で「死んだイノシシ」の様にくたばっていました。
四藤君を置いて、皆で温泉に浸かりました。
「うおーーっ」、生き返ります。
吉福店長「上田さん、将来はどうするんですか?」
上田「高知の田舎に帰るワ」
「子供は田舎で育てたいし」
「田舎のショボーい散髪屋で年寄りまでやるワ」
「大阪も好きやけどね・・」
「吉福君は?」
吉福店長「僕はまだまだ上を見てみたい、」
「自分でお店持って、たくさんスタッフ雇って稼いで」
「お店増やして、登りつめたい・・」
上田「吉福君らしいな、でも簡単にやってしまいそうや(笑)」
ポカポカ気分で部屋に帰ると、みんなで四藤君を起こしました。
大量の寝汗を掻きながらムクッと起き上がりました。
上田「四藤君、風呂入ってこいや!」
藤(復活)「お前な、くさいワ!早く行ってこい!」
吉福「そんだけ汗掻いてたら気持ち悪いやろ」
磯野「混浴やで」(ウソ)
「・・・・・、うー、まだ風呂に人居てましたか?」
四藤君はしぶしぶ風呂に行きました。
朝を迎えました。
「二日酔い」は少し頭がズキズキするくらいで済みました。
吉福君がカーテンを開けました。
天気は快晴で、山には雪がたくさん積っていました。
上田「おーい、みんなもう起きなあかんでー」
みんなしぶしぶと起きはじめ、着替えはじめました。
「うわッ、最悪や・・・何やコレ・・」
浴衣を脱いだ「四藤君」がつぶやきました。
浴衣の下はピチピチのTシャツ(ヘソ見える)、
パンツはルーレットやサイコロの柄のド派手なトランクスでした。
どうやら昨夜、風呂で「他人のパンツ」と履き間違ったようです。
「(大爆笑)」
藤「(笑)アカン、アカン、お前、これは犯罪や!館内放送でいうぞ!」
上田「(笑)四藤君ホンマはどんなパンツやったん?」
四藤「もうええですワ」
磯野「エエことあるかい!どんなパンツやったか言え!」
四藤「彼女にもらったミッキーのパンツですワ」
藤「ホナ誰かが仕方なしにブカブカのミッキーパンツ履いてるんや!(笑)」
吉福「早よ返しておいで」
四藤「もうええですワ、最悪や・・」
上田「相手の方が最悪や!言うてるぞ!」
藤「しっかしそのパンツ、趣味悪いナ!何や!そのルーレット!(笑)」
その日は近所のスキー場に向かいました。
リフトが2基しかない小さなスキー場に到着しました。
僕と四藤君以外は殆どスノーボーダーでした。
僕は8ミリを撮影しながら滑っていました。
レンタルのヤッケでコケながら滑っていた四藤君は、
お尻からルーレットのパンツがハミ出していました。
「パンチ佐藤」(野球選手)にちなみ、『パンツ四藤』と名付けられました。
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ルーレット
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「ついに店出したのか!?よっしゃ!次の休みに見に行くワ!」
【1月下旬】
日曜日の夜、大阪梅田からの夜行バスに飛び乗りました。
行き先は「愛媛八幡浜」です。
専門学校同期の『福嶋』が、地元の愛媛八幡浜にお店をOPENしました。
『ヘアーサロン ふくしま』
帰省で利用する夜行バスは気持ちが高ぶってなかなか寝つけないが、
「八幡浜行き」はぐっすりと眠れました。
朝6時に八幡浜駅に着きました。
空はまだ暗く、空気が澄んでいました。
八幡浜駅は意外と人の出入りがあり、
売店の横でホットコーヒーを飲む僕の目の前を慌しく行き来していました。
公衆電話から福嶋に電話しました。
上田「着いたぞー!、迎えに来てー」
福嶋「俺の必殺の車で行くから、そこで待っとけや」
受話器を置くとテレホンカードが出てきて、
「ピピーッ、ピピーッ」という甲高い音が駅構内に響き渡りました。
「(必殺の車かぁ~・・)」
空が少し明るくなり、間もなく福嶋が車でやってきました。
「ニッサン シルビア」でした。
上田「久しぶり!」
「しかし、お前がこんな大人の車に乗るようになるとはなぁ」
福嶋「大人になったけんのう」
助手席に乗り込もうとすると、
福嶋「アホゥ、靴脱がんかい!」
やはり「土禁」でした。
久しぶりに会った福嶋は激太りで「男前」が台無しでした。
「必殺でもない車」は漁港に向かって走り、
細い路地に入り込んだところにお店はありました。
