1月12日、関係者内覧会が道立近代美術館で開かれたので、仕事の合間をぬって行ってまいりました。
新聞やテレビが招かれる場合が多いようですが、筆者のような個人ブログに声がかかるのは珍しいので、喜んで行ってきました。
しかし、30分かそこらでは時間が足りず、翌13日にも再び見てきました。
2013年の「AINU ART」展にも、伝統的な工芸品だけではなく、現代の作家たちが出品していたのですが、今回はより、いまのアイヌアートに焦点を当てた内容になっていると思います。
国立アイヌ民族博物館の所蔵品で構成する「先人たちのモレウ」が31点なのに対し、現代の作家たちでつくる「十人のモレウ」は1階と2階を合わせて133点。ほかに「世界のぐるぐるを訪ねて」「トピック展示 尾張徳川家第19代当主徳川義親の北海道八雲町とのかかわり」があり、総計188点となります。
伝統を踏まえつつも新たな表現を探る、まさにコンテンポラリーな展覧会です。
なお、この展覧会は、アイヌ民族文化財団が1997年からアイヌ文化の振興と研究の推進を目的に全国の美術館、博物館で開催している「アイヌ工芸品展」の令和5年度(2023年度)展という位置づけでもあります。
愛知県一宮市の三岸節子記念美術館から道立近代美術館への巡回ですが、展示室の大きさに差があることもあって、内容は大幅に拡充しているとのことです。
現在の10人で参加しているのは小笠原小夜(イラストレーション)、貝澤幸司(木彫)、貝澤徹(木彫)、川村則子(布アート)、下倉洋之(金工)、関根真紀(デザイン)、西田香代子(刺繍)、藤戸康平(ミクストメディア)、藤戸幸夫(木彫)、結城幸司(版画、映像)の各氏です。
冒頭画像は、藤戸康平さんの巨大インスタレーション「Singing of the Needle」(右手前)と「ぐるぐるモレウ」。
前者については、筆者は2021年に、釧路まで出かけて見に行ったことがあります。
釧路で一般公開した後、米国の先住民族アート展で各地を巡回して、担当の五十嵐聡美学芸部長が「なかなか帰ってこなくて、焦りました」と振り返っていました。
東京電力福島第1原発事故に触発されたのが制作のきっかけと聞いています。もちろん、ぐるぐる模様が入った金属製の丸い板を玄関につるしたところで放射性物質を遮断する役割がないのは確かですが、目に見えず知覚できない放射性物質の恐怖に対してとっさに何らかの反応をすること自体には共感できます。
よく目をこらすと、中央部に彩色したシカの頭骨が据え付けられています。
「Singing of the Needle」も大作でしたが、シナベニヤによる最新作「ぐるぐるモレウ」はさらに巨大です。
外周には36列、内側には24列、それぞれ八つのピースがつり下げられており、合計240のモレウが、メリーゴーラウンドのようにゆっくりと回転しています。
回転につれて、壁にうつるおびただしい影も、ゆっくりと動きます。夢幻的で美しい眺めです。
下倉洋之さんも藤戸さんと同様、釧路市阿寒湖畔在住。
金工で、銀のジュエリーやアクセサリーを手がけています。
画像では見えませんが、小さな面積に、さまざまなバリエーションにとんだモレウなどの文様を巧みに取り入れて、装飾としています。
リングやペンダントなどのほか、ビーズのネックレスもあります。とりわけ近年はとんぼ玉や水晶など、さまざまな素材も活用しているようです。
平取町の二風谷はアイヌ民族の人口が多いことで知られる地区ですが、木工の貝沢徹さんもそこを拠点にしています。
地下鉄南北線さっぽろ駅の「ミレパ」に作品が常設されているので、ごらんになった方も多いでしょう。
画像の「アイデンティティ」(2011)はカツラ製。
ふだんは洋服を着ていても、ジッパーの内側にはアイヌ民族の精神を持っているぞ―ということでしょうか。
作者の気構えが伝わってくる立体作品です。
貝澤徹さんは、明治期の名人貝澤ウトレントクの4代目にあたります。
ほかにもフクロウや、イタ(盆)やイクスパイなどがあります。
とくに「タヌキ」は毛並みの表現が驚くほどにリアルで、作者が藤戸竹喜さんにあこがれていたことを示していると自ら振り返っています。
その藤戸竹喜さんの弟の藤戸幸夫さんはオホーツク管内津別町相生在住。
阿寒湖畔からは峠を挟んで、最初の集落です。
出品作はエンジュやアオダモ、イタヤカエデなどによるマキリ(刀)が中心。
実際に手にとることができる作品も置かれています。
1階に置かれた巨大なパネルは、最近二風谷に移り住んだ小笠原小夜さんによるイラストレーションです。
