一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

分母と分子

2009-05-12 | あきなひ

先日献血に行ってきました。

献血の当日でも酒を飲んでもいいということです。ただし昼間は回りやすいので夜にしてくださいとのこと。

成人男性の血液量は約5000ccで今回その8%相当の400ccを献血するということは、同じ量のアルコールを摂取しても血中アルコール濃度は8%ちょっと(厳密には8/92)高くなり、要するに効率よく酔えるわけです。
逆に酔い過ぎないためには、酒量をいつもより8%控える必要があります。

そんなことを言っても、飲みはじめてしまえばそんな微量の調整ができるわけもなく、「普段より酒がまわりやすい」という暗示も加わって、気持ちよく酔いました。


ところで、分母と分子が変わると酔い方が変わるといってもこちらは悪酔いしないようにと世間(金融庁?)の注目が集まっているのがJ-reitや不動産証券化商品における鑑定評価。
不動産ファンドの運用会社が、自社がスポンサーになったJ-Reitに物件を売却するときの鑑定評価が不適切だった云々ということで金融庁から処分を受けたファンドがいくつかありました。

で、こんなものが連休明けに出されてました。
「証券化対象不動産の鑑定評価に関する実務指針(案)」のパブリックコメントの募集について
(平成21年5月7日 社団法人日本不動産鑑定協会)
今まであった鑑定評価基準や内部規定をひとつにまとめたもののようです。

証券化対象不動産の鑑定評価に関する実務指針(案) をみると

Ⅷ 鑑定評価手法の適用
2 収益還元法
(2) DCF法
⑧ 予測
 収益費用の予測には不確実性が伴うために、予測主体によって判断が大きく分かれることも少なくない。証券化対象不動産の鑑定評価においては、当該不動産の価格が、将来において獲得することができるであろう収益を見通した上での収益性及び投資採算性を基準として形成されることを前提に、合理的に行動する典型的な市場参加者が収益費用の将来動向をどのように予測して行動するかの把握及び分析に努めなければならない。
 また、予測時点において入手可能な情報を有効に活用し、客観性と合理性を有する予測を行うことが重要であり、予測に関する判断が、典型的な市場参加者が合理的な判断のもとで行うであろうところと整合するように、市場参加者の動向を常に注視しながら鑑定評価を行う必要がある。
 収益費用の将来予測に当たっては、市場分析で詳細に分析した対象不動産と同用途の不動産に係る市場における需給状況や賃料の推移等の把握を起点とし、一般的要因の分析で把握及び検討した景気、物価、金利等のマクロ経済の現状と見通し及び同一需給圏における不動産の需給状況に影響を及ぼす需要面及び供給面の要因を踏まえた上で、慎重な姿勢で行うべきである。
⑨ 各種利回り
 割引率
 割引率は、各期の純収益と復帰価格を価格時点に割引くための期待収益率であり、投資の標準とされている金融資産の利回りや不動産投資利回りの目安となっている不動産の利回りに、対象不動産の個別性(純収益の不確実性)を加味して求めた利回り、同一需給圏内の類似不動産の取引事例の利回り、投資家へのアンケート結果等を総合的に勘案して査定する。複数の対象不動産を一時に鑑定評価する場合には、個別の不動産の地域要因や個別的要因の格差を把握し、それらの格差に基づく将来収益の変動リスクについて検討し、整合性に留意して割引率を査定することが必要である。
 割引率の査定については、金利動向、市場分析結果、対象不動産の純収益の不確実性等をどのように反映させたかについて、判断根拠とした資料とともに、できるだけ明確に鑑定評価報告書に記載する必要がある。
 最終還元利回り
 最終還元利回り(売却予測価格を求めるための還元利回り)は、価格時点の還元利回りに、将来の不確実性及び還元対象となる純収益に反映されない資産価格の変動にともなうプレミアムを、加減して査定する。
 なお、最終還元利回りは、一般的には、以下のリスクが想定されるため還元利回りより大きくなる場合が多いと考えられている。
 ア 期間の経過による不動産の価値下落のリスク
 イ 保有期間後の純収益の見積もりリスク
 ウ 売却等に係るリスク

ほかにも、依頼者との利害関係とか、評価の過程の明記など、鑑定評価書を依頼者以外の第三者にも見せることを前提にして透明性をあげることが求められています。

ただ、何か客観的で一義的に定まるものがあるわけではなく、最後は「評価」にならざるを得ないので、結局は上にもあるように「諸要素をできるだけ取り入れて注意深く考えましょう」としか書きようがないわけです。(それでもいままで「エイヤ」で鑑定評価をしていたような鑑定士がいたとしたら、それらの評価の透明性の向上には役立つと思います。)


ところで、不動産ファンドなどが融資を受ける場合には鑑定評価額が一つの基準になり、また、金融庁の監督指針などでも投資法人の取引にあたっては鑑定評価額をベースにすることが(義務ではないものの)求められています。

しかし、ここ数ヶ月のようにマーケットが激変した場合には「将来において獲得することができるであろう収益」「投資の標準とされている金融資産の利回り」「期間の経過による不動産の価値下落のリスク」も大きく変わるため、評価は非常に難しくなり、不動産鑑定士としても自らの鑑定評価があとあと問題になるのを避けたいという気持ちが働くので、下落局面においてはより保守的な評価になりがちになる可能性があります。
(反面、上昇局面においては多少積極的な評価をしても「結果オーライ」になるので、受注営業を考えると「あの鑑定士は保守的」と言われたくないというインセンティブが働く可能性があります。これについてはもっと低次元で問題になった件がありましたね。)

結局、取引する商品の価値評価をある不動産鑑定評価という一つのものさしに大きく依存するということは、独自の「目利き」を放棄した取引関係者や、または一般投資家などの二次的な参加者を保護するための当局からの説明責任の要求を、不動産鑑定士に一身に背負わせるわけで、そうなると不動産鑑定士も「リスクの極小化」に走らざるを得ないことになります。
考えてみれば、金融市場が機能しないときに「投資用不動産としての客観的な資産価値の評価」を不動産鑑定士に求めるというのも酷な話ではあります。


その結果、市場が不透明なときは、分子(収益費用)も分母(還元利回)も大きく振れる可能性が高く、結果、不動産鑑定評価額も過剰に弱気や強気になったりする可能性があるわけです。


献血して酒の周りがよくなるくらいならいいですが、こちらの方での悪酔いは避けたいものです。


 

コメント
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