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美術全集や教科書のように、きれいに「日本画の世界」をまとめて見せた右側の展示室に対し、左手の、所蔵品展に用いられることの多いスペースでの「揺さぶる絵」展は、なかなか攻めています。道立近代美術館・釧路芸術館に加えて、豊橋市美術博物館や東京国立近代美術館からも作品を借り、戦後、著しく変化を遂げた日本画の諸相を見せているのです。
キュレーター(道立近代美術館の学芸員)が図録で述べているように
「本展は戦後日本画変革の全体像を俯瞰するものではありません」。
以前、この館で紹介された加山又造や横山操、東山魁夷といった戦後の大家については出品がなく、そのかわりに、これまで道内ではほとんど展示のなかったと思われる中村正義や、京都の地で旧来の日本画に「No」を突きつけたパンリアル美術協会の三上誠らの作品が並んでいるのは、たいへん貴重な機会だといえます。
筆者も中村正義の作品は初めて実見しましたが、1950年代の洋画壇を席捲したアンフォルメル旋風などと軌を一にするような、いや、凡庸な洋画などとは比較にもならない、「生」との対決を見せているその作品には圧倒されました。
とくに「海平海戦絵巻」の2作の巨大さには、絶句しました。図録によればこれらは、他の画家が手伝った集団制作らしいということですが…(そりゃそうだろう、という気もするし、そのことで価値が減じるとも思われません)。
この絵は小林正樹監督(会場パネルや図録に明記されていませんが、小樽出身ですよ)の「怪談」に使われるために描かれたとのことで、筆者は映画館(名画座)で見た35年ほど前のことを思い出してハッとしました。確かに、特撮やCGの発展する前に撮られたこの映画は、昭和末期ですでに「効果がしょぼいな~」と思わせるものだったのですが、中村正義の絵がなければ、もっとみすぼらしいものになっていたに違いありません。
もうひとつ挙げたいのはキュレーティング(キュレーション)の妙です。
これまで、道内の美術館で開いてきた展覧会の多くで
「片岡球子=北海道出身」
という紹介のされ方が主だったと思います。
しかし、彼女の絵を、中村正義らの戦後日本画変革という文脈に置いてみると、その個性に違った角度が当たって見えるのです(というか、片岡球子の画業と北海道出身って、よく考えるとあんまり関係ないような気がするんだよな。岩橋英遠と比べるとそこは全然違う)。
これは、やはり道内出身である菊川多賀や岩橋英遠についても同様です(岩橋英遠は従来も、戦前の抽象画や都市風景=今回は出品されていない=とも絡めて論じられてきていますが)。
また「原爆の図」とつねにセットで語られてきた丸木位里も、出品は1点だけですが、戦前戦後の日本画の歴史の中に位置づける視座が、学ぶところ大でした。
これは想像ですが、「低予算」や「なんか北海道と関係づけろ」といった制約があったであろう中で、改装中の美術館のコレクションを活用するなどの策で、ここまでの展覧会にこぎ着けた学芸員ら関係者の皆さんの労力と熱意には頭が下がります。
ほめてばかりなので、ちょっと註文すれば、図録の論文で、引用が新漢字と旧字体が混在しているものがあるのが気になります(現在のパソコン環境で旧字体で一貫するのは困難なので、新漢字で統一してもらいたい)。あと、参考文献一覧も簡単でいいので付けてほしかったです。
2023年9月16日(土)~11月12日(日)午前9時半~午後5時
道立近代美術館(札幌市中央区北1西17)
一般800円、高大生500円、中学生300円、小学生以下無料(要保護者同伴)
※2階の「アールヌーヴォーのガラス」「アートギャラリー北海道 小川原脩記念美術館コレクション展」と同時開催
・中央バス、ジェイアール北海道バス「道立近代美術館」からすぐ(小樽、手稲方面行きは、都市間高速バスを含め全便が停車します)
・地下鉄東西線「西18丁目」4番出口から400メートル、徒歩6分
・市電「西15丁目」から700メートル、徒歩10分
・ジェイアール北海道バス「桑11 桑園円山線」(JR桑園駅―円山公園駅―啓明ターミナル)で「大通西15丁目」降車、約400メートル、徒歩5分
・ジェイアール北海道バス「54 北5条線」(JR札幌駅―西28丁目駅)「58 北5条線」(JR札幌駅―琴似営業所)で「北5条西17丁目」降車、約540メートル、徒歩7分
