一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『だまされないための年金・医療・介護入門』

2009-05-20 | 乱読日記
題名は軽い感じがしますが、中味はしっかりした良書です。

副題に「社会保障改革の正しい見方・考え方」とあるように、現行の年金や医療保険・介護保険制度と少子高齢化がそれに与える影響、そして最近行われた「改革」の意味について非常にわかりやすく説明しています。

著者の主張をかいつまんで言えば、つぎのようなものです。
少子高齢化の人口構造はこれから出生率が上昇したとしても生まれた子供が保険料を負担できるようになるまで(つまり20年以上後まで)は保険の財政構造には影響はない。そのなかで現在の「賦課方式」(現役世代の保険料を受給者である高齢者への支給の原資とする方式)による年金・保険制度はいずれ破綻する。
賦課方式の下でここ数年「改革」が行われてきたが、これらは社会保障財政の観点からは「負担の引き上げ」か「給付カット」の二種類でしかない。
そしてそれらの効果は一時的でかつ社会保障である以上限界があり、しかも世代間の不公平の解決(または緩和)にはならない。

そして著者は社会保証制度全体を「積立方式」(自分の世代の保険料を自分の世代の支払いに当てる)に移行すべきであるとし、また、現行の賦課方式からの移行は十分可能であると主張します。

説明に使われているモデルもわかりやすく、非常に説得力があります。


ではなぜそうしないのかというと、制度改革は現在の賦課方式で大きなメリットを得ている高齢者には不利になり、政治家にとっては投票率や地方の人口構成から高齢者票は大きな影響力を持つので不人気な政策はとらない、また厚生労働省も各ポストの任期が短いなかで現状の制度を否定するようなことはできない、という構造があります。

そうなると、世代間の不公平を是正するには、若い世代が投票に行かなければ、ということになってしまうのですが、試算で言えばちょうど損得がevenになる世代の僕から見てもちょっとこれはまずいのではないか、と思うレベルの問題の大きさです。


鳩山氏が民主党の代表になり、総選挙も盛り上がってきましたが、年金制度についての議論にも注目したいと思います。
(でも、麻生さんも鳩山さんもおじいさんの配当をずいぶんもらっている人なので、賦課方式による若年層から高齢者への所得移転とか世代間の不公平についてはイメージがわきにくいかな?)



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「インフル」と略称が広まる程度に日常化してきたようで

2009-05-19 | よしなしごと

昨日は立食パーティーに出席したのですが、飛沫感染には最悪だなあ、と出席者は口々に言いながら、それでもせっせと飲み食いをしながら会話がもりあがってました。

関西から来た人は、向こうは皆マスクをしているのに東京の方ではしている人が少ないのに驚いたそうです。

おそらく関東にも感染者はいるでしょうが、正式に認定されて公表されるか否かだけで相当違ってくるものですね。


インフル対策、社会活動への影響考慮し緩和へ 厚労省
(2009年5月19日(火)02:31 朝日新聞)

舛添厚生労働相は18日、強毒性の鳥インフルエンザを想定した現在の政府の対策について、今回の新型インフルエンザ向けに緩める方向で検討する考えを明らかにした。新型の豚インフルエンザに国内で感染した人は同日午後11時半の時点で、大阪府と兵庫県で163人に達し、感染は急速に広がっているが、重症化する恐れは季節性のインフルエンザとほぼ同じ程度とみられている。  

軽症患者を入院させずに自宅療養させるようにするなど、週内に見直し案について結論を出すという。長期的には、政府の対策行動計画を新たに策定することも視野に検討する。

これにより、全国どこで発生しても、医療機関の対応能力に応じて、軽症者と重症者の振り分けを可能にする狙いがある。

対策行動計画というのがどういうものか知りませんが、「新型でも感染力が季節性と同じもの」というカテゴリを作るということでしょうか。
それだけでも、今回得たノウハウとしては大きいと思いますし、さらに強毒性だった場合(今回もまだ変異する可能性はありますが)の社会生活への影響もより現実的に検証したほうがいいと思います。


企業では感染拡大予防のため「不要不急の会議・会合には出席するな」などの指示を出している会社もあるようですが、これを機会に社内の会議でも不要不急のものはインフルエンザがなくてもメーリングリストとか掲示板機能とかで置き換えればずいぶん効率化できるようにも思いますが、それは別の話。

