■32■
国家試験(実地試験)が2週間後に迫っていたため、
就職活動は後回しにして学校の実習室を借りて練習させてもらう事になりました。
試験当日、
どこのお店にも所属してない僕は試験道具の手持ちが少ない為、
「現地調達」という賭けに出ました。
JR鶴橋駅は焼肉の匂いが充満していました。
駅から会場の日本理美容専門学校には、多くの理容師が列をつくりました。
試験会場から出てくる先発グループに目を凝らしました。
一斉に会場から出てくる受験者の中に『イッチョカミ藤』の姿を発見しました。
首を伸ばして上に伸び上がるような独特な歩き方は相変わらずでした。
上田「おおーい!藤~!道具貸して!」
声に気付き、やってきた藤の頭は見事な7:3分けでした。
藤「「おう上田!久しぶりやな・・どないしたん?」
「ええーっ!?道具持ってないの?アッカンやん!」
「何いるの?バリカン、パウダー、え?刈布?・・」
「それやったらな、これ、カバンごと持っていき!」
「そのかわり後で家に持って来てくれる?」
「これ、とーちゃんのやねん」
「しかし、ええんかなあ?・・1回使ったヤツ(笑)」
「コレ・・毛だらけやん(笑)」
「しかもこれ・・ごっつい濡れてんでえ(笑)」
「まーまー、無いよりはええもんなあ・・いやホンマに」
藤に借りた「少し毛が付いて少し濡れている道具」で試験を受けました。
実地試験は受験番号順で「相モデル」で行われました。
幸いな事に、相モデルの相手は髭もツルツルで刈りやすい幼い奴でした。
受験内容は、「刈込準備」「刈込み」「シェービング」「衛生」といった感じです。
「刈込準備」はCUTの準備作業です。
相モデル君の首元に藤の少し濡れたタオルを巻きつけました。
相モデル君は少し「ビクッ」と動きました。
相モデル君に藤の毛だらけの刈布を巻きつけました。
相モデル君の目が「ギョッ」と大きくなりました。
運がいいのか、この時に試験官は近くにいませんでした。
既にたっぷりと濡れているもうひとつのタオルで髪の毛のクセを直します。
「刈込み」はスソにバリカンを入れて、スソを鋏で刈込みます。
この作業は実習室で浮浪者相手に場数を踏んでいたので、緊張はしませんでした。
「姿勢」「立ち位置」のほうに意識を集中しました。
最後に7:3に分けて終了です。
「シェービング」は「顔剃り」です。
実際にモデルの顔を剃ります。
「逆剃り」「深剃り」はやりません。
藤に借りた、既に泡だらけのシェービングカップを再度泡立てます。
相モデル君はヒゲが薄く、楽勝でした。
「衛生」は一連の作業に対する「清潔さ」を求めるもので、
定期的に首元の毛を払ったり、一度使ったものには手を触れない、
といった「技術」とは別のものでした。
これに関しては「最悪」でした。
借り物の「毛だらけ」「泡だらけ」「濡れ濡れタオル」、
試験官に見られてなかったと思うが・・・。
交代して自分がモデルになります。
相モデル君はガチガチに緊張していて手はずっと震えていました。
改めて周りを見渡すと、みんなかなり緊張していました。
無職の僕はある意味うまい具合に開き直れました。
きちんと7:3に分けられ、無事に実地試験が終了しました。
そのまま関美に向かいました。
実習室には試験帰りの同期の連中がたむろしていて、
7:3分けの頭でやってくる一人一人に笑いがおきました。
しかし、
僕だけが違った理由で笑われました。
「上田何やその頭は!?後ろエライ事になってんで~!」」
合わせ鏡で頭の後ろを見てビックリ!
