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■榎本 淳「Train Hokkaido」鉄道風景写真展 (2015年2月13~18日、札幌)

2015年02月17日 02時22分22秒 | 展覧会の紹介-写真
 「鉄道写真」ではなく「鉄道風景写真」と銘打たれていることに注意してください。
 もちろん、迫力ある除雪車や特急列車の疾走、旧国鉄塗装の車両、秘境駅など、鉄道マニア心をくすぐる写真もありますが、70枚の展示作の大半は、あくまで鉄道は脇役で、線路の周辺に広がる北海道の雄大な風景が主役です。中には、列車はヘッドライトの光跡だけという作品もあります。
 たとえば、釧路市音別町の郊外にある馬主来(パシクル)沼の岸辺で、遠くに走る夜行列車の光跡と、その上に広がる夜空をとらえた2枚。片方には、煌々(こうこう)と月が輝く中にもオリオン座が見え、もう片方には、銀河が美しく星空を彩っています。
 あるいは、釧路管内の厚岸―糸魚沢(いといざわ)間で撮影した「街明かりに染まる」。闇の中に、湿原の複雑な湖沼が浮かび上がり、遠くには厚岸町のあかりも望まれます。手前に走るディーゼルカーのヘッドライト。道東ならではの風景が旅情をかきたてます。

 この写真に限らず、いったいどこの撮影ポイントからレンズを向けたんだろうと驚かされる作は少なくありません。
 「奥白滝の朝」は、3月28日午前6時16分という撮影日時が物語るとおり、まだ雪深い大雪山系から、はるか下側に見える石北線の単線を早朝に走る貨物列車(このときは、先ごろ廃車になったディーゼル機関車DD51が牽引)をとらえたものです。
 榎本さんによると、3月末にならないと、この線路には朝日が差さないのだそうです。撮影ポイントには、スノーシューを履いて2、3時間かかるとのこと。
「だから出発するときは真っ暗。いつも、どこかいいところはないかと探しながら走ってますね」
 そもそも奥白滝(オホーツク管内遠軽町)附近を走る列車は、1日に貨物1往復(ただし春夏は休み)、快速1往復、特急4往復だけ。
 1本逃すと、次の列車が来るまで、都会の線路では想像もできないほどの長い時間があります。榎本さんは「だから、かなり余裕をもって登りますね」とおっしゃっていましたが、この1枚のためにかける労力に考えれば、めまいがしそうになってきます。

 ほかにも、上川管内音威子府村の筬島(おさしま。美術ファンにはかつて砂澤ビッキがアトリエを構えていた地として知られているでしょう)―音威子府間の写真も、悠々と流れる天塩川と1輛編成のディーゼルカーの対比が見事ですが、やはり相当な高さの山に登っていますし、同様のことは、オホーツク管内遠軽町の瀬戸瀬附近でとらえた写真にもいえることです。
 道東の別寒辺牛(べかんべうし)湿原をコトコトと走る列車を見ると、まさに道東! というはるけさですし、「紅葉豊浦の丘」には、周辺の海辺でサケ釣りに興じる釣り人たちなどさまざまなものが写っていて、目が離せません。「鉄道ファンでなくても楽しめる」と作者が言うのも、うなずけます。

 榎本さんは本州の出身ですが、若い頃に旅した北海道に魅せられ、いまは釧路のカメラ店に勤務しながら、休日を利用して道内各地を旅しています。
 道東の写真にすぐれたものが多いのはそのためですが、留萌管内天塩町の雄信内(おのっぷない)や、また、会場で流れるビデオには津軽海峡線のものもあって、釧路からは遠くてタイヘンそうです。
 とにかく、気楽に撮ったスナップとは正反対の、おそるべき労力がかけられた、美しい写真がいっぱいです。ぜひ多くの人に、ごらんになっていただきたいと思います。


2015年2月13日(金)~2月18日(水)午前10時~午後7時
富士フイルムフォトサロン札幌(中央区大通西6 富士フイルム札幌ビル)



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