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クラスには地方出身者もたくさんいました。
三重の『富長』(ぷっつん女子)
岡山の『中崎』(オカッパ女子)
徳島の『宮下』
「宮下」は度の強い黒縁メガネを中指でカクカクさせながら、
「君達、常識じゃないな~」などと挑発的に言うので、
「恐竜辻神バックドロップ」で何回もメガネ割られました。
高知東洋町の『谷田』
谷田は三上ヒロシ似の男前のサーファーで、ほぼ毎日遅刻してきます。
同じく遅刻常習者の『岩下』は自称ドイツ人とのハーフで、
(見かけはバリバリの歯抜けの日本人)
「チャーリー」と呼んでくれ!と皆に催促します。
和歌山の『水落君』
「水落君」はメガネをかけた柳沢シンゴ似で、がっちりとした体をしていました。
2歳年上で海上の仕事を辞めて、陸で仕事するために手に職を付けるのだそうです。
性格は温厚で、通学は同じ南海電車でした。
南海電車組は「恐竜辻神」「暴走族チクリン」「シンナー連中」など、
ガラの悪い連中が多かったので、「普通」の僕達は自然と仲良くなりました。
教室前方に座っていた男が僕のところにやってきました。
男「おい上田、お前高知らしいな」
言葉のイントネーションからして大阪弁ではありません。
上田「オレ高知や、お前どこよ?」
男「俺愛媛!」
上田「おおー!四国四国!!」(握手)
愛媛出身の『福嶋』は色白で背が高く、マイケル富岡に似た男前でした。
「福嶋」は愛媛八幡浜出身でした。
僕と同じような方言、母が美容師、誕生日が1日違い、何かと共通点が多く親近感が湧きました。
「福嶋」は方言がなかなか抜けません。
「お前訛ってるぞー!」と言われると、「訛ってねえやねえか!」と言い返します。
「そげナ馬鹿なー」「いけん!いけん!」が口癖でした。
この男とは波長が合って、休日も一緒に遊ぶようになりました。
休日、福嶋と梅田に遊びに行くことになりました。
とりあえずボサボサ髪を朝イチで散髪です。
羽衣駅裏の住宅街の中にキレイな散髪屋があり、飛び込みました。
「学生です」「専門学校です」「関美です」
CUTされながら店主に聞かれる通りに素直に応えました。
店主「君はどうしてお店に入ってないの?」
聞かれている意味がよく分かりませんでした。
「理美容学校は働きながら通うものだ」と説教までされました。
散髪を済まし、何だかすっきりしないまま待ち合わせの難波に向かいました。
難波までは通学定期で行けます。
難波に到着すると、突然後ろから声を掛けられました。
「自衛隊に入りませんか!?」
田舎者で世間知らずな僕でも、そのテの勧誘はしっかりと断りました。
「映画のアンケートですが、答えて頂けないですか!?」
ぴったりと張り付かれ、歩調を合わしてまで付きまとわれました。
「・・・(これに答えたらどうなるんやろう)」
田舎者の待ち合わせ場所は決まって「ロケット広場」でした。
ロケット広場は「高島屋」と「なんばCITY」の通路にあり、
地下から吹き抜けた広場には文字通り大きなロケットがそびえ立っていました。
福嶋と合流し、「梅田」に向かいました。
「難波」と「梅田」は地下鉄御堂筋線でつながっています。
難波~心斎橋~本町~淀屋橋~梅田と、そんなに遠くではありません。
大阪の繁華街は大きく分けると「難波」と「梅田」に分かれます。
「難波」(通称ミナミ)は遊び人が多い下世話な繁華街で、
「梅田」(通称キタ)は大学生やスーツ姿のサラリーマンが多い
少し上品な繁華街という感じでした。
地下街なども難波の「虹のまち」に対し、梅田は「阪急32番街」などとシャレています。
「阪急百貨店」と「32番街」をつなぐ通路には、
外国の教会のような美しいステンドグラスがありました。
「登ってみるか・・」
「32番街」のビルの最上階(31F)は、あたりを展望できるらしく、上ることにしました。
上に上るエレベーターを探します。
驚いたことにエレベーターがたくさんありすぎて、どれに乗ればいいのか迷いました。
「キ~ン」「キ~ン」
何度も耳をやられながら、最上階に到着しました。
ガラス張りのフロアは息を飲むほどの絶景でした。
幾つもの高層ビルを見下ろし、思わず吸い込まれそうな錯覚におそわれます。
地上の車はアリンコのように小さく、
淀川に架かる橋は車用と電車用が並行していて、それが何本も架かっていました。
福嶋「すげ~な上田・・」
