鉄道写真一般の魅力については、3年前のおなじ写真展の時に書いたエントリ(下のリンク先)で、しちめんどうくさい考察を試みているのでお読みくださるとうれしいのだけれど、要するに鉄道写真というのは、撮る側・見る側の「ここではないどこかへ」というロマン的なあこがれの気持ちをかきたててくれる絶好の装置なのである-と、とりあえずまとめておこう。
鉄道写真といっても、混雑する通勤電車の写真がこの種のコンテストにけっして登場しないのは、そういうあこがれへとつながる回路を欠いているからだ。
今回の応募点数は4000点以上で、特徴としては、デジタルが全体の8割を超えたことだそうだ。自宅のプリンターで作品にした人も多いとのこと。
たしかに、今回会場で目にした作品の大半がデジタルのようである。
もっとも、作品によっては、粒子の粗さが目につき、大伸ばしには耐えられないなあというものもある。
被写体の傾向では、SLや、海外の鉄道が減って、国内のさまざまな鉄道が大半になっている。
印象に残った作品。
まず北海道がらみから。
加藤正「夏空」(車両列車部門佳作)
河川敷から鉄橋を渡る2輛編成のディーゼルカー「キハ40」を見上げた構図。サボ(行き先表示)に「旭川」とある。雲の形と青い空がさわやかな余韻を残す。イタドリなどの浅い緑色がいかにも北海道らしい。
森谷文博「静寂の中の喧騒」
河口部だろうか、手前の水面が凍り、中景より向こうに海が広がるところに、鉄橋がわたり、単行ディーゼルカー(キハ40 351)が走っている。鳥が車輌のまわりに群がって飛んでいる。
佐竹尚「子供神輿の季節」(一般部門佳作)
手前に数人でひっぱる小さなみこし。奥に島式のプラットフォームとディーゼルカー。
行き先表示に「浦臼-石狩当別」とあるので、JR札沼線(学園都市線)の列車だろう。
ほほえましいけれど、なんかさびしい。
つづいて、道外で撮られた作品。
入江直樹「この未来都市がどう映るか」(一般部門銅賞)
今回の展覧会で、もっとも個性的な1点だと思う。
というのは、運転台の窓ごしに見えるのは、光と人であふれる夜の渋谷駅前だからだ。
渋谷駅前に、昔の鉄道車輛が展示されたことがあったのかもしれない。
いわゆる鉄道写真のわくをはみ出した意欲作。
佐藤竜也「FOREVER BLUE」(友の会賞)
なにも牽引していない電気機関車「EF58 157」が走っているところへ、30人近い子どもたちが寄ってきて、手を振っている。むかしは、列車に向かって手を振っている子どもがいたけれど、最近は減りましたね。よく見ると、運転士も手を振りかえしているのがいい。郷愁たっぷりの佳作。
和田浩「Stand by」
ターンテーブルの前のSL。全体がオレンジ色の光に包まれていて、とても現代の光景とは思えない。
「正装纏いし夢の超特急」(車両列車部門銅賞)
おそらく0系新幹線の応募は相当たくさんあったのではないかと思うが、この作品は流し撮りで、新幹線の速度感をよく表現している。
0系は、1964年の東海道新幹線開業以来、走り続けてきた形番で、先頭が丸っこいのが特徴だが、昨年秋に引退した。
工藤寿「カシぼの参上!」(車両列車部門金賞)
ブルートレイン9輌を牽引するカラフルな塗装の電気機関車「EF81 92」。
ヘッドマークは「あけぼの」である。上野-青森間を、高崎、秋田を経由して走る寝台特急列車だ。「カシぼの」というのは、この寝台特急をたまに、上野-札幌間の有名な「カシオペア」用の機関車が引っ張るときをさす、マニアックな用語のようだ。
白井崇裕「見上げてごらん夜空の星を」
銚子電鉄と思われる電車をアオリ気味に撮っているが、空には満天の星が点像で見えている。しかも、空の色は薄い藍色。こういうのはデジタルの強みだ。
右側に人工衛星とおぼしき光跡が見え、豪華な夜空に彩りを添えている。
グランプリは、古田彰吾「親子鉄」。
小学生ぐらいの娘と父親が線路ぎわで三脚を立てて列車を狙っている情景を、背中側から撮ったもの。2人ともコンパクトカメラのようなのが、ほほえましい。
2009年2月9日(月)-20日(金)9:00-17:30 土、日、祝日休み
キヤノンギャラリー(北区北7西1 SE山京ビル 地図A)
■第29回鉄道ファン/Canon2005 入賞・佳作作品展(2006年)
