エルソル飛脚ブログ ~Run 4 Fun~

四万十川周辺をチョロチョロしている飛脚の記録です。

エルソル大阪物語■47■「それぞれ・・」

2018年01月26日 | エルソル大阪物語

■47■


堺から通勤するには遠すぎるんで引越ししました。

今回は武ちゃんがトラックを用意してくれたので、引越し作業は随分楽でした。

新居はお店がある中津から、淀川を越えた東淀川区でした。
「高岡ハイツ316」
「下新庄」というごちゃごちゃした町のワンルームマンションの3階です。

すぐ近くに新幹線が高架上を通過します。
「新大阪駅」も近いので、さほどスピードが出ていないのか、
騒音らしきものはありませんでした。

「お~い、新大阪は近い?今度泊めてくれ~」
電話の声は高校の同級生「岡野セイジ」でした。
同じく高校同級生の女の子「モトヨシ」の結婚式に呼ばれたらしく、高知から飛んできました。

上田「久しぶりやね~」
部屋でセイジの頭を散髪するために新聞紙を広げました。

岡野「それがビックリでよ~」
  「どうやら新郎も知り合いながよね」

上田「どういうこと?」

岡野「オレの専門学校時代の同級生らしい」

上田「あのコンピューターのか?」

岡野「そうそう、歳は上やけどね」
  「聞いた時はブッたまげたぞー!!」
  「偶然のひと言では片付けられん・・何かモヤモヤが残るな~」

セイジの髪質は相変わらず硬く、鋏は悲鳴をあげていました。

翌日、
自転車の後ろにセイジを乗せて新大阪に向かいました。
ママチャリでなくシティサイクルなんで、後ろは座れません。
セイジは運転する僕の肩に手を掛け、後部車輪の金具に立ったままでまたがりました。

残念ながら金具の出っ張りはとても小さく、
靴の端の一点に全神経を集中しないと滑り落ちます。

最初の信号でブレーキをかけると、
早速「う”」っとせいしは滑り落ちました。

岡野「新大阪まで何分?」

上田「う~ん、15分かな」

岡野「・・・体力勝負か」

「段」があると必ず滑り落ちるので、なるべく車道を走りました。
新幹線の高架下をひたすら進みます。

上田「そういや~昔、諏訪ノ森の頃やったか・・」
  「酒飲んだ帰りにセイジを自転車の後ろに乗せたな~」

岡野「あの悪夢は忘れんぞ!」
  「溝に突っ込みやがって・・」
  「前が見えんかったから受け身もとれんかったワ」
  「確かスーツやったな、人に借りた新品の靴も擦ってしもうた・・」

上田「ハハハハ」

「ハタハタハタハタ・・」
セイジが乗っている金具は車輪が近いので、ズボンの裾がハタハタと当たっていました。

岡野「うわっ!最悪や」
セイジはズボンの裾を靴下の中に入れました。

新大阪に到着しました。

岡野「あ”ー疲れた」
  「こんなに足がワナワナするのは高校の野球部以来ぞ」

セイジは足をフルフルさせながら会場のホテルに向かいました。


福嶋が泊まりにきました。

福嶋「やっぱりマンションはええのう~」
そう言って布団の上にゴロンと横になりました。

福嶋は新しいお店でうまくいっていないようで、精神的に疲れ果てた感じでした。
それに加え、夜中のタコ焼きのバイトも始めたらしく、
寝不足の日々が続いて体力的にも参っている様子です。

上田「とりあえず、夜中のタコ焼きはやめたほうがエエな」

福嶋「そうはいかんのや・・、車の維持費も大変でのう」
  「関美の同期の女で山田っておったやろ?」

上田「ん?昔チクリンと付き合っとったボヘミアン女か?」

福嶋「アイツに50万でバイク売ったんやけどな」
  「金もらい損ねとるんよ・・」
  「男追っかけて東京に行ってから行方不明や」
  「噂ではレゲエのミュージシャンと結婚したって言うしのう」
  「アテにしてたお金が泡や・・」
  「親にも内緒でお金もいろいろ借りとるしのう」
  「オレの母ちゃんキビシーけん、知られたら愛媛に連れ帰られるワ」
  「女手ひとつで育ててくれた母ちゃんやけんな・・・逆らえんワ」

