雪を活用した屋外設置のインスタレーション「Snow Pallert(スノーパレット)」シリーズで知られる札幌の澁谷俊彦さんが、3日間限りの個展を開きました。
澁谷さんの作品系列では「Generation(ジェネレーション)」シリーズにあたり、道内では昨年のCAI03での個展「沈黙の森」からおよそ1年半ぶりとなります。
会場は、大きな寺院の建物内にある本格的な茶室で、そこにつながる廊下と石庭にも作品を展開しました。
茶室という場は、作風はかなり変化しているとはいえ、2011年の紅桜公園での個展を思い出させます。
まずおことわりしておかなくてはならないのは、四畳半の茶室全体を、廊下側から見た写真を撮り忘れていること。これはうかつでした。
茶室中央に正方形の黒い板が置かれ、その上に、切断された木(コルク材)に白の着彩を施した幹が載っています。
幹には Generation シリーズらしく、小さなピンがたくさん刺さっています。
その脇に、タンポポの綿毛と、白い丸い皿が配され、皿の中の土にはこけが広がっています。こけと一緒に、名も知らぬ小さな草の芽が出ていて、生命の循環を感じさせます。
和の雰囲気にふさわしい、閑寂としたたたずまいです。
白い幹は、床の間にも、「厨子」という黒い箱に収められて、置かれています。
その背後に、額に入った色紙サイズの平面作品が掛かっています。
一見、前衛書のようですが、これは実は、幹をはんこ(スタンプ)のようにして作ったもの。
幹の内部は中空になっているのです。
茶室は四畳半で、にじり口も備えていますが、廊下や石庭に面した側が開け放たれているため、狭苦しい雰囲気はまったくありません。
周囲の設計にも細心の配慮が行き渡っています。
画像は、「STAFF ONLY」の代わり? に置かれて、バックヤードの小部屋への立ち入りをやんわりと阻む石(名称を尋ねるのをわすれました。※「関守石」というそうです)。
このほか、まわりに配された踏み石や、屋根の裏側にあたる部分のしつらえなどにも、本格派の風情が漂います。
茶室手前にも、木の幹が置かれていました。
やはり、白いピンがいくつも表皮に点在しています。
中をのぞき込むと、内側にもピンが刺さっています。
その底がくぼんでいるのがわかります。
このくぼみは、茶室のまわりに設けられているもので、ほうきで葉を掃いて集めるのに用いるとのこと。「塵穴」といいます。
この茶室は室内にあるため、このくぼみを実際に使うことはないと思われますが、小さな建築にもさまざまな約束事があることに、あらためて驚かされます。
茶室の外の廊下側。
石畳、石灯籠が配され、手前の「つくばい」からは水が出ています。
ただし、この竹筒は、ししおどしのように、傾きを変えて音を出すものではありません。
札幌が扇状地の上にあり、豊富な地下水を有していることや、それが地上からメムとなってわきだし、道庁や植物園、知事公館(道立三岸好太郎美術館)などの池をつくりだしたことなどを想起させる水の音です。
突き当たりにも、Generation シリーズの木の幹が置かれています。
向かって右側にガラス窓があり、その向こう側には、石庭がバルコニーのように広がっています。
石と砂で構成される庭にも、木の幹と、こけの生えた土が盛られた丸い皿が置いてあります。
それらはまるで、個展のためにあるのではなく、ずっと以前からその場所にあったかのような自然な雰囲気を醸し出しています。
今回の会場は決して広くはないのですが、そもそも茶室のもっている性質に加え、作者による配置の妙もあって、いわば小宇宙のような時空の広がりを感じさせ、いつまでもそこにいたくなるような空間が現出していました。
あるいは関西など西日本の人間からみれば、ビルの中の茶室と石庭という時点でなんだか本物らしくないという感情を抱くかもしれませんが、豪雪地帯という事情をくんでいただければと思います。「見立て」も、りっぱな日本文化の神髄であり、ものの見方です。
なお、茶室の名は、明治初期に東本願寺として北海道開拓に力を注いだ現如上人の書家としての雅号「愚邱」に由来するそうです。
2024年6月8日(土)~10日(月)正午(8日午後2時)~午後5時(最終日~4時)
東本願寺札幌別院3階 茶室「愚邱庵」+石庭(札幌市中央区南7西8)
□TOSHIHIKO SHIBUYA Official Web site : www.toshihikoshibuya2.com
