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■大橋鉄郎展「これって正解です(か?)」 (10月30日~12月12日、網走) 2021年12月4日その18

2022年02月05日 15時38分00秒 | 展覧会の紹介-現代美術
(承前)

 美幌から網走に足をのばしたのはこの展覧会を見るためでした。
 紹介が遅れてすみません。

 大橋鉄郎さんは1994年生まれ。
 札幌・苗穂駅近くにある共同アトリエを拠点に活動しており、話題を呼んだグループ展「塔を下から組む―北海道百年記念塔に関するドローイング展」にも参加して、くだんの記念塔を見に行かないで作るという脱力系(?)な作品を出していました。

 
 今回出品されていたものと同系統の作品は、以前、札幌・北区の cafe cojica (カフェ・コジカ)で見た記憶があります。
 ただ、筆者は元々ぼけているところがあって、そのときはなんだかピンときませんでした。
 今回の展覧会は、いろいろな作品が集まっていることに加え、タイトルが絶妙なんですよね。
「本物って、そもそもなんだろう?」
ということをあらためて考えさせる題なのです。

 このブログを、とくにスマートフォンで見ている人は、気づかないかもしれませんが、冒頭と2枚目の画像は本物のオフィス家具やソファを置いているのではありません。
 ニトリかなにかのサイトから商品の画像をプリントアウトして、工作のように組み上げているのです。まあ一種のペーパークラフトですよね。
 実際に会場で目にすると、ペラペラ感というか、チープさがあります(笑)。

 じゃあ、これらが「ニセモノ」か、と問われると、そうは言い切れません。
 カタログの写真は、本物の机やいすを撮影しているわけですから。

 
 わたしたちが日々目にしているものは、実物ではなく、イメージが大半です。
 これが、文字情報や粗いモノクロ写真であれば、イメージであることは明白なのですが、ウェブのカラー写真や動画に接する割合が高くなればなるほど、自分が見ているものがイメージだということに、無自覚になっていくようです。

 3枚目、半透明のごみ袋が置いてありますが、中のビール缶も、本物ではなく、プリントアウトして缶の形にしたもので、注意しないで見ていると、気づかない恐れがあります。
 書架に並ぶ本も、プリントしたものです。

 もうひとつ考えさせられるポイントとして、ごみ袋もぺらぺらの本も、美術館の会場にあるから
「まあ、作品なんだよな」
と認識するのであって、そこらへん(たとえば道ばたとか、アパートの廊下とか)に置いてあったら、放置ごみと間違えられて片付けられちゃうかもしれませんよね。
 これはこれで、美術史における文脈とは違う、「日常のなかの文脈」ということについての問題提起になっているといえます。
 絵だと、額がついていれば、どんな場所にあっても、人はそれを絵だと認識します。これはこれで、ふしぎなことです。

 
 一瞬、石内都かと思いました。
 これも「イメージ」と「モノ」の関係を問う作品のシリーズです。

 写真を撮ってこなかったのですが、会場には、消火設備を収める箱そっくりの物体(作品)が、壁に設置されていました。
 ふだん網走市立美術館に来ない人が見たら、元々そこにあるものだと思っただろうなあ(笑)。


 いまふと思ったのですが、複製画像を一点ものの作品にするということを、ベンヤミンの複製芸術論で考えてみたら、どうなるんでしょうかね。


 
 ピースシリーズという作品。
 実際の街路の写真と、ピースサインを出す若い女性1人のイラストレーションの組み合わせです。

 これが、なんともいえないおかしみというか違和感を醸し出すのは、ピースサインを出す人物は、日常生活ではひんぱんに写真で目にするのに、美術館やギャラリーで「作品」として見る写真には、めったに登場しないからです。
 筆者も仕事で膨大な写真を撮っているので分かるのですが、新聞のニュース写真でピースサインを出している人はまず登場することはありません。もしそんなことをしていたら、一気にニュースっぽくなくなるんですよね。
 ピースサインは、作品や報道と、そうでない日常とをはっきり分ける記号のようなものといえるかもしれません。


 それにしても、20代の作家の個展を企画する網走市立美術館のフットワークの軽さは、道内の美術館でも群を抜いていると思います。
 2020年、若手の葛西由香さんの個展を開いたばかりですが、このときは、向かって左手の小さな部屋でした。今回はメイン展示室での開催となり
「いや~、大橋さんも、網走市立美術館も、やるなあ」
と感心してしまったのでした。


2021年10月30日(土)~12月12日(日)午前10時~午後4時、月曜休み
網走市立美術館(網走市南6西1)

http://tetsuro-ohashi.com/

過去の関連記事へのリンク
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