(承前)
16日4カ所目は、ギャラリーレタラの末永正子さんの個展。
冒頭画像は、4枚組みの抽象画「Four Seasons」。
四つのキャンバスからなるが、どれが春で、どれが冬―ということは決めてはいないとのこと。
次に掲げる画像は、そのうち左から2枚目に掛かっている絵だ。
末永さんの作品はこれまで横位置のものが多かった。
移り行く時間の流れというものが、創作意識の根底にあったことをかんがみれば、横長の構図が多くなることは自然な発想だろう。
今回、一昨年の茶廊法邑での個展の出品作から4点を選んで、入り口からはいって右側の壁に陳列しているが、いずれも横長だ。
とはいえ、わたしたちの想念は、かならずしも左右に流れ行くものとは限るまい。
鉄道に乗って車窓を眺めていれば、曇ったガラス窓の水滴は上から下へと流れていく。
あるいは、雪はひらひらと上から舞い降りてくるものだ。
断片的なイメージは、それらとおなじように上から下へと細切れに落ちてくることもあるのかもしれない。
そういうことをつらつらと考えてしまうのは、一見奔放に見える末永さんの画面の線が、じつは垂直や平行にひかれていることが多いためでもあるだろう。
「冷たい抽象」やカラーフィールドペインティングの堅苦しさはないが、かといってランダムにひかれて収拾がつかなくなっている絵ではないのだ。
もうひとつ思い出したのは、末永さんは1998年に道展(北海道美術協会)で最高賞にあたる協会賞を受賞したころは、人物をモチーフにした半抽象画を描いていたことだ。
人物描写は年を追うごとにラフになっていき、ついには完全な抽象になってしまうのだが、縦長の色塊を見ると、本人の意図はどうあれ、人物を描いていた時代を思い出してしまう。あまり、人物っぽい点はないのだけれど。
ついでに言えば、この4枚は額縁もない。
これも末永さんによれば、初めてとのこと。
まあ、一般論でいえば、抽象画に額は不要であることが多いのだが。
灰色や青といった寒色が目立つけれど、実際には用いられていない色はないぐらい、効果的に緑や赤なども配されている。
画像ではわかりにくいが、上のレイヤーから、下の層の暖色が顔をのぞかせていることも少なくない。
色といえば、この画像の2点は「Toki」と題されて、右は昨年の道展出品作だが、このあたりから
「ウオーターブルーが使いたくてたまらなくなった」
とのこと。
そして、この色を効果的かつ大事に使いたいばかりに、周囲の色や、全体のバランスなどを熟慮するようになっているという。
一時はグレー系が圧倒していた末永さんの絵だが、近年はほんとうに色の配し方が絶妙だと思う。
誰かも言っていたが、原色系をふんだんに用いることばかりが「カラリスト」ではないのだ。
次の画像は、2017年3~4月に市立小樽美術館が企画した個展の際に、新作として出品した「白と黒の景」。
右側の黒に、一部スプレーを用いている。
美術館の個展には必ずしも新作を並べる必要はないと筆者は思うのだが、やはり「自分のいま」を見てほしいと美術作家は考えるもののようだ。
末永さんは小樽生まれで、札幌の大谷短大にも小樽から通っていた。
「先輩から(小樽)市展に出してみないかと誘われたり、そこで知り合った人とグループ展に出品したりしたので、小樽にいなければ絵を描き続けていなかったかもしれない」
たしかに札幌は人口が多すぎて、地元の画家が全員顔を合わせる機会はない。その点、小樽美術協会や市展のある小樽は、仲間どうしが声を掛け合い、支えあうにはちょうど良い規模のマチなのかもしれない。
その後も小樽に住み続け、全国規模の団体公募展には出品せず、東京で個展を開いたこともない末永さんは、「ローカルな画家」
と分類されるのだろうが、作品を前にすると、ローカルだろうが全国区だろうがそんなことは結局はどうでもいい―という気がしてならない。
実際の社会とのかかわりを重視する昨今の現代アートであれば、どこを拠点とし、どういう範囲と射程で制作に臨むのかは、軽視できないポイントだろうが、絵画という分野に限ってみれば、そこにある画面がすべてであって、時代や場所などはいったんカッコにくくって鑑賞することが可能だし、それが近代美術の美点であろう。
末永さんの絵は、北海道の一地方都市でひっそりと描かれ続けているが、それゆえにこそ、広い世界に対峙できるのだと思う。
(うまく書けなくてすみません)
2019年2月1日(金)~17日(日)正午~午後6時、火曜休み
Gallery Retara(札幌市中央区北1西28)
過去の関連記事へのリンク
■末永正子油彩展 TOKI →季・時シリーズ (2017)
■Wave 13人展 (2016、画像なし)
■Color's 5 色彩からの絵画性-女性5人展 (2013、画像なし)
■40周年小樽美術協会展 (2008、画像なし)
■第39回小樽美術協会展 (2007)
参考ページ
市立小樽美術館の関連ページ http://otarubij-kyoryoku.com/exhibition/1046/
朝日新聞北海道版夕刊連載「北海道アート紀行」(星田七恵・市立小樽美術館学芸員の寄稿)http://www.asahi.com/area/hokkaido/articles/MTW20170315011560001.html
ブログ「北海道を彩るアーティスト」
