漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

古今和歌集 0454

2021-01-26 19:49:07 | 古今和歌集

いささめに ときまつまにぞ ひはへぬる こころばせをば ひとにみえつつ

いささめに 時待つまにぞ 日は経ぬむ 心ばせをば 人に見えつつ

 

紀乳母

 

 かりそめに時を待っている間に日が経ってしまった。私の思いだけは知らせているのに。

 愛しい人に思いを伝えるだけつたえてただ待っている間に、時だけがいたずらに過ぎ去っていくむなしさというところでしょうか。隠し題は「いささめに ときまつまにぞ ひはへぬる こころばせをば ひとにみえつつ」と、「笹」「松」「枇杷」「芭蕉葉」の4つもの言葉が詠み込まれています。(「ばせをば」以外はたまたまという気も正直しますが、まあそれは言いっこなしですね ^^;;)
 作者の紀乳母(き の めのと)は平安時代前期の女官で、紀全子(き の ぜんし)のこと。第57代陽成天皇の乳母であったことからこう呼ばれていたようです。古今集には 1028 でもう一度登場します。

 

 


古今和歌集 0453

2021-01-25 19:50:57 | 古今和歌集

けぶりたち もゆともみえぬ くさのはを たれかわらびと なづけそめけむ

煙立ち もゆとも見えぬ 草の葉を たれかわらびと 名づけそめけむ

 

真静法師

 

 煙が立って燃えているようにも見えない草の葉を、一体誰が最初に「わらび」と名付けたのだろうか。

 本歌は、植物名としての「わらび(蕨)」が「藁火」と同音であることに着目してその面白みを詠んだもので、手法としては掛詞に他なりませんが、物名歌に分類されています。隠し題以外の歌では、0439 で折句の歌が物名歌として採録されていますが、本歌も物名歌の範囲を広くとらえた編纂と言えるでしょうか。
 作者の真静法師(しんせいほうし)は、手元の解説本によると河内国に存した人物。0556 の安倍清之の歌の詞書に小野小町とともに記載がありますので、この両者と同時代の人物でしょう。古今集では、0921 で再度登場します。

 


古今和歌集 0452

2021-01-24 19:36:56 | 古今和歌集

さよふけて なかばたけゆく ひさかたの つきふきかへせ あきのやまかぜ

さ夜更けて なかばたけゆく ひさかたの 月吹きかへせ 秋の山風

 

景式王

 

 夜が更けて、なかば西に傾きかけた月を吹き戻しておくれ、秋の山風よ。

 「たけゆく」は「長けゆく」で盛りを過ぎること。「ひさかたの」はいろいろな言葉に掛かりますが、ここでは「月」に掛かる枕詞ですね。隠し題は「なかばたけゆく」に詠み込まれた「かはたけ」です。
 作者の景式王(かげのり の おほきみ)は第55代文徳天皇の孫にあたる人物。古今集には本歌と 0786 の二首が入集しています。勅撰集全体で見ても入集はこの二首のみのようです。


古今和歌集 0451

2021-01-23 19:30:01 | 古今和歌集

いのちとて つゆをたのむに かたければ ものわびしらに なくのべのむし

命とて 露をたのむに かたければ ものわびしらに 鳴く野辺の虫

 

在原滋春

 

 露が命をつなぐ糧であるとしても、その露もすぐにはかなく消えてしまうからであろうか。物寂し気に鳴く野辺の虫であることよ。

 当時、虫は露を吸って命の糧とすると考えられていたとのこと。隠し題は「つゆをたのむに かたければ」と詠み込まれた「にがたけ」です。


古今和歌集 0450

2021-01-22 19:46:00 | 古今和歌集

はなのいろは ただひとさかり こけれども かへすかへすぞ つゆはそめける

花の色は ただひとさかり 濃けれども 返す返すぞ 露は染めける

 

高向利春

 

 花の色は盛りの一時期だけ濃いけれども、それは露が繰り返し繰り返し染めたものなのだな。

 露が花を色濃く染めるというモチーフは 0444 にもありましたね。隠し題は「ただひとさかり こけれども」に詠み込まれた「さがりごけ」で、サルオガセのことです。
 作者の高向利春(たかむこ の としはる)は、平安時代前期の貴族にして歌人。勅撰集への入集は古今集のこの一首のみです。