月曜日は定休日なんで、店内に入ると福嶋が電気を点けました。
とりあえず荷物を置いて、
上田「腹減った、喫茶のモーニングでも食いに行こうや」というと、
そんなこと言う奴初めて見たというような顔をして、
福嶋「何処にあるかのう・・」と悩みます。
少し歩いたところに喫茶がありました。
重い扉を開けると「酒」の匂いがしました。
カウンターでは客のオッサンが朝から酒を飲んでTVを観ていました。
「漁師町やけんのう」
福嶋が言いました。
トーストではなく「焼き魚定食」を食べさせられ、腹ごしらえ十分にお店に戻りました。
「ヘアーサロン ふくしま」
派手なサインポールと看板が目立ちます。
福嶋「上田、上見てみ!電話番号が書いてあるやろ、」
「何か気付かんか?」
上田「フリーダイヤル、294050?・・・分からん」
福嶋「フ・ク・シ・マ・へ・ゴ・オー・や!」
上田「・・・」
カット椅子2台の真新しい店内。
目に付くのは店販品の多さ、「ヘアムース」は特に多く50本位並んでいました。
福嶋「このムースはお客さんに配るヤツや、」
「お客さん1人に1本配るんよ」
「お前の店とかカット20%オフとかやってるんやろ」
「それする位やったら、そのオフの値段で店販品をあげたらエエんよ」
「店販品気に入ってくれたらまた買うてくれるし・・」
なるほど、そういう考え方もあるのか・・。
「こっち来てみ」
奥の小部屋に案内されました。
その部屋は大きな水槽がいくつもあり、いろんな熱帯魚が飼われていました。
上田「お前が生き物飼うとはなぁ~」
「食うんか?」
福嶋「アホかボケェ~、ナンボすると思うとるんや!?」
手馴れた様子でエサをやり終えた福嶋は、
ソファーにドシンと寝転がり、足を長く伸ばしました。
福嶋「お前、藤と一緒にやってるんか?」
「それは反則やな、最強や」
上田「どうや?ここのお店は・・」
福嶋「繁盛しとるよ、でもパーマが苦手でのう、」
上田「お前、学生時代から全然アカンかったもんなぁ~」
福嶋「この前、エライ失敗したワ・・」
福嶋「この前、オールバックのオッサンがパーマに来てんよ」
「前の方パーマ巻いとったら、急に腹痛なってのぅ、」
「お客さんにバレんように屁ェこいたんよ」
「そしたらミがちょっと出てしもうてのぅ(笑)」
「パーマ途中で止めて、トイレに行ってキバってのぅ、」
「パンツもズボンも着替えてのぅ、」
「そしたら、かなり時間が経ってしもうてのぅ、」
「後でロッドはずしたら・・」
「前の方だけキュルキュルキュルってきっついパーマが当たってあんねん!」
上田「ハハハ・・アホや」
その後、八幡浜の街をぶらりと歩きました。
福嶋「どや、長げーやろ!?」
アーケードの商店街は細長く続いていました。
福嶋「ここで、八幡浜てやてや音頭をみんなで踊るんよ」
「て~やて~やうんいぇい!って」
「うんいぇい!で片足上げるんよ!こうしてな・・」
「やってみ!こうして・・」
上田「もうええワイ」
夕方になり、
「とうまん」という固~い饅頭をお土産に持たされ、再びお店に帰りました。
上田「あ~さすがに疲れたな~」
「おい福嶋!お前の必殺のマッサージ、やってくれや」
福嶋「しゃーないのう!死んでも知らんけんな!」
松山の厳しいお店で修行を積んだ福嶋のマッサージは、
本当に必殺で、お金の取れる素晴らしいマッサージでした。
上田「お前もかなり頑張ったんやな・・」
福嶋「そーとー頑張ったワ」
晩飯を弁当で簡単に済ませ、帰り支度をしました。
上田「スマン、頭だけここで洗わせて!」
とんぼ返りで再び夜行バスに乗らないといけない・・、
シャンプー台でうつむいて頭を洗いました。
頭と一緒に顔をバシャバシャと洗いました。
それだけでも随分スッキリします・・
福嶋「これ使えや」
福嶋が新しい綺麗な「タオル」を出してくれました。
(昔はカーテンやったな・・)
駅まで送ってもらいました。
間もなく出発する夜行バスは、暖房を効かしているため
「ボボボボ」とうるさい音を出していました。
そのうるさい音に負けないように福嶋が声のトーンを上げました。
福嶋「上田、まだ難波で頑張るんか!?」
「・・たいしたもんよのう!!」
「藤にもヨロシク言うてな!!」
「大阪行」の夜行バスもゆっくりと眠れました。
■60■
福嶋必殺マッサージ