■第27回(2004年2月5日の項)
■第26回(2003年2月20日の項)
□http://railf.jp/contest/2008/index.html
鉄道写真といっても、混雑する通勤電車の写真がこの種のコンテストにけっして登場しないのは、そういうあこがれへとつながる回路を欠いているからだ。
今回の応募点数は4000点以上で、特徴としては、デジタルが全体の8割を超えたことだそうだ。自宅のプリンターで作品にした人も多いとのこと。
たしかに、今回会場で目にした作品の大半がデジタルのようである。
もっとも、作品によっては、粒子の粗さが目につき、大伸ばしには耐えられないなあというものもある。
被写体の傾向では、SLや、海外の鉄道が減って、国内のさまざまな鉄道が大半になっている。
印象に残った作品。
まず北海道がらみから。
加藤正「夏空」(車両列車部門佳作)
河川敷から鉄橋を渡る2輛編成のディーゼルカー「キハ40」を見上げた構図。サボ(行き先表示)に「旭川」とある。雲の形と青い空がさわやかな余韻を残す。イタドリなどの浅い緑色がいかにも北海道らしい。
森谷文博「静寂の中の喧騒」
河口部だろうか、手前の水面が凍り、中景より向こうに海が広がるところに、鉄橋がわたり、単行ディーゼルカー(キハ40 351)が走っている。鳥が車輌のまわりに群がって飛んでいる。
佐竹尚「子供神輿の季節」(一般部門佳作)
手前に数人でひっぱる小さなみこし。奥に島式のプラットフォームとディーゼルカー。
行き先表示に「浦臼-石狩当別」とあるので、JR札沼線(学園都市線)の列車だろう。
ほほえましいけれど、なんかさびしい。
つづいて、道外で撮られた作品。
入江直樹「この未来都市がどう映るか」(一般部門銅賞)
今回の展覧会で、もっとも個性的な1点だと思う。
というのは、運転台の窓ごしに見えるのは、光と人であふれる夜の渋谷駅前だからだ。
渋谷駅前に、昔の鉄道車輛が展示されたことがあったのかもしれない。
いわゆる鉄道写真のわくをはみ出した意欲作。
佐藤竜也「FOREVER BLUE」(友の会賞)
なにも牽引していない電気機関車「EF58 157」が走っているところへ、30人近い子どもたちが寄ってきて、手を振っている。むかしは、列車に向かって手を振っている子どもがいたけれど、最近は減りましたね。よく見ると、運転士も手を振りかえしているのがいい。郷愁たっぷりの佳作。
和田浩「Stand by」
ターンテーブルの前のSL。全体がオレンジ色の光に包まれていて、とても現代の光景とは思えない。
「正装纏いし夢の超特急」(車両列車部門銅賞)
おそらく0系新幹線の応募は相当たくさんあったのではないかと思うが、この作品は流し撮りで、新幹線の速度感をよく表現している。
0系は、1964年の東海道新幹線開業以来、走り続けてきた形番で、先頭が丸っこいのが特徴だが、昨年秋に引退した。
工藤寿「カシぼの参上!」(車両列車部門金賞)
ブルートレイン9輌を牽引するカラフルな塗装の電気機関車「EF81 92」。
ヘッドマークは「あけぼの」である。上野-青森間を、高崎、秋田を経由して走る寝台特急列車だ。「カシぼの」というのは、この寝台特急をたまに、上野-札幌間の有名な「カシオペア」用の機関車が引っ張るときをさす、マニアックな用語のようだ。
白井崇裕「見上げてごらん夜空の星を」
銚子電鉄と思われる電車をアオリ気味に撮っているが、空には満天の星が点像で見えている。しかも、空の色は薄い藍色。こういうのはデジタルの強みだ。
右側に人工衛星とおぼしき光跡が見え、豪華な夜空に彩りを添えている。
グランプリは、古田彰吾「親子鉄」。
小学生ぐらいの娘と父親が線路ぎわで三脚を立てて列車を狙っている情景を、背中側から撮ったもの。2人ともコンパクトカメラのようなのが、ほほえましい。
2009年2月9日(月)-20日(金)9:00-17:30 土、日、祝日休み
キヤノンギャラリー(北区北7西1 SE山京ビル 地図A)
■第29回鉄道ファン/Canon2005 入賞・佳作作品展(2006年)
■第27回(2004年2月5日の項)
■第26回(2003年2月20日の項)
□http://railf.jp/contest/2008/index.html