北海道新聞社と北海道写真協会(道写協)の共催で毎年開かれている、道内では最も大きな規模と長い歴史を誇る写真の公募展。
これまで、筆者が知る限りでは、札幌市写真ライブラリー、富士フイルムフォトサロン、道新ぎゃらりー&道新DO-BOXなど会場が移っており、2020年にDO-BOXが閉鎖した後、市民ギャラリーに移ってきたようです。
会場が広くなり、これまで別日程で開くこともあった写真道展と学生写真道展が同時開催になりました。
新型コロナウイルスの感染拡大で各種公募展が軒並み中止に追い込まれた2019年も、札幌のみで開催にこぎ着けています。
巡回展の会場が多いのもこの展覧会の特徴で、今年は根室管内別海町、留萌管内羽幌町など14カ所で開かれます。
「第1部 自由」
「第2部 感光・産業」
「第3部 ネイチャー」
「第4部 学生の部」
を合わせると応募3390点。そこから1席、2席、3席と入選を合わせて計306点。
10倍を超す難関で、こんなに入選のむずかしい公募展は道内にはほかにないと思いますが、これでも2019年の5981点にくらべると、ほぼ半分という激減ぶりです。
近年のカメラブームを支えてきた層の高齢化や、新型コロナ禍にともなう撮影会などの中止・外出して写真を撮る機会の減少といった要因は無視できません。
ただし中期的には、デジタルカメラの急速な普及による写真人口の拡大が、旧来の写真の在り方を大きく変えてしまったことが大きいのではないでしょうか。
デジタルカメラの擡頭当時、画質や記録媒体の違いをとらえて、フィルム時代からの変化を語る評論家もいました。しかし、デジタルでいちばん変わったのは、写真そのものよりも人々のアティチュード(態度)であったようです。
撮影される写真の枚数は飛躍的に増えました。しかし、プリントされる枚数は極めて少なくなりました。
お気に入りの1枚を引きのばして額に入れ、会場に展示する―という発表様式が、インスタグラムなどSNSで何枚もの写真を公開する―という仕方に取って代わられようとしているのです。
カメラクラブに集って先輩の助言に耳を傾けるといったことも、かなり減ってきているのではないかと思われます。
高いお金を払って大きいプリントをつくる行為に意味を見いだせなくなっている人の増加を、もはや押しとどめることはできないでしょう。
カメラ雑誌が相次ぎ休刊になり、キヤノン写真新世紀が終わるなど、アマチュア写真家をめぐる環境は急変しつつあります。
そんな中で、写真道展はこれからどうしていくのか。
その方向性が読み取れなかったのは残念です。
それでは、展示作について。
審査会員
奥野時夫(釧路)「客待ち」
海外の市場でしょうか。皮をむしられたアヒルが台に載せて売られています。奥の店番があくびをしているのがおもしろい。
田澤康史(奈井江)「威嚇」
すっかり数が少なくなってしまったモノクロプリント。犬とクマが向き合っています。なんの場面だろう。
中野潤子(札幌)「涅槃」
ハスの花を近くから撮っている。湿った空気感が、妙に非現実的で不思議な感じを漂わせます。
会友
五東建夫(恵庭)「厳寒の朝」
ほっちゃれ(産卵のため川を遡上してきて力尽きて死んだサケ)はよく被写体になりますが、一面に霜がおりたものは珍しい。奨励賞。
日野昭雄(奈井江)「ランチタイム」
濤沸湖沿いで放牧されている馬たちに、どっさりニンジンが与えられたときの光景。ニンジンの量が多くて、思わず笑ってしまいます。
第1部
片岡眞弓(石狩)「灯ろうに思いを」
燈台のある海辺。波間に揺れるランタンが美しい。3席。
高橋あや子(千歳)「僕と弟」
ホッキョクグマ2頭が口を開けてキスをしている様子を真横から。口の形がハート形になっているのがおもしろい。3席。
加賀谷芳夫(洞爺湖)「春の旅人」
桜を撮るには晴天か夜と相場が決まっている中、あえて曇りの日にレンズを向けて、遠くを歩く人をフレームに入れてFを絞り、詩的な一枚に仕上げた力量がすごいと思いました。
第2部
齋藤ますみ(室蘭)「もう一人の私」
地球岬で観察されたブロッケン現象。霧(ガス)がよく出る太平洋側ならでは、ですが、こんなにみごとに見られるのは珍しいのでは。国土交通大臣賞。
吉田清治郎(旭川)「二人の夏休み」
オホーツク管内遠軽町丸瀬布で、国内でただ一つ動態保存されている森林鉄道「雨宮21号」。蒸気機関車の車体と、線路際で干されている胴長や長靴をフレームにおさめた、どこかユーモラスな作品。3席。
梅澤勇二(札幌)「食の魚」
