北海道美術ネット別館

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■第30回記念日陽展 (4月27日まで)

2008年04月26日 22時39分13秒 | 展覧会の紹介-複数ジャンル
 会場に入ると、どこかの女性から、カメラのシャッターを押してほしいと頼まれた。
 夫の絵の前で、知人と3人で記念写真を撮りたいということらしい。
 カメラは、なつかしい「サムライ」である(京セラが80年代後半に発売した縦型のハーフカメラ)。

 くだんの絵は、杉本道昭「家路」(100号)だった。
 筆者の知らない人だ(あとで検索をかけてみたけど、まったくヒットしなかった)。
 目録にも、(札幌)とあるだけで、所属などは記されていない。
 縦位置。写実的でありふれた風景画といえる。とくに卓越した技量というわけでもないだろう。
 だが、よく見ると、これがなかなか良い感じなのだ。
 雨の日、新緑のシラカバ林を貫く一本道。遠くに、黄色い傘をさした2人の子が見える。
 どんよりとした曇り空や、水たまりの描写、丁寧に描かれた砂利など、堅実である。
 とりわけうまいと思うのは、右側のシラカバのうち1本だけが高く、道の上のアーチのようになっていることだ。これが構図に動感を与えている。
 いきなり100号デビューとは。それとも、昔に描いていて、ふたたび筆を執ったのだろうか。
 そのへんの事情はよくわからないけれど、なんだか、出合えて良かった-と思える絵だった。
 
 日陽展は、故江口美春さん(道展会員、札幌)が研鑽(けんさん)や交流を目的に始めたグループ展。
 写実的な絵が多いが、大作も多いし、いわゆる教室展よりは水準が高いので
「美術のことはそれほど詳しくないし、公募展は作品が多すぎて疲れるし、ふらっと絵を見て楽しめる機会はないかしら」
という人にはぴったりの展覧会だと思う。
 近年、江口さんや濱向繁雄さんといった、ベテラン道展会員が相次いで世を去ったこともあって、顔ぶれがかなり入れ替わっている。工芸も、七宝作家の能登誠之助さんだけになってしまった。

 今回は日本画、油彩、水彩、工芸の計49人が1、2点を出品している。

 上記の杉本さんの絵の反対側、A室のつきあたりの壁には例年、ベテラン勢の絵がならぶ。
 種市誠次郎さん「浮遊」は、ここ10年ほど種市さんが取り組んでいる、荒物屋に売られていそうな古いざるを並べて、空間について考究している作品。ざる11枚のほか、竹のものさし、コーラの缶、ステッキなどが、薄青い地の上に浮かんでいる。
 ふしぎなのは、気球がふたつ描かれていることで、大きさの尺度が違うものが挿入されているのだ。

 その横には“岩内派”のベテラン濱田五郎さん「岬初春」。
 複雑に入り組んだ海岸線と新緑の海岸台地を、現場感覚を生かして描写したもので、台地の上の赤いトタン屋根がアクセントになっている。

 例年、独特のタッチでパリの風景などを描いている藤井幸一郎さん。
 ことしは「チュイルリー公園(パリ)」「セーヌ(パリ)」2作。画面のほとんどを朱色、灰色、白だけで埋めている。筆触は大まか。近づいてみると、緑なども用いられている。

 赤平・歌志内からの出品は今年も多い。
 伊藤哲さん「北の杜」は、猛禽(もうきん)類やカラスが交錯する作品。
 おなじく赤平の竹越公子さん「雪の雪原」は、目録に「F50号」とあるが、どう見ても120号クラスに見える。近景に木々を配し、スムーズに人の視線を奥へと導いていく安定した構図が光るが、厚塗りの堅牢な真ティエールも作品に確たる存在感を与えていると思う。

 風景画でいえば、佐々木恒美さん「アッシジ(イタリア)」も安定した構図。

 花田麗子さんは、水光会などにも出品している札幌の人。
 今回の「吹きだまり」は、吹雪の中を、身を寄せ合って歩く母親と子ども3人を描いている。よくある題材ともいえるが、みんなゴム長靴を履き、母親は角巻をはおって女児を守り、すぐ後ろを歩く男児は小さい弟か妹を背負っている-という道具立てが、見る人をはるか昔の追想へと駆り立てる。

 竹澤瑠美子さん「お気に入りの帽子」は、20号の小品だが、女性の肖像をしっかりした力量で描いている。いすやブラインドの描写も確かだ。 

 水彩では小林伸さんがおもしろい。細いペンに水彩で薄く色を加え、丁寧に風景を描いている。
 個人的な好みでいえば、昨年のほうがいいと思うけれど、ことしの「コテージ」にも共通するのは、小林さん自身の理想郷みたいなイメージが画面に投影されているということだと思う。実際にある風景ではなく、小林さんが「こうあればいいなあ」と心に抱いている景色が描かれているのだろう。


08年4月23日(水)-27日10:00-18:00(最終日-17:00)
札幌市民ギャラリー(中央区南2東6)

第28回
第26回(04年)
第25回(03年)
第24回(02年、4月8日の項)
第23回(01年)
 =以上画像なし




・地下鉄東西線「バスセンター駅」10番出口から徒歩2分
・ジェイアール北海道バス、札幌駅ターミナルから新さっぽろ方面行きのバスで「サッポロファクトリー」降車、徒歩5分(100円です)
・ジェイアール北海道バス、札幌駅ターミナルかバスセンターから「5 米里線」で「中央小学校前」降車、徒歩2分(本数が少ないのでおすすめできません) 


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