「NPO法人 北海道を発信する写真家ネットワーク」が主催し、田本研造から現在まで、北海道をとらえた28人による84点で構成した写真展。
「北海道の写真」をこのように大づかみで俯瞰した展覧会というのは、筆者の記憶にはない。何十年か前にはあったかもしれないが、近年では初の試みといってさしつかえないのではないだろうか。
1.北海道の「特権性」
これまで何度か書いてきたが、北海道は、日本の写真の歴史において特権的な土地である。
ひとつは、田本研造ら、日本の写真史の初期を飾る作家の多くが何らかのかたちで北海道とかかわっていること。
(この点だけなら、横浜も日本写真史では重要な場所といえる)
もうひとつは、それを裏返していえば、まだ原始林に覆われていたころから現在までが写真によって記録されていることである。
ウリュウユウキさんが言っていたが、つまり札幌は、誕生から現在までがすっぽり写真で記録されている、世界的にもまれな大都市なのだということだ(シカゴもそれに近いという説を聞いたことがある)。
さらに、これは露口啓二さんから教わるまであまり知らなかったのだが、「明治百年」が流行語だった1968年頃、田本研造らの「開拓写真」が、絶賛されていたという。
2.展覧会の特徴
この写真展で一番「おおっ」と思ったのは、田本研造らの開拓写真だけではなく、現在活動中の道内の写真家だけでもなく、その両者を展示しつつも、その間に位置する人たちをきちんと拾い上げていたことである。
具体的にいうと、奈良原一高、前田真三、細江英公、深瀬昌久、繰上和美、篠山紀信といった面々だ。
篠山の写真は、中平卓馬との共著「決闘写真論」に載っていたシリーズではないだろうか。
森山大道、マイケル・ケンナ、それに、当初は参加予定だった佐藤時啓の作品などがあれば、もっと良かったのだろうが、それはないものねだりであろう。
写真が撮られた時代はばらばらなのに、プリントの水準は高く、サイズも統一されている。
1人3点というのも厳格に守られている。
主催者サイドの酒井広司さんは
「これが写真展として標準」
と胸を張っていた。
道内ではもっとラフな展示をしている写真展が多いが、いわれてみると確かに、東京都写真美術館などではこれが普通のスタイルである。
(もっとも、個人的には、金村修のような展示も好きなので、どちらがどうというモンダイではないです)
図録は、写真が撮られた時代の順番に収録している。
会場では、福地大輔さんが、出品作家でもあるホンマタカシさんの写真論に着想を得て、分類をしなおしている。すなわち
1-1 視覚世界の創造 地表を構築する意志としての写真
田本研造 奈良原一高 佐藤雅英 前田真三 清水武男 菊地晴夫
1-2 視覚世界の創造 概念から解き放たれた視覚
細江英公 篠山紀信 ホンマタカシ ジェフ・チャップリン 戸張良彦 大橋英児 酒井広司 山本顕史
2-1 世界を共感する 北海道へのまなざし
中西写真製版所 萩原義弘 深瀬昌久 繰上和美 浅野久男 渡辺洋一 中村健太
2-2 世界を共感する 人間へのまなざし
掛川源一郎 橋口譲二 岸本日出雄 齋藤亮一 為岡進 及川修 中藤毅彦
(※なお、「中西写真制作所」は「中西寫眞製作所」、「為岡進」は「爲岡進」と表記されている。これについて、じゃあどうして「所」「進」は正字を用いないのだ? というツッコミは当然予想されよう)
それぞれには短いテキストが付されていて、たとえば「北海道へのまなざし」には
「大地の姿を知りたいという欲望は様々な映像を創造していく。本展においてカバー出来なかったが、野生生物の生態撮影においても優れた視点をつくりあげた数々の表現者が北海道の歴史において現れ、試みを重ねた事を忘れてはならない」
などとある。
いわゆる「ネイチャーフォト」の分野で、嶋田忠、水越武、寺沢孝毅といった写真家たちが、道外からやってきて拠点をすえて活動していることを忘れるなと、クギをさしているわけだ。(市根井孝悦も山岳写真では有名だ)
いずれにしても、非常に意義深い展覧会である。
ちょっと書き足りない気もするので、残りは別項で。
2014年9月2日(火)~21日(日)午前10時~午後8時、会期中無休
コンチネンタルギャラリー(札幌市中央区南1西11コンチネンタルビル地下)
・地下鉄東西線「西11丁目」、市電「中央区役所前」、じょうてつバス「西11丁目駅前」、いずれも降車してすぐ
・中央バス、ジェイアール北海道バス「教育文化会館前」から約580メートル、徒歩8分
・札幌市資料館、教育文化会館からも徒歩圏内です