3月決算の会社は6月に株主総会を迎えますが、感染が広がったらどうしよう、という話もありました。
出席者にマスクを配るか。議長や壇上の取締役はマスクをするのか、いやいやそれは失礼だろう、いや、感染防止が大事だろう。はたまた議長が感染したら軽症でも自宅療養で代役を立てるべきなのかなど、瑣末といえば瑣末なのですが総務部の方はいろいろ悩みがつきないようです。

まさか「不要不急の会議」とも言えませんしね。




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周回遅れ

2009-05-18 | あきなひ

クライスラー、GMの命運を握るUAW 「労組がオーナー」の矛盾
(日経ビジネス 2009年5月15日号) 

・・・次は5月末に期限が迫るGMの番である。それまでに徹底的なリストラ計画を策定し、すべての債権者から債務圧縮の合意を取りつけなければならない。既に4月27日に追加再建計画を発表済みで、ブランド廃止、工場閉鎖、賃金引き下げ、ディーラー削減、人員削減など広範囲にわたる思い切ったリストラ策を打ち出している。  
 最大のポイントは、債務の株式化(デット・エクイティ・スワップ)による負債の大幅削減を打ち出したことである。そのスキームは米政府(財務省)からの融資とUAWが運営する医療保険基金の拠出義務のそれぞれ半分を株式に転換するというもの。クライスラーも同様の手法を取る方針。米メディアの報道によれば、クライスラーの場合はUAWが55%と過半を占めることになる。GMの場合は米政府の比率が50%で「ガバメントモーターズ」と皮肉られるほどだが、UAWの株主構成比率も39%と高い。この資本構成は、破産法適用の場合でも、回避した場合でもほぼ変わりがないと見られる。  

 UAW代表が取締役や経営陣に名を連ねても不思議ではない。だが、労働者の権利を守る労組と、企業の所有者として最大利益を追求するという株主の目的が相反してしまう。カール・マルクスとアダム・スミスを一度に信奉するようなものである。 バンク・オブ・アメリカに対する労組の抗議デモ(ニューヨーク) もっと卑近に言えば、組合員は今後ストライキを打つのか? 打てば所有する会社にオーナー自身がストを打つという奇妙なことになる、すると労組の意義は何なのか…。そういった矛盾や疑問が次々にわいてくる。  

マルクスとスミスを対比させるのが経済学史的に正しいのか?という疑問はありますがその辺は詳しくないので割愛。

国が半数の株を持ち、つぎの大株主が労働組合となると想起されるのが最後の社会主義大国である中国です。

「中国国有企業改革とコーポレート・ガバナンス」によると  

国有企業改革とそれにともなうコーポレート・ガバナンスの変化に関して考察を行うには、まず改革以前のガバナンス構造を把握しておく必要がある。なかでも、企業内党委員会、職工代表大会(従業員代表大会)、工会(労働組合)は、近年、現代企業制度(有限会社と株式会社)を導入した企業においても「老三会」として依然として影響力を持っている。  

①職工代表大会を母体とする職工民主評議制度の機能強化が多くの企業ではかられており、それにより能力のない経営者が罷免を含めた降格人事を多数受けていること、②経営者が、企業の生産管理や経営管理に関する重要問題、および従業員の直接的な利害に結びつく問題などを職工代表大会などを通じて常時公開し監督を受けるという廠務公開制度も多くの企業で導入されてきており、一部の企業では経営状況の改善に結びついたこと、③職工代表大会の持つ民主管理の機能は、「工会法」の改正によっても強化がはかられていること、  

また、昨年施行された労働契約法では

「雇用単位は、労働報酬、労働時間、休憩休暇、労働安全衛生、保険福利、教育訓練、労働紀律及び労働ノルマ管理等の労働者の密接な利益に直接関わる規則制度や重大事項を制定、修正若しくは決定する場合、従業員代表大会または従業員全員の討論を経て、方案と意見をまとめて、工会または従業員代表と平等に協議して決定しなければならない」

とされています。


経済発展を見るか「資本主義の発展形としての社会主義」を主張するかでどちらが周回遅れなのかは議論があるでしょうが、アメリカと中国はいまや似たようなところを走っているようなので、いっそのこと中国に教えを請うたらどうでしょうか。

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セシールへのTOB

2009-05-16 | M&A

セシールにTOB フジ・メディアHD ディノスと合併へ
(2009年5月15日(金)08:05 産経新聞)
通販のセシールも郵便割引制度悪用、2287万円返還へ
(2009年5月14日(木)21:58 産経新聞)

