北海道最大の歓楽街ススキノの一角、かつてキャバクラか何かの店舗だったスペースを利用して開かれている展覧会。
ごくおおざっぱに言うと、本州勢の映像作品と、札幌勢の平面、立体作品とが同時に展示されている。映像が多いため、見るのに時間がかかった。
公式サイトによると、昨年の「すすきのアートプロジェクト」に続くものという位置づけで、
とあるが、どのように「都市の歴史や近代化」をひもとき、どのあたりが「周辺地域と連動」しているのかは、会場ではまったく分からなかった。
会場は、雑居ビルの5階。メゾネットになっており、一般的なスナックなどよりもかなり広い。中がいくつかに仕切ってあるので、映像作品向きかもしれない。
風俗店が並ぶ一角もすぐそばの、まさに「ススキノのど真ん中」といっても良い場所だ。
女性が一人で歩くとちょっと怖い感じを抱くかもしれないが、そこはススキノなので、例えば歌舞伎町などとくらべるとはるかに安心だろう。
もっとも、ススキノの斜陽化というのは、だいぶ以前から言われていた。
かくいう筆者もほとんど行くことがない。
そもそも、仕事が忙しくて、飲みに行く気になれない。たまに足を向ける居酒屋も、札幌駅から大通公園の間にたくさんある。ススキノに多いスナックという業態は、男性サラリーマンによって支えられてきたが、彼らがそういう場所で飲むことをあまりしなくなっている。
さて、印象に残った作品について書く。
こういう地区なので、<障害者の性>というテーマをとりあげた高嶺格の「木村さん」が取り上げられたのは、必然性があるだろう。
筆者は性そのものより、ときおりアップでうつる目玉の描写が気にかかった。「木村さん」の目か、作者の目かわからないが、アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」に登場する目によく似ているのだ。世界を凝視し、外界と対話する目というよりも、もっと内向的な何かをそこに感じる。個人的な感想にすぎないが。
(高嶺さんが2000年にアーティストインレジデンスで札幌に滞在制作していたことを知らない世代も、多いかも)
昨年の「北海道地域連動アートプロジェクト [すすきのアートプロジェクト+越山計画] 交感と交換」で、映像作品「「聞こえない木下さんに聞いたいくつかのこと」が札幌の観衆に衝撃を与えた百瀬文は、おそらく、さらに以前の作になるのだろう、自分の2人の祖母にインタビューした映像が公開されていた。
「聞こえない…」に比べると衝撃はないのだが、実際に発話された声と、口元の動きが微妙に食い違っている。ネタバレになるから書かないが、そこには仕掛けがある。
ここで、デリダなどを導入すれば興味深い論考ができるかもしれない。
迎え撃つ札幌勢。
鈴木涼子の「アニコラ番外編」は懐かしい。2002年に「札幌の美術」展(札幌市民ギャラリー)で初めて発表されたシリーズで、現在に至るまで彼女の代表的シリーズであると同時に、21世紀の北海道美術史を飾る作品であると思う。あるいは、13年目にして初めて、ふさわしい発表のロケーションを得た、ということも可能かもしれない。
さらに、前年、2001年の個展で発表された、自分の顔に革ひもを巻いた写真もあった。
全体として映像や平面が多い中、巨大な樹脂製の天狗をボックス席の中にいくつも転がしていたのが、東方悠平。これがないと、会場全体がかなり貧相に見えたのではないだろうか。
言うまでもなく、天狗の鼻が象徴するものが、ススキノではいっそう強く感じられる。
しかし、全体的には、映像作品は見るのに時間がかかって、その割には、アイデア以外に見るべきところの乏しい作品も多くて、くたびれた。
道内は、道外にくらべると、映像を取り入れる作家が少ないと思うが、この調子で道内でも量産されないことを祈りたい。
会場に、札幌国際芸術祭のスタッフでもあるHさんなどがいて、見終わったら、そもそもどうしてこの企画が始まったかなどについて聞こうと思っていたのだが、疲れてしまい、翌土曜も朝から夜遅くまで仕事ということもあって、黙って帰ってきてしまった。
あと、居酒屋をイメージした接客ということなのだろうか、展覧会スタッフが「いらっしゃいませ、トリエンナーレ!」などと叫んでいたが、あんまり面白くないし、なにより「札幌の現代アート界って、内輪で固まってるよね」という印象を強化するのに貢献しているので、やめたほうがいいと思った。
2014年9月19日(金)~9月27日(土)午後6~11時、日曜祝日休み
第21桂和ビル 5階(札幌市中央区南6西4)
参加費 500円(1ドリンク付き)
参加アーティスト(五十音順)
石倉美萌菜、泉太郎、orrorin、小泉明郎、鈴木涼子、高嶺格、丹羽良徳、東方悠平、百瀬文
□公式サイト http://susukinotriennale.com/
・地下鉄南北線「すすきの」駅から約230メートル、徒歩4分