□northfinder の関連ページ http://northfinder.jp/events/2014_1.html
「北海道の写真」をこのように大づかみで俯瞰した展覧会というのは、筆者の記憶にはない。何十年か前にはあったかもしれないが、近年では初の試みといってさしつかえないのではないだろうか。
1.北海道の「特権性」
これまで何度か書いてきたが、北海道は、日本の写真の歴史において特権的な土地である。
ひとつは、田本研造ら、日本の写真史の初期を飾る作家の多くが何らかのかたちで北海道とかかわっていること。
(この点だけなら、横浜も日本写真史では重要な場所といえる)
もうひとつは、それを裏返していえば、まだ原始林に覆われていたころから現在までが写真によって記録されていることである。
ウリュウユウキさんが言っていたが、つまり札幌は、誕生から現在までがすっぽり写真で記録されている、世界的にもまれな大都市なのだということだ(シカゴもそれに近いという説を聞いたことがある)。
さらに、これは露口啓二さんから教わるまであまり知らなかったのだが、「明治百年」が流行語だった1968年頃、田本研造らの「開拓写真」が、絶賛されていたという。
2.展覧会の特徴
この写真展で一番「おおっ」と思ったのは、田本研造らの開拓写真だけではなく、現在活動中の道内の写真家だけでもなく、その両者を展示しつつも、その間に位置する人たちをきちんと拾い上げていたことである。
具体的にいうと、奈良原一高、前田真三、細江英公、深瀬昌久、繰上和美、篠山紀信といった面々だ。
篠山の写真は、中平卓馬との共著「決闘写真論」に載っていたシリーズではないだろうか。
森山大道、マイケル・ケンナ、それに、当初は参加予定だった佐藤時啓の作品などがあれば、もっと良かったのだろうが、それはないものねだりであろう。
写真が撮られた時代はばらばらなのに、プリントの水準は高く、サイズも統一されている。
1人3点というのも厳格に守られている。
主催者サイドの酒井広司さんは
「これが写真展として標準」
と胸を張っていた。
道内ではもっとラフな展示をしている写真展が多いが、いわれてみると確かに、東京都写真美術館などではこれが普通のスタイルである。
(もっとも、個人的には、金村修のような展示も好きなので、どちらがどうというモンダイではないです)
図録は、写真が撮られた時代の順番に収録している。
会場では、福地大輔さんが、出品作家でもあるホンマタカシさんの写真論に着想を得て、分類をしなおしている。すなわち
1-1 視覚世界の創造 地表を構築する意志としての写真
田本研造 奈良原一高 佐藤雅英 前田真三 清水武男 菊地晴夫
1-2 視覚世界の創造 概念から解き放たれた視覚
細江英公 篠山紀信 ホンマタカシ ジェフ・チャップリン 戸張良彦 大橋英児 酒井広司 山本顕史
2-1 世界を共感する 北海道へのまなざし
中西写真製版所 萩原義弘 深瀬昌久 繰上和美 浅野久男 渡辺洋一 中村健太
2-2 世界を共感する 人間へのまなざし
掛川源一郎 橋口譲二 岸本日出雄 齋藤亮一 為岡進 及川修 中藤毅彦
(※なお、「中西写真制作所」は「中西寫眞製作所」、「為岡進」は「爲岡進」と表記されている。これについて、じゃあどうして「所」「進」は正字を用いないのだ? というツッコミは当然予想されよう)
それぞれには短いテキストが付されていて、たとえば「北海道へのまなざし」には
「大地の姿を知りたいという欲望は様々な映像を創造していく。本展においてカバー出来なかったが、野生生物の生態撮影においても優れた視点をつくりあげた数々の表現者が北海道の歴史において現れ、試みを重ねた事を忘れてはならない」
などとある。
いわゆる「ネイチャーフォト」の分野で、嶋田忠、水越武、寺沢孝毅といった写真家たちが、道外からやってきて拠点をすえて活動していることを忘れるなと、クギをさしているわけだ。(市根井孝悦も山岳写真では有名だ)
いずれにしても、非常に意義深い展覧会である。
ちょっと書き足りない気もするので、残りは別項で。
2014年9月2日(火)~21日(日)午前10時~午後8時、会期中無休
コンチネンタルギャラリー(札幌市中央区南1西11コンチネンタルビル地下)
・地下鉄東西線「西11丁目」、市電「中央区役所前」、じょうてつバス「西11丁目駅前」、いずれも降車してすぐ
・中央バス、ジェイアール北海道バス「教育文化会館前」から約580メートル、徒歩8分
・札幌市資料館、教育文化会館からも徒歩圏内です
□northfinder の関連ページ http://northfinder.jp/events/2014_1.html