毎年真冬に「群青」展という、若手の写真を中心とした大規模なグループ展を企画している札幌の丸島均さんが、新たに、ベテラン画家・版画家に声をかけて始めた「群来展」。
というような情緒的な文言のみが案内状に添えられているのは、正直言ってカンベンしてほしいが、こういう機会をつくりだすべく奔走するパワーには脱帽せざるを得ない。
顔ぶれは五十音順で次の通り。
・佐藤泰子 [絵画]
・白鳥信之 [油彩画]
・白崎 博 [日本画]
・田村佳津子[絵画]
・福岡幸一 [版画]
・中野邦昭 [日本画]
なお、冒頭画像は、会場に貼ってあったもので、揮毫は、札幌のベテラン書家・樋口雅山房さんに依頼したという。
以下、順不同で、簡単に紹介します。
右は白鳥信之さん。
白鳥さんは1945年、後志管内喜茂別町生まれ。
現在は札幌で絵筆を執っている。
団体公募展には属さず、比較的寡作なので、作品を目にする機会がそれほど多いわけではない。
1990年代は写真のような迫真のリアリズムの人物画などを描いていたが、その後は適度に省筆のきいた画風になっている。しかし、むしろそのほうが、深い意味で「リアル」なのかもしれない。
ここ数年は、九州の山村に取材した風景画が多い。深い山奥の谷あいに古い民家の点在する景観は、故郷の喜茂別とは異なるが、日本の古層のようなたたずまいを感じさせる。
「熊本県玉木村頭地風景」は、林の間に開く桜木が美しい。
「宮崎県椎葉村十根川集落風景」にも桜が描かれている。遠景の山は雲か霧にかすみ、日本の山の湿潤さが表現されている。
ほかに新作の肖像「坂井先生」、「1991+2015」と添え書きのある「北辺に生きる」。
後者は実直そうな老境の男性を描いているが、白鳥さんのお父様がモデルではなかったろうか。
右は佐藤泰子さん。
1936年、空知管内雨竜町生まれ。
札幌在住で、長く自由美術に出品を続けている。
以前は札幌時計台ギャラリーで毎年個展を開いていた。
佐藤さんの絵はオレンジやピンクを多用した抽象画。
彩度の高い色が画面の多くを占めているが、下品さがなく、むしろ派手な色彩の中に静けさを感じさせるのが不思議なくらいだ。
何度か書いてきたことだが、佐藤さんの絵は、目をつぶった後でまぶたの裏にぼんやりと見える光芒に似ている(ご本人に聞いたら、それはあながち間違いないではないらしい)。
あるいは、シリーズの題が「さくらさくら」というとおり、満開の桜の花が音もなくはらはらと散っていく光景の印象でもあるように思う。
作品は右から順に
「天空に舞う さくらさくら C」M120
「天空に舞う さくらさくら」M120
「天空に舞う さくらさくら B」M120
「からみ合う情景 さくらさくら」M40
「さくら色に染まるとき B ーふたつのかげー」M40
「さくら色に染まるとき ーふたつのかげー」F30
「さくら色に染まるとき C ーふたつのかげー」F30
「さくら色に染まるとき」のBとCは2019年の最新作。「からみ合う情景」もパステルによる新作という。
80代にしてなお旺盛な制作を続ける姿勢には頭が下がる。
「天空に舞う」の2作は、2枚の画像に同じものがうつっている。
中野邦昭さんは、道展会員で、ほかにも院展、北の日本画展、たくさんの教室の教え子による作品展「みなもの会」(への賛助出品)など、多方面で精力的な制作・発表を続けている。
精緻でリアリティある画風が持ち味。1990年代から21世紀初めにかけては情感をひそませた横向きの女性像に定評があったが、近年は主に風景画に転じている。
メインのモティーフは、木造家屋で、筆者のような世代の人間にも非常に懐かしさを抱かせる。
わらぶきの家ほど古くはなく、さびたトタン屋根、煙突、室内でともる電灯など、1950~60年代の北海道に、ごく当たり前に見られた家の光景だ。
その系列の作品は「月の日」「はまなすの咲く頃」「しらかばの木に」。
もうひとつ、札幌の西郊の山々とその周辺の夜景などをよくとりあげている。
先の画像は「三角山のふもと」「円山へ続く道」「天の川」。
このあたりは、いまではなんとなく「札幌の高級住宅街」という雑なくくり方をされがちだけど、1950~60年代の札幌っ子にとっては、近郊農業地帯であり、本郷新のアトリエがあったような土地であり、遠足やスキーに行く土地だった。
中野さんの絵のうち「円山へ続く道」など、現代の、円山の裏側(動物園などがあり、神社山と挟まれた谷あいに家や店が並んでいる)をモティーフにしているのだろうが、全体には、その時代の懐かしさをたたえているように思う。
ほかに「から松の道」。
白崎博さんも日本画で、ときおり札幌のスカイホールで個展を開くほか、蒼晨会というグループを指導している。
今回は30~50号の5点で、いずれにも短い随想的なテキストが附されている。
「旅の印象 北鎌倉円覚寺にて 木かげ ー石だたみと芙蓉ー」
「移りゆく季節の中で 萩図 ー滝野の小路ー」