・ジェイアール北海道バス「50 啓明線」「51 啓明線」「53 啓明線」(JR札幌駅―啓明ターミナル)で「南3条西16丁目」降車、約830メートル、徒歩11分
※指定駐車場は北1西15の「ビッグシャイン」です。徒歩3分
キュレーター(道立近代美術館の学芸員)が図録で述べているように
「本展は戦後日本画変革の全体像を俯瞰するものではありません」。
以前、この館で紹介された加山又造や横山操、東山魁夷といった戦後の大家については出品がなく、そのかわりに、これまで道内ではほとんど展示のなかったと思われる中村正義や、京都の地で旧来の日本画に「No」を突きつけたパンリアル美術協会の三上誠らの作品が並んでいるのは、たいへん貴重な機会だといえます。
筆者も中村正義の作品は初めて実見しましたが、1950年代の洋画壇を席捲したアンフォルメル旋風などと軌を一にするような、いや、凡庸な洋画などとは比較にもならない、「生」との対決を見せているその作品には圧倒されました。
とくに「海平海戦絵巻」の2作の巨大さには、絶句しました。図録によればこれらは、他の画家が手伝った集団制作らしいということですが…(そりゃそうだろう、という気もするし、そのことで価値が減じるとも思われません)。
この絵は小林正樹監督(会場パネルや図録に明記されていませんが、小樽出身ですよ)の「怪談」に使われるために描かれたとのことで、筆者は映画館(名画座)で見た35年ほど前のことを思い出してハッとしました。確かに、特撮やCGの発展する前に撮られたこの映画は、昭和末期ですでに「効果がしょぼいな~」と思わせるものだったのですが、中村正義の絵がなければ、もっとみすぼらしいものになっていたに違いありません。
もうひとつ挙げたいのはキュレーティング(キュレーション)の妙です。
これまで、道内の美術館で開いてきた展覧会の多くで
「片岡球子=北海道出身」
という紹介のされ方が主だったと思います。
しかし、彼女の絵を、中村正義らの戦後日本画変革という文脈に置いてみると、その個性に違った角度が当たって見えるのです(というか、片岡球子の画業と北海道出身って、よく考えるとあんまり関係ないような気がするんだよな。岩橋英遠と比べるとそこは全然違う)。
これは、やはり道内出身である菊川多賀や岩橋英遠についても同様です(岩橋英遠は従来も、戦前の抽象画や都市風景=今回は出品されていない=とも絡めて論じられてきていますが)。
また「原爆の図」とつねにセットで語られてきた丸木位里も、出品は1点だけですが、戦前戦後の日本画の歴史の中に位置づける視座が、学ぶところ大でした。
これは想像ですが、「低予算」や「なんか北海道と関係づけろ」といった制約があったであろう中で、改装中の美術館のコレクションを活用するなどの策で、ここまでの展覧会にこぎ着けた学芸員ら関係者の皆さんの労力と熱意には頭が下がります。
ほめてばかりなので、ちょっと註文すれば、図録の論文で、引用が新漢字と旧字体が混在しているものがあるのが気になります(現在のパソコン環境で旧字体で一貫するのは困難なので、新漢字で統一してもらいたい)。あと、参考文献一覧も簡単でいいので付けてほしかったです。
2023年9月16日(土)~11月12日(日)午前9時半~午後5時
道立近代美術館(札幌市中央区北1西17)
一般800円、高大生500円、中学生300円、小学生以下無料(要保護者同伴)
※2階の「アールヌーヴォーのガラス」「アートギャラリー北海道 小川原脩記念美術館コレクション展」と同時開催
・中央バス、ジェイアール北海道バス「道立近代美術館」からすぐ(小樽、手稲方面行きは、都市間高速バスを含め全便が停車します)
・地下鉄東西線「西18丁目」4番出口から400メートル、徒歩6分
・市電「西15丁目」から700メートル、徒歩10分
・ジェイアール北海道バス「桑11 桑園円山線」(JR桑園駅―円山公園駅―啓明ターミナル)で「大通西15丁目」降車、約400メートル、徒歩5分
・ジェイアール北海道バス「54 北5条線」(JR札幌駅―西28丁目駅)「58 北5条線」(JR札幌駅―琴似営業所)で「北5条西17丁目」降車、約540メートル、徒歩7分
・ジェイアール北海道バス「50 啓明線」「51 啓明線」「53 啓明線」(JR札幌駅―啓明ターミナル)で「南3条西16丁目」降車、約830メートル、徒歩11分
※指定駐車場は北1西15の「ビッグシャイン」です。徒歩3分