上田「すごいな・・オレらこんなところに住んでるんか」
田舎者二人がガラスに張り付きました。
大阪が大都会であることを改めて思い知らされました。
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大阪人はケンカも大好きでした。
なかでも高校中退組の『辻神』は【恐竜】とあだ名が付くほどの暴れっぷりでした。
「辻神」はオールバックで一寸だけ前髪を垂らしたリーゼントでした。
「辻神」はプロレスが大好きで、
いつもブレザーのジャケットの袖を腕まくりしていました。
高く上げた方の肘を叩き「来いや!、来いや!」とシャガレ声で挑発します。
「辻神」は
大阪府立体育館に来た全日本プロレスのプロレスラーに向かい、
「カカッテ来んかい!カカッテ来んかい!」とシャガレ声で叫びます。
「辻神」は
気に入らない奴(高卒組・黒ぶちメガネ宮下・徳島出身)を道端でバックドロップします。
「辻神」は
休み時間に教室でタバコを吸って火の付いたままのタバコを窓から投げます。(3階から)
「辻神」の
お父さんは刑務所から長い間帰って来られません。
中卒・色白のおとなしい奴(あだ名イソップ)が、
トイレで美容科パンチ君にからまれていました。
「辻神」が子分を連れて「ウォラーッ!行けェー!」と飛んでいきす。
「理容科」がケンカで負けることは殆どありませんでした。
「ケンカ即退学」とはいうものの、ケンカが原因で学校を辞めた者はいませんでした。
「ヤンキー学校関美学園」は、理容科VS美容科のケンカが頻繁にありました。
理容科主任の「長島先生」と美容科の『背の高いオカマっぽい先生』が
廊下で頭を下げあっている事がよくありました。
「辻神」は年上にも平気で暴言を吐きます。
理容科の年上女子『堀江ネエさん』(24歳)と『玉居おばさん』(37歳)は、
他の女の子を守るためによく男子に立ち向かいました。
「玉居おばさん」はクラスで唯一まともな大人でしたが、
一人だけ「おばさん」であることと、笑うとピンクの歯茎が目立つので
容赦ない言葉でいじめられました。
堀江ネエ「あんたらそんなに女の子いじめんといてや!」
藤(遠くから立ち上がり)
「だまれ!しゃくれ!」(堀江さんはアゴが出ています)
堀之口「まあまあノビヒロ君、お前が出てきたらややこしいから・・」
玉居さん「そうや、藤君には関係ないから黙っといて!」
藤「こりゃ、マイッタ、マイッタ、タマイの歯ぐきやなあ~」
玉居さん「そんなん言わんといてえや!」
「辻神」(突然立ち上がり大きく指を差し)
「歯ぐきィー!お前が悪いんやー!お前が悪いんやー!」
長島先生「コラァ!!お前らええかげんにせえよ!!」
「辻神」「怒られたぁーー、オロロンオロロン~~」
「辻神」は
僕と同じ南海電車でした。
たまに一緒に帰らなければなりませんでした。
それはもう大変でした。
「辻神」は
下校途中、突然自転車に乗った女子高校生の首をめがけて
「ダアッー!」といってアックスボンバーでなぎ倒します。
女子高校生は「キャーーッ」と悲鳴をあげて倒れます。
「辻神」は
電車が発車しそうになると「上田君早よ行くで!それ行けーーッ!」
と言いながら片腕を前にのばし、仮面ライダーのように走ります。
電車の扉が両側から閉まりそうになるのを片膝ついて両腕で堰き止め、
「ぬおー!ぬおーッ!」と言って目をつぶり、腕をプルプルしながら踏ん張ります。
危険防止の為、扉が自動で開いたのをいいことに、
「ウオーッ!やったァ!勝ったァ!!だあーーーッ!!」
と勝ち誇った様に拳を突き上げます。
その後すぐに「上田君!おいで!おいで~!」と誘うのです。
仕方なく、乗客の視線を浴びながら乗り込みと、
「フーッ、よかったよかった」と早くもタバコに火をつけています。
(もちろん車内禁煙)
「辻神!電車の中ではタバコやめとけや!」と注意すると
「おお、そうか!?スマン、スマン」と言って
走行中の電車の窓から火の付いたままのタバコを放り投げるのでした。
辻神「んん~??」
「上田君、あそこに2人組の学生おるやろ」
「アレな、一人ボコボコにしたら後で集団でくるから気ぃつけや~」
上田「・・・(お前より気ぃつけなアカンやつおるんか?)」
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理容科の授業は主に副主任「7:3古尾先生」と「若い藤本先生」が進めました。