そんなに話もしないうちにイビキをかいて寝始めました。

上田「おいコラ!お前はコタツで寝ろ!」
不摂生で随分と太ったトドは、ピクリとも動きません。

上田「くそ~・・」
福嶋の出た腹にマジックで顔を書いてやりました。

翌日夜、
電話が鳴りました。

福嶋「お前ェ!何て事するんや!銭湯で大恥かいたワ!!」

後日、
抜きうちで大阪に出てきた福嶋母に全てを見つかり、
福嶋は愛媛松山のお店で働くことになりました。

■47■

全ての始まりになったセイジと・・


腹芸

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エルソル大阪物語■46■「強烈ラッシー」

2018年01月26日 | エルソル大阪物語

■46■


『理容ラッシー』は
梅田から徒歩10分の中津にありました。
梅田のビル群から少し離れた下町といった感じです。

お店は、
外観・内装共々レトロ感たっぷりの縦長の狭いお店で、
5台の椅子と客待ちの長椅子が平行に並んでいました。

数年前だったら見向きもしなかった様な古臭いお店でした。

マスター夫婦は共に鹿児島県出身でした。

『中川マスター』は40代、7:3分けの大頭で3頭身で、
酒・タバコ・ギャンブルが大好きな「ええ声」の持ち主でした。

『奥さん』も小太りでした。
濃い顔をしており「ジャネットジャクソン」に似ていました。

その他二人の中習がいました。
「技術者」「中習」「見習い」と区分される従業員、
「中習」は「少し仕事が出来る人」という感じです。

カレー屋を連想させるような「黄色い白衣」を着せられました。
鏡に映った自分はダサく、テンションも下がりました。

初日からお客さんのCUTに入らされました。

    上田「前の店では若い子しかやった事がありませんが・・」
中川マスター「君がやらな誰がやるねん!早よやらんかい!」

客待ちにはたくさんのお客さんが待っていて、
もう開き直ってやるしかありませんでした。

「中川マスター」はどんな細かいミスも見逃さず、
自分の手を止めてまでお客さんの目の前で指導します。

内容も理論的なものではなく、
「ここもうちょっととれ」「こことりすぎ」という感じで、
徹底的に『眼』を鍛えるものでした。

3日もするとヘタクソだけど全てのお客さんに入っていました。

この店で大事なものは何よりも「スピード」でした。

お店は大変忙しく、
朝の開店前から2,3人並んでおり、客待ちの長椅子は常に満席でした。

昼飯は超安い「仕出し弁当」でした。
仕出し弁当のおかずは、見た目と味が一致しないという不思議で恐ろしいものでした。

また、弁当を運んでくる60代のオッサンもとても下品で、
「今日はみんなの大好きなオマメさんやで~、オ・マ・メ~」
「今日はみんなの大好きなクリごはんやで~、クリちゃん~」
など、お客さんの前でもお構いなしの強者でした。

縦長のお店の突き当たりにはアコーデオンカーテンがあり、
その裏のとても狭い所で弁当を食べます。
トイレの目の前、しかも棚にいるたくさんのゴキブリを見ながら5分で食べました。

トイレも大変狭く、しゃがむと壁面ギリギリで、
しかも換気扇も無い為、うんこ後に消臭レモンスプレーを吹き付けるのが唯一のエチケットでした。

食事中なのにトイレでキバるお客さんに軽い殺意さえ覚えました。

お店の化粧品も見た事のないものばかりで
香料でごまかしたものが多く、そのおぞましい臭いが知らずのうちに体に染み付いてしまいました。

シャンプーは固形のものを大きなバケツに水で溶かして、
小さな容器で小分けにして使うのでした。
(固形シャンプーの存在を初めて知りました)

固形シャンプーを溶かすのに素手で混ぜるとチクチク何かが刺さるように痛みました。
それは劇薬に近いものでした。
冬になると手荒れもひどく、ジャンケンでグーを出すと節々から血が吹き出ました。

60代の材料屋さんが出入りしていましたが、新商品はいつも「ブルコン(白髪隠し)」でした。

有線は常に演歌でした。

お客さんもターニンとは全く異なります。

あやしいお客さんも多く、
「自称マジシャン」(宴会芸程度)
「自称バレリ~ナ」(ただのオカマ男性)
「自称探偵」(ただのアホオッサン)
など、ホントかウソかワカランような人達が結構いました。

お店は「大阪婦人ホーム」とも提携していて、
月一回、番号札を持った「あやしいオバサン達」が二人組で列になってやってきました。
たまに迷子になる人がいて、探しに行かなければなりませんでした。
オバサン達は、「うんこするぞ」「しっこするぞ」
「チンチン見せて、チンチン見せて」と下品でした。

そのオバサン達の中に「ボス」がいました。
「ボス」は50代後半の貫禄たっぷりのオバサンです。
トノサマガエルを連想させます。

ボスに声を掛けられました、
ボス「おい、兄ちゃん、タバコくれ!」

上田「持ってへん」

ボス「どっかから買うてこい!」

上田「嫌や」

ボス「・・・」(太い顔に細い目で睨み続けるカエル)