16日4カ所目は、ギャラリーレタラの末永正子さんの個展。
冒頭画像は、4枚組みの抽象画「Four Seasons」。
四つのキャンバスからなるが、どれが春で、どれが冬―ということは決めてはいないとのこと。
次に掲げる画像は、そのうち左から2枚目に掛かっている絵だ。
末永さんの作品はこれまで横位置のものが多かった。
移り行く時間の流れというものが、創作意識の根底にあったことをかんがみれば、横長の構図が多くなることは自然な発想だろう。
今回、一昨年の茶廊法邑での個展の出品作から4点を選んで、入り口からはいって右側の壁に陳列しているが、いずれも横長だ。
とはいえ、わたしたちの想念は、かならずしも左右に流れ行くものとは限るまい。
鉄道に乗って車窓を眺めていれば、曇ったガラス窓の水滴は上から下へと流れていく。
あるいは、雪はひらひらと上から舞い降りてくるものだ。
断片的なイメージは、それらとおなじように上から下へと細切れに落ちてくることもあるのかもしれない。
そういうことをつらつらと考えてしまうのは、一見奔放に見える末永さんの画面の線が、じつは垂直や平行にひかれていることが多いためでもあるだろう。
「冷たい抽象」やカラーフィールドペインティングの堅苦しさはないが、かといってランダムにひかれて収拾がつかなくなっている絵ではないのだ。
もうひとつ思い出したのは、末永さんは1998年に道展(北海道美術協会)で最高賞にあたる協会賞を受賞したころは、人物をモチーフにした半抽象画を描いていたことだ。
人物描写は年を追うごとにラフになっていき、ついには完全な抽象になってしまうのだが、縦長の色塊を見ると、本人の意図はどうあれ、人物を描いていた時代を思い出してしまう。あまり、人物っぽい点はないのだけれど。
ついでに言えば、この4枚は額縁もない。
これも末永さんによれば、初めてとのこと。
まあ、一般論でいえば、抽象画に額は不要であることが多いのだが。
灰色や青といった寒色が目立つけれど、実際には用いられていない色はないぐらい、効果的に緑や赤なども配されている。
画像ではわかりにくいが、上のレイヤーから、下の層の暖色が顔をのぞかせていることも少なくない。
色といえば、この画像の2点は「Toki」と題されて、右は昨年の道展出品作だが、このあたりから
「ウオーターブルーが使いたくてたまらなくなった」
とのこと。
そして、この色を効果的かつ大事に使いたいばかりに、周囲の色や、全体のバランスなどを熟慮するようになっているという。
一時はグレー系が圧倒していた末永さんの絵だが、近年はほんとうに色の配し方が絶妙だと思う。
誰かも言っていたが、原色系をふんだんに用いることばかりが「カラリスト」ではないのだ。
次の画像は、2017年3~4月に市立小樽美術館が企画した個展の際に、新作として出品した「白と黒の景」。
右側の黒に、一部スプレーを用いている。
美術館の個展には必ずしも新作を並べる必要はないと筆者は思うのだが、やはり「自分のいま」を見てほしいと美術作家は考えるもののようだ。
末永さんは小樽生まれで、札幌の大谷短大にも小樽から通っていた。
「先輩から(小樽)市展に出してみないかと誘われたり、そこで知り合った人とグループ展に出品したりしたので、小樽にいなければ絵を描き続けていなかったかもしれない」
たしかに札幌は人口が多すぎて、地元の画家が全員顔を合わせる機会はない。その点、小樽美術協会や市展のある小樽は、仲間どうしが声を掛け合い、支えあうにはちょうど良い規模のマチなのかもしれない。
その後も小樽に住み続け、全国規模の団体公募展には出品せず、東京で個展を開いたこともない末永さんは、「ローカルな画家」
と分類されるのだろうが、作品を前にすると、ローカルだろうが全国区だろうがそんなことは結局はどうでもいい―という気がしてならない。
実際の社会とのかかわりを重視する昨今の現代アートであれば、どこを拠点とし、どういう範囲と射程で制作に臨むのかは、軽視できないポイントだろうが、絵画という分野に限ってみれば、そこにある画面がすべてであって、時代や場所などはいったんカッコにくくって鑑賞することが可能だし、それが近代美術の美点であろう。
末永さんの絵は、北海道の一地方都市でひっそりと描かれ続けているが、それゆえにこそ、広い世界に対峙できるのだと思う。
(うまく書けなくてすみません)
2019年2月1日(金)~17日(日)正午~午後6時、火曜休み
Gallery Retara(札幌市中央区北1西28)
過去の関連記事へのリンク
■末永正子油彩展 TOKI →季・時シリーズ (2017)
■Wave 13人展 (2016、画像なし)
■Color's 5 色彩からの絵画性-女性5人展 (2013、画像なし)
■40周年小樽美術協会展 (2008、画像なし)
■第39回小樽美術協会展 (2007)
参考ページ
市立小樽美術館の関連ページ http://otarubij-kyoryoku.com/exhibition/1046/
朝日新聞北海道版夕刊連載「北海道アート紀行」(星田七恵・市立小樽美術館学芸員の寄稿)http://www.asahi.com/area/hokkaido/articles/MTW20170315011560001.html
ブログ「北海道を彩るアーティスト」
(この項続く)