年に1度の特別展です。今年は、三岸好太郎の代表作「オーケストラ」を軸に、画家と音楽のかかわりについて展示を企画しています。
特別展なので、三岸好太郎美術館の所蔵品だけでなく、札幌コンサートホールKitara や宮城県美術館など他館から借りてきた作品や資料も多く並んでいます。
雑ぱくな印象ですが、今回に関して言えば、ふだん見ることのない絵画などに感服するよりは、資料や、エピソードの説明に感服した展覧会だったと思います。もちろん、佐藤忠良の初期の絵画や、カンディンスキーやクレーの版画なども、面白いのですが、田上義也のバイオリンなど資料類が充実していました。
それらのエピソードについては、図録に掲載されていないものも多いので、せっかくですからここでいくつか紹介しておきます。
太宰治の初期の短編小説「ダス・ゲマイネ」には、1931年(昭和6年)に、ハンガリー生まれの名バイオリニストのシゲティが世界公演の途中に日本に立ち寄って東京の日比谷公会堂で演奏したことが、重要な挿話として語られています。ただ、演奏そのものよりも、主人公の友人とシゲティのやりとりが大きなエピソードになります。
この演奏会には、三岸好太郎と小林多喜二も行っていたと、館内の説明パネルにありました。
ただし、3回だか4回の演奏会のうちどの日に訪れたかは、明らかになっておらず、3人が同じ空間に居合わせたかどうかは不明とのこと。
そもそも「ダス・ゲマイネ」の主人公がシゲティの演奏会を聴きに行ったとして、太宰本人も足を運んだかどうかはわかりません。ネタバレになっちゃうのであまり詳しく書きたくないのですが「ダス・ゲマイネ」には、演奏がどうだったかという描写はほとんどありませんし、また、主人公は「太宰治」ではないのです。
その2。
「Marvelous Voice」という三岸のコラージュがありますが、そこに登場する横向きの禿頭の男性は、当時の名高い男声歌手カルーゾーではないかとのこと。
この名前は、宮沢賢治の物語にも出てきており、そうとう有名だったようです。
その3。
三岸といっしょに音楽会に行ったり、「黄服少女」のモデルになったりした女性が、吉田隆子という女性作曲家のはしりであったことは、これまでも同館の展覧会で紹介されていましたが、彼女が、映画評論家の飯島正の妹であり、その後、劇作家の久保栄(画家久保守の兄)と結婚したこと、1933年(昭和8年)に官憲の手で虐殺された小林多喜二を追悼する歌を作っていたことなどは、初めて知りました。
当時、多喜二の死の真相は検閲により報道されておらず、そもそも彼のような左翼を追悼すること自体、たいへんな勇気が必要だったはずです。さすがに別名義での作曲だったようです。
三岸好太郎は政治的な発言を全くしない人だったと思うので、それを考えれば面白い対称といえなくもありません。彼女は戦後も与謝野晶子「あゝ、君死にたもふことなかれ」に曲を付けたりしています。
ちなみに、久保守は札幌出身の日展系の洋画家。長く東京藝大で教壇に立ち、たとえば「美術手帖」創刊号の巻頭論文を執筆するなど、今よりも知名度の高い画家であったようです。
2016年9月3日(土)~10月19日(水)午前9:30~午後5:00(入館~4:30)、月曜日休み(9月19日、10月10日は開館)、9月20日・10月11日休館
※9月24日はミニリサイタルのため午後8時まで開館
道立三岸好太郎美術館(札幌市中央区北2西15)
特別展なので、三岸好太郎美術館の所蔵品だけでなく、札幌コンサートホールKitara や宮城県美術館など他館から借りてきた作品や資料も多く並んでいます。
雑ぱくな印象ですが、今回に関して言えば、ふだん見ることのない絵画などに感服するよりは、資料や、エピソードの説明に感服した展覧会だったと思います。もちろん、佐藤忠良の初期の絵画や、カンディンスキーやクレーの版画なども、面白いのですが、田上義也のバイオリンなど資料類が充実していました。
それらのエピソードについては、図録に掲載されていないものも多いので、せっかくですからここでいくつか紹介しておきます。
昨年の晩秋、ヨオゼフ・シゲティというブダペスト生れのヴァイオリンの名手が日本へやって来て、日比谷の公会堂で三度ほど演奏会を開いたが、三度が三度ともたいへんな不人気であった。(太宰治「ダス・ゲマイネ」)
— 梁井 朗@北海道美術ネット別館 (@akira_yanai) 2016年10月17日 - 22:34
太宰治の初期の短編小説「ダス・ゲマイネ」には、1931年(昭和6年)に、ハンガリー生まれの名バイオリニストのシゲティが世界公演の途中に日本に立ち寄って東京の日比谷公会堂で演奏したことが、重要な挿話として語られています。ただ、演奏そのものよりも、主人公の友人とシゲティのやりとりが大きなエピソードになります。
この演奏会には、三岸好太郎と小林多喜二も行っていたと、館内の説明パネルにありました。
ただし、3回だか4回の演奏会のうちどの日に訪れたかは、明らかになっておらず、3人が同じ空間に居合わせたかどうかは不明とのこと。
そもそも「ダス・ゲマイネ」の主人公がシゲティの演奏会を聴きに行ったとして、太宰本人も足を運んだかどうかはわかりません。ネタバレになっちゃうのであまり詳しく書きたくないのですが「ダス・ゲマイネ」には、演奏がどうだったかという描写はほとんどありませんし、また、主人公は「太宰治」ではないのです。
その2。
「Marvelous Voice」という三岸のコラージュがありますが、そこに登場する横向きの禿頭の男性は、当時の名高い男声歌手カルーゾーではないかとのこと。
この名前は、宮沢賢治の物語にも出てきており、そうとう有名だったようです。
その3。
三岸といっしょに音楽会に行ったり、「黄服少女」のモデルになったりした女性が、吉田隆子という女性作曲家のはしりであったことは、これまでも同館の展覧会で紹介されていましたが、彼女が、映画評論家の飯島正の妹であり、その後、劇作家の久保栄(画家久保守の兄)と結婚したこと、1933年(昭和8年)に官憲の手で虐殺された小林多喜二を追悼する歌を作っていたことなどは、初めて知りました。
当時、多喜二の死の真相は検閲により報道されておらず、そもそも彼のような左翼を追悼すること自体、たいへんな勇気が必要だったはずです。さすがに別名義での作曲だったようです。
三岸好太郎は政治的な発言を全くしない人だったと思うので、それを考えれば面白い対称といえなくもありません。彼女は戦後も与謝野晶子「あゝ、君死にたもふことなかれ」に曲を付けたりしています。
ちなみに、久保守は札幌出身の日展系の洋画家。長く東京藝大で教壇に立ち、たとえば「美術手帖」創刊号の巻頭論文を執筆するなど、今よりも知名度の高い画家であったようです。
2016年9月3日(土)~10月19日(水)午前9:30~午後5:00(入館~4:30)、月曜日休み(9月19日、10月10日は開館)、9月20日・10月11日休館
※9月24日はミニリサイタルのため午後8時まで開館
道立三岸好太郎美術館(札幌市中央区北2西15)
(この項続く)