ほかにアイヌ語かるたなども展示されています。
これら以外にも多彩な作品が並んでおり、現代アイヌ文化の広がりを感じることができます。
他の6人もすてきな作家ですので、できたら別項で取り上げられれば…。
作品は一部が撮影可能です。
道立近代美術館は今週末の20日から、右側の展示室が札幌国際芸術祭2024の会場のひとつとなります。
札幌国際芸術祭に足を運んでくれた方は、ぜひとも左側の展示室にも入ってほしい。
こちらにも「北海道(島)の豊かな過去と現在」が確かに存在しているからです。
五十嵐学芸部長が「100万人入ってほしい」と話していましたが、それは難しいとしても、たくさんの人に見ていただきたい展覧会です。
気に入ったことを追記しておきます。
入り口のパネルが、日本語、英語のほか、アイヌ語(カタカナ表記)のも並んでいたのはすばらしい。
あと、作者のインタビューの抜粋が略歴の横に掲げられ、理解を助けているのも良いです。
これらを読むと、やはりというべきか、砂澤ビッキと藤戸竹喜が後世に与えた影響力の大きさは圧倒的だなあとつくづく感じました。
2024年1月13日(土)~3月10日(日)午前9時半~午後5時(入場30分前)
北海道立近代美術館(札幌市中央区北1西17)
一般千円、高大生600円、小中生300円
●関連事業
●AINU ART モレウのうたオープニングイベント「トゥレッポん with キンビ Kids」=1月13日(土)午前10時半~正午。ウポポイのキャラクター、トゥレッポんとあそぼう。「アイヌ語巨大カルタ」は幼児から大人、「アイヌ刺繍&トンコリ・ムックリちらっと体験」は小学生以上
●アーティスト・トーク「ものづくりの現場から」=1月27日(土)午前11時~11時40分。講師は貝澤徹さん(1958~)。平取町二風谷の木彫家。要観覧料
●アーティスト・トーク「ものづくりの現場から」=1月27日(土)午後2時~2時40分、講師は下倉洋之さん(1975~)。釧路市阿寒湖畔の金工家。要観覧料
●アイヌ文化ちらっと体験「ふれてみよう・着てみよう」=2月11日(土)・12日(日)午前10時半~正午、道立近代美術館2階。無料
●アーティスト・トーク「ものづくりの現場から」=2月17日(土)午前11時~11時40分、講師は結城幸司さん(1964~)。札幌の版画家、木彫家、音楽家。要観覧料
●札幌国際芸術祭との連携トーク「あっちもこっちも面白い」=2月17日(土)午後1~2時、道立近代美術館ホール。無料
●アーティスト・トーク「ものづくりの現場から」=2月17日(土)午後2時~2時40分、講師は藤戸康平さん(1978~)。釧路市阿寒湖畔のアーティスト。要観覧料
●アーティスト・トーク「ものづくりの現場から」=3月2日(土)午前11時~11時40分、講師は関根真紀さん(1967~)。平取町二風谷の工芸家。要観覧料
●アーティスト・トーク「ものづくりの現場から」=3月2日(土)午後2時~2時40分、講師は小笠原小夜さん(1978~)。平取町のイラストレーター。要観覧料
過去の関連記事へのリンク
■縄文~アイヌ 平田篤史+結城幸司 二人展 (2019)
■doubles2 : 間(のめ) in between Gaze (2016、東京) ※結城さんの個展
■藤戸康平≪Singing of the Needle≫ (2021、釧路)
アイヌ民族の作家2人が「風が吹いたら―世界30人のネイティブアート」展(2021年8月~22年1月、米ニューメキシコ州サンタフェ)に参加へ
さっぽろ駅の「アイヌ文化を発信する空間」(愛称ミナパ)に行ってきました ※貝沢徹さんの木彫の紹介あり
・中央バス、ジェイアール北海道バス「道立近代美術館」からすぐ(小樽、手稲方面行きは、都市間高速バスを含め全便が停車します)
・地下鉄東西線「西18丁目」4番出口から400メートル、徒歩6分
・市電「西15丁目」から700メートル、徒歩10分
・ジェイアール北海道バス「桑11 桑園円山線」(JR桑園駅―円山公園駅―啓明ターミナル)で「大通西15丁目」降車、約400メートル、徒歩5分
・ジェイアール北海道バス「54 北5条線」(JR札幌駅―西28丁目駅)「58 北5条線」(JR札幌駅―琴似営業所)で「北5条西17丁目」降車、約540メートル、徒歩7分
・ジェイアール北海道バス「50 啓明線」「51 啓明線」「53 啓明線」(JR札幌駅―啓明ターミナル)で「南3条西16丁目」降車、約830メートル、徒歩11分
