「緊急」という割には息継ぎが必要なくらい長い名称です。
きっかけは昨日のこのニュース。
不動産株の一角が底堅い、CSはセクターウエート引き上げ
(2008年 10月 23日 13:20 ロイター)
不動産株の一角が底堅い動きとなっている。クレディ・スイス証券が東急不動産と東京建物の投資判断を「アンダーパフォーム」から「アウトパフォーム」に引き上げるとともに、不動産のセクターウエートも「アンダーウエート」から「オーバーウエート」に引き上げたことなどを材料視した。
同証券では、21日に発表された原材料価格高騰対応等緊急保証が上場企業の信用リスクを低下させる可能性があるとみている。98年10月から2001年3月まで実施された中小企業金融安定化特別保証制度は、不動産株を上昇させる効果があったと同証券は分析。緊急保証によって、倒産懸念から上昇した信用クレジットは一時的に沈静化する可能性があるとしている。
レポートの中身を見たわけではないのですが、「中小企業」の定義からいって上場不動産会社自身や工事を発注するゼネコン、投資用不動産の購入者などはこの政策の対象にはならなそうですし、下請業者が倒産してももともと直接には影響はないはずです。
ということで制度の中身を見てみると
原材料価格高騰対応等緊急保証制度が始まります。
(平成20年10月21日 経済産業省・中小企業庁)
「安心実現のための緊急総合対策(8月29日に政府与党決定)」において決定された新しい保証制度「原材料価格高騰対応等緊急保証」を10月31日に開始します。
本制度は、原油に加え原材料価格の高騰や仕入価格の高騰を転嫁できていない中小企業者の資金繰りを支援するため、現行制度の抜本的な拡充・見直しを行ったものです。
1.緊急保証制度では、原材料価格高騰の影響を受ける食品製造業、化学工業、プラスチック製品製造業など、仕入価格高騰の影響を受ける飲食店、卸売業、小売業などが新たに対象業種となりました。
2.対象業種の中小企業者は、金融機関から融資を受ける際に一般保証とは別枠で、無担保保証で8,000万円、普通保証で2億円まで信用保証協会の100%保証を受けることができます。
10月31日から1年半の期間実施されるようです。
また対象になる中小企業は以下のいずれかに該当するものです。(参照)
① 指定業種に属する事業を行っており、最近3か月間の平均売上高等が前年同期比マイナス3%以上の中小企業者。
② 指定業種に属する事業を行っており、製品等原価のうち20%以上を占める原油等の仕入価格が上昇しているにもかかわらず、製品等価格に転嫁できていていない中小企業者。
③ 指定業種に属する事業を行っており、最近3か月間(算出困難な場合は直近決算期)の売上総利益率又は平均営業利益率が前年同期比マイナス3%以上の中小企業者。
現下の信用収縮と原材料価格の高騰に鑑みると、何らかの形の緊急対策が必要だということですね。
ただ、全く見当違いかもしれませんが、素人の素朴な疑問として、この対策で急場しのぎはできるが、中期的にはかえって中小企業の首を絞めることにならないか心配です。
すなわち、保証の要件に「価格転嫁ができないこと」があるために価格転嫁をしないインセンティブが働いたり、制度があることを理由に取引先に価格転嫁をしづらくなってしまうのではないか、ということです。
この制度を利用して当座の資金繰りのめどは立つとしても、融資である以上最低でも毎月利払いは必要で最終的には元本を返済するなり借りかえるなりする必要があります。
ところが肝心の価格転嫁ができないとなると結局じり貧になってしまい、1年半の間に景気が回復しないと利払いが滞ったり、制度終了後は融資が受けられなくなって二次遭難をしてしまいます。
上の記事に戻ると、結局この制度がどうして不動産セクターの信用クレジットの沈静化に通じるかがよくわかりませんでした。
また過去の同様の制度は「不動産株を上昇させる効果があった」ということですが、ひょっとして不動産会社がこの制度があることを利用して建築業者(ひいては下請業者)に価格転嫁を認めずに利益をあげていた、ということなのでしょうか(でもそういうレポートってあまりおおっぴらにしにくそうですが)。
この制度は「緊急」で1年半の期間限定のものですが、その意味では、政府も景気刺激策をとって1年半の間に景気を回復基調にのせるか少なくとも金融を安定化させるという覚悟の表明なのかもしれません。(単に延長でお茶を濁すかもしれないけど)
最後に、もっと斜に構えた見方をすると、最初から倒産前提の取り込み詐欺が起きたり、地方金融機関が貸倒リスクを軽減するためにリファイナンスに使って結局信用供与が増えないということも起るかもしれません。
でもそこは保証協会の審査や金融庁の監督がきちんと機能するのでしょう(多分)。