新聞では経済面と社会面に分かれていたのですが、東証の適時開示は決算短信の発表と同時に3つなされています(この順番)

低料第三種郵便物を利用した不適正なDM送付について

株式会社フジ・メディア・ホールディングスの完全子会社である株式会社フジ・メディア・サービスによる当社株式等に対する公開買付けに関する賛同のお知らせ

株式会社フジ・メディア・ホールディングスの完全子会社である株式会社フジ・メディア・サービスによる株式会社セシール株式等に対する公開買付けの開始に関するお知らせ


TOBも市場内取引なので、未公開の重要事実を知って取引した場合はインサイダー取引になっていまいます。そのため、買収前のデューディリジェンスなどで知った重要事実はTOB前に公表をして「未公開」でなくしておく必要があります。
なので決算発表と同時に郵便不正問題も公表せざるを得なかったのだと思います。 

ちなみにセシールは東証に適時開示したにもかかわらず自社のIRサイトにはこのリリースは載せていません。
他者に比べると少額だしできればこのタイミングで言いたくはなかったのでしょうか。


このTOBはそのほかにもいくつか興味深い点があります。  

まずはセシールの意見表明 

公開買付者が新たに当社の筆頭株主となることにより、フジ・メディア・ホールディングスグループの一員になることが当社の企業価値の向上に資するものと判断し、平成21 年5 月14 日開催の取締役会において、公開買付者の行う本公開買付けに賛同の意を表明する旨を決議いたしました。 

ただし、本公開買付けの買付け等の価格は、公開買付者と公開買付者への株式の譲渡を希望する当社の筆頭株主であるLDH との間の交渉により決定されたものであるため、必ずしも買付け等の価格が当社に係る公正な株式価値を反映したものではない可能性があります。そのため、本公開買付けに応募するか否かについては、株主の皆様に判断を委ねることといたしました。  

TOBには賛成だけど一般株主がこの価格で応じるかどうかについてはノーコメント、というわけです。


つぎはフジのTOBのお知らせ  

(5)本公開買付け後の予定 
本公開買付けが成立した場合、対象者は、フジ・メディア・ホールディングスの間接子会社となりますが、フジ・メディア・ホールディングスは、ディノスと対象者との統合シナジーを最大限引き出すべく、対象者をディノスと合併すること(以下、「本合併」といいます。)を、対象者に要請する予定です。・・・本合併の実施にあたっては・・・利益相反や一般株主を害する不公正が生じることを回避すると共に、保有株式の流動性その他一般株主の利益に配慮した措置を講じる予定です。(対象者の一般株主に非上場のディノスの株式が交付されることとなる合併を行うことは予定しておりません。)   

また、公開買付者は、本公開買付けの結果、対象者の普通株式(対象者の自己株式を除く。)の概ね 80%程度の応募があった場合には、本合併に先立って、公開買付者を完全親会社、対象者を完全子会社とする株式交換の方法(以下、「本株式交換」といいます。)により、対象者を公開買付者の完全子会社とする可能性があります。 

仮に本株式交換を行う場合、完全子会社となる対象者の株主(公開買付者を除く。)に対して、金銭が交付される予定です。

前段はフジ・メディア・ホールディングスの株を交付する三角合併を念頭においているのだと思います。そして、後段の金銭対価の株式交換とあわせて、合併「会社法では新たにこういうことが認められます」というものをフルに使った提案です。

別にセシールを上場企業のままで維持していてもいいわけですが、それだと今あえて株を取得する理由が乏しいとか、「ライブドア」銘柄なので、また痛くもない腹を探られるとかの事情があったのでしょう。
単に提案した弁護士事務所が「やってみたかった」というんじゃないですよね(笑)

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健全な肉体を求めることをもって精神の健全さを判断するのは健全か

2009-05-15 | あきなひ

今読んでいる『だまされないための年金・医療・介護入門―社会保障改革の正しい見方・考え方』から(本書のレビューは後日)
 

検診をはじめとした予防医療は、その実施率が高まれば高まるほどむしろ医療費が増加するということは、私たち医療経済学者の間ではほぼ常識となっています。これは、検診がこれまで見逃していた新しい病気をどんどん発見することや、予防医療自体の費用がかなりの高額となることが原因です。

J-Soxによる内部統制報告制度にも似たようなことがいえるのではないかと。

検診を自発的な受診に委ねて事後的に治療を行うことと制度として強制することについて、費用対効果をどう考えるか、「突然死」や「手遅れ」のリスクをどう評価して誰に負わせるか、制度設計によって診断する責任を負わされた当事者にどのようなインセンティブが働くか、などなど。