※指定駐車場は北1西15の「ビッグシャイン」です。徒歩3分。割引あり
新聞やテレビが招かれる場合が多いようですが、筆者のような個人ブログに声がかかるのは珍しいので、喜んで行ってきました。
しかし、30分かそこらでは時間が足りず、翌13日にも再び見てきました。
2013年の「AINU ART」展にも、伝統的な工芸品だけではなく、現代の作家たちが出品していたのですが、今回はより、いまのアイヌアートに焦点を当てた内容になっていると思います。
国立アイヌ民族博物館の所蔵品で構成する「先人たちのモレウ」が31点なのに対し、現代の作家たちでつくる「十人のモレウ」は1階と2階を合わせて133点。ほかに「世界のぐるぐるを訪ねて」「トピック展示 尾張徳川家第19代当主徳川義親の北海道八雲町とのかかわり」があり、総計188点となります。
伝統を踏まえつつも新たな表現を探る、まさにコンテンポラリーな展覧会です。
なお、この展覧会は、アイヌ民族文化財団が1997年からアイヌ文化の振興と研究の推進を目的に全国の美術館、博物館で開催している「アイヌ工芸品展」の令和5年度(2023年度)展という位置づけでもあります。
愛知県一宮市の三岸節子記念美術館から道立近代美術館への巡回ですが、展示室の大きさに差があることもあって、内容は大幅に拡充しているとのことです。
現在の10人で参加しているのは小笠原小夜(イラストレーション)、貝澤幸司(木彫)、貝澤徹(木彫)、川村則子(布アート)、下倉洋之(金工)、関根真紀(デザイン)、西田香代子(刺繍)、藤戸康平(ミクストメディア)、藤戸幸夫(木彫)、結城幸司(版画、映像)の各氏です。
冒頭画像は、藤戸康平さんの巨大インスタレーション「Singing of the Needle」(右手前)と「ぐるぐるモレウ」。
前者については、筆者は2021年に、釧路まで出かけて見に行ったことがあります。
釧路で一般公開した後、米国の先住民族アート展で各地を巡回して、担当の五十嵐聡美学芸部長が「なかなか帰ってこなくて、焦りました」と振り返っていました。
東京電力福島第1原発事故に触発されたのが制作のきっかけと聞いています。もちろん、ぐるぐる模様が入った金属製の丸い板を玄関につるしたところで放射性物質を遮断する役割がないのは確かですが、目に見えず知覚できない放射性物質の恐怖に対してとっさに何らかの反応をすること自体には共感できます。
よく目をこらすと、中央部に彩色したシカの頭骨が据え付けられています。
「Singing of the Needle」も大作でしたが、シナベニヤによる最新作「ぐるぐるモレウ」はさらに巨大です。
外周には36列、内側には24列、それぞれ八つのピースがつり下げられており、合計240のモレウが、メリーゴーラウンドのようにゆっくりと回転しています。
回転につれて、壁にうつるおびただしい影も、ゆっくりと動きます。夢幻的で美しい眺めです。
下倉洋之さんも藤戸さんと同様、釧路市阿寒湖畔在住。
金工で、銀のジュエリーやアクセサリーを手がけています。
画像では見えませんが、小さな面積に、さまざまなバリエーションにとんだモレウなどの文様を巧みに取り入れて、装飾としています。
リングやペンダントなどのほか、ビーズのネックレスもあります。とりわけ近年はとんぼ玉や水晶など、さまざまな素材も活用しているようです。
平取町の二風谷はアイヌ民族の人口が多いことで知られる地区ですが、木工の貝沢徹さんもそこを拠点にしています。
地下鉄南北線さっぽろ駅の「ミレパ」に作品が常設されているので、ごらんになった方も多いでしょう。
画像の「アイデンティティ」(2011)はカツラ製。
ふだんは洋服を着ていても、ジッパーの内側にはアイヌ民族の精神を持っているぞ―ということでしょうか。
作者の気構えが伝わってくる立体作品です。
貝澤徹さんは、明治期の名人貝澤ウトレントクの4代目にあたります。
ほかにもフクロウや、イタ(盆)やイクスパイなどがあります。
とくに「タヌキ」は毛並みの表現が驚くほどにリアルで、作者が藤戸竹喜さんにあこがれていたことを示していると自ら振り返っています。
その藤戸竹喜さんの弟の藤戸幸夫さんはオホーツク管内津別町相生在住。
阿寒湖畔からは峠を挟んで、最初の集落です。
出品作はエンジュやアオダモ、イタヤカエデなどによるマキリ(刀)が中心。
実際に手にとることができる作品も置かれています。
1階に置かれた巨大なパネルは、最近二風谷に移り住んだ小笠原小夜さんによるイラストレーションです。
ほかにアイヌ語かるたなども展示されています。
