(オホーツク小さな旅・33)
上のエントリでも書いたが、題こそ平成22年度「寄贈美術資料展」になっているけれど、内実は「横森政明個展」以外の何者でもない。
会場には、油彩、ペン画、パステル画などが並んでいるが、この横森さんがどういう方なのかは、まったく説明がない。
たぶん、美幌の方はご存知なのだろうが。
ググってみたが、なにかしらヒントになることが書いてあったのは、佐伯農場のブログだけだった。
以下、年譜はブログからの引用。
「道展」というのがちょっと気になる。というのは、春陽、独立の出品者は、道内では大半が全道展との掛け持ち組なのだ。
昔は、道展に出していたという例もあったのかもしれない。
ちょっと調べたら、オホーツク美術協会の遠い前身にあたり、戦前の1940年に旗揚げした「凍影社」展には、1949年に初入選し、いきなり会員推薦となっているようだ。
しかし、現在のオホーツク美術協会には名を連ねてはいない。
さて、会場には、1949年から近年にいたる絵画が並んでいる。
こういうのは、ひとりの精神の遍歴を見るようで、非常に興味深いのだ。
たとえば1955年「群」は、褐色の肌をした3人の男を描いている。たくましい体つきを単純化した人物造形に、ディエゴ・リベラなどメキシコ近代絵画を連想する。
左を向いた男は麦藁帽をかぶり、中央の男はごま塩のひげを生やして上半身は裸、右側の男は黄色いセーターを着ている。覇気というか、人生に対する肯定的な風情がある。
しかし、90年代以降の「別れ」「風景(三人)」「待合室」などでは、描かれる人物像は、おそろしく細くなってしまっており、悲観的な作者の精神が感じられるのだ。
細長い人物造形というと、まず思い出されるのはモディリアーニであり、さらに、ジャコメッティであろう。
ジャコメッティは、サルトルの実存主義とワンセットで語られることが多い。
横森さんの描く細長人物は、ジャコメッティよりも、平らで陰影がなく、顔には鼻もない。ただ、口は顔の左右いっぱいにあり、ほうれい線が描かれている。そこにあるのは、戦争の惨禍を経てきた生身の人間というよりは、個性を喪失した現代人の隠喩に近いのではないか。
ある種のすさまじいまでの、人間と世界に対する認識の暗さ。
それは、串刺しにされたカラスの屍骸を8羽ずつ描いた素描「風景」にも、枝がほとんど打ち払われて幹だけになってしまった木を描く「六本の樹」などにも感じられる。
描いているのはカラスや木であって、人間ではない。しかし、そこにはどうしても、世界にひとりぼっちで存在せざるを得ない人間の姿が読み取れてしまう。
少しさかのぼって80年代の「冬の花」は、花や草を盛った花瓶が雪の上に置かれ、遠景には雪をかぶった家並みが見えるという作品。
ある種しみじみとした情感が漂う。
しかし、花瓶に盛られているのは、冬なので、ドライフラワーや枯れた草ばかりなのだ。
あるいは「四丁目角」。
人っ子一人いない街角の風景は、松本竣介の初期作品を思わせる。どこか夢の中のような、ふしぎな寂しさ。
画家の精神の厳しさ、寂しさに触れた思いだった。
出品作は次の通り。
◆油彩
初期倉庫(1949)
カゴの中の鳥(1950)
群(1955)
魚(1964)
馬と人と(B)(1966)
埠頭(1971)
椅子の上(1983)
静物(1983)
箱の上の静物(1984)
秋のもり花(1987)
冬の街(1987)
冬の花(1987)
冬の花(1987)
冬の花(1987)
静物(1989)
みかん(1990)
びんの静物(1992)
別れ(1994)
バラの花(1995)
風景(三人)(2000)
ポピー(2000)
トルコききょう(2000)
待合室(2002)
四丁目角(2005)
貝がらなど(2009)
◆パステル
花(1981)
黒い花生のポピー(1991)
◆水彩画
パリ壁(1976)
パリ タンブリ街(1976)
パリ サンマルタン運河(1976)
パリ サンマルタン運河(1978)
イタリアシエナー(1978)
題不詳(1979)
枯花(1980)
◆鉛筆
石を背負う(1960)
母子像(1960)
馬を見る人々(1964)
馬・人(1964)
子を抱いて(1964)
抱く(1964)
病める馬と(1965)
風景(右側)(1985)
風景(左側)(1985)
◆ペン画
六本の樹(1969)
群樹(1969)
樹(1970)
樹-3(1970)
2010年12月12日(日)~2011年1月23日(日)9:30~5:00
この展覧会は無料
美幌博物館(オホーツク管内美幌町みどり253-4)
□美幌博物館 http://www.town.bihoro.hokkaido.jp/museum/
■美幌博物館へ行ってきた(2009年)
・北海道北見バス「美幌・津別線」で「美禽橋」降車(北見からおよそ35分)、1.3キロ、徒歩約17分
・JR美幌駅から2.2キロ、徒歩約28分
(続きはこちら)
上のエントリでも書いたが、題こそ平成22年度「寄贈美術資料展」になっているけれど、内実は「横森政明個展」以外の何者でもない。