ごくおおざっぱに言うと、本州勢の映像作品と、札幌勢の平面、立体作品とが同時に展示されている。映像が多いため、見るのに時間がかかった。
公式サイトによると、昨年の「すすきのアートプロジェクト」に続くものという位置づけで、
2014年度は更に周辺地域と連動しながら規模を拡大し、空き店舗をつかい「コインの裏」をテーマに、都市の歴史や近代化を紐解きながら、人間のもっている欲望や社会システムに焦点をあてた展覧会を開催します。
とあるが、どのように「都市の歴史や近代化」をひもとき、どのあたりが「周辺地域と連動」しているのかは、会場ではまったく分からなかった。
会場は、雑居ビルの5階。メゾネットになっており、一般的なスナックなどよりもかなり広い。中がいくつかに仕切ってあるので、映像作品向きかもしれない。
風俗店が並ぶ一角もすぐそばの、まさに「ススキノのど真ん中」といっても良い場所だ。
女性が一人で歩くとちょっと怖い感じを抱くかもしれないが、そこはススキノなので、例えば歌舞伎町などとくらべるとはるかに安心だろう。
もっとも、ススキノの斜陽化というのは、だいぶ以前から言われていた。
かくいう筆者もほとんど行くことがない。
そもそも、仕事が忙しくて、飲みに行く気になれない。たまに足を向ける居酒屋も、札幌駅から大通公園の間にたくさんある。ススキノに多いスナックという業態は、男性サラリーマンによって支えられてきたが、彼らがそういう場所で飲むことをあまりしなくなっている。
さて、印象に残った作品について書く。
こういう地区なので、<障害者の性>というテーマをとりあげた高嶺格の「木村さん」が取り上げられたのは、必然性があるだろう。
筆者は性そのものより、ときおりアップでうつる目玉の描写が気にかかった。「木村さん」の目か、作者の目かわからないが、アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」に登場する目によく似ているのだ。世界を凝視し、外界と対話する目というよりも、もっと内向的な何かをそこに感じる。個人的な感想にすぎないが。
(高嶺さんが2000年にアーティストインレジデンスで札幌に滞在制作していたことを知らない世代も、多いかも)
昨年の「北海道地域連動アートプロジェクト [すすきのアートプロジェクト+越山計画] 交感と交換」で、映像作品「「聞こえない木下さんに聞いたいくつかのこと」が札幌の観衆に衝撃を与えた百瀬文は、おそらく、さらに以前の作になるのだろう、自分の2人の祖母にインタビューした映像が公開されていた。
「聞こえない…」に比べると衝撃はないのだが、実際に発話された声と、口元の動きが微妙に食い違っている。ネタバレになるから書かないが、そこには仕掛けがある。
ここで、デリダなどを導入すれば興味深い論考ができるかもしれない。
迎え撃つ札幌勢。
鈴木涼子の「アニコラ番外編」は懐かしい。2002年に「札幌の美術」展(札幌市民ギャラリー)で初めて発表されたシリーズで、現在に至るまで彼女の代表的シリーズであると同時に、21世紀の北海道美術史を飾る作品であると思う。あるいは、13年目にして初めて、ふさわしい発表のロケーションを得た、ということも可能かもしれない。
さらに、前年、2001年の個展で発表された、自分の顔に革ひもを巻いた写真もあった。
全体として映像や平面が多い中、巨大な樹脂製の天狗をボックス席の中にいくつも転がしていたのが、東方悠平。これがないと、会場全体がかなり貧相に見えたのではないだろうか。
言うまでもなく、天狗の鼻が象徴するものが、ススキノではいっそう強く感じられる。
しかし、全体的には、映像作品は見るのに時間がかかって、その割には、アイデア以外に見るべきところの乏しい作品も多くて、くたびれた。
道内は、道外にくらべると、映像を取り入れる作家が少ないと思うが、この調子で道内でも量産されないことを祈りたい。
会場に、札幌国際芸術祭のスタッフでもあるHさんなどがいて、見終わったら、そもそもどうしてこの企画が始まったかなどについて聞こうと思っていたのだが、疲れてしまい、翌土曜も朝から夜遅くまで仕事ということもあって、黙って帰ってきてしまった。
あと、居酒屋をイメージした接客ということなのだろうか、展覧会スタッフが「いらっしゃいませ、トリエンナーレ!」などと叫んでいたが、あんまり面白くないし、なにより「札幌の現代アート界って、内輪で固まってるよね」という印象を強化するのに貢献しているので、やめたほうがいいと思った。
2014年9月19日(金)~9月27日(土)午後6~11時、日曜祝日休み
第21桂和ビル 5階(札幌市中央区南6西4)
参加費 500円(1ドリンク付き)
参加アーティスト(五十音順)
石倉美萌菜、泉太郎、orrorin、小泉明郎、鈴木涼子、高嶺格、丹羽良徳、東方悠平、百瀬文
□公式サイト http://susukinotriennale.com/
・地下鉄南北線「すすきの」駅から約230メートル、徒歩4分