これら以外にも多彩な作品が並んでおり、現代アイヌ文化の広がりを感じることができます。
他の6人もすてきな作家ですので、できたら別項で取り上げられれば…。
作品は一部が撮影可能です。
道立近代美術館は今週末の20日から、右側の展示室が札幌国際芸術祭2024の会場のひとつとなります。
札幌国際芸術祭に足を運んでくれた方は、ぜひとも左側の展示室にも入ってほしい。
こちらにも「北海道(島)の豊かな過去と現在」が確かに存在しているからです。
五十嵐学芸部長が「100万人入ってほしい」と話していましたが、それは難しいとしても、たくさんの人に見ていただきたい展覧会です。
気に入ったことを追記しておきます。
入り口のパネルが、日本語、英語のほか、アイヌ語(カタカナ表記)のも並んでいたのはすばらしい。
あと、作者のインタビューの抜粋が略歴の横に掲げられ、理解を助けているのも良いです。
これらを読むと、やはりというべきか、砂澤ビッキと藤戸竹喜が後世に与えた影響力の大きさは圧倒的だなあとつくづく感じました。
2024年1月13日(土)~3月10日(日)午前9時半~午後5時(入場30分前)
北海道立近代美術館(札幌市中央区北1西17)
一般千円、高大生600円、小中生300円
●関連事業
●AINU ART モレウのうたオープニングイベント「トゥレッポん with キンビ Kids」=1月13日(土)午前10時半~正午。ウポポイのキャラクター、トゥレッポんとあそぼう。「アイヌ語巨大カルタ」は幼児から大人、「アイヌ刺繍&トンコリ・ムックリちらっと体験」は小学生以上
●アーティスト・トーク「ものづくりの現場から」=1月27日(土)午前11時~11時40分。講師は貝澤徹さん(1958~)。平取町二風谷の木彫家。要観覧料
●アーティスト・トーク「ものづくりの現場から」=1月27日(土)午後2時~2時40分、講師は下倉洋之さん(1975~)。釧路市阿寒湖畔の金工家。要観覧料
●アイヌ文化ちらっと体験「ふれてみよう・着てみよう」=2月11日(土)・12日(日)午前10時半~正午、道立近代美術館2階。無料
●アーティスト・トーク「ものづくりの現場から」=2月17日(土)午前11時~11時40分、講師は結城幸司さん(1964~)。札幌の版画家、木彫家、音楽家。要観覧料
●札幌国際芸術祭との連携トーク「あっちもこっちも面白い」=2月17日(土)午後1~2時、道立近代美術館ホール。無料
●アーティスト・トーク「ものづくりの現場から」=2月17日(土)午後2時~2時40分、講師は藤戸康平さん(1978~)。釧路市阿寒湖畔のアーティスト。要観覧料
●アーティスト・トーク「ものづくりの現場から」=3月2日(土)午前11時~11時40分、講師は関根真紀さん(1967~)。平取町二風谷の工芸家。要観覧料
●アーティスト・トーク「ものづくりの現場から」=3月2日(土)午後2時~2時40分、講師は小笠原小夜さん(1978~)。平取町のイラストレーター。要観覧料
過去の関連記事へのリンク
■縄文~アイヌ 平田篤史+結城幸司 二人展 (2019)
■doubles2 : 間(のめ) in between Gaze (2016、東京) ※結城さんの個展
■藤戸康平≪Singing of the Needle≫ (2021、釧路)
アイヌ民族の作家2人が「風が吹いたら―世界30人のネイティブアート」展(2021年8月~22年1月、米ニューメキシコ州サンタフェ)に参加へ
さっぽろ駅の「アイヌ文化を発信する空間」(愛称ミナパ)に行ってきました ※貝沢徹さんの木彫の紹介あり
・中央バス、ジェイアール北海道バス「道立近代美術館」からすぐ(小樽、手稲方面行きは、都市間高速バスを含め全便が停車します)
・地下鉄東西線「西18丁目」4番出口から400メートル、徒歩6分
・市電「西15丁目」から700メートル、徒歩10分
・ジェイアール北海道バス「桑11 桑園円山線」(JR桑園駅―円山公園駅―啓明ターミナル)で「大通西15丁目」降車、約400メートル、徒歩5分
・ジェイアール北海道バス「54 北5条線」(JR札幌駅―西28丁目駅)「58 北5条線」(JR札幌駅―琴似営業所)で「北5条西17丁目」降車、約540メートル、徒歩7分
・ジェイアール北海道バス「50 啓明線」「51 啓明線」「53 啓明線」(JR札幌駅―啓明ターミナル)で「南3条西16丁目」降車、約830メートル、徒歩11分
※指定駐車場は北1西15の「ビッグシャイン」です。徒歩3分。割引あり