はなのいろは ゆきにまじりて みえずとも かをだににほへ ひとのしるべく
花の色は 雪にまじりて 見えずとも 香をだににほへ 人の知るべく
小野篁
花の色は降る雪に隠れて見えないとしても、せめて香だけでも匂っておくれ。そこに梅の花があると人にわかるように。
詞書には「梅の花に雪の降れるをよめる」とあります。咲いているのに姿の見えない梅の花を、せめてその香りだけでも感じたい、という主題は、0091 の歌と共通しますね。
はなのいろは かすみにこめて みせずとも かをだにぬすめ はるのやまかぜ
花の色は 霞にこめて 見せずとも 香をだにぬすめ 春の山風
良岑宗貞
作者の小野篁(おの の たかむら)は、初登場。平安時代初期の貴族で、その中でも「公卿」と総称される高い地位を得た人物ですが、一時期は天皇の怒りをかって隠岐に流されるなど、波乱の人生を送っています。歌人としては、古今集に六首が入集。流罪となり隠岐に渡る際に詠んだ 0407 は百人一首(第11番)にも採録されています。
わたのはら やそじまかけて こぎいでぬと ひとにはつげよ あまのつりぶね
わたの原 八十島かけて 漕ぎ出でぬと 人にはつげよ 海人の釣り舟