札幌の小林孝人さんは、キノコの研究が本業で、そのかたわら、ギャラリーたぴおのグループ展などで、キノコや風景などの写真を発表してきた。
ことしに入ってからどうも発表のペースが加速したような感があり、北24条の「チャオ」に続いての個展である。
今回展示されているのは、1986年から5年間、関東地方在住時代に撮ったモノクローム約30点。
ニコンF2など35ミリカメラと、ローライとが、ほぼ半々の構成だ。
使用フィルムはコダックT-MAXの100と400、フジネオパンFで、オーソドックスである。さすがに、現像・焼きは手堅く、うまい。
「江戸の残照」
というタイトルがついているが、東京の街角に、そうそう武家屋敷などが残っているはずもない。
被写体になっているものの多くは、寺社や皇居(江戸城)、お台場に砕ける波などをとらえた作品もあるけれど、「聖路加国際病院」「かちどき橋」など、明治から戦前にかけて造られたものである。
もちろん、盛り場にレンズを向けた写真などあるはずもない。
その意味では、あまり東京らしくない、ふしぎな静けさをたたえた写真展なのだ。
手前は「平和島の草原」。
ススキがなびく向こうに光る海が見えていて、東京にもこんなところがあるのかと驚かされる。
平和島は大田区蒲田の西側にあり、東京モノレールで羽田空港から浜松町へ向かう途中に同名の駅があるので、ご存知の方もおられよう。島といっても、いまではこの先に、東京貨物ターミナルや八潮パークタウンのある巨大な埋立地があるので、ちっとも島らしくない。平和島にも流通センターの整備が進み、このような野趣あふれる風景を見ようと思ったら、さらに埋立地の先まで行かなくてはならないだろう。
小林さんの写真の特徴として、「石像」「大井町のライオン」など、被写体をずばり中央にとらえて写した作品が多いことがあると思う。
科学者らしい、まじめな撮りかたである。
会場全体が、スタティックで静かなトーンにおおわれているのは、そのためかもしれない。
いまひとつは、東京の写真なのに、人間がフレームに入っているプリントがほとんどないこと。
かろうじて「かちどき橋」で、通行人が遠くに写っているだけだ。
そのかわり?「夕暮れ時の釜炊き」などネコが登場しているカットがけっこうある。
上の画像の手前は「四谷心法寺」。
お地蔵さんがならび、背景に卒塔婆や墓石が見える。
これは、江戸の残照といっていいかもしれない。さびしさがそくそくと迫ってくる光景だ。
2009年7月8日(水)-13日(月)10:00-19:00
新さっぽろギャラリー(厚別区厚別中央2の5 デュオII 5階=JR新札幌駅、地下鉄東西線新さっぽろ駅直結)