後志管内余市町出身の詩人左川ちか(1911~1936年)。
正直なところ、以前はアンソロジーなどには採録されてはいても一般的な知名度は高くなく、筆者も
「伊藤整の友人の妹」
ぐらいの認識でした。
それが、ここ数年の評価の高まりといったら、どうでしょう。
全集は版を重ね、昨年秋にはついに岩波文庫に入るまでになりました。
ただ、個人的には、戸惑いも大きいです。
これまで戦前のモダニスムを代表する詩人として知られてきた春山行夫、北園克衛、北川冬彦、安西冬衛といった人々は、岩波も含めて文庫が出たことがありません。彼女の詩の良さは認めつつも、それらの詩人を圧倒するほどの存在かといわれれば、ちょっと首をかしげてしまうのです。
これは、女のくせに男に先駆けて詩集が出るのはけしからんと主張しているのでは、もちろんなくて、左川ちか詩集を出すのであれば、北園克衛詩集や竹中郁詩集もよろしく! という意味です(話はそれますが、岩波文庫がまず出すべきは「荒地詩集」と石原吉郎詩集ではないでしょうか)。
従来、伊藤整との関係などでしか語られなかった女性詩人が、彼女自身に価値と意義を見いだされることは、良いことでしょう。
左川ちかは24歳の若さで病歿しており、その点では、同時代の立原道造や中原中也、小熊秀雄といった詩人たちと共通しています。ただ、かつてのように、夭折の文学者があこがれられるようなご時世でもなさそうな気もします。
さて、展示自体は、詩行などを印字したパネルや、左川ちかが原稿を寄せた各種雑誌・同人誌などを陳列した、ごくオーソドックスな構成です。
左川ちかは翻訳も数多く手がけており、同じ詩(ジェイムス・ジョイスの「室楽」)を、彼女と、西脇順三郎、佐藤春夫、出口泰正の訳文と比べることができるのは、おもしろい展示です。
(すでに指摘されていますが、1930年代にジョイスなどの前衛的な文学を翻訳し、書簡でシルヴィア・ビーチに言及するなど、彼女は当時、世界文学の最先端にたっていたということができるでしょう)
これは、展示自体とは関係ないのですが、なにせ左川ちかルネッサンスの最中なので、展示室前のロビーで、詩集や全集、関連書籍が販売されています。せっかく展示で取り上げた作家なのに、肝心の作品に容易にアクセスすることができないことは「文学館あるある」なので、とても良いことだと思います。
ツイッター(現X)でも書きましたが、一番驚かされたのは、彼女が寄稿していた雑誌「L'ESPRIT NOUVEAU」(紀伊國屋書店発行)や、彼女が北園克衛とともに銀座の鉱業会館にあったオフィスで編集作業に携わった「ESPRIT」誌のデザインが、おそろしくモダンなことです。
特に後者は、縦長の判型で、10銭。表紙で「生きた流行 生きた智識」をうたい、写真をあしらっており、1930年代とは思えません。わずか4号で終わったようですが、このセンスには感服です。
この項、続きます。
2023年11月18日(土)~2024年1月21日(日)午前9時半~午後5時、月曜・年末年始休み
北海道立文学館(札幌市中央区中島公園)
一般500(400)円、高大生250(200)円、中学生以下・65歳以上無料
・地下鉄南北線「中島公園駅」3番出入り口から約450メートル、徒歩5分
・同「幌平橋駅」から約500メートル、徒歩6分
・市電「中島公園通」から約650メートル、徒歩8分
正直なところ、以前はアンソロジーなどには採録されてはいても一般的な知名度は高くなく、筆者も
「伊藤整の友人の妹」
ぐらいの認識でした。
それが、ここ数年の評価の高まりといったら、どうでしょう。
全集は版を重ね、昨年秋にはついに岩波文庫に入るまでになりました。
ただ、個人的には、戸惑いも大きいです。
これまで戦前のモダニスムを代表する詩人として知られてきた春山行夫、北園克衛、北川冬彦、安西冬衛といった人々は、岩波も含めて文庫が出たことがありません。彼女の詩の良さは認めつつも、それらの詩人を圧倒するほどの存在かといわれれば、ちょっと首をかしげてしまうのです。
これは、女のくせに男に先駆けて詩集が出るのはけしからんと主張しているのでは、もちろんなくて、左川ちか詩集を出すのであれば、北園克衛詩集や竹中郁詩集もよろしく! という意味です(話はそれますが、岩波文庫がまず出すべきは「荒地詩集」と石原吉郎詩集ではないでしょうか)。
従来、伊藤整との関係などでしか語られなかった女性詩人が、彼女自身に価値と意義を見いだされることは、良いことでしょう。
左川ちかは24歳の若さで病歿しており、その点では、同時代の立原道造や中原中也、小熊秀雄といった詩人たちと共通しています。ただ、かつてのように、夭折の文学者があこがれられるようなご時世でもなさそうな気もします。
さて、展示自体は、詩行などを印字したパネルや、左川ちかが原稿を寄せた各種雑誌・同人誌などを陳列した、ごくオーソドックスな構成です。
左川ちかは翻訳も数多く手がけており、同じ詩(ジェイムス・ジョイスの「室楽」)を、彼女と、西脇順三郎、佐藤春夫、出口泰正の訳文と比べることができるのは、おもしろい展示です。
(すでに指摘されていますが、1930年代にジョイスなどの前衛的な文学を翻訳し、書簡でシルヴィア・ビーチに言及するなど、彼女は当時、世界文学の最先端にたっていたということができるでしょう)
これは、展示自体とは関係ないのですが、なにせ左川ちかルネッサンスの最中なので、展示室前のロビーで、詩集や全集、関連書籍が販売されています。せっかく展示で取り上げた作家なのに、肝心の作品に容易にアクセスすることができないことは「文学館あるある」なので、とても良いことだと思います。
ツイッター(現X)でも書きましたが、一番驚かされたのは、彼女が寄稿していた雑誌「L'ESPRIT NOUVEAU」(紀伊國屋書店発行)や、彼女が北園克衛とともに銀座の鉱業会館にあったオフィスで編集作業に携わった「ESPRIT」誌のデザインが、おそろしくモダンなことです。
特に後者は、縦長の判型で、10銭。表紙で「生きた流行 生きた智識」をうたい、写真をあしらっており、1930年代とは思えません。わずか4号で終わったようですが、このセンスには感服です。
この項、続きます。
2023年11月18日(土)~2024年1月21日(日)午前9時半~午後5時、月曜・年末年始休み
北海道立文学館(札幌市中央区中島公園)
一般500(400)円、高大生250(200)円、中学生以下・65歳以上無料
・地下鉄南北線「中島公園駅」3番出入り口から約450メートル、徒歩5分
・同「幌平橋駅」から約500メートル、徒歩6分
・市電「中島公園通」から約650メートル、徒歩8分
(この項続く)