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■第29回林忠彦賞受賞記念写真展 笠木絵津子「私の知らない母」 (2022年1月7~30日、東川) 2022年1月22日 東川へ、冬の旅(8)

2022年01月30日 11時56分38秒 | 展覧会の紹介-現代美術
(承前)

 渡邉さんの写真展と同時開催だったので、なんの予備知識も無しに見たのですが、すごい作品でした。
 「そこに ある」のようなストレートフォトとは作り方が全く異なるコラージュですし、何度も見ている作家と初めて見る作家という違いもあり、比較は無意味なのですが、とにかく驚かされました。

 1924年(大正13年)生まれの実母の生涯をたどり、台湾・高雄、旧満洲国ハルピンなどを訪れ、当時の家族写真に、2004年ごろに撮った現地の写真などを織り交ぜつつ、自分の写真をそこに貼り込んでいるのです。
 事実上の日本の植民地で過ごした幼いころの日々、ソ連軍の侵攻、内地への引き揚げ、夫(作者の父親)との出会い…。
 そういった人生航路と、自分の来し方とを重ね合わせています。したがって、1点ずつを取り出して見てもあまり意味はなく、全体の流れのなかで見るべき作品です。
 画像はあまり大きくないですが、作者のサイトでその抜粋を見ることができます。

 コラージュは、フォトレタッチソフトで巧みに仕上げるのではなく、あえてはっきりと新旧の写真が分かるように貼り合わせてスキャナーで1枚の画像にしています。
 このようなことが可能なのは

古い写真はモノクロ、最近はカラー

という、或る世代までは当たりまえな前提があるからです。カラー写真は昔からありましたが、プリント代が高価でした。筆者の家で家族スナップがカラーになったのは1970年からです。
 笠木家はもうすこしお金持ちだったらしく、60年代前半から、カラーの家族写真がありました。
(ただ、さすがに褪色しており、いまの写真と組み合わせると、すぐに判別できます)

 この写真展がすごいのは
・娘が母の人生を反復している
・母の人生は娘が過ごした時代を全く異なる
という二つの相矛盾する側面を、同時に呈示していることです。
 その上で、母の人生が、近代日本の植民地主義という条件のもとに成り立っていたことを示すことで、戦後ふつうに過ごしてきた自分の歩みがじつはポストコロニアルなものであったことに気づく(見る側も気づかされる)という、複雑な構造を有しています。

 筆者は先ごろ、安彦良和さん(オホーツク管内遠軽町出身の漫画家で、「機動戦士ガンダム」のキャラクターデザインを担当)の大作『虹色のトロツキー』を読んだばかりだったので、なおさらこの展覧会から受けた衝撃が大きかったのかもしれません。
 1930年代の「満洲国」やノモンハン事件を舞台にしたこの漫画は、単純なナショナリズムでは割り切ることができない歴史の残酷さに迫っていました。

 それにしても、これは生涯に一度しかできない大技といえます。
 圧巻でした。


2022年1月7日(金)~30日(日)午前10時~午後5時(会期中無休)
東川町文化ギャラリー (上川管内東川町東町1)
入館料:500円(中学生以下無料)

□笠木絵津子 https://kasagi-etsuko.jp/



・旭川駅前バスターミナル 9番乗り場から、旭川電気軌道バス「60 東川線」「67 東川・東神楽循環線」「66 旭岳線」に乗り「ひがしかわ道草館」で降車、約500メートル、徒歩7分
※「旭岳線」は旭川空港を経由します



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