耳周り、襟足、が「ワカメちゃん」のように剃りあげられていました。
「・・あのガキ、許さん!!」
後日、試験は無事に合格しました。
(相モデルのヤツは勿論不合格)
「住み込み」では募集が少ないということで
アパートを借りる事にしました。
出発点に戻りたい気持ちで「羽衣」で探しました。
羽衣不動産のお兄さんが
「あんた、前住んでた所の一階が空いてるで」というので、すぐに決めました。
その足で早速『オバタリアン達』に挨拶に行きました。
「ツバメが帰って来たでー!」
『大村婆さん』と『西田オバサン』は
相も変わらず元気で、大歓迎してくれました。
僕が住んでいた2階の真ん中の部屋は
西岡オバサンの中学生になる娘の部屋になっているそうで、
知っている人達ばかりで安心しました。
僕の新しい部屋は一階で、
階段を登らずに一番手前の部屋で、つまり大村婆さんの真下でした。
大村婆さんのお経は下にも聞こえてきました。
すぐ隣は、
昔僕が洗濯の水をこぼして怒鳴り込まれた『頑固じじい』の部屋で、
恐る恐る挨拶に行きましたが、
以前の勢いは無く、弱々しい老人になっていました。
大村婆さんによると『アル中』ということでした。
一番奥はヤクザ夫婦が住んでいました。
おっさんは小柄ガッチリのパンチ頭でいつも大声を発しながら歩いていました。
大村婆さんによると奥さんはラブホテルで働いているらしいです。
早速、新聞の勧誘が来ました。
上田「イランから帰って!」
しかし、もうそろそろ働かんと食っていけんな・・
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学校の紹介で東大阪の長田の
『カットサロン三四』に住込みで働く事になりました。
「カットサロン三四」のマスターは「がんばれタブチくん」タイプの大柄な人でした。
(頭はしっかりパンチ君)
三四マスター「関美やったら、先生に宮路っておったやろ?」
上田「宮路先生ですか?美しい方でした」
三四マスター「ワシ、親戚になんねん」
上田「えーーッ!?」(有り得ん!)
スタッフは、
小柄ロン毛の30代の職人さん、長崎出身の20代半ばで面長の中習さん、
見習い女性の水本さん、というメンバーで、
お店の中はいかにも仕事が出来そうな「ピリッ」とした空気に包まれていました。
僕は、「助教師」という最終学歴が気に入られ期待されました。
別テナントに2号店出店予定があるらしく、
「将来は君にやって欲しい」と入店2日目の夜のレッスン終了後に言われました。
ところが3日目、4日目になるにつれて、
マスターの機嫌はどんどん悪くなってしまいました。
というのは、僕が仕事を出来ないのがだんだん分かってきたからです。
顔剃りはおろかシャンプーさえも実戦には程遠いのです。
夜のレッスンで一生懸命やればやるほど技術不足が露呈されました。
住まいは店から自転車で2分の所にありました。
文化住宅の二階の部屋で『長崎の先輩』と共同生活でした。
2階まで外付け階段を上り、玄関を開けてすぐに狭い台所で、
ふすまを開けると四畳(これが僕の部屋)、その奥のふすまを開けると先輩の四畳半で、
その向こうのベランダにトイレがあるという縦長の部屋でした。
面長で不器用そうな「長崎の先輩」は基本的に無口で、
喋ろうとする時に一瞬間があるので、会話はいつも一方的に僕のペースでした。
といっても毎日11時半までのレッスンだったので、喋るのは夜8時から9時の晩メシ時間だけでした。
先輩にいつも連れて行かれるのはうどん屋で、
400円のうどんでしたが毎日おごってくれました。
勿論毎回僕も自分の分を払おうとするのですが、
「最初の給料でるまでは・・」と受け取ってくれませんでした。
先輩は自転車に乗る時は(二人乗り)
いつも立ち乗りで、全速でブッ飛ばすので、後ろに乗っている僕にはとても迷惑でした。
先輩は週に一回しか風呂に入りませんでした。