健康オタクや過剰に神経質な人と付き合うのも疲れますが、あまりに無茶をする友人がいても心配になります。
若いうちの不摂生が後になって影響することもありますし、若い頃に無理をした経験が財産になることもあります。
若いときのガンは進行が早く、致命的になります。

さしずめ脳の快楽原則は、個体に対するエージェンシー問題というところでしょうか。



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今日の誤変換

2009-05-14 | ネタ


(正)間仕切れる




(誤)マジ切れる
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今日のひとこと

2009-05-14 | あきなひ

サイトの方で記事を見つけられなかったので遅くなってしまったのですが、日経ビジネスの4/27号にあった低コスト高収量の有機稲作を実践する稲葉光國氏の言葉

田植え機を使った稲作は、1971年からの2~3年であっという間に広がりました。同時に、農薬の使用量がうなぎ登りに増加した。つまり田植え機稲作は、農薬の助けが必要になるような技術的欠点を持っていたのです。

細かい話は省略しますが、高密度で苗を植えつけることで、苗の生育が弱くなってしまうのだそうです。


新技術を前にすると、便利になったことに目を奪われがちですが、冷静な検証が必要ということだと思います。

経済成長を経て技術的なイノベーションの余地が少なくなってきたといわれている現在ですが、逆に当然のように思われている技術に実は問題があるのではないかという視点は有効かもしれませんね。

 

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ニュース二題

2009-05-13 | よしなしごと


小沢エンジンに西松コンテナが挟まって立ち往生?




日航機エンジンにコンテナ挟まる ロス空港で、誘導路走行中
(2009年5月12日(火)16:45 時事通信)

で、次の機長は誰でしょう。

また今度も「機長代行」と「副機長」も選んで操縦席がいっぱいになるのでしょうか。




新型インフルエンザもいろいろ心配事があります。

甲子園ジェット風船新型インフル制限待ち
(2009年5月12日8時26分 日刊スポーツ)

 この日、都内で開催されたセ・リーグ理事会で地元で感染が確認された場合、ジェット風船で唾液(だえき)が飛び散る可能性などが話題になったが、同本部長は「各方面に影響があるので推移を見守っていく。政府から何らかの制限があった時点で考えます」と冷静に話した。球団はチームに手洗い、うがいの励行を徹底。粟井一夫甲子園球場長は「あまり過剰に反応しない。ただ、政府、当局から指示があればすぐに対応できるシミュレーションはしている」と話した。


でも、国内感染が拡大したら、そもそも球場のような人が集まるイベント自体ができなくなるような気もしますが。


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分母と分子

2009-05-12 | あきなひ

先日献血に行ってきました。

献血の当日でも酒を飲んでもいいということです。ただし昼間は回りやすいので夜にしてくださいとのこと。

成人男性の血液量は約5000ccで今回その8%相当の400ccを献血するということは、同じ量のアルコールを摂取しても血中アルコール濃度は8%ちょっと(厳密には8/92)高くなり、要するに効率よく酔えるわけです。
逆に酔い過ぎないためには、酒量をいつもより8%控える必要があります。

そんなことを言っても、飲みはじめてしまえばそんな微量の調整ができるわけもなく、「普段より酒がまわりやすい」という暗示も加わって、気持ちよく酔いました。


ところで、分母と分子が変わると酔い方が変わるといってもこちらは悪酔いしないようにと世間(金融庁?)の注目が集まっているのがJ-reitや不動産証券化商品における鑑定評価。
不動産ファンドの運用会社が、自社がスポンサーになったJ-Reitに物件を売却するときの鑑定評価が不適切だった云々ということで金融庁から処分を受けたファンドがいくつかありました。

で、こんなものが連休明けに出されてました。
「証券化対象不動産の鑑定評価に関する実務指針(案)」のパブリックコメントの募集について
(平成21年5月7日 社団法人日本不動産鑑定協会)
今まであった鑑定評価基準や内部規定をひとつにまとめたもののようです。