「移りゆく季節の中で 聚富二月の情景 冬木立 ーキタキツネが通る道-」
「旅の印象 田安門より牛ヶ渕を望む 浄池ーお堀端の蓮よりー」
「旅の印象 晩秋の竹林と木枯らし 落葉だまり」
いずれも落ち着いた筆遣いで、道内や旅先の自然や季節感をじっくりと描いている。
聚富は石狩市厚田の地名。白崎さんのアトリエがこのあたりにあるのだろうか。
田村佳津子さんは「ふわふわ」と題した、大小の28点が壁を埋め尽くしている。
遠くから見ても、白いキャンバスにしか見えないので、近づいて見ると曲線がオールオーバーにひかれて、まるで雲の集積のようだ。
最後は銅版画家の福岡幸一さん。石狩市厚田にアトリエを構えている。
春陽展と全道展の会員。
福岡さんといえばアンモナイトを思い出す人も多いだろうが、リンゴの木を淡々と描いた連作もある。
これも北海道の歴史・農業史に目を向けた作品といえる。
「りんごの樹 ー生娘ー」「りんごの樹 ー紅玉ー」「りんごの樹 ー老寿の祝が実をつなぐー」「りんごの樹 ー祝ー」など5点。
上の6階でも丸島均さんは展覧会を企画していたが、それはまた後日。
2019年2月14日(木)~19日(火)午前10時~午後7時(最終日~5時)
アートスペース201(札幌市中央区南2西1、山口中央ビル5階)
関連記事へのリンク
■佐藤泰子展 小品 さくらさくら (2017)
■佐藤泰子展 (2016)
■佐藤泰子展―小品 愛しきものたち (2014)
【告知】佐藤泰子展 finish さくらさくら 波立つ (2013)
【告知】佐藤泰子展 finishさくらさくら 海へ“旅立つ” (2011年5月)
■佐藤泰子自選展 ■続き (2009年5月)
■自由美術北海道グループ展(2008年7月)
■自由美術/北海道グループ展(2007年)
■佐藤泰子さくらさくら展(2006年)
■佐藤泰子展(2005年)
■佐藤泰子展(2003年)
■自由美術北海道展(2003年)
■佐藤泰子展 さくらさくら(2002年)
■自由美術北海道展(2001年)=画像なし
【告知】白鳥信之展 (2011、略年譜あり)
■平野俊昌・白鳥信之展 (2006年、画像なし)
■白鳥信之展 (2006年)=札幌時計台ギャラリー
■白鳥信之展(2003年、画像なし)=器のギャラリー中森、temporary space
■白鳥信之展(2002年、画像なし)=大同ギャラリー
■HANA展 (2014)
=白崎さん出品
■田村佳津子個展「ふわふわとひらひらと」(2018年10月23~28日、札幌)■田村佳津子個展「ふわふわひつじが1ぴき2ひき」(2018)
■異形小空間14th (2009)
■LEBENS (人生・生命)展2 (2007、画像なし)
■田村佳津子展 (2006)
□福岡幸一画集のページ https://fkanmo.web.fc2.com/gasyu.html
■福岡幸一作品展―五十年をたどる (2016)
■福岡幸一銅版画展 1億年前の北海道のアンモナイトたち (2014年)
■福岡幸一版画展 生の記憶 (2011年)
■福岡幸一アンモナイト版画展(2010年)
■福岡幸一版画展(2007年) ●同展のおしらせ
■福岡幸一版画展 ~北の樹、果樹~(2003年)
■福岡幸一版画展(2003年)
■福岡幸一版画展(2002年)
■福岡幸一展(2001年)
福岡幸一「静物」 =オホーツク管内置戸町所蔵
■ゆく年くる年 '16-'17展 (画像なし)
■HANA展 (2014)
■第16回みなもの会新春展 (2010)※以下、画像なし
■さいとうgallery企画 第15回夏まつり「星・star」展 (2009)
■中野邦昭日本画展 Thank you,Good-bye ギャラリー山の手 (2009)
■第63回 春の院展 (2008年5-6月)
■第22回北の日本画展=同時開催 第1回企画展「北の息吹」(2007年)
■第13回みなもの会新春日本画展(同)
■20周年記念 北の日本画展(2006年)
■第3回高文連石狩支部美術部顧問展(同)
■第17回 北の日本画展(2002年)
白き札幌 二月
詩情ただよう作品、芸術を人生を語り合いたいものです。
というような情緒的な文言のみが案内状に添えられているのは、正直言ってカンベンしてほしいが、こういう機会をつくりだすべく奔走するパワーには脱帽せざるを得ない。
顔ぶれは五十音順で次の通り。
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・白鳥信之 [油彩画]
・白崎 博 [日本画]
・田村佳津子[絵画]
・福岡幸一 [版画]
・中野邦昭 [日本画]
なお、冒頭画像は、会場に貼ってあったもので、揮毫は、札幌のベテラン書家・樋口雅山房さんに依頼したという。
以下、順不同で、簡単に紹介します。
右は白鳥信之さん。
白鳥さんは1945年、後志管内喜茂別町生まれ。