僕が銭湯から帰るといつも先輩の部屋から「ウイーン」とビデオテープの出てくる音がしました。
「12時以降は寝るから俺の部屋立ち入り禁止」
と言われていましたが、12時以降はとても怪しい部屋でした。
それから、何故か先輩は月曜日の休みは丸一日居ませんでした。
毎日のレッスンはこの先輩と二人だけでした。
マスターに怒られるのも先輩ばかりでした。
僕は変に優遇されていて、
仕事のできない僕への当てつけに先輩が叱られているような気がしました。
二週間後、
いつものうどん屋で先輩の給料を聞いて驚きました。
何と、僕と同じなのです。
「あんなに僕より仕事出来るのに・・」
「年上なのに、・・・」
「あ、オレ毎日おごってもらってる・・」
その夜はなかなか寝付けず、イヤホンで音楽を聞いていました。
「ダンダンダン」と誰かが階段を上がって来ました。
「おーい、開けてくれー」
酒に酔ったマスターでした。
三四マスター「上田君、12時消灯言うたやん!」
「おーいそっちおるかー?」
先輩登場、寝起きとは思えない機敏な反応。
(どうやらこの抜き打ちチェックたまにやってるな・・)
また先輩怒られ役、
三四マスター「お前がちゃんとせんからあかんのや!」
「何んやコレ」
「お前らこの台所ちゃんと使っとんのか?」
「洗剤ひとつ無いやないか」
「何んじゃこのトイレ!」
「ホース持って来い!今から掃除せェ!」
始めから終わりまでイライラと叱って帰っていきました。
上田「すみません、僕が電気つけてたから・・」
「すんませんでした、あ、僕がやります・・」
申し訳ない気持ちで謝りました。
先輩「ええワ、俺がやる」
「あのオッサン奥さんと喧嘩したらいつもああや」
「気にすんな!あー、しかし腹立つなあ」
一瞬の間もなくスラスラと先輩のペースでしばらく喋りました。
それから少しして、
マスターが空手の師範で道場も持っていて、
毎週月曜日は従業員一同強制的に通わされている事を知りました。
三四マスター「上田君もそろそろやるか?」(熊のポーズ)
これが決め手になりました。
上田「あの、マスター、お店辞めさせていただきます」
協議の結果、マスターの意向で店を辞める理由が
何故か「学校の先生に呼ばれて学校に帰る」になりました。
それと営業中のうちにいなくなってほしいとのことで、
挨拶もそこそこに少ない給料を手に立ち去りました。
さて、またまた引越しをしなければいけません。
「長崎の先輩」にはきちんと挨拶したかったのですが、
先輩の部屋にお礼の走り書きを置くのが精一杯でした。
たまたますぐ近くに小さな運送会社がありました。
社長との掛け合いの上、二つの条件で泉南まで一万円で引き受けてくれました。
・僕が助手席に乗り荷物運搬のサポートをする。
・最後にドライバーにチップを渡す。
ドライバーは40代の蟹江敬三似で非常に無口でした。
「ココ曲がるか?」と、
途中止まって自販機の前で「いるか?」だけしか言いませんでした。
カーラジオが無ければ地獄の2時間でした。
泉南の親戚の家に着いたとき、20歳の僕は40代の蟹江似にチップ千円を渡しました。
蟹江似はそれほどゴキゲンになれずアッサリ帰っていきました。
予告もなしに荷物と共に戻って来たので親戚のオバサンは大変驚いていましたが、
すぐに豪快に笑い飛ばしました。
「ま、ゆっくりしていき」
■31■
■30■
なんだか落ち込んできた僕は、友人『えひめ福嶋』の所に向かいました。
福嶋の仕事が終わるのを待って、一晩泊めてもらうことにしました。
「牛丼でも食いに行くか!?奢ったるワ!」
仕事を終えた「福嶋」が少し疲れた顔でいいました。
近くの吉野家に入りました。
福嶋「え~~っと、特盛りと大盛りをちょうだい!」
カウンターでお茶をすすりました。
店員「ハイお待ちぃー、特盛りに大盛り・・」
「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
福嶋「・・お前ェ、何にも食わんのか?」