証券化対象不動産の鑑定評価に関する実務指針(案) をみると

Ⅷ 鑑定評価手法の適用
2 収益還元法
(2) DCF法
⑧ 予測
 収益費用の予測には不確実性が伴うために、予測主体によって判断が大きく分かれることも少なくない。証券化対象不動産の鑑定評価においては、当該不動産の価格が、将来において獲得することができるであろう収益を見通した上での収益性及び投資採算性を基準として形成されることを前提に、合理的に行動する典型的な市場参加者が収益費用の将来動向をどのように予測して行動するかの把握及び分析に努めなければならない。
 また、予測時点において入手可能な情報を有効に活用し、客観性と合理性を有する予測を行うことが重要であり、予測に関する判断が、典型的な市場参加者が合理的な判断のもとで行うであろうところと整合するように、市場参加者の動向を常に注視しながら鑑定評価を行う必要がある。
 収益費用の将来予測に当たっては、市場分析で詳細に分析した対象不動産と同用途の不動産に係る市場における需給状況や賃料の推移等の把握を起点とし、一般的要因の分析で把握及び検討した景気、物価、金利等のマクロ経済の現状と見通し及び同一需給圏における不動産の需給状況に影響を及ぼす需要面及び供給面の要因を踏まえた上で、慎重な姿勢で行うべきである。
⑨ 各種利回り
 割引率
 割引率は、各期の純収益と復帰価格を価格時点に割引くための期待収益率であり、投資の標準とされている金融資産の利回りや不動産投資利回りの目安となっている不動産の利回りに、対象不動産の個別性(純収益の不確実性)を加味して求めた利回り、同一需給圏内の類似不動産の取引事例の利回り、投資家へのアンケート結果等を総合的に勘案して査定する。複数の対象不動産を一時に鑑定評価する場合には、個別の不動産の地域要因や個別的要因の格差を把握し、それらの格差に基づく将来収益の変動リスクについて検討し、整合性に留意して割引率を査定することが必要である。
 割引率の査定については、金利動向、市場分析結果、対象不動産の純収益の不確実性等をどのように反映させたかについて、判断根拠とした資料とともに、できるだけ明確に鑑定評価報告書に記載する必要がある。
 最終還元利回り
 最終還元利回り(売却予測価格を求めるための還元利回り)は、価格時点の還元利回りに、将来の不確実性及び還元対象となる純収益に反映されない資産価格の変動にともなうプレミアムを、加減して査定する。
 なお、最終還元利回りは、一般的には、以下のリスクが想定されるため還元利回りより大きくなる場合が多いと考えられている。
 ア 期間の経過による不動産の価値下落のリスク
 イ 保有期間後の純収益の見積もりリスク
 ウ 売却等に係るリスク

ほかにも、依頼者との利害関係とか、評価の過程の明記など、鑑定評価書を依頼者以外の第三者にも見せることを前提にして透明性をあげることが求められています。

ただ、何か客観的で一義的に定まるものがあるわけではなく、最後は「評価」にならざるを得ないので、結局は上にもあるように「諸要素をできるだけ取り入れて注意深く考えましょう」としか書きようがないわけです。(それでもいままで「エイヤ」で鑑定評価をしていたような鑑定士がいたとしたら、それらの評価の透明性の向上には役立つと思います。)


ところで、不動産ファンドなどが融資を受ける場合には鑑定評価額が一つの基準になり、また、金融庁の監督指針などでも投資法人の取引にあたっては鑑定評価額をベースにすることが(義務ではないものの)求められています。

しかし、ここ数ヶ月のようにマーケットが激変した場合には「将来において獲得することができるであろう収益」「投資の標準とされている金融資産の利回り」「期間の経過による不動産の価値下落のリスク」も大きく変わるため、評価は非常に難しくなり、不動産鑑定士としても自らの鑑定評価があとあと問題になるのを避けたいという気持ちが働くので、下落局面においてはより保守的な評価になりがちになる可能性があります。
(反面、上昇局面においては多少積極的な評価をしても「結果オーライ」になるので、受注営業を考えると「あの鑑定士は保守的」と言われたくないというインセンティブが働く可能性があります。これについてはもっと低次元で問題になった件がありましたね。)

結局、取引する商品の価値評価をある不動産鑑定評価という一つのものさしに大きく依存するということは、独自の「目利き」を放棄した取引関係者や、または一般投資家などの二次的な参加者を保護するための当局からの説明責任の要求を、不動産鑑定士に一身に背負わせるわけで、そうなると不動産鑑定士も「リスクの極小化」に走らざるを得ないことになります。
考えてみれば、金融市場が機能しないときに「投資用不動産としての客観的な資産価値の評価」を不動産鑑定士に求めるというのも酷な話ではあります。