現在は札幌で絵筆を執っている。
団体公募展には属さず、比較的寡作なので、作品を目にする機会がそれほど多いわけではない。
1990年代は写真のような迫真のリアリズムの人物画などを描いていたが、その後は適度に省筆のきいた画風になっている。しかし、むしろそのほうが、深い意味で「リアル」なのかもしれない。
ここ数年は、九州の山村に取材した風景画が多い。深い山奥の谷あいに古い民家の点在する景観は、故郷の喜茂別とは異なるが、日本の古層のようなたたずまいを感じさせる。
「熊本県玉木村頭地風景」は、林の間に開く桜木が美しい。
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ほかに新作の肖像「坂井先生」、「1991+2015」と添え書きのある「北辺に生きる」。
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1936年、空知管内雨竜町生まれ。
札幌在住で、長く自由美術に出品を続けている。
以前は札幌時計台ギャラリーで毎年個展を開いていた。
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彩度の高い色が画面の多くを占めているが、下品さがなく、むしろ派手な色彩の中に静けさを感じさせるのが不思議なくらいだ。
何度か書いてきたことだが、佐藤さんの絵は、目をつぶった後でまぶたの裏にぼんやりと見える光芒に似ている(ご本人に聞いたら、それはあながち間違いないではないらしい)。
あるいは、シリーズの題が「さくらさくら」というとおり、満開の桜の花が音もなくはらはらと散っていく光景の印象でもあるように思う。
作品は右から順に
「天空に舞う さくらさくら C」M120
「天空に舞う さくらさくら」M120
「天空に舞う さくらさくら B」M120
「からみ合う情景 さくらさくら」M40
「さくら色に染まるとき B ーふたつのかげー」M40
「さくら色に染まるとき ーふたつのかげー」F30
「さくら色に染まるとき C ーふたつのかげー」F30
「さくら色に染まるとき」のBとCは2019年の最新作。「からみ合う情景」もパステルによる新作という。
80代にしてなお旺盛な制作を続ける姿勢には頭が下がる。
「天空に舞う」の2作は、2枚の画像に同じものがうつっている。
中野邦昭さんは、道展会員で、ほかにも院展、北の日本画展、たくさんの教室の教え子による作品展「みなもの会」(への賛助出品)など、多方面で精力的な制作・発表を続けている。
精緻でリアリティある画風が持ち味。1990年代から21世紀初めにかけては情感をひそませた横向きの女性像に定評があったが、近年は主に風景画に転じている。
メインのモティーフは、木造家屋で、筆者のような世代の人間にも非常に懐かしさを抱かせる。
わらぶきの家ほど古くはなく、さびたトタン屋根、煙突、室内でともる電灯など、1950~60年代の北海道に、ごく当たり前に見られた家の光景だ。
その系列の作品は「月の日」「はまなすの咲く頃」「しらかばの木に」。
もうひとつ、札幌の西郊の山々とその周辺の夜景などをよくとりあげている。
先の画像は「三角山のふもと」「円山へ続く道」「天の川」。
このあたりは、いまではなんとなく「札幌の高級住宅街」という雑なくくり方をされがちだけど、1950~60年代の札幌っ子にとっては、近郊農業地帯であり、本郷新のアトリエがあったような土地であり、遠足やスキーに行く土地だった。
中野さんの絵のうち「円山へ続く道」など、現代の、円山の裏側(動物園などがあり、神社山と挟まれた谷あいに家や店が並んでいる)をモティーフにしているのだろうが、全体には、その時代の懐かしさをたたえているように思う。
ほかに「から松の道」。
白崎博さんも日本画で、ときおり札幌のスカイホールで個展を開くほか、蒼晨会というグループを指導している。
今回は30~50号の5点で、いずれにも短い随想的なテキストが附されている。
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最後は銅版画家の福岡幸一さん。石狩市厚田にアトリエを構えている。
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これも北海道の歴史・農業史に目を向けた作品といえる。
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上の6階でも丸島均さんは展覧会を企画していたが、それはまた後日。
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=白崎さん出品
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