透明なゼリーみたいな板の中に魚がぎっしりと詰められ、それがいくつも積み上げられている情景。これはいったいなんだろう? 考えてもわかりませんでした。
第3部
伊藤正司(札幌)「こっちにおいでよ」
ヤマセミとカワセミが同じ草の上にとまって向き合う一瞬をとらえました。写真道展大賞・環境大臣賞。
浦崎毅子(札幌)「チングルマ笑う」
大雪山系でしょう。ここは花の盛りが極端に短いので、こういう瞬間をとらえることができただけでもすごいです。北海道新聞野生生物基金賞。
齋藤ますみ(室蘭)「月出頃」
第2部で1席だった人。夜のクモの巣を長時間露光でとらえ、蛍の光跡などもおさめた、情報量の多い作品。3席。
※6月29日追記訂正。「蛍」ではなく「ガ」だそうです。驚きました。
小川弘子(札幌)「ついてこいよー」
ガンの渡り。といえば、よくある被写体かもしれませんが、80羽以上も飛んでいて、壮観です。
2022年4月26日(火)~5月1日(日)午前10時~午後6時(最終日~2時半)
札幌市民ギャラリー(中央区南2東6)
5月27~29日 まなみーる岩見沢市民会館
6月2~5日 室蘭市民美術館
9~12日 苫小牧市文化交流センター
16~20日 羽幌町立中央公民館
7月13~17日 釧路市生涯学習センター
28~31日 別海町中央公民館
8月6~8日 三笠市民会館
11~17日 名寄市民文化センター
20~23日 旭川デザインギャラリー
31日~9月4日 市立小樽美術館
9月10~13日 根室市総合文化会館
21~25日 北網圏北見文化センター
11月24~27日 函館市芸術ホールギャラリー
12月17日~1月15日 網走市立美術館
□北海道写真協会 http://www.doshakyo.org/
過去の関連記事へのリンク
第67回写真道展は7月末から札幌で開催 (2020)
■第66回写真道展(2019)
■第65回写真道展 (2018)
■第53回写真道展・審査会員・会友写真展(2006)
■第49回写真道展・第20回学生写真道展の入賞・入選者展 (2002)
これまで、筆者が知る限りでは、札幌市写真ライブラリー、富士フイルムフォトサロン、道新ぎゃらりー&道新DO-BOXなど会場が移っており、2020年にDO-BOXが閉鎖した後、市民ギャラリーに移ってきたようです。
会場が広くなり、これまで別日程で開くこともあった写真道展と学生写真道展が同時開催になりました。
新型コロナウイルスの感染拡大で各種公募展が軒並み中止に追い込まれた2019年も、札幌のみで開催にこぎ着けています。
巡回展の会場が多いのもこの展覧会の特徴で、今年は根室管内別海町、留萌管内羽幌町など14カ所で開かれます。
「第1部 自由」
「第2部 感光・産業」
「第3部 ネイチャー」
「第4部 学生の部」
を合わせると応募3390点。そこから1席、2席、3席と入選を合わせて計306点。
10倍を超す難関で、こんなに入選のむずかしい公募展は道内にはほかにないと思いますが、これでも2019年の5981点にくらべると、ほぼ半分という激減ぶりです。
近年のカメラブームを支えてきた層の高齢化や、新型コロナ禍にともなう撮影会などの中止・外出して写真を撮る機会の減少といった要因は無視できません。
ただし中期的には、デジタルカメラの急速な普及による写真人口の拡大が、旧来の写真の在り方を大きく変えてしまったことが大きいのではないでしょうか。
デジタルカメラの擡頭当時、画質や記録媒体の違いをとらえて、フィルム時代からの変化を語る評論家もいました。しかし、デジタルでいちばん変わったのは、写真そのものよりも人々のアティチュード(態度)であったようです。
撮影される写真の枚数は飛躍的に増えました。しかし、プリントされる枚数は極めて少なくなりました。
お気に入りの1枚を引きのばして額に入れ、会場に展示する―という発表様式が、インスタグラムなどSNSで何枚もの写真を公開する―という仕方に取って代わられようとしているのです。
カメラクラブに集って先輩の助言に耳を傾けるといったことも、かなり減ってきているのではないかと思われます。
高いお金を払って大きいプリントをつくる行為に意味を見いだせなくなっている人の増加を、もはや押しとどめることはできないでしょう。
カメラ雑誌が相次ぎ休刊になり、キヤノン写真新世紀が終わるなど、アマチュア写真家をめぐる環境は急変しつつあります。
そんな中で、写真道展はこれからどうしていくのか。