上田「ええーッ!?それ1個オレのじゃないんか!?」
「お前・・2個も食うんか!?」
「あ、え~っと、大盛りください!」
大食漢の福嶋は徐々に太りはじめていました。
福嶋「オレのアパートは凄ぇぞ、驚くなよ」
「あそこや!」
福嶋が指差したのは中津のオンボロアパートの3階でした。
玄関は下駄箱の多さに比べ、靴はほんの少ししかありませんでした。
とりあえず靴を脱いでいると、
その横を福嶋は土足で上がりました・・
上田「オイッ!」
福嶋「アホゥ、ここは脱がんでええんや」
先に「ダンダン」と靴音をたてて室内の階段を上っていきます。
(なるほど、玄関に靴が少ないハズや・・)
僕も少しイケない気持ちで「ダンダン」と続きました。
3階に着く頃には早くも土足の罪悪感は消えていました。
廊下の突き当たりが福嶋の部屋でした。
ドアを開けてビックリ、
4畳半の部屋は足の踏み場もなく散らかっていました。
上田「きったないな~」
部屋に入ろうとすると止められました。
福嶋「アホゥ、靴脱がんかい!」
どうみても部屋の中の方が汚かったのだが、仕方なく靴を脱いで入りました。
上田「これは人間の住むところじゃないぞ~」
福嶋「まあその辺に適当に座れや」
正直何処にも座れそうなところもなく、一番被害の少なそうなところに腰を下ろしました。
「バリバリバリ」
上田「おい、何か潰れたぞ、ええんか?」
福嶋「お前ェ、何てことするんや!ラーメン粉々やないか!」
上田「スマン、スマン、ゴミ箱何処や?」
福嶋が指差したのはゴミ箱ではなく、ゴミが満タンに入ったゴミ袋でした。
青い半透明のゴミ袋には丸められたティッシュが大量に入っていて、
異様な「男の臭い」を放っていました。
上田「・・・お前な・・」
福嶋「長ェ~こと風邪引ぃとってのう・・」
近くにあったエロ本を開くと、ページをめくる度にバリバリと音を立てました。
しばらくすると福嶋の友達がやってきました。
「まいどぉ~~!!」
福嶋「おう!健ちゃん!」
『健ちゃん』は同じ年の山口県出身のかけだしの漫才師でした。
『ショウショウ』という名前の二人組、羽田昇二・昇平の『羽田昇平』のほうでした。
「健ちゃん」はきちんとドア付近で靴を脱いで部屋に入りました。
漫才修行中の健ちゃんはまだまだ売れないらしく、
「家賃なんかかなり滞納してるでェ~」と言いながら僕のタバコを当たり前のようにふかしました。
また、
「健ちゃん」はいかにも『ヨシモトの芸人』らしく何処でも脱いでチンチンを出します。
その出したチンチンを懐中電灯でチカチカ照らすのは僕の役目でした。
「健ちゃん」は練習中のモノマネを一生懸命披露するのですが、
たいして似てないものが多く、笑えるのは「一休さん」に出てくる「シン衛門さん」だけでした。
福嶋「バッティングセンターでもいくか?」
3人で近所にあるバッティングセンターに行きました。
元男子ソフトボール部の僕はいいところを見せようと頑張りましたが、
速球を「カンカン」と弾き返したのは「健ちゃん」でした。
「健ちゃん」は南陽工業出身で、以前に野球の経験もあるようでした。
健「もう疲れたから帰るワ!」
「一休さああああんっ!!」
若手芸人らしく仮想の馬の手綱をひきながら帰っていきました。
福嶋「何か物足りんのう」
「上田!気晴らしに俺の【必殺の車】で攻めに行くか?」
上田「バイクじゃなくて車!?買うたんか?」
福嶋「15万や、必殺やぞ!待っとけや」
アパートの前で待っていると、『必殺の車』に乗って福嶋がやって来ました。
中古の軽自動車、「スズキ・セルボ」でした。
その車はいかにも必殺らしく
「ナイトライダー」と呼ばれる電飾が車の側面に付いていて、
ブレーキを踏む度に「ピカピカッ、ピカピカッ」と光ります。
上田「・・・、ホンマにコレに乗らんといかんのか?」
仕方なく助手席のドアを開けて乗り込みました。
車高も随分落としているらしく、予想以上に腰が低く落ちました。