過去の関連記事へのリンク
■Toshihiko Shibuya / Snow Pallet 17 - Snow on Anthropocene - (2023年12月28日~24年1月5日、札幌)
■沈黙の森 (2023)
■Snow Pallet 16 (2023)
■中庭展示Vol.17 澁谷俊彦「雪待の庭「薄雪」/Snow Pallet 14」(2021~22)
【告知】イコロの森ミーツ・アート 2021 (9月16~26日、苫小牧)
■澁谷俊彦 Snow Pallet 13 「アントロポセンに積もる雪 Snow on Anthropocene」(2020年12月~21年3月の積雪期)
【告知】澁谷俊彦「スノーパレット13」―Toshihiko Shibuya SNOW PALLET 13
■澁谷俊彦展ー起源・発生 / 共生・共存 (2020年9~11月、帯広) ■続き
【告知】イコロの森ミーツ・アート2020 web展覧会 ※画像なし
【告知】澁谷俊彦展 ー起源・発生 /共生・共存 (2020)※動画あり。画像なし
ニュース映像の紹介 : オブジェ 雪面に色の表情 札幌でスノーパレット展 (澁谷俊彦さんの屋外インスタレーション) (2020)
■澁谷俊彦個展 White Collection Best Selection (2020年1~2月)
■澁谷俊彦 版画の世界展 -記憶- (2019年11月~20年1月)
■イコロの森 ミーツ・アート2019 ー森の野外美術展ー
■Toshihiko Shibuya 澁谷俊彦 Snow Pallet 11
■澁谷俊彦 個展 -起源・発生- (2019)
「河口」展、澁谷俊彦作品をたどる (2018)
■澁谷俊彦「Snow Pallet 10」
北海道文化賞の授賞式に出席してきました (2017)
■北海道文化奨励賞受賞記念/澁谷俊彦個展「White Collection Black Series」(2017)
■Toshihiko Shibuya “Snow Pallet 9” 澁谷俊彦 (2016~17)
ヒト科ヒト属ヒト 帯広コンテンポラリーアート2016 (執筆中。告知はこちら)
■澁谷俊彦展 White Garden (2016年6~7月)
■澁谷俊彦 新作ホワイトコレクション (2015)
■澁谷俊彦 ANNIVERSARY COLLECTION
■ICE HILLS HOTEL - アイスヒルズホテル in 当別 (2014)
■防風林アートプロジェクト (2014)
■澁谷俊彦 THE WHITE COLLECTION / GENERATION(2013)
【告知】SNOW PALLET III and 4 : Toshihiko Shibuya installation(~2013年2月17日・千歳/~3月雪解け・札幌)
CREATIVE HOKKAIDO METTS HONG KONG / 香港で北海道の食、観光、アートをPR
【告知】奔別アートプロジェクト (2012年)
■JRタワー・アートプラネッツ2012 楽しい現代美術入門 アルタイルの庭(2012年)
■澁谷俊彦「風の森II」Forest of wind 2012-II
【告知】澁谷俊彦「風の森 II」 Forest of wind 2012-II
■澁谷俊彦 SNOW PALLET 2、札幌芸術の森美術館で2012年4月14日から撤収(13日に一部撤収)
Toshihiko Shibuya's works are on the overseas website (2012)
■「ハルカヤマシロシメジ繁殖計画」 ハルカヤマ藝術要塞
■澁谷俊彦 茶室DEアート (2011)
【予告】澁谷俊彦展 -トノサマガエルの雨宿り (2011年5月)
■Snow Scape Moere 6 澁谷俊彦「SNOW PALLET」(2011年2月)
■PLUS ONE THIS PLACE(2010年9月)
■PLUS 1 +柴橋伴夫企画 空間の触知へ-連鎖の試み 藤本和彦 澁谷俊彦(2009年8月)
■澁谷俊彦展-森の雫09- 茶室DEアート (2009年7月)
■澁谷俊彦個展-青い雫09-
■澁谷俊彦展 森の雫(2008年3月)■つづき
2000~07年は、上のリンクからたどってください
