先生と裁判官に、ごくろうさまです、といいたいような事件です。
小2児童の胸元つかみ叱責 最高裁「体罰に当たらぬ」
(2009年4月29日(水)08:05 産経新聞)
熊本県天草市(旧本渡市)で平成14年、臨時教員の男性が当時小学2年生だった男児の胸元をつかんで叱責(しっせき)した行為が、学校教育法で禁じる体罰に当たるかどうかが争われた訴訟の上告審で、最高裁第3小法廷(近藤崇晴裁判長)は28日、「教員の行為は体罰に当たらない」と判断し、体罰を認定して損害賠償を命じた1、2審判決を破棄、原告の請求を棄却した。男児側の敗訴が確定した。
教員の行為が体罰に当たるかどうかが争われた民事訴訟で、最高裁が判断を示したのは初めて。
というか、今までそんなことが最高裁までの争いになったことがなかったんでしょう。
最高裁判決は「殴る、ける」や「肉体的苦痛」を容認したものではなく、体罰の定義も示していない。しかし、許される行為を明示し、体罰か否かを判断する要素として「目的、態様、継続時間」を挙げたことは、指導に戸惑う教育現場にひとつの指針を与えるものになりそうだ。
新聞記事ではもっともらしく書いていますが、判決文を読むと、そもそも民事訴訟で損害賠償請求をするような案件じゃないだろ、という感じの書きぶりです。
平成20(受)981 損害賠償請求事件 平成21年04月28日 最高裁判所第三小法廷 判決 破棄自判 福岡高等裁判所
2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) 被上告人は,平成14年11月当時,本件小学校の2年生の男子であり,身長は約130㎝であった。Aは,その当時,本件小学校の教員として3年3組の担任を務めており,身長は約167㎝であった。Aは,被上告人とは面識がなかった。
(2) Aは,同月26日の1時限目終了後の休み時間に,本件小学校の校舎1階の廊下で,コンピューターをしたいとだだをこねる3年生の男子をしゃがんでなだめていた。
(3) 同所を通り掛かった被上告人は,Aの背中に覆いかぶさるようにして肩をもんだ。Aが離れるように言っても,被上告人は肩をもむのをやめなかったので,Aは,上半身をひねり,右手で被上告人を振りほどいた。
(4) そこに6年生の女子数人が通り掛かったところ,被上告人は,同級生の男子1名と共に,じゃれつくように同人らを蹴り始めた。Aは,これを制止し,このようなことをしてはいけないと注意した。
(5) その後,Aが職員室へ向かおうとしたところ,被上告人は,後ろからAのでん部付近を2回蹴って逃げ出した。
(6) Aは,これに立腹して被上告人を追い掛けて捕まえ,被上告人の胸元の洋服を右手でつかんで壁に押し当て,大声で「もう,すんなよ。」と叱った(以下,この行為を「本件行為」という。)。
(7) 被上告人は,同日午後10時ころ,自宅で大声で泣き始め,母親に対し,「眼鏡の先生から暴力をされた。」と訴えた。
(8) その後,被上告人には,夜中に泣き叫び,食欲が低下するなどの症状が現れ,通学にも支障を生ずるようになり,病院に通院して治療を受けるなどしたが,これらの症状はその後徐々に回復し,被上告人は,元気に学校生活を送り,家でも問題なく過ごすようになった。
(9) その間,被上告人の母親は,長期にわたって,本件小学校の関係者等に対し,Aの本件行為について極めて激しい抗議行動を続けた。
要するに調子に乗りすぎて先生に怒られた子供が、甘やかされて育ったためか家に帰って駄々をこねだしたのを親が過剰反応しただけではないかと。
この事実認定で福岡高裁は「学校教育法11条ただし書により全面的に禁止されている体罰に該当し,違法である。」として慰謝料10万円等合計21万4145円を支払え、という判決を下していること自体が僕自身の常識から言うとちょっと驚きです。
そうすると,Aの本件行為は,児童の身体に対する有形力の行使ではあるが,他人を蹴るという被上告人の一連の悪ふざけについて,これからはそのような悪ふざけをしないように被上告人を指導するために行われたものであり,悪ふざけの罰として被上告人に肉体的苦痛を与えるために行われたものではないことが明らかである。Aは,自分自身も被上告人による悪ふざけの対象となったことに立腹して本件行為を行っており,本件行為にやや穏当を欠くところがなかったとはいえないとしても,本件行為は,その目的,態様,継続時間等から判断して,教員が児童に対して行うことが許される教育的指導の範囲を逸脱するものではなく,学校教育法11条ただし書にいう体罰に該当するものではないというべきである。したがって,Aのした本件行為に違法性は認められない。
結論としてはもっともだと思いますが、「Aは,自分自身も被上告人による悪ふざけの対象となったことに立腹して本件行為を行っており,本件行為にやや穏当を欠くところがなかったとはいえない」というところは、かなり先生に対しても厳しいですね。
悪ふざけが度を越した場合も腹を立ててはいけない、とまで求める必要はないと思いますし、それでは生徒になめられてしまうように思います(ずるい奴ならあえて挑発するかも。)。
裁判に訴えるのは国民の権利とはいえ、こういう案件が最高裁にまであがるのですから、やはり法曹人口は増やさないといけないのかもしれません。
それに弁護士が増員されてもこんな訴訟をする親が増えるのであればまだまだ商売にはなるのではないでしょうか。
ところで、こういう親は、最高裁の判決が出ても、判決が不当だとして、最高裁判所裁判官の国民審査で×をつけるような運動をしそうな気がしますが・・・