その方向性が読み取れなかったのは残念です。
それでは、展示作について。
審査会員
奥野時夫(釧路)「客待ち」
海外の市場でしょうか。皮をむしられたアヒルが台に載せて売られています。奥の店番があくびをしているのがおもしろい。
田澤康史(奈井江)「威嚇」
すっかり数が少なくなってしまったモノクロプリント。犬とクマが向き合っています。なんの場面だろう。
中野潤子(札幌)「涅槃」
ハスの花を近くから撮っている。湿った空気感が、妙に非現実的で不思議な感じを漂わせます。
会友
五東建夫(恵庭)「厳寒の朝」
ほっちゃれ(産卵のため川を遡上してきて力尽きて死んだサケ)はよく被写体になりますが、一面に霜がおりたものは珍しい。奨励賞。
日野昭雄(奈井江)「ランチタイム」
濤沸湖沿いで放牧されている馬たちに、どっさりニンジンが与えられたときの光景。ニンジンの量が多くて、思わず笑ってしまいます。
第1部
片岡眞弓(石狩)「灯ろうに思いを」
燈台のある海辺。波間に揺れるランタンが美しい。3席。
高橋あや子(千歳)「僕と弟」
ホッキョクグマ2頭が口を開けてキスをしている様子を真横から。口の形がハート形になっているのがおもしろい。3席。
加賀谷芳夫(洞爺湖)「春の旅人」
桜を撮るには晴天か夜と相場が決まっている中、あえて曇りの日にレンズを向けて、遠くを歩く人をフレームに入れてFを絞り、詩的な一枚に仕上げた力量がすごいと思いました。
第2部
齋藤ますみ(室蘭)「もう一人の私」
地球岬で観察されたブロッケン現象。霧(ガス)がよく出る太平洋側ならでは、ですが、こんなにみごとに見られるのは珍しいのでは。国土交通大臣賞。
吉田清治郎(旭川)「二人の夏休み」
オホーツク管内遠軽町丸瀬布で、国内でただ一つ動態保存されている森林鉄道「雨宮21号」。蒸気機関車の車体と、線路際で干されている胴長や長靴をフレームにおさめた、どこかユーモラスな作品。3席。
梅澤勇二(札幌)「食の魚」
透明なゼリーみたいな板の中に魚がぎっしりと詰められ、それがいくつも積み上げられている情景。これはいったいなんだろう? 考えてもわかりませんでした。
第3部
伊藤正司(札幌)「こっちにおいでよ」
ヤマセミとカワセミが同じ草の上にとまって向き合う一瞬をとらえました。写真道展大賞・環境大臣賞。
浦崎毅子(札幌)「チングルマ笑う」
大雪山系でしょう。ここは花の盛りが極端に短いので、こういう瞬間をとらえることができただけでもすごいです。北海道新聞野生生物基金賞。
齋藤ますみ(室蘭)「月出頃」
第2部で1席だった人。夜のクモの巣を長時間露光でとらえ、蛍の光跡などもおさめた、情報量の多い作品。3席。
※6月29日追記訂正。「蛍」ではなく「ガ」だそうです。驚きました。
小川弘子(札幌)「ついてこいよー」
ガンの渡り。といえば、よくある被写体かもしれませんが、80羽以上も飛んでいて、壮観です。
2022年4月26日(火)~5月1日(日)午前10時~午後6時(最終日~2時半)
札幌市民ギャラリー(中央区南2東6)
5月27~29日 まなみーる岩見沢市民会館
6月2~5日 室蘭市民美術館
9~12日 苫小牧市文化交流センター
16~20日 羽幌町立中央公民館
7月13~17日 釧路市生涯学習センター
28~31日 別海町中央公民館
8月6~8日 三笠市民会館
11~17日 名寄市民文化センター
20~23日 旭川デザインギャラリー
31日~9月4日 市立小樽美術館
9月10~13日 根室市総合文化会館
21~25日 北網圏北見文化センター
11月24~27日 函館市芸術ホールギャラリー
12月17日~1月15日 網走市立美術館
□北海道写真協会 http://www.doshakyo.org/
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第67回写真道展は7月末から札幌で開催 (2020)
■第66回写真道展(2019)
■第65回写真道展 (2018)
■第53回写真道展・審査会員・会友写真展(2006)
■第49回写真道展・第20回学生写真道展の入賞・入選者展 (2002)
第3部の入賞作品は蛍ではなく蛾なのです😅
もし可能であれば訂正していただけると大変助かります🙇♂️
蛍の光跡を長時間露光でとらえた写真は先例がありますが、ガですか!? それはびっくりです。ちょっときいたことがありません。
のちほど訂正させていただきます。失礼しました。