会場には、油彩、ペン画、パステル画などが並んでいるが、この横森さんがどういう方なのかは、まったく説明がない。
たぶん、美幌の方はご存知なのだろうが。
ググってみたが、なにかしらヒントになることが書いてあったのは、佐伯農場のブログだけだった。
以下、年譜はブログからの引用。
1927年、北海道勇払郡鵡川町に生まれる。
1947年、網走出身の独立美術会員、居串佳一の指導を受ける。
1952~1967年春陽会展を経て独立展出品、その間、道展等道内展に出品。
1968年頃から各地でペン・銅版・鉛筆等による個展を開催
「道展」というのがちょっと気になる。というのは、春陽、独立の出品者は、道内では大半が全道展との掛け持ち組なのだ。
昔は、道展に出していたという例もあったのかもしれない。
ちょっと調べたら、オホーツク美術協会の遠い前身にあたり、戦前の1940年に旗揚げした「凍影社」展には、1949年に初入選し、いきなり会員推薦となっているようだ。
しかし、現在のオホーツク美術協会には名を連ねてはいない。
さて、会場には、1949年から近年にいたる絵画が並んでいる。
こういうのは、ひとりの精神の遍歴を見るようで、非常に興味深いのだ。
たとえば1955年「群」は、褐色の肌をした3人の男を描いている。たくましい体つきを単純化した人物造形に、ディエゴ・リベラなどメキシコ近代絵画を連想する。
左を向いた男は麦藁帽をかぶり、中央の男はごま塩のひげを生やして上半身は裸、右側の男は黄色いセーターを着ている。覇気というか、人生に対する肯定的な風情がある。
しかし、90年代以降の「別れ」「風景(三人)」「待合室」などでは、描かれる人物像は、おそろしく細くなってしまっており、悲観的な作者の精神が感じられるのだ。
細長い人物造形というと、まず思い出されるのはモディリアーニであり、さらに、ジャコメッティであろう。
ジャコメッティは、サルトルの実存主義とワンセットで語られることが多い。
横森さんの描く細長人物は、ジャコメッティよりも、平らで陰影がなく、顔には鼻もない。ただ、口は顔の左右いっぱいにあり、ほうれい線が描かれている。そこにあるのは、戦争の惨禍を経てきた生身の人間というよりは、個性を喪失した現代人の隠喩に近いのではないか。
ある種のすさまじいまでの、人間と世界に対する認識の暗さ。
それは、串刺しにされたカラスの屍骸を8羽ずつ描いた素描「風景」にも、枝がほとんど打ち払われて幹だけになってしまった木を描く「六本の樹」などにも感じられる。
描いているのはカラスや木であって、人間ではない。しかし、そこにはどうしても、世界にひとりぼっちで存在せざるを得ない人間の姿が読み取れてしまう。
少しさかのぼって80年代の「冬の花」は、花や草を盛った花瓶が雪の上に置かれ、遠景には雪をかぶった家並みが見えるという作品。
ある種しみじみとした情感が漂う。
しかし、花瓶に盛られているのは、冬なので、ドライフラワーや枯れた草ばかりなのだ。
あるいは「四丁目角」。
人っ子一人いない街角の風景は、松本竣介の初期作品を思わせる。どこか夢の中のような、ふしぎな寂しさ。
画家の精神の厳しさ、寂しさに触れた思いだった。
出品作は次の通り。
◆油彩
初期倉庫(1949)
カゴの中の鳥(1950)
群(1955)
魚(1964)
馬と人と(B)(1966)
埠頭(1971)
椅子の上(1983)
静物(1983)
箱の上の静物(1984)
秋のもり花(1987)
冬の街(1987)
冬の花(1987)
冬の花(1987)
冬の花(1987)
静物(1989)
みかん(1990)
びんの静物(1992)
別れ(1994)
バラの花(1995)
風景(三人)(2000)
ポピー(2000)
トルコききょう(2000)
待合室(2002)
四丁目角(2005)
貝がらなど(2009)
◆パステル
花(1981)
黒い花生のポピー(1991)
◆水彩画
パリ壁(1976)
パリ タンブリ街(1976)
パリ サンマルタン運河(1976)
パリ サンマルタン運河(1978)
イタリアシエナー(1978)
題不詳(1979)
枯花(1980)
◆鉛筆
石を背負う(1960)
母子像(1960)
馬を見る人々(1964)
馬・人(1964)
子を抱いて(1964)
抱く(1964)
病める馬と(1965)
風景(右側)(1985)
風景(左側)(1985)
◆ペン画
六本の樹(1969)
群樹(1969)
樹(1970)
樹-3(1970)
2010年12月12日(日)~2011年1月23日(日)9:30~5:00
この展覧会は無料
美幌博物館(オホーツク管内美幌町みどり253-4)
□美幌博物館 http://www.town.bihoro.hokkaido.jp/museum/
■美幌博物館へ行ってきた(2009年)
・北海道北見バス「美幌・津別線」で「美禽橋」降車(北見からおよそ35分)、1.3キロ、徒歩約17分
・JR美幌駅から2.2キロ、徒歩約28分
(続きはこちら)