札幌国際芸術祭が始まり、関係者は盛り上がっているようだが（もっとも、筆者は「関係者」でないので、正確なところはよくわからないが）、その喧噪をよそに、地道な制作・発表活動を続けている人たちのことを、わすれてはいけないと思う。
そもそも芸術は、スポーツのように単純な勝ち負けがつくようなものではない。現代美術と、従来からある絵画との間に、優劣があるというものでもない。何から感動を受けるかは、人それぞれだ。
「櫂」という7人のグループは、隔年で、札幌時計台ギャラリーで絵画展を開いている。
このグループがそもそもどんな集まりかについては、一昨年の第8回の際に書いた。一口に言うと、石狩や北広島、深川など道央地方に住む全道展会員の集まりである。
渡辺貞之さんは、全道展の2次会でよく一緒になる仲の良い顔ぶれだ―と笑っていて、それは事実なのかもしれないが、筆者が推察するに、謙遜でもあって、全道展絵画部の屋台骨のひとつを背負っているのは自分たちだという自負があるのだろうと思う。そして、それは事実だろう。
ただ、現代美術の進出などで、団体公募展の中心メンバーが絵画展を発足させたとしても一昔前ほどには注目されなくなっているのも、また確かである。
この開催時期が、札幌国際芸術祭のスタート時期と重なったのも、なにか暗示的である。
さて、梅津、川本ヤスヒロ、斉藤嗣火、田崎謙一、福島孝寿、藤井高志、渡辺貞之のメンバーは発足当初から変わらず、今年は大作をA、B室に、デッサンや小品、スケッチをC室に並べて、見応えがある。
とくに田崎さんの「埃及幻相「王家の谷」（未完）」は、213×517センチという超大作。直線と、曲線で囲まれた不定形をおびただしく配置した抽象画で、思わず息をのむスケール感。もちろん、このサイズの、迫力ある抽象画を見たことはあるのだが（中村一美、藤野千鶴子など）、既視感が全くないのは、明度が非常に高いからだろう。言い換えると、この手の超大作は、明暗の差が大きいダイナミックな絵柄になる場合が多いのだが、田崎さんの絵はどこまでも白っぽく、明るい。ただし、そのことが、絵の品格を下げているわけでないことは、言うまでもない。
梅津さんは以前、奥行き感を欠く画面に植物の有するエネルギーをいっぱいに表現したような絵が多かったが、今回の「あの日の空 春花秋冬 部分「春」」（未完）などを見ていると、前景に、パノラマ的に人物群像を配し、奥に田園都市の風景を描いた、おだやかな画風が中心になっているように感じる。それは、手前に母子像を配した全道展出品作「あの日の空」でも同様である。
いま、田園都市と書いた。遠くの山々の稜線や、街中にある巨大な観覧車を見ると、なんだか岩見沢っぽいが、左右にまっすぐ走る高架線の上には新幹線のような流線型の列車が描かれており、架空の未来都市なのかもしれない。
どちらの絵にも、静かな幸福感みたいなものが流れているように見える。
出品作は次の通り。
渡辺貞之
双子座（15F) 芝居のあとで(100F) 南瓜 大きな楡の木の下で(130F) 手のない手品師（100S)
古い壁(ローマ) 水道(ローマ) 煉瓦の家（ヴェネツィア） 階段（アレッツォ） 運河（ヴェネツィア） 廃屋（ローマ） 壁（アレッツォ） 桟橋（ヴェネツィア） 白いシェード（アッシジ）
藤井高志
ベネチア（20M）(10M） モンマルトルの丘の家(60F) ポンテヴェキオ（4F) 水路(100変) モンマルトルの丘の家(60F) イタリア ポスターの女（4F) メモリー（130F)
川本ヤスヒロ
ベートーヴェン第九より（100F) バッハのミサ曲より（160×57） 暮色の交響曲（チャイコフスキーより）（220×160） 奏Ａ（100F)
音楽を聴く二人(8F) 奏E（6F) ピッコロを吹く少女（4F) 運命 第4楽章より(20F) アステカ（生と死）(20F) 運命 第２楽章より(20F) 木管フルート（8F) 黄金のフルート（10F) 運命 第１楽章より（30F) ベートーヴェン交響曲4番より（50×100センチ)
斉藤嗣火
風の行方(130F) 刻（100F） 域(100S) 雨あがりアッシジ 雨後アッシジ
アッシジ（同題2点） ヴェネチア
福島幸寿
時刻（とき）（100S) ベネツィア（60S) 花(40F)
ベネツィア1 ベネツィア2 ベネツィア3 ベネツィア4 ベネツィア5 花 スケッチ(アッシジ)
田崎謙一
Mutation「萌芽」（100S) 埃及幻相「王家の谷」（未完）」213×517
梅津
あの日の空 春花秋冬 部分「春」（未完）341×130.5
あの日の空(100F) あの日の空（イコン型）(2変） 深川幻想 まあぶの坂から（8変） 古代ローマ博物館の壁画から(8P)
2014年7月14日(月)～19日(土)午前10時～午後6時（最終日～午後5時)
札幌時計台ギャラリー（中央区北1西3）
■第8回 ■続き(2012年)
■第5回櫂展（2007）
■第4回櫂展（2006）
■グループ櫂展（2003）＊
■藤井高志展（2009年）＊
■渡辺貞之「存在と眼」
■渡辺貞之個展（2003）
■渡辺貞之個展(2001）
■第16回書と絵の五人展（2006）＝川本さん出品
