漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

貫之集 070

2023-06-25 05:52:28 | 貫之集

まつをのみ たのみてさける ふぢのはな ちとせののちは いかかとぞみる

松をのみ たのみて咲ける 藤の花 千歳ののちは いかかとぞ見る

 

松だけをたのみして咲いている藤の花は、千年ののちはどうなっているのだろうかと思って見ている。

 

 050 に続いて、松に絡んで咲いている藤を詠んだ作。私自身は実際に見たことはありませんが、藤は松に絡まるように咲いている場合は多いのかな?


貫之集 069

2023-06-24 06:30:47 | 貫之集

うぐひすの たえずなきつる あをやぎの いとうきふしの なくもあらなむ

鶯の たえず鳴きつる 青柳の いとうきふしの なくもあらなむ

 

ひどく辛いようなことは、ないようにしてほしいものだ。

 

 第三句までが、第四句冒頭の「いと」を導く序詞で、かつ、「いと」が序詞に導かれる言葉としての「糸」と、「ひどく、大変な」の意の副詞「いと」の掛詞になっています。従って、実質的な歌意を表しているのは第四句、第五句だけということになりますね。


貫之集 068

2023-06-23 05:27:18 | 貫之集

わかなつむ われをひとみば あさみどり のべのかすみも たちかくさなむ

若菜摘む われを人見ば あさ緑 野辺の霞も 立ちかくさなむ

 

若菜を摘む私の姿をもし人が見ることがあったならば、浅緑の野辺の霞もすぐに立ち広がって、私の姿を隠してほしい。

 

 若い娘の恥じらいの気持ちを詠んだ歌とされます。同じモチーフの類歌が 250 にも登場しますね。

 

のべなるを ひとやみるとて わかなつむ われをかすみの たちかくすらむ

野辺なるを 人や見るとて 若菜摘む われを霞の 立ちかくすらむ


貫之集 067

2023-06-22 05:35:28 | 貫之集

うめがえに ふりかかりてぞ しらゆきの はなのたよりに をらるべらなる

梅が枝に 降りかかりてぞ 白雪の 花のたよりに 折らるべらなる

 

梅の枝に白雪が降りかかっていて、それが花のように見えるので枝が折られてしまうのだろう。

 

 水面に映る情景と並んで貫之が得意とする「見立て」。枝に降る雪を梅の花に見立てての一首ですが、それを「花のたよりに」の一言で表現しきってしまうのが手練れの技ですね。

 この歌は、拾遺和歌集(巻第一 「春」 第13番)にも入集しています。


貫之集 066

2023-06-21 05:49:18 | 貫之集

延喜十七年八月、宣旨によりて

ひとはむべ おそくしりけむ うめのはな さけるのちにぞ はるもきにける

人はむべ おそく知りけむ 梅の花 咲けるのちにぞ 春もきにける

 

延喜十七年(917年)八月、天皇のご下命によって詠んだ歌。

梅が咲いたあとに立春となったので、なるほど、人は梅の花よりも遅く春の訪れを知ったというわけなのであろう。

 

 暦と実際の季節の風物の時期のズレに着目して、それを「おもしろいもの」として詠んだ歌ですね。