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■ウッドワン美術館名品選 巨匠たちの饗宴 -日本近代絵画-(7~9月旭川、9月16日~11月7日帯広)

2011年11月07日 22時02分38秒 | 展覧会の紹介-絵画、版画、イラスト
(長文です)

 こんなにロングランで開催されていたのに、会期中に更新できなくて申し訳ございません。

 広島県にあるウッドワン美術館の所蔵品から、洋画48点、日本画42点をよりすぐって展示していた。
 どちらもひとり1ないし2点(小出楢重と横山大観のみ3点)。ほとんど、名の通った画家ばかり。
 もちろん、すべてが名作とはいかないが、素描などはなく、全点がタブロー。代表作クラスのものも含まれている。
 ここまで豪華な顔ぶれの絵画展は、道内ではまず見ることができないだろう。

 本州に行くと、こうした民間会社のコレクションを集めた私立の美術館がけっこう建っている。
 北海道の人は民間のコレクションにあまりなじみがないかもしれない。札幌の宮の森美術館HOKUBU(北武)記念絵画館、十勝管内鹿追町の福原記念美術館、釧路市阿寒の北緯43°美術館石狩美術館、日高管内新冠町の太陽の森ディマシオ美術館といった例があるが、道外にくらべると少ないと思う。

 ウッドワン美術館の所蔵品は、ほんとうにすばらしいのだが、ただひとつ不思議なのは、集めている人の顔が見えないことだ。
 自分はこういうのが好きだから集めてるんだ! というこだわりがあまり感じられない。
 まあ、これだけの作品を見せてもらって、文句をつける筋合いのものでもないのだが…。

 さて、展覧会場の順路に従い、洋画からいく。

 洋画は、高橋由一「官軍が火を人吉に放つ図」(明治10年=1877年)から、脇田和「野鳥と草」(昭和59年=1984年)まで、40人の48点が展示されている。

 冒頭の画像は、岸田劉生「毛糸肩掛せる麗子肖像」(大正9年=1920年)。
 麗子像というのは、かなりの点数がのこされているが、いつぞやの岸田劉生展でも素描やエスキスが多く、これだけ状態が良いものはめずらしいのでは。
 劉生はよく「でろり」という語を、作品の形容に用いたそうだが、それがよく似合う絵だ。
 



 岡鹿之助「献花」(昭和41年=1966年)。
 岡鹿之助は、典雅なタッチで西洋の古城などの風景や静物を描き、市場価格の高い人気画家。
 しかし、いざ実物を目にすると、思いのほか、アンリ・ルソーやポーシャンといった素朴派に近い感じがする。
 ルソーは前例のない、無手勝流の描法で名声を博したのだが、それが美術史にいったん登録されると、アカデミックなものに変わっていくということなのかもしれない。
 素朴派っていえば、海老原喜之助も、岡鹿之助とはぜんぜん異なるとはいえ、そのケがあるなあ。「曳舟」(昭和2年=1927年)は妙な作品なのだ。

 それほどの優品ではないとはいえ、青木繁や萬鐵五郎、村山槐多があるのもすごい(このあたりは、そもそも早世のため実作が少なく、市場にも出回らないので仕方ない)。

 林武「赤富士」(昭和42年)は、迫力十分。
 といって、フォーブ一辺倒ということでもない。
 考えさせられる。

 淡い色彩とあいまいな輪郭の景物を描く牛島憲之「新樹」(昭和28年)。
 木のかたちが、現実にはありえないもので、おもしろい。

 このほか、山本芳翠、浅井忠、藤島武二、岡田三郎助、和田英作、熊谷守一、坂本繁二郎、金山平三、藤田嗣治、中村彝、安井曾太郎、梅原龍三郎、国吉康雄、須田国太郎、児島善三郎、北川民次、古賀春江、前田寛治、佐伯祐三、荻須高徳、向井潤吉、鳥海青児、三岸好太郎、小磯良平、靉光、山口薫、香月泰男、松本竣介、鴨居玲。