「上田vsボス」は毎回このやりとりがあり、新喜劇のようにテッパンでした。

僕がソバージュをあてるオバサンは細身のエロいオバサンでした。
エロオバ「兄ちゃん、男前やなぁ」
    「今からホテル行こうやぁ~」

  上田「嫌や」

エロオバ「マスター!兄ちゃん連れてってかまへん!?」

中川マスター「エエで~!行ってこいや」
      「ワシじゃアカンか?」

エロオバ「この兄ちゃんがええねん」
    「なぁ~、行こうや~」

  上田「ほな、ネエちゃん、今からいこか?」

エロオバ「・・・・」
    「マスタ~!この兄ちゃんやらしいわ~!」
    「辞めさせて~!」

  上田「くそ~」

「上田vsエロオバ」は毎回このやりとりがあり、新喜劇のようにテッパンでした。

「この兄ちゃん、エエ仕事すんでぇ~~、ひひひひ」

一番おぞましいのはジャネットジャクソン(奥さん)でした。

■46■

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エルソル大阪物語■45■「あえて違う世界へ・・」

2018年01月26日 | エルソル大阪物語

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それから2年が過ぎ、25歳を迎える頃。

「新ターニン」はそこそこ忙しくなりましたが、マンネリ化に悩むようになりました。

若いお客さんはCUT出来るようになりましたが、
年配のお客さんはマスター専門で、何よりお年寄り・幼児などが周辺にほとんどいないので、
それ以上の技術の向上が望めませんでした。

ちょうどその頃、実家から電話がありました。
「親父が膀胱ガンで手術をするので帰って来い」というものでした。

膀胱を全部摘出し、小腸の一部を切り取って袋状に縫い上げ、
それを人口膀胱として使うという8時間にも渡る大手術でした。
手術は無事成功しましたが、おなかの横に管を突っ込んで尿を出すという体になりました。

少し元気になり、病院近所の堤防を散歩した時
「よう見よけ、これがオラの立ちションぞ」と言って
横腹から尿を飛ばす親父の姿はとても悲しいものでした。

気が付くと2週間以上もお店を休んでいました。
中村を飛び出してからこんなに長い帰省は初めてでした。
(盆3日・正月3日しか長期の休みはありません)

田舎の友達やいろんな人に「早く帰って来い」と言われました。
しかし、ここに帰って来る時は『独立』する時です。
大阪でまだやり残している事がたくさんありました・・

お店に出向き、すぐに辞める事を伝えました。
「次の人が入るまで待って欲しい」と言われましたが
一刻も早く次の行動に出たかったので一方的に辞めました。

「ここで立ち止まっている場合じゃない・・」


学校に顔を出しました。
「水落君」と「長島先生」にそれぞれ相談事を持ちかけられました。

「水落君」は関美職員を辞めて
地元和歌山の不動産会社に就職するそうで、
「もう散髪屋せえへんやろうから・・上田君これ使ってや」
と理容道具一式を渡されました。

もう鋏の大事さをちゃんと知っている僕は、
鋏は受け取らず「赤い櫛」と「カミソリ」だけを受け取りました。
水落君の「思い」も一緒に受け取った気がして身が引締まりました。

「長島先生」の相談は
西田辺にある散髪屋の店主が高齢の為に引退するそうで、
引き続きやる人がいれば権利を売ってくれるらしく、
長澤先生が権利買うとしたら僕にやってもらえるか?というものでした。
つまり『長島先生の店で店長やってくれるか?』ということです。

とりあえず一緒にお店を見に行くことにしました。
「西田辺」に着くとすぐに「歩道橋」が目に入りました。
以前「店さがし」に疲れ果ててへたり込んだ歩道橋・・・

早歩きの長島先生に置いていかれそうになり先を急ぎました。

そのお店は大通りを歩き、細い路地を曲がってすぐのところにありました。

目の前に大きなシャープの工場があり、立地条件は素晴らしいものでした。
お店はおじいさんがやっていたらしく、椅子2台がせいぜいの狭くて古ぼけたものでした。

「長島先生」が僕に望む条件は二つでした。
・お店の中の椅子や道具のほとんどを出来るだけそのまま使って欲しい。
・最低限の売上(家賃、自分の給料、光熱費など)は確保できるように頑張って欲しい。

やりたくて仕方がなかったのですが、
「若い子のCUTしか出来ない」
「経験しながら勉強するよりも、まだもう少し誰かにしっかりと習っておきたい」
「長島先生の恩を仇で返すことになりそうで恐い」
などの理由で見送ってもらうことにしました。

次に働くお店は
子供からお年寄りまでじゃんじゃん来る様なところを探しました。

「えひめ福嶋」の紹介で、
彼が以前勤めていた中津の『理容ラッシー』に行くことになりました。

「大衆理容」といって、CUT料金が千円から二千円ぐらいの安い値段の散髪屋があります。

「大衆理容」はセンスなど期待できず、「早さ」と「安さ」で勝負する店なのです。

しかし「安い」というのはお客さんにとってはやはり魅力で、
どこの「大衆理容」も必ず繁盛していました。

「大衆理容」で働くメリットは・・・
・早い技術を覚える
・老若男女問わず全てのCUTを体験できる
・忙しいので体が鍛えられる
・高給料

デメリットは・・・
・CUTパターンが数種類しかない。
・業界の発展、向上など考えていない。
・お客さん主体でなく、やる側主体なので性格が傲慢になる。

『理容ラッシー』はCUT料金2300円で、
大衆理容ではありませんが、周辺のお店からすると明らかに格安店でした。

僕は最初から「ここは2年間」と密かに心を決めていました。
2年位は辛抱しないと何も得られないし、
逆に2年以上いると『大衆感覚』に染まってしまうと考えたからです。

■45■

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