■川本ヤスヒロ展(2004）＊
■川本ヤスヒロ展（2003）
＊のないものは、画像なし。
そもそも芸術は、スポーツのように単純な勝ち負けがつくようなものではない。現代美術と、従来からある絵画との間に、優劣があるというものでもない。何から感動を受けるかは、人それぞれだ。
「櫂」という7人のグループは、隔年で、札幌時計台ギャラリーで絵画展を開いている。
このグループがそもそもどんな集まりかについては、一昨年の第8回の際に書いた。一口に言うと、石狩や北広島、深川など道央地方に住む全道展会員の集まりである。
渡辺貞之さんは、全道展の2次会でよく一緒になる仲の良い顔ぶれだ―と笑っていて、それは事実なのかもしれないが、筆者が推察するに、謙遜でもあって、全道展絵画部の屋台骨のひとつを背負っているのは自分たちだという自負があるのだろうと思う。そして、それは事実だろう。
ただ、現代美術の進出などで、団体公募展の中心メンバーが絵画展を発足させたとしても一昔前ほどには注目されなくなっているのも、また確かである。
この開催時期が、札幌国際芸術祭のスタート時期と重なったのも、なにか暗示的である。
さて、梅津、川本ヤスヒロ、斉藤嗣火、田崎謙一、福島孝寿、藤井高志、渡辺貞之のメンバーは発足当初から変わらず、今年は大作をA、B室に、デッサンや小品、スケッチをC室に並べて、見応えがある。
とくに田崎さんの「埃及幻相「王家の谷」（未完）」は、213×517センチという超大作。直線と、曲線で囲まれた不定形をおびただしく配置した抽象画で、思わず息をのむスケール感。もちろん、このサイズの、迫力ある抽象画を見たことはあるのだが（中村一美、藤野千鶴子など）、既視感が全くないのは、明度が非常に高いからだろう。言い換えると、この手の超大作は、明暗の差が大きいダイナミックな絵柄になる場合が多いのだが、田崎さんの絵はどこまでも白っぽく、明るい。ただし、そのことが、絵の品格を下げているわけでないことは、言うまでもない。
梅津さんは以前、奥行き感を欠く画面に植物の有するエネルギーをいっぱいに表現したような絵が多かったが、今回の「あの日の空 春花秋冬 部分「春」」（未完）などを見ていると、前景に、パノラマ的に人物群像を配し、奥に田園都市の風景を描いた、おだやかな画風が中心になっているように感じる。それは、手前に母子像を配した全道展出品作「あの日の空」でも同様である。
いま、田園都市と書いた。遠くの山々の稜線や、街中にある巨大な観覧車を見ると、なんだか岩見沢っぽいが、左右にまっすぐ走る高架線の上には新幹線のような流線型の列車が描かれており、架空の未来都市なのかもしれない。
どちらの絵にも、静かな幸福感みたいなものが流れているように見える。
出品作は次の通り。
渡辺貞之
双子座（15F) 芝居のあとで(100F) 南瓜 大きな楡の木の下で(130F) 手のない手品師（100S)
古い壁(ローマ) 水道(ローマ) 煉瓦の家（ヴェネツィア） 階段（アレッツォ） 運河（ヴェネツィア） 廃屋（ローマ） 壁（アレッツォ） 桟橋（ヴェネツィア） 白いシェード（アッシジ）
藤井高志
ベネチア（20M）(10M） モンマルトルの丘の家(60F) ポンテヴェキオ（4F) 水路(100変) モンマルトルの丘の家(60F) イタリア ポスターの女（4F) メモリー（130F)
川本ヤスヒロ
ベートーヴェン第九より（100F) バッハのミサ曲より（160×57） 暮色の交響曲（チャイコフスキーより）（220×160） 奏Ａ（100F)
音楽を聴く二人(8F) 奏E（6F) ピッコロを吹く少女（4F) 運命 第4楽章より(20F) アステカ（生と死）(20F) 運命 第２楽章より(20F) 木管フルート（8F) 黄金のフルート（10F) 運命 第１楽章より（30F) ベートーヴェン交響曲4番より（50×100センチ)
斉藤嗣火
風の行方(130F) 刻（100F） 域(100S) 雨あがりアッシジ 雨後アッシジ
アッシジ（同題2点） ヴェネチア
福島幸寿
時刻（とき）（100S) ベネツィア（60S) 花(40F)
ベネツィア1 ベネツィア2 ベネツィア3 ベネツィア4 ベネツィア5 花 スケッチ(アッシジ)
田崎謙一
Mutation「萌芽」（100S) 埃及幻相「王家の谷」（未完）」213×517
梅津
あの日の空 春花秋冬 部分「春」（未完）341×130.5
あの日の空(100F) あの日の空（イコン型）(2変） 深川幻想 まあぶの坂から（8変） 古代ローマ博物館の壁画から(8P)
2014年7月14日(月)～19日(土)午前10時～午後6時（最終日～午後5時)
札幌時計台ギャラリー（中央区北1西3）
■第8回 ■続き(2012年)
■第5回櫂展（2007）
■第4回櫂展（2006）
■グループ櫂展（2003）＊
■藤井高志展（2009年）＊
■渡辺貞之「存在と眼」
■渡辺貞之個展（2003）
■渡辺貞之個展(2001）
■第16回書と絵の五人展（2006）＝川本さん出品
■川本ヤスヒロ展(2004）＊
■川本ヤスヒロ展（2003）
＊のないものは、画像なし。
