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■澁谷俊彦個展「静寂と沈黙のはざま」 (2024年6月8~10日、札幌)※直後に画像を追加し、用語を追記しています

2024年06月25日 09時22分35秒 | 展覧会の紹介-現代美術
 雪を活用した屋外設置のインスタレーション「Snow Pallert(スノーパレット)」シリーズで知られる札幌の澁谷俊彦さんが、3日間限りの個展を開きました。
 澁谷さんの作品系列では「Generation(ジェネレーション)」シリーズにあたり、道内では昨年のCAI03での個展「沈黙の森」からおよそ1年半ぶりとなります。
 会場は、大きな寺院の建物内にある本格的な茶室で、そこにつながる廊下と石庭にも作品を展開しました。
 茶室という場は、作風はかなり変化しているとはいえ、2011年の紅桜公園での個展を思い出させます。





 
 まずおことわりしておかなくてはならないのは、四畳半の茶室全体を、廊下側から見た写真を撮り忘れていること。これはうかつでした。

 茶室中央に正方形の黒い板が置かれ、その上に、切断された木(コルク材)に白の着彩を施した幹が載っています。

 幹には Generation シリーズらしく、小さなピンがたくさん刺さっています。
 その脇に、タンポポの綿毛と、白い丸い皿が配され、皿の中の土にはこけが広がっています。こけと一緒に、名も知らぬ小さな草の芽が出ていて、生命の循環を感じさせます。

 和の雰囲気にふさわしい、閑寂としたたたずまいです。

 白い幹は、床の間にも、「厨子」という黒い箱に収められて、置かれています。

 その背後に、額に入った色紙サイズの平面作品が掛かっています。
 一見、前衛書のようですが、これは実は、幹をはんこ(スタンプ)のようにして作ったもの。
 幹の内部は中空になっているのです。


 
 
 茶室は四畳半で、にじり口も備えていますが、廊下や石庭に面した側が開け放たれているため、狭苦しい雰囲気はまったくありません。
 
 周囲の設計にも細心の配慮が行き渡っています。

 画像は、「STAFF ONLY」の代わり? に置かれて、バックヤードの小部屋への立ち入りをやんわりと阻む石(名称を尋ねるのをわすれました。※「関守石」というそうです)。

 このほか、まわりに配された踏み石や、屋根の裏側にあたる部分のしつらえなどにも、本格派の風情が漂います。

 茶室手前にも、木の幹が置かれていました。
 やはり、白いピンがいくつも表皮に点在しています。
 
 中をのぞき込むと、内側にもピンが刺さっています。

 その底がくぼんでいるのがわかります。
 
 このくぼみは、茶室のまわりに設けられているもので、ほうきで葉を掃いて集めるのに用いるとのこと。「塵穴」といいます。
 
 
 
 この茶室は室内にあるため、このくぼみを実際に使うことはないと思われますが、小さな建築にもさまざまな約束事があることに、あらためて驚かされます。
 
 
 茶室の外の廊下側。

 石畳、石灯籠が配され、手前の「つくばい」からは水が出ています。
 ただし、この竹筒は、ししおどしのように、傾きを変えて音を出すものではありません。

 札幌が扇状地の上にあり、豊富な地下水を有していることや、それが地上からメムとなってわきだし、道庁や植物園、知事公館(道立三岸好太郎美術館)などの池をつくりだしたことなどを想起させる水の音です。

 突き当たりにも、Generation シリーズの木の幹が置かれています。

 向かって右側にガラス窓があり、その向こう側には、石庭がバルコニーのように広がっています。

 石と砂で構成される庭にも、木の幹と、こけの生えた土が盛られた丸い皿が置いてあります。

 それらはまるで、個展のためにあるのではなく、ずっと以前からその場所にあったかのような自然な雰囲気を醸し出しています。
 







 
 
 今回の会場は決して広くはないのですが、そもそも茶室のもっている性質に加え、作者による配置の妙もあって、いわば小宇宙のような時空の広がりを感じさせ、いつまでもそこにいたくなるような空間が現出していました。

 あるいは関西など西日本の人間からみれば、ビルの中の茶室と石庭という時点でなんだか本物らしくないという感情を抱くかもしれませんが、豪雪地帯という事情をくんでいただければと思います。「見立て」も、りっぱな日本文化の神髄であり、ものの見方です。


 なお、茶室の名は、明治初期に東本願寺として北海道開拓に力を注いだ現如上人の書家としての雅号「愚邱」に由来するそうです。


2024年6月8日(土)~10日(月)正午(8日午後2時)~午後5時(最終日~4時)
東本願寺札幌別院3階 茶室「愚邱庵」+石庭(札幌市中央区南7西8)

□TOSHIHIKO SHIBUYA Official Web site : www.toshihikoshibuya2.com

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