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カイロのバリケードへの想像力

2011年01月31日 23時30分26秒 | 新聞などのニュースから
 (このエントリは、アートには関係がない長文です)

1. 日本のメディアは「ひとごと」か


 チュニジアで起きた革命はアラブ各国に飛び火し、ここ数日はエジプトが大騒ぎになっている。
 昨夜は遅くまでアルジャジーラをネットで見ていたので、眠い。

 イランとアラブ諸国を対比して、粘り強く政府批判をするイランの人々とすっかりあきらめムードで「お上にたてつかない」エジプトなどの人々を論じたコラムを新聞で読んだのがつい数カ月前なので、この何日かの情勢は、まるで信じられないのだ。

http://english.aljazeera.net/watch_now/

 もちろん、新聞各紙は連日かなりの紙面を割いてカイロやアレクサンドリアの緊張した様子を伝えている。

 その一方で、ネットなどでは
「なんだか対岸の火事みたいな報じ方だ」
「人ごとみたいだ」
といった声がぽつぽつ上がっている(ちなみに、「他人事」という日本語はないのでご注意)。

 こんなにたくさん記事と写真を載せているのになあ~と思った。
 これで取り上げ方が少ないというなら、どうしたらいいんじゃ~。

 でも「対岸の火事」という直感を抱いたのにも、なにか理由があるのかもしれない。

 ただし、こういう言い方をすれば非難されそうだが、東アジアなどに比べたら、遠いアフリカの出来事は、「対岸の火事」的な色合いが濃くなるのはやむを得ない面がある。
 とはいえ、それで終わってはあんまりだ。新聞各紙は、日本とのかかわりなど、もっと広い視野から解説していく必要があるだろう。

2.エジプトの不安定化がもたらすもの



 エジプトの野党勢力であるムスリム同胞団は比較的穏健派であるが、彼らでさえもムバラク大統領から弾圧されてきた。彼らを出し抜いて過激派が擡頭すれば、小康状態を保ってきた対イスラエル関係が一気に悪化するおそれもあるだろう。
 そうなれば第5次中東戦争の悪夢もありうるし、スエズ運河の安全航行や、中東からの原油輸入にも大きな影響が出る可能性もある。
 アラブ諸国は、束になってかかってわずか1週間でイスラエルに大敗を喫した第3次中東戦争(1968年)がトラウマになってきたが、そろそろ世代も代わりつつある。

 アラブ世界の民衆レベルで米国の評判が悪いのは、米国が露骨にイスラエル寄りの政策を続けてきたことに原因の一端がある。
 1970年代はアラファト議長が来日するなど、決して米国一辺倒ではなかった日本の中東外交。日本は、欧米諸国と異なりユダヤ人差別をした歴史がなく中東やアフリカで植民地支配もしたことがないため、その気になれば中東和平に一役買えるはずなのだが、どうもそういう努力をした形跡があまりないように思う。
 むしろ、ブッシュ米大統領が突き進んだ対イラク戦争にいち早く賛意を表明し、昨年はイランの油田の権益を米国の圧力で手離すなど、外交面での対米依存は強まっている(これもいろいろ裏の事情があるみたいだが)。
 このままだと、日本も「アラブ民衆の敵」とひとくくりにされてしまいそうで、テロの対象にならないかと心配である。これまで、イスラム過激派がらみのテロは、イスラム国家か欧米が舞台で、日本は国際社会における存在感が薄いのが幸いしてか、標的にならずにすんでいるのだが。

3.「革命」と「反政府デモ」の間



 で、アルジャジーラなどでカイロやアレクサンドリアのストリートを見てたら、これは「革命」だよね。

 日本の報道機関が「政変」「反政府デモ」と呼び「革命」といわないのは、米国政府の意向がなんちゃらかんちゃらとしたり顔で説明している人がいるけれど、これは無理がある。
 だって、街頭にくりだしてる本人たちが、いまのところ「革命」って言ってないんだから。日本の報道機関が先に「これは革命じゃ」と認定するもんでもないでしょ。
 チュニジアは「ジャスミン革命」って本人たちが言ってるから、これはもう革命でしょう。

 ところで、革命とは何か?

 生産様式とか発展段階とか政治制度とか、難しい議論を脇に置いて、現象面だけを見ると、革命とは
「その国の首都およびそれに準ずる大都市の路上や広場にストライキ中の労働者や学生などの群衆が出てきて騒ぎとなり非正規的手続きで時の権力を打倒しようとすること」
と定義づけられるだろう。

 ここで「首都およびそれに準ずる大都市」というのはけっこう重要な要素で、地方都市でいくら騒いでも、首都に波及しなければ、政府を脅かすことはないのだから革命にはならない。


 で、アルジャジーラを見てると、なんだかこっちまで気分が高揚してくるんだよな。
 日本の新聞やテレビはその高揚を共有してないから、「ひとごとみたい」「対岸の火事のようだ」という感想が出てくるのかもしれない。
(ちなみに、一緒になって熱くなるのは、報道機関の仕事ではない。悪いけど、落差がそこに生じるのは仕方ない)

 たしか小林秀雄だったと思うが、「現代の神は歴史だ」というようなことを言っていた。
 革命がなぜ気分を高揚させるかというと、そこで路上や広場にくりだしている人々にとって、自分はみずから主体的に歴史に参加しているのだという実感をまざまざと味わわせてくれるからではないだろうか。
 


大統領、軍指導部と協議=首都広場でデモ続く-アルジャジーラ活動禁止・エジプト(時事通信) - goo ニュース

エルバラダイ氏がデモ参加、継続呼びかける(読売新聞) 


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