福嶋「アホゥ、靴脱がんかい!」
上田「ウソやろ!?土禁!?地面のほうがきれいやぞ!」
車内は下世話なコロンの臭いが充満していました。
上田「ちょっと窓開けるぞ!」
福嶋「アカン!エアコンつけるから閉めろ」
仕方なく小さなハンドルをグルグル回して窓を閉めました。
福嶋「・・・・んんッ」
「プ~~~ッ、プスプス~」
上田「お前な・・、ウワッ!くっさー!何食っとんねん日頃」
急いでグルグル回して窓を開けました。
福嶋「ハハハ!ようし行くぞー!」
アクセルを踏むと「バリバリバリ」と異様な爆音がしました。
行き先は生駒ドライブウェイでした。
生駒山は深夜にもかかわらず、「走り屋」と呼ばれる連中が運転技術を競っていました。
特にヘアピンカーブは腕の見せ所らしく、物凄いタイヤ音を残して曲がっていきます。
それを見たり応援している「期待族」と呼ばれる連中もたくさんいて、
車が通過するたびにワーワーギャーギャーと騒ぐのでした。
福嶋「よしいくぞ!!」
福嶋の声と同時ぐらいに後ろから白いフェアレディZに物凄いスピードで抜かれ、
物凄くカッコよくカーブを切って去っていきました。
ギャラリーも大変興奮していました。
運悪く、その後に続く僕らの『必殺の車』は、
「ぼぼぼぼぼ、ばりばりばり」と音だけは頑張るのですが、
超低速でカーブを切り、なおかつ福嶋が何度もブレーキを踏んだ為、
魔の「ナイトライダー」がひっきりなしに「チカチカ」してしまいました。
振り返り「期待族」の反応を見ましたが、案の定ゲラゲラ笑われてしまいました。
生駒山を下りきった所で夜中のラーメンを食べました。
何だかとてもすっきりして「明日から頑張ろう」と思いました。
帰りの車に乗り込む時はちゃんと靴を脱ぎました。
小雨が降ってきました。
福嶋が突然ブレーキを踏みました。
ナイトライダーがチカチカしました。
その先にはエロ本の自販機がありました。
福嶋「買うか?」
上田「買おか・・」
先に車を出ました。
福嶋「ああっ!」
「靴がねえ!(無い)」
自分で「土禁」にしているくせに忘れるとは・・
おそらくラーメン屋の駐車場に一足だけポツンとあるのでしょう。
上田「どうする、生駒まで取りに帰るか?」
福嶋「わざわざ取りに帰って無かったら嫌やしのぉ、もうええワ」
「あ~~しもぅたのぉ、あの靴『いぶさんろーらん』やぞぉ!」
「そーとー悔しいワ」
福嶋「おい上田、片方だけ靴貸せ・・」
上田「は?・・・お前まさか・・」
小雨の降る中、
僕らはそれぞれ片方だけ靴を履き、肩を組んでケンケンでエロ本を買ったのでした。
アパートに着いた福嶋は、さっそく玄関に置かれた少ない靴の中から一つ盗みました。
福嶋「盗む?失礼な、借りるんや!」
汚い部屋に帰りエロ本を読んでいましたが、さすがに眠くなってきました。
上田「もう見たからこれお前にやるワ」
福嶋「ホンマにエエんか?・・おまえ・・すげえな!」
福嶋は目を輝かし、大袈裟に喜びました。
上田「それよりオレもう寝るワ」
「シャツ濡れたから何か着替え無いか?」
福嶋「オシャレやのう、ちょっと待てよ・・」
押入れの中の3段ケースを開けてシャツの臭いを嗅ぎはじめました。
福嶋「これアカン」(ポイッ)
「これもアカン」(ポイッ)
上田「あ~~、もうええワ福嶋、このまま寝るワ」
福嶋「あった!あった上田!あったぞ!」
「これぜってェ(絶対)キレイや!・・ホンマぜってェやて!」
仕方なくそれを着ました。
ゴミを除けてスペースを作り、バタンと横になりました。
少しモヤモヤが吹っ切れた感じがしました。
「よし、明日学校へ行って就職決めるぞ!」
「・・・ありがとうな福嶋」と思いながら寝ました。
朝になり、流し台で顔を洗いました。
上田「タオルくれ!」
福嶋「・・それで拭け!」
福嶋が指差したのはタオルではなく
『カーテン』でした・・・
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