その結果、市場が不透明なときは、分子(収益費用)も分母(還元利回)も大きく振れる可能性が高く、結果、不動産鑑定評価額も過剰に弱気や強気になったりする可能性があるわけです。


献血して酒の周りがよくなるくらいならいいですが、こちらの方での悪酔いは避けたいものです。


 

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『ワールド・オブ・ライズ』

2009-05-11 | キネマ
有名スターをキャスティングして一定の収入を見込んだアクション映画だろうと決め付けた上で、主演のレオナルド・ディカプリオはあまり好きでなく、ラッセル・クロウは好きなので、まあ、プラスマイナスゼロの暇つぶしにはなるだろう思って借りてきたら意外と面白かったという作品。

ラッセル・クロウは出演作品を選んでいるのか正義の味方やいい人役が多いように思うのですが、本作のように冴えない男やいやな奴を演じさせるとなかなかいい味を出します。

邦題のような大掛かりな舞台回しでなく原題の"Body of Lies"の方がふさわしい局所の一エピソードなのですが、それだけに作りはしっかりしています。
アメリカのCIAの対テロ作戦に対して相当批判的な描き方をした作品で、まあ、実際にこんなに物量と技術を投入してこの程度のことしかできないとしたらホント問題なのですが。

レオナルド・ディカプリオが巻き込まれる動機がCIAのエージェントとして脇が甘いんじゃない?との疑問符もつくのですが、それもふまえて彼をキャスティングしたのかもしれません。


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『トウキョウソナタ』

2009-05-10 | キネマ

映画づいた勢いで借りてきたDVDは『トウキョウソナタ』

家族の再生の物語。

 


カンヌなどで賞をとったようですが、ちょっと構えが小さいのが気になります。
海外では日本映画の一つのパターンとして「小津安二郎的な日常風景+現代風な切り口」というのが期待されているのでしょうか。

まあ、それはそれでいいんですけど、僕はなんか見ていてイライラしてきちゃうんですよね。

会社をリストラされたら見栄張ってないで必死に職を探したり、妻もパートに出てもらうとかしたりすればいいし、一戸建てに住んでるんだったらまず最初にそれを売ることを考えるべきなんじゃないかと。

小泉今日子演じる母親役の

自分は一人しかいません。
信じられるのはそれだけじゃないですか。

というセリフ(うろおぼえ)とか、いろいろあってばらばらになった家族が帰ってくる象徴としての家とかがあったりしますが、結局形而上のことで悩んでいられるうちはまだまだ余裕があるよな、と思ってしまいます。

裏返して言えば、戻って落ち着ける家があるのがいいよね、という話のバリエーションの一つなわけです。


もう20年位前ですが、自動車雑誌Car Graphicに、フィンランド人のラリードライバーでパリ・ダカール・ラリーを3連覇(多分)するなど「砂漠の帝王」と呼ばれたアリ・バタネンのインタビューがのっていて、そこで砂漠で道に迷ったときの対処法を聞かれたバタネンが

決してもと来た道を戻らず、前に進むこと

というようなことを言っていた(これもうろおぼえ)のをふと思い出しました。



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レナウン、その後

2009-05-09 | M&A

連休前の開示ですが、以前取り上げたレナウンの経営権を巡る争い(参照)のその後。

 株主提案権の行使の取り下げに関する書面の受領について
取締役選任議案に関するお知らせ
(2009年4月30日)

なお、ガバナンスの強化という観点から、筆頭株主より、社外取締役として一名を派遣いただくことが当社にとって最善であると判断し、平成21 年4 月15 日に開示いたしました、「当社定時株主総会における株主提案に対する当社の考え方について」における取締役候補者に、一名追加変更しております。

筆頭株主のネオラインの持株会社の社長である藤澤信義氏を加えました。

お互い兵糧も限られているので、顔の立つ形で手打ち、というところでしょうか。

とりあえずのメモ

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『昭和陸海軍の失敗』

2009-05-09 | 乱読日記
これも前の本と同じつながりで買った本。
(Amazonの思う壺とも言いますね。)

こちらは文芸春秋での座談会を新書にしたものです。

陸軍と海軍にわけで、開戦から敗戦に至るまでのキーマンとなった将軍や参謀をとりあげ、その人物評を語りながら組織としての問題点を分析しています。

陸軍については、(前の本で言及した)藩閥支配からの脱却が極端な成績重視につながり、陸軍幼年学校-士官学校-陸軍大学という世間から隔絶された中で純粋培養されたエリートで中枢を占められていることが指摘されます。
そして人材の登用もその中の人間関係で決められ、適材適所の配置はなされず、開明的・合理的、または指揮官として優秀な人材も主流からはずされます。

二・二六事件以降、皇道派や青年将校に同情的とみなされた人物は中枢にもどることはなく、また、エリートコースをはずれ英米に留学し(当時の陸軍の主流はその見本となったドイツ留学-大正期まで陸軍幼年学校の授業には英語がなかったくらい英米は傍流扱いだった-)結果的に合理的・開明的な思考を身につけた人々も、中枢から遠ざけられてしまいました。
たとえば、硫黄島で有名になった栗林中将は陸軍大学を二位の成績で卒業しながら、中学から士官学校に入学したためか(また、士官学校で歩兵でなく騎兵を専攻するというのも傍流なんだとか)、ずっと傍流を歩んでいます。


一方で海軍についてはさらに辛口です。
曰く
一般に陸軍は頑迷で非合理的組織の典型のように言われ、海軍は先見の明があって合理的だったとされていますが、その神話を切って捨てています。
海軍は人数か少なく身内でかばいあう中で内部のいざこざを外に漏らさない風土があったからだけだった。
三国同盟締結の際にも当初反対した海軍が陸軍に譲歩した最大の理由は便乗して要求どおりの予算を通すためだった。
日露戦争以来の艦隊決戦思想から抜けられず、敵輸送船への攻撃には重きを置いていなかった(撃沈したときのポイントが大きく違った)、一方で自軍の輸送船(兵站)や潜水艦などには力を注がず、作戦も「船を沈めない」ことを最優先とする組織風土があった。
など散々です。

こちらのほうが各論や人物評に細かく入り込んでいるので、読み物としては面白いかもしれません。


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『あの戦争になぜ負けたのか』

2009-05-08 | 乱読日記
『幕末史』のついでに買った本。

半藤一利氏のほか中西輝政(京都大学教授)、福田和也(評論家)、保阪正康(ノンフィクション作家)、戸高一成(呉市海事歴史科学館館長)、加藤 陽子(東京大学助教授)の座談会を本にしたもの。

タイトルのとおり、日中戦争から第二次世界大戦、そして終戦に至るまでの過程を専門家が具体的なエピソードを交えて分析します。


ひとことでまとめてしまうと、欧州で自国が戦場になった第一次世界大戦をほとんど経験しなかった日本は、その教訓を学ぶこともなく、総力戦を行うための戦時体制を構築せずに戦争に突入していったことに、議論の焦点があたります。

軍隊は戦時中でありながら平時の人事異動を行い、適材適所に欠けていた。
配属も陸軍大学・海軍兵学校の成績順に「エリートコース」が用意され、兵站部隊は軽視され、発言権もなかった(そして、皮肉にも成績重視は日露戦争までの藩閥人事をからの脱却の結果ででもあった)等々。


話題が陸海軍から政治、終戦の意思決定にまで及ぶので、この辺の歴史に詳しい人には深堀りをしていない分物足りないかもしれませんが、僕のような素人にとってはなかなか面白い本でした。


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『幕末史』

2009-05-08 | 乱読日記

今回は連休中の読書編

これは週末の朝のNHKの読書番組(っていうのかな?)でとりあげられていたもの。

官軍側でなく幕府側の視点にたって幕末から西南戦争を見た本、ということで面白そうなので購入。
僕は不勉強で知らなかったのですが、著者の半藤一利氏は歴史もののノンフィクション作家としては有名な方らしいです。
慶應丸の内シティキャンパスの講義をまとめたものだけあって、非常に読みやすくなっています。

冒頭、著者(1930年生)は戦前の歴史教育=「薩長史観」を受けながら、一方で長岡の出身の父から、幕末の長岡戦争(北越戦争)で長岡藩兵の夜襲に「西軍」の指揮官の西園寺公望や山県有朋が命からがら逃げ出した話を聞いて、子供心に溜飲を下げていた、という話が出ます。
長岡藩を指揮していた河合継之助を主人公にしたのがこの前読んだ『峠』ということもあり、これもなにかの縁かと頁が進みました。


さて、「幕府寄り」「反薩長」というものの、全体としてはフェアに取り上げられているように思います。
幕府側も徳川慶喜のふらつきかたなども詳しく教えてくれます。

それよりも読んでいるうちに感じたのが、今まで幕末から明治にかけてを俯瞰した通史というものを始めて読んだのではないかということ。
教科書でも大政奉還で江戸時代の章が終わり、明治時代の章になるといきなり富国強兵・近代国家の建設へと邁進する日本の姿を勉強することになります。
また、小説などは主人公の死(坂本龍馬など)やクライマックスのイベント(江戸城開場、五稜郭の戦いなど)で終わってしまい、その後どうなったか、事後処理にどういう苦労があったのか、主人公をヒーローのまま死なせてしまうのが歴史的な評価として正しいのか、ということは考えません。

それから、司馬遼太郎さんの『竜馬が行く』に、大政奉還という手段を龍馬が「とっさにひらめいた」と書いてあります。読みながら「嘘つけ」と思っていたのですが、司馬さんは作り話の上手な人で、いったんそう書いておいて、十頁ほど先に「どなたの創見です」と問われた龍馬に、「「か」の字と「お」の字さ」と答えさせているんですね。この案が大久保一翁と勝海舟であることをそれとなく書き込んでいるわけです。のち大政奉還は、坂本龍馬の意見を聞いて山内容堂さんが正式に持ち出しますが、実は先に大久保さんと勝さんの二人が提案していたことが記録に残っているわけです。

しかし歴史は、それがどんなに大きくても、一イベントで終わるわけではなく、そのイベントに至る過程と同様にそのイベントがその後にどうつながるかの検証も重要です。
スイングとインパクトの瞬間だけでなくフォロースルーもより重要というようなものですね。
実際はドタバタの中で倒幕(半分は幕府の自壊)がなされ、新政府をどうやって運営していくのかというのもこれまたドタバタだったわけで、その中で登場人物がどのように考え、行動していたかを、資料を元に丁寧に説明してくれます。

 ところで「攘夷」「攘夷」と言ってますが、では下級武士や浪人たちはいったいどのような理論構成のもとに上位を唱えたのか、当然問題になるわけです。が、正直申しまして、攘夷がきちんとした理論でもって唱えられたことはほとんどなく、ただ、熱狂的な空気、情熱が先走っていた、とそう申しあげるほかはない。時の勢いというやつです。そこがおっかないところで、理路整然たる一つの思想があって皆がそれを学び、信奉し、行動に出るなら話はわかるのですが、それがほとんどなく、どんどん動いていく時代の空気が先導し、熱狂が人を人殺しへと走らせ、結果的にテロによって次の時代を強引に作っていく。テロの恐怖をテコに策士が画策し、良識や理性が沈黙させられてしまうのです。むしろ思想など後からついてくればいいという状態だったのではないでしょうか。いつの時代でもそうですが、これが一番危機的な状況であると思います。


・・・くりかえしますが、国策が開国と一致したのに、あえて戦争に持ち込んで国を混乱させ、多くの人の命を奪い、権力を奪取したのです。「維新」とカッコよく呼ばれていますが、革命であることは間違いないところです。将軍を倒し、廃藩置県によって自分の属している藩の殿様を乗り超え、下級武士であるものが一斉に頂点に立つ。ではつぎにどんな国を建設するのか、という青写真も設計図もヴィジョンもほとんどなく、なんです。
 お前はとんでもない反近代主義者だな、と叱られるかもしれませんが、明治はいまの日本をつくりあげた母胎なのである、という近代化論にはいささか疑問をもちつづけています。

当時の世界情勢をみると、日本が生き残るには新しい統一国家を作る以外に方法はなかった(勝海舟はそれを見通していた数少ない人間のひとりです)にもかかわらず、薩長の「革命家」たちは権力奪取と権力闘争にあけくれ、本書の範囲である西南戦争が終わる明治十年までに国家運営の基礎はどうにかできたものの、「万世一系」の天皇を超越的なシンボルとして明治政府が国家の精神的な統一をはかるのはまだ先のことになります(その意味で本書は『幕末史』と名づけられています。)。


そして、歴史はなおも続きます。

ここでも歴史の教科書の章立ては変わってしまい、日清・日露戦争を経て日本が帝国主義化して日中戦争・第二次世界大戦に至るまでは別の話として語られます。

ただ、参謀本部・統帥権の独立は西南戦争の際の前線と後方の指揮命令系統の混乱に懲りた山県有朋が働きかけ、明治憲法前に既に制度としてできあがっていたこと、そして、明治維新以降の陸軍は長州閥、海軍は薩摩閥で固められた軍隊の歴史が、第二次世界大戦における意思決定にまで影響を及ぼすことになる、というのはまたつぎの話になります。

コメント
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