 小出楢重については、別エントリで。





 続いて日本画。

 こちらも大物がずらり。



 たぶんいちばん有名な日本画家、横山大観の「霊峰不二」。
 これが昭和25年(1950年)、つまり戦後の作というからおどろく。
 ご存知のように、第2次世界大戦中、大観は富士の絵を描きまくり、売ったお金を軍に献上した。
 富士山の絵がナショナリズムの記号として存分にその役割を果たしたことは言うまでもない。

 筆者は戦争中の画家の行為を、戦後の価値観から非難しようとは思わない。それは、後出しじゃんけんのようなものだからだ。
 ただ、戦争が終わった後は、戦中の軍国主義的なふるまいを多少は反省するのが、普通の人間ではないかとも思う。
 しかし、少なくてもこの富士山の絵からは、そういう転機はまったくうかがえない。
 戦中の富士山とおなじに見えるのだ。

 同様の違和感を、前田青邨「豊公」(昭和22年ごろ)にも覚える。
 豊臣秀吉の背後に描かれているのは大陸の地図らしい。
 青邨は、日本が朝鮮などを失ったことを惜しんでいるのだろうか。
 


 もっとも、時代の流れから超越しているのが日本画なのかもしれない。
 左の絵は、鏑木清方「二人づれ」(大正5年)。
 陰影のない平坦な描写や輪郭線がいかにも日本画らしい。
 実は日本画は、或る特定の時代の産物なのだが、この絵を見ていると、上村松園と同様に、時代を超越した不易の世界が表現されているように思われるのだ。

 右は川合玉堂「冬峰弧鹿」(明治31年)。
 いや~、玉堂っていいなあ。
 同時に展示されている「深秋」もよいです。 
 失われた日本がそこにある、という感じがする。
 それはたぶん、失われつつあるから召還されているんだと思う。

 福田平八郎「竹」もおもしろい。
 装飾と絵画の関係か、ふむふむ。自分としては、彼の絵は、装飾というより抽象画へのアンサーソングだと思っていた。いろんな見方ができるなあ。

 横山操「夕原」は強烈。
 赤い空と枯れ木の荒涼とした風景は、一目見たら忘れられない。
 
 ほかに、橋本雅邦、富岡鉄斎、竹内栖鳳、上村松園、伊藤小披、冨田渓仙、橋本関雪、小林古径、安田靫彦、川端龍子、榊原紫峰、小野竹喬、奥村土牛、速水御舟、池田遙邨、小倉遊亀、山口華楊、上村松篁、岩橋英遠、橋本明治、片岡球子、東山魁夷、杉山寧、高山辰雄、石山正、加山又造、平山郁夫


2011年7月16日(土)~9月9日(金) 道立旭川美術館(旭川市常磐公園)

   9月16日(金)~11月7日(月)9:30~5:00(入場~4:30) 道立帯広美術館(帯広市緑ケ丘2 緑ケ丘公園)

※月曜休み(ただし祝日と最終日は開館し、祝日の翌火曜は休み)
※一般1000円、高大生600円、小中生300円



・JR帯広駅から2.3キロ、約27分
・十勝バス「環状線南まわり」か「自衛隊稲田線」で、「グリーンパーク」前から公園内を歩いて10分程度
・十勝バス「南商線」か「南商あかしあ線」で「春駒通12条」降車、870メートル、約11分





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2 コメント

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Unknown (SH)
2011-11-08 22:19:32
>ただひとつ不思議なのは、集めている人の顔が見えないことだ

言われて気がつきましたが、確かにそうですね。
それゆえに、いい意味で総花的に近代の作家を見ることができて、それはそれで良かったです。
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SHさんこんばんは (ねむいヤナイ@北海道美術ネット)
2011-11-09 00:00:34
余計なお世話なんですけど、これを集めてる人って何が楽しくてどんな趣味の持ち主なんだろうと思いましたね、会場で。
自分だったらもっと偏った集め方をするでしょうね(むなしい仮定ではありますが 笑)。
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