澁谷さんの作品系列では「Generation(ジェネレーション)」シリーズにあたり、道内では昨年のCAI03での個展「沈黙の森」からおよそ1年半ぶりとなります。
会場は、大きな寺院の建物内にある本格的な茶室で、そこにつながる廊下と石庭にも作品を展開しました。
茶室という場は、作風はかなり変化しているとはいえ、2011年の紅桜公園での個展を思い出させます。
まずおことわりしておかなくてはならないのは、四畳半の茶室全体を、廊下側から見た写真を撮り忘れていること。これはうかつでした。
茶室中央に正方形の黒い板が置かれ、その上に、切断された木(コルク材)に白の着彩を施した幹が載っています。
幹には Generation シリーズらしく、小さなピンがたくさん刺さっています。
その脇に、タンポポの綿毛と、白い丸い皿が配され、皿の中の土にはこけが広がっています。こけと一緒に、名も知らぬ小さな草の芽が出ていて、生命の循環を感じさせます。
和の雰囲気にふさわしい、閑寂としたたたずまいです。
白い幹は、床の間にも、「厨子」という黒い箱に収められて、置かれています。
その背後に、額に入った色紙サイズの平面作品が掛かっています。
一見、前衛書のようですが、これは実は、幹をはんこ(スタンプ)のようにして作ったもの。
幹の内部は中空になっているのです。
茶室は四畳半で、にじり口も備えていますが、廊下や石庭に面した側が開け放たれているため、狭苦しい雰囲気はまったくありません。
周囲の設計にも細心の配慮が行き渡っています。
画像は、「STAFF ONLY」の代わり? に置かれて、バックヤードの小部屋への立ち入りをやんわりと阻む石(名称を尋ねるのをわすれました。※「関守石」というそうです)。
このほか、まわりに配された踏み石や、屋根の裏側にあたる部分のしつらえなどにも、本格派の風情が漂います。
茶室手前にも、木の幹が置かれていました。
やはり、白いピンがいくつも表皮に点在しています。
中をのぞき込むと、内側にもピンが刺さっています。
その底がくぼんでいるのがわかります。
このくぼみは、茶室のまわりに設けられているもので、ほうきで葉を掃いて集めるのに用いるとのこと。「塵穴」といいます。
この茶室は室内にあるため、このくぼみを実際に使うことはないと思われますが、小さな建築にもさまざまな約束事があることに、あらためて驚かされます。
茶室の外の廊下側。
石畳、石灯籠が配され、手前の「つくばい」からは水が出ています。
ただし、この竹筒は、ししおどしのように、傾きを変えて音を出すものではありません。
札幌が扇状地の上にあり、豊富な地下水を有していることや、それが地上からメムとなってわきだし、道庁や植物園、知事公館(道立三岸好太郎美術館)などの池をつくりだしたことなどを想起させる水の音です。
突き当たりにも、Generation シリーズの木の幹が置かれています。
向かって右側にガラス窓があり、その向こう側には、石庭がバルコニーのように広がっています。
石と砂で構成される庭にも、木の幹と、こけの生えた土が盛られた丸い皿が置いてあります。
それらはまるで、個展のためにあるのではなく、ずっと以前からその場所にあったかのような自然な雰囲気を醸し出しています。
今回の会場は決して広くはないのですが、そもそも茶室のもっている性質に加え、作者による配置の妙もあって、いわば小宇宙のような時空の広がりを感じさせ、いつまでもそこにいたくなるような空間が現出していました。
あるいは関西など西日本の人間からみれば、ビルの中の茶室と石庭という時点でなんだか本物らしくないという感情を抱くかもしれませんが、豪雪地帯という事情をくんでいただければと思います。「見立て」も、りっぱな日本文化の神髄であり、ものの見方です。
なお、茶室の名は、明治初期に東本願寺として北海道開拓に力を注いだ現如上人の書家としての雅号「愚邱」に由来するそうです。
2024年6月8日(土)~10日(月)正午(8日午後2時)~午後5時(最終日~4時)
東本願寺札幌別院3階 茶室「愚邱庵」+石庭(札幌市中央区南7西8)
□TOSHIHIKO SHIBUYA Official Web site : www.toshihikoshibuya2.com
過去の関連記事へのリンク
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