「古尾先生」の授業はいつもピリピリしていて大変でした。
「授業中私語禁止!!」と早口できつく怒鳴り、
物音もしない静寂が訪れるまで何分でも睨み続けます。
細身の体の動きは限りなくロボットで、
軍隊のような授業は評判が悪く、すぐに反発する者が現れました。
高卒の『藤君』はいかにも典型的な大阪人で、古尾先生に対してもお構いなしでした。
古尾「遅刻してきた者は罰則!!前に立って鋏操作しなさい!」
藤「いやいやちょっと待ってぇな、ちょっと聞いてください」
「朝ウンコしようと思ったら、先にオカンが入ってあんねん」
「早よせえ!言うてもな、なかなか出てきよらへんねん」
「学校遅刻するやんけ!!いうてもアカンねん」
「ウンコ我慢したらお腹痛なるからな」
「もう我慢限界で腹立って冷蔵庫殴ってん!ガンいうて」
「見て先生、手ェ血だらけや、ホラ・・」
「・・よう見たら血ぃ出てへんけど」
「・・よう見たら皮ちょっと剥けてるだけやけど」
「まあまあまあ、そんなんでちょっとだけ遅れた訳ですワ」
古尾「いい訳無用!さっさと前に立ちなさい!」
藤「いやいや先生、前に立たなアカンのは僕のオカンですワ」
「連れて来ましょか・・、まだウンコしてるかもしれんけど(笑)」
「堅物古尾vsお笑い藤」はまるで大阪名物「新喜劇」のようでした。
「藤」は洋楽に詳しくて、僕達はそれで仲良くなりました。
時代の流れで、レコード盤からCD盤に替わり始めていました。
僕はCDの「チキチキ」した音が嫌いで、路上で外人が売っている海賊版の洋楽テープを買ったりしました。
しかし新しく発売されるものはもうCDばかりで、
CDデッキを持っていない僕は藤によくダビングを頼みました。
「藤」は、
遠くを見回すようにアゴをあげて首を伸ばすのがクセでした。
何故か「ギッコンバッタン」と歩きました。
常に教室の隅々までチェックしているようで、
遠くからでも「それアカンでぇ~!それはな・・」とツッコミを入れます。
典型的な関西の「イッチョカミ」です。
下校時、学校近所のガンショップで発砲事件があったらしく、
報道陣が群がっていました。
「誰かこのガンショップについて知ってる人はいませんかー!?」
TVカメラの横でリポーターが僕達に問いかけました。
「知ってる知ってる知りすぎですワー」
「これって何チャン?関西テレビ?何時のニュース?」
たぶん何も知らないであろう「藤」が興奮しました。
当然藤にカメラが向けられ、インタビューが始まりました。
藤「いやいや、いつかはこんなんなると思ってましたワ~」
傍で見ていた幼顔仲田がつぶやきました。
仲田「上田君、あのカメラよう見てみ、電源入っとらへんワ(笑)」
イッチョカミ藤のなだめ役は同じ高卒組の『堀之口君』でした。
『堀之口』も根っからの大阪人で、
毛深い顔とデカイ体で一番後ろの席にドシンと座っていました。
「堀之口」は大柄な体に似合わず胃腸が悪いらしく、
よくトイレに行っては「またコーン出たワ」とダミ声で言いました。
堀之口「俺ナ、ごっつい胃腸悪ぅてナ」
「スイカ食ったら必ずウンコの中にタネ混じってあるねん!」
「コーン食ったらコーン出てくるねん!」
「それでナ・・この前なんかナ・・ウンコ済んでナ・・」
「拭いても拭いてもケツに残ってるウンコがあんねん!」
藤「拭いても拭いてもか?」
堀之口「そ、そ、拭いても拭いてもやねん!」
「それでナ、勇気もって紙丸めて摘んでみてん・・・」
「そしたらナ・・」
「クソにまみれた糸コンがトゥルルルルッと出たねん!!」
「ガハハハ!」
藤「・・お前、ケツ之口やなあ~!」
堀之口「やかましわ!皮がノビヒロ~!(藤ノブヒロ)」
堀之口と藤にはよくディスコに連れて行ってもらいました。
「NASA21」「ダンバー363」に「マハラジャ」。
入り口でキメキメ店員による服装チェックなんかがあって、服にはかなり気を遣いました。
「NASA21」は、堀之口がバイトしている関係でよく行きました。
「ハレル~ヤ♪ハレル~ヤ♪・・」
流行のユーロビートがガンガンかかっていて、みんな曲に合わせて同じ踊りをしていました。
堀之口と藤は踊り慣れていてとても格好良く見えました。
僕は少し踊ってはカウンターで酒を飲み、
どちらかというと